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介護M&AのDD|報酬返還・人員基準を解説

介護M&Aのデューデリジェンス(DD)では、決算書だけでなく、介護報酬の算定、人員基準、指定・届出、運営記録まで確認することが重要です。見落としがあると、成約後の返還、減算、指定への影響につながる可能性があります。買い手はリスクを金額と契約条件へ落とし込み、売り手は資料を事前整理することで、過度な価格調整や交渉の停滞を防ぎやすくなります。

介護M&Aのデューデリジェンス(DD)とは

デューデリジェンスとは、M&Aの実行前に、対象となる法人や事業の財務、法務、労務、事業運営などを調査する手続きです。「買収監査」や「企業調査」と呼ばれることもあります。

一般的には、基本合意後から最終契約前に行われることが多いものの、案件の規模や交渉手順によって実施時期は異なります。調査結果は、譲渡価格だけでなく、表明保証、補償条項、クロージング前の是正事項などにも反映されます。

介護事業では「売上の成立条件」まで確認する

一般企業の売上は、契約書、請求書、入金記録を中心に検証できます。一方、介護事業の主要な売上である介護報酬は、指定基準や算定要件を満たして初めて適正な請求となります。

帳簿上は売上として計上され、実際に入金されていても、人員配置、加算要件、記録などに不備があれば、後から返還対象となる可能性があります。そのため、介護M&Aでは「売上が計上されているか」に加えて、「その請求が制度上の要件を満たしているか」まで確認します。

介護M&AのDDで確認する7つの分野

分野主な確認事項想定されるリスク
財務・税務売上、利益、借入金、未払金、関連当事者取引収益力の過大評価、簿外債務
介護報酬請求基本報酬、加算、減算、返戻、過誤調整報酬返還、将来収益の低下
人員基準必要職種、常勤換算、兼務、勤務実績、資格人員基準違反、減算、加算要件の不充足
指定・届出指定通知書、更新、変更届、加算届、事業所情報届出漏れ、指定承継手続きの遅延
労務雇用契約、賃金、残業、有給休暇、社会保険未払残業、離職、労務紛争
法務・契約賃貸借、利用契約、リース、業務委託、個人情報契約を承継できない、解約や違約金
運営・品質運営指導、事故、苦情、虐待防止、BCP、記録行政対応、信用低下、追加の是正負担

すべてを同じ深さで調べるのではなく、サービス種別、取引スキーム、過去の指摘、加算への依存度などから優先順位を付けます。介護報酬と人員基準は相互に関係するため、別々に調査すると見落としが生じやすい分野です。

介護報酬返還リスクをどう確認するか

返還リスクが生じやすい主な場面

  • 必要な人員を満たしていない期間に、通常の基本報酬を請求していた
  • 加算の届出はあるが、実際の算定要件を満たしていなかった
  • サービス提供記録と請求データの日付、時間、回数が一致しない
  • 欠勤、退職、休職を常勤換算へ正確に反映していなかった
  • 個別支援計画やモニタリングなど、算定の根拠となる記録が不足していた
  • 運営指導で指摘された事項が、その後も十分に是正されていなかった

DDでは、誤りが一件あるかどうかだけでなく、「どの期間に」「何件あり」「同種の請求へどこまで広がるか」を確認します。サンプル調査で問題が見つかった場合は、対象期間や対象利用者を広げて検証する必要があります。

単純な算定誤りと不正請求を区別する

厚生労働省の監査マニュアルでは、法令や指定基準に違反し、事実と異なる請求を行うことなどが不正請求として整理されています。実際には、単純な入力ミス、制度解釈の誤り、記録不足、故意性を疑われる請求では、行政上の評価や対応が異なります。

軽微な請求誤りで、不正に当たらないと判断された場合は、過誤調整などによる返還が中心となることがあります。一方、不正請求と判断された場合、介護保険法第22条第3項により、保険者は返還対象額に加えて、その40%相当額を徴収できるとされています。

