日中一時支援の譲渡は可能?売却相場と手続きを解説
日中一時支援事業の譲渡は、後継者不在や経営負担の増加に悩む事業者にとって、事業を継続するための選択肢です。ただし、日中一時支援は市町村が実施する地域生活支援事業であり、登録・指定・委託契約等をそのまま引き継げるとは限りません。売却を検討する際は、事業価値の把握に加え、自治体の手続きや利用者・職員への影響を確認することが重要です。本記事では、日中一時支援の譲渡方法、売却価格の考え方、手続きの流れ、注意点を解説します。
日中一時支援・地域生活支援事業は譲渡できる?
日中一時支援事業は、事業譲渡や法人単位のM&Aによって第三者への承継を検討できます。ただし、売り手が保有する設備や事業用資産を譲渡することと、買い手が行政上の要件を満たして事業を継続することは別の問題です。
譲渡後も安定したサービスを提供するためには、自治体との契約関係、職員体制、利用者への支援を含めた引継ぎ計画が欠かせません。
日中一時支援事業の仕組みと役割
日中一時支援は、障がいのある方の日中活動の場を確保し、家族の就労支援や、日常的に介護を担う家族の一時的な休息を目的とする事業です。
厚生労働省の地域生活支援事業実施要綱では、市町村地域生活支援事業の一つとして位置づけられています。障害福祉サービス事業所や障害者支援施設などで、見守りや日常的な活動支援を行う仕組みです。
対象者、利用定員、職員配置、送迎の取扱いなどは市町村の規定や判断が関係します。そのため、同じ日中一時支援でも、自治体によって運営条件が異なる場合があります。
出典:厚生労働省「地域生活支援事業実施要綱の一部改正について」(2010年3月25日、当該改正資料)
障害福祉サービスとの違い
日中一時支援と生活介護、就労継続支援などの障害福祉サービスでは、制度上の位置づけや収入の仕組みが異なります。
| 比較項目 | 日中一時支援 | 障害福祉サービス |
|---|---|---|
| 制度上の位置づけ | 市町村地域生活支援事業 | 主に障害者総合支援法に基づく個別給付サービス |
| 運営ルール | 市町村の実施要綱等が重要 | 法令やサービス別の指定基準等が重要 |
| 収入の仕組み | 自治体の事業方式や単価等による | サービス別の報酬体系による |
| 譲渡時の確認 | 登録・指定・委託契約等の取扱い | 指定や事業主体変更に関する手続き |
例えば、豊中市では、日中一時支援事業を行うために市の実施要綱に基づく指定申請が必要です。同市は、障害福祉サービス事業と日中一時支援事業を区別し、法人の定款や登記目的についても案内しています。
このように、障害福祉サービスの指定を受けていることだけで、日中一時支援の運営条件を満たすとは限りません。
出典:豊中市「日中一時支援事業申請(新規・更新・変更)及び請求のご案内」(2024年10月1日更新)
日中一時支援事業だけを売却することは可能か
日中一時支援のみを運営する事業所でも、買い手が見つかり、行政手続きや事業の引継ぎが実行できる場合には、単独での事業譲渡を検討できます。
一方、生活介護や放課後等デイサービスなどを併設している場合は、複数事業をまとめて譲渡する方法もあります。
例えば、建物、職員、送迎車両を複数事業で共用している場合、日中一時支援だけを切り離すと新たな人員配置や設備の確保が必要になる可能性があります。
売上だけでなく、事業を独立して運営できるかという観点から、単独譲渡と一括譲渡を比較することが重要です。
日中一時支援の譲渡方法と自治体手続き
日中一時支援の譲渡では、どのような方法で事業を引き継ぐかによって必要な対応が変わります。特に、事業を運営する法人自体が変わるかどうかは重要です。
事業譲渡と株式譲渡の違い
一般的なM&Aでは、事業譲渡と株式譲渡が代表的な方法です。
| 比較項目 | 事業譲渡 | 株式譲渡 |
|---|---|---|
| 譲渡対象 | 事業に必要な資産・契約等 | 会社の株式 |
| 運営法人 | 原則として譲受側の法人が運営 | 対象会社の法人格は維持 |
| 従業員 | 雇用契約の承継に個別対応が必要 | 雇用主は通常変わらない |
| 取引契約 | 承諾や再契約が必要となる場合がある | 通常は契約主体が維持される |
| 行政手続き | 新規登録・指定等が必要になる可能性 | 変更届等が必要になる可能性 |
例えば、株式会社が日中一時支援事業を別会社に譲渡する場合、対象事業の設備や契約だけでなく、譲受会社が自治体の事業者要件を満たせるかを確認します。
一方、株式譲渡は運営会社自体が存続する方法ですが、代表者変更や契約上の条件によっては、届出や事前承諾等が必要になる場合があります。
なお、社会福祉法人やNPO法人など、株式会社と異なる法人形態では、株式譲渡という方法は利用できません。法人形態に応じた承継方法を検討する必要があります。
自治体の登録・指定・委託契約は引き継げる?