ただし、40%相当額がすべての返還に自動的に上乗せされるわけではありません。故意性、継続性、請求内容、行政の事実認定などによって対応が変わるため、疑義がある場合は自治体や専門家へ確認します。

請求月ごとの制度で判定する

介護報酬の適否は、現在のルールだけでなく、実際に請求した時点で有効だった告示、通知、Q&Aなどに基づいて判定します。調査対象期間が複数の報酬改定をまたぐ場合、同じ加算名でも要件や様式が異なることがあります。

令和6年度介護報酬改定に加え、令和8年度には期中改定が実施され、処遇改善加算の拡充などが2026年6月から適用されています。厚生労働省の自主点検表には令和6年度改定対応版が掲載されていますが、2026年6月以降の請求は令和8年度改定資料も併せて確認する必要があります。

出典:厚生労働省「令和8年度介護報酬改定について」、厚生労働省「介護保険施設等運営指導マニュアル・自主点検表」

人員基準リスクは勤務表だけでは判断できない

常勤換算の計算と実際の勤務状況を照合する

人員基準の確認では、勤務形態一覧表に必要人数が記載されているだけでは足りません。雇用契約書、給与台帳、勤怠記録、シフト表、資格証、サービス提供記録などを横断して、実際の配置を検証します。

  • 常勤と非常勤の区分は雇用条件と一致しているか
  • 常勤換算に用いた勤務時間は勤怠記録と一致しているか
  • 管理者、サービス提供責任者などの兼務は許容範囲か
  • 有給休暇、欠勤、休職、研修時間を適切に扱っているか
  • 退職者や入社前の職員を計算へ含めていないか
  • 資格証や研修修了証に不足、有効期限切れ、名義の不一致がないか

とくに注意したいのは、月末に作成した一覧表と、日々の勤務実態が一致しないケースです。書類上は基準を満たしていても、特定日に必要職種が不在だった、同一人物を複数事業所で重複計上していた、といった問題が生じることがあります。

サービス種別と確認対象期間を先に決める

必要な職種、配置数、常勤要件、兼務の可否は、訪問介護、通所介護、居宅介護支援、認知症対応型共同生活介護など、サービス種別によって異なります。複数の指定サービスを運営している場合は、事業所単位だけでなくサービス単位で確認します。

また、運営指導で提出を求められる期間と、M&AのDDで確認すべき期間は必ずしも同じではありません。DDでは、最終契約の補償期間、過去の人員変動、加算の算定開始時期などを踏まえて調査範囲を決めます。

介護報酬や人員基準の不安がある場合、問題の有無だけでなく、想定返還額と譲渡価格への影響を整理することが大切です。M&A承継サポートでは、介護・医療・障がい分野に特化し、M&A成約100件以上の実績を持つメンバーが対応します。着手金・中間金無料の完全成功報酬制で、まずは無料で相場感や進め方を相談できます。

介護M&AのDDで準備する主な資料

買い手が確認したい資料

  • 指定通知書、指定更新通知書、変更届、加算・減算の届出書
  • 国保連への請求データ、返戻一覧、過誤申立ての履歴
  • 利用者別のサービス提供票、実績記録、個別計画
  • 勤務形態一覧表、シフト表、勤怠記録、雇用契約書
  • 職員の資格証、研修修了証、組織図、職務分掌
  • 運営規程、重要事項説明書、利用契約書
  • 運営指導・監査の通知、結果、改善報告書
  • 事故、苦情、虐待防止、身体拘束に関する記録
  • 決算書、試算表、総勘定元帳、借入金明細、固定資産台帳
  • 賃貸借契約、リース契約、業務委託契約、保険契約

売り手は、最初からすべての資料を一度に提出する必要はありません。まず資料一覧を作成し、「提出可能」「不足」「再発行が必要」「口頭説明が必要」に分けると、調査対応を進めやすくなります。

資料がない場合は理由と代替資料を示す

古い記録が一部残っていないからといって、直ちにM&Aが不可能になるわけではありません。ただし、資料がない理由を説明できず、代替資料も存在しない場合、買い手はリスクを大きめに見積もる可能性があります。

たとえば勤務表が不足している場合でも、給与台帳、勤怠システム、雇用契約書、サービス記録、法人内メールなどから勤務実態を補足できることがあります。資料を後から作り直したように見せる行為は避け、欠落の経緯と補完方法を明確にすることが重要です。

「人・サービス・請求」の3点照合でリスクを見つける

介護M&AのDDでは、資料を一枚ずつ読むだけでなく、次の三方向から照合すると問題を発見しやすくなります。

  1. 人:誰が勤務し、どの資格と役割を持っていたか
  2. サービス:誰に、いつ、どのサービスを提供したか
  3. 請求:何を根拠として、どの報酬や加算を請求したか

たとえば、加算届と請求データが一致していても、対象職員の勤怠記録が不足していれば、要件を満たしていたか確認できません。反対に、職員配置が十分でも、必要な計画書や利用者への説明記録がなければ、別の算定要件に疑義が生じます。

運営指導の通知では、介護サービスの実施状況、最低基準等の運営体制、介護報酬請求などが確認対象とされています。M&Aでは、これらを将来の収益、返還可能性、契約上の責任に結び付けて評価する点が特徴です。

出典:厚生労働省「介護保険施設等指導指針」

DDで問題が見つかった場合の対応

発見事項をすぐに取引中止へ結び付けない

介護M&AのDDで問題が見つかっても、直ちに取引を中止するとは限りません。まず事実関係、対象期間、影響額、是正可能性、再発防止策を整理します。

対応方法主な内容
クロージング前の是正届出、規程、雇用契約、記録方法などを修正する
価格調整想定返還額や将来収益の減少を譲渡価格へ反映する
補償条項成約後に過去の問題が発覚した場合の負担者や上限を定める
前提条件指定、賃貸借、主要契約などの確認を取引実行の条件とする
一部事業の除外リスクの高い事業所や契約を譲渡対象から外す
取引中止影響が重大で、是正や契約上の管理が困難な場合に検討する

重要なのは、「問題があった」という指摘で終わらせず、金額、期間、原因、是正策、契約上の負担者まで明確にすることです。

行政判断が必要な事項は事前相談する

指定基準、返還範囲、変更届、事業譲渡時の新規指定などは、サービス種別や自治体によって必要な対応が異なることがあります。M&A当事者や仲介会社だけで結論を出さず、必要に応じて指定権者へ事前相談します。

株式譲渡と事業譲渡で異なる指定・債務リスク

株式譲渡の場合

株式譲渡では、法人格が存続するため、法人が保有する指定、契約、資産、債務も原則として同じ法人に残ります。その一方で、過去の介護報酬請求、未払残業、借入金などのリスクも法人内に残るため、買い手には過年度のDDが重要です。

売り手に経営者保証がある場合は、株式を譲渡しただけで当然に保証が解除されるわけではありません。金融機関との協議と正式な解除手続きが必要です。

事業譲渡の場合

事業譲渡では、譲渡対象となる資産、契約、債務を個別に定めます。簿外債務を切り分けやすい面がある一方、介護事業の指定が資産と一緒に当然に移転するわけではありません。一般に譲受側で新規指定申請などの手続きが必要となります。

必要書類、申請期限、手続きの簡素化の可否は、自治体、サービス種別、取引内容によって異なります。指定権者への事前相談が遅れると、譲渡予定日に事業を開始できない可能性があるため、契約交渉と並行して確認します。

売り手がDD前に行いたい準備

  • 指定、加算、人員配置、請求データの対応関係を整理する
  • 過去の運営指導で指摘された事項の是正状況を確認する
  • 返戻や過誤調整が多い月について原因を説明できるようにする
  • 退職者、休職者、兼務職員を反映して常勤換算を再確認する
  • 資料がない場合は、欠落理由と代替資料を一覧化する
  • 顧問税理士、社労士、行政書士などへの照会事項を整理する

売り手が問題を自主的に把握して説明できれば、買い手は影響を具体的に評価しやすくなります。問題を伏せたまま成約を急ぐと、最終契約違反や成約後の紛争につながる可能性があります。

買い手が見落としやすいポイント

  • 直近月の人員だけを見て、過去の不足期間を確認していない
  • 加算率は確認したが、計画書、説明、届出などの要件を見ていない
  • 平均稼働率だけを見て、利用者別の請求実態を検証していない
  • 代表者や管理者の交代後も加算を維持できるか検討していない
  • 事業所の賃貸借契約や送迎車両のリース承継を確認していない
  • 返還額だけを見て、是正後の人件費増加や減算の影響を試算していない

DDで把握すべきなのは過去の返還可能性だけではありません。買収後に基準を満たすための採用費、人件費、システム改修費や、加算を維持できない場合の収益減少も事業計画へ反映します。

介護M&AのDDに関するよくある質問

Q1. 運営指導を受けていなければ返還リスクはありませんか

運営指導を受けていないことだけでは、請求がすべて適正だったとは判断できません。DDでは、指定・加算の届出、勤務実態、サービス記録、請求データを照合します。

Q2. 人員基準違反が見つかるとM&Aはできませんか

違反の期間、原因、減算や返還の範囲、是正可能性によって判断が異なります。採用や配置変更で是正できる場合もありますが、価格調整や補償条項が必要になることがあります。

Q3. 書類が一部不足していても売却できますか

書類不足だけで売却できないとは限りません。代替資料で事実関係を確認し、不足理由と今後の管理方法を説明します。ただし、重要資料を確認できない場合は、買い手が価格や契約条件を慎重に設定する可能性があります。

Q4. 介護M&AのDDにはどのくらいの期間と費用がかかりますか

事業所数、サービス種別、取引規模、資料の整理状況、調査範囲によって異なります。費用の負担者も案件ごとの合意によりますが、買い手が専門家を選任して負担する形が一般的です。スケジュールには資料提出、追加質問、現地確認、報告書作成の期間を見込みます。

Q5. DDでは何年分の請求を確認すべきですか

一律の年数では決められません。過去の運営指導、加算の算定開始時期、人員の変動、契約上の補償期間などを踏まえて設定します。サンプル調査で問題が見つかった場合は、確認期間を広げることがあります。

まとめ|介護DDでは報酬・人員・契約を一体で確認する

介護M&AのDDでは、財務諸表だけでなく、介護報酬請求、人員基準、指定・届出、労務、運営記録を横断して確認する必要があります。とくに「人・サービス・請求」の三方向を照合し、請求月に適用されていた制度で検証することが重要です。

問題が見つかった場合も、返還可能性、影響期間、是正策を整理し、譲渡価格や最終契約へ適切に反映できれば、交渉を継続できるケースがあります。売り手は早めの自主点検、買い手は事業承継後の運営コストまで含めた評価が求められます。

参考資料

本記事は、介護M&Aおよび介護保険制度に関する一般的な情報提供を目的としたものです。個別案件に対する税務、法務、労務、行政手続き上の助言ではありません。制度の適用や必要な手続きは、指定権者、保険者、弁護士、税理士、社会保険労務士、行政書士などの専門家へご確認ください。

まずはお気軽にお問い合わせください。

松本 圭祐
記事監修
取締役
松本 圭祐
新卒で楽天株式会社に入社し、その後合同会社DMM.comに転職。オンライン英会話サービスの「DMM英会話」の立ち上げを担当し、3年で業界最大手となる。
日本チームのマネージャーを務めた他、新規事業や法人営業なども管掌。その後ヘルスケア・福祉関連の事業を行う上場企業に転職し、M&A支援事業の立ち上げ、グロース全般を担当。
今までにM&Aコンサルタントとして50件以上の案件を成約に導く。
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