日中一時支援の譲渡で特に注意したいのが、自治体との契約や登録等の取扱いです。
日中一時支援は市町村地域生活支援事業であり、運営方式や事業者に求められる条件が自治体によって異なります。
例えば、豊中市では事業者の新規指定・更新・変更等に関する手続きが案内されています。一方、我孫子市では、事業者登録を行ったうえで年度ごとの委託契約を締結する方式が案内されています。
このため、売り手が持つ登録・指定・委託契約等を、買い手がそのまま利用できるとは限りません。
譲渡の実行前に、売り手・買い手それぞれに必要な手続きと、事業を継続できる時期を確認することが重要です。
出典:我孫子市「日中一時支援事業の事業者登録及び委託契約」(2022年11月10日更新)
譲渡前に自治体へ確認すべき事項
譲渡方法を検討する際は、次の項目を整理しましょう。
- 事業譲渡時に新規登録・指定が必要か
- 株式譲渡や代表者変更時に届出が必要か
- 委託契約等の継続や再締結が可能か
- 人員・設備に関する要件を満たせるか
- 利用契約や利用決定に関する手続きが必要か
- 申請・審査に必要な期間はどの程度か
- 譲渡前後にサービス提供の空白期間が生じないか
特に、複数の市町村に居住する利用者を受け入れている場合は、関係自治体ごとの契約や請求方法を確認する必要があります。
自治体への相談は、正式な買い手が決まる前から実施できる場合もあります。ただし、売却の検討自体が外部に知られることを避けたい場合は、秘密保持にも配慮して相談方法を検討しましょう。
日中一時支援事業の売却価格・事業価値の決まり方
日中一時支援事業の譲渡を考える経営者にとって、売却価格は重要な判断材料です。
ただし、日中一時支援に特化した信頼できる全国一律の売却相場は、今回確認した公的資料からは確認できませんでした【要確認】。売却価格は、事業の収益性や利用実績、職員体制、買い手が引き継ぐ資産・負債などを踏まえ、個別に検討されます。
売却価格を左右する主な評価項目
| 評価項目 | 確認内容 |
|---|---|
| 収益性 | 売上、利益、人件費、固定費 |
| 利用実績 | 利用者数、利用日数、曜日別稼働状況 |
| 職員体制 | 人数、資格、勤務状況、継続雇用の見通し |
| 設備・物件 | 建物、賃貸借契約、備品、車両 |
| 行政との関係 | 登録・指定・委託契約、過去の指導状況 |
| 地域ニーズ | 利用希望、周辺の事業所、地域の需要 |
一般的な中小M&Aでは、収益力や資産価値などを参考に譲渡額を検討します。ただし、計算結果がそのまま売却価格になるわけではなく、買い手との交渉や譲渡条件によって変動します。
日中一時支援では、自治体との契約を継続できる見通しや、職員が譲渡後も勤務できるかどうかも重要な判断材料です。
利用実績・収益性・職員体制が評価に与える影響
日中一時支援では、登録利用者数だけでなく、実際の利用状況を確認することが重要です。
例えば、登録者数が多くても利用が特定の曜日や長期休暇に集中する場合、職員配置や送迎に負担が生じる可能性があります。
そのため、月別・曜日別の利用実績、利用時間、送迎の有無などを整理すると、買い手が運営状況を把握しやすくなります。
併設事業がある場合は、建物の賃料や光熱費、職員人件費などを事業ごとにどのように分けているかも重要です。日中一時支援単独の利益を説明できるよう、共通経費の按分方法を明確にしておきましょう。
赤字・小規模事業でも譲渡できる可能性
赤字や小規模の事業所でも、売却を検討できる場合があります。
例えば、近隣で障がい福祉サービスを展開する法人であれば、既存の管理体制や設備を活用した運営を検討できる可能性があります。
また、利用者との継続的な関係、経験のある職員、地域での認知などが評価材料となる場合もあります。
ただし、赤字事業に必ず買い手が見つかるわけではありません。借入金、人員不足、施設の老朽化、行政手続き上の課題などを含め、売却可能性を判断する必要があります。
日中一時支援事業を譲渡するまでの流れ
日中一時支援の譲渡では、通常のM&Aの手続きと行政確認を並行して進めることが重要です。
① 事業資料の整理と売却方針の検討
決算書、利用実績、職員体制、事業者登録や委託契約に関する資料を整理します。
併設事業がある場合は、日中一時支援のみを譲渡するか、法人や複数事業をまとめて譲渡するかを検討します。
② 簡易査定・買い手候補の選定
整理した資料をもとに、事業価値や希望する譲渡条件を検討します。
買い手候補を選ぶ際には、提示価格だけでなく、福祉事業の運営経験、資金力、利用者の受入方針、職員の雇用継続に対する考え方なども確認します。
特に、譲渡後の経営者保証や借入金の扱いについては、金融機関との調整も含めて慎重に確認することが重要です。
③ 条件交渉・行政確認・デューデリジェンス
買い手候補と基本的な条件を調整した後、デューデリジェンス(買収監査)を進めます。
デューデリジェンスとは、買い手が対象事業の財務、契約、労務、法務、運営状況などを詳しく調べる手続きです。
日中一時支援では、自治体との登録・契約関係、職員配置、請求実績、利用者への支援体制などが重要になります。
行政確認はこの段階まで待つのではなく、必要に応じて初期段階から並行して進めましょう。
④ 最終契約・引継ぎ・事業継続
売却価格や譲渡対象、職員の雇用、設備・契約の取扱いなどについて合意したら、最終契約を締結します。
その後、必要な行政手続き、利用者・家族への説明、職員への説明、業務の引継ぎを進めます。
譲渡契約の締結だけで、行政手続きや利用契約の引継ぎが完了するわけではありません。事業の継続に必要な条件を整理し、引継ぎ日程を設定することが大切です。
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※費用の適用条件や成功報酬の詳細は、個別契約でご確認ください。
日中一時支援事業の譲渡で注意すべきポイント
自治体との手続きとサービス継続
日中一時支援の譲渡では、自治体との契約や登録等の取扱いを確認することが重要です。
例えば、譲受会社による新規登録が必要な場合、手続きが完了するまで事業を開始できない可能性があります。
我孫子市の公式案内では、事業者登録の申請書類について、事業開始予定月の2か月前に提出するよう案内しています。ただし、これは同市の公表内容であり、全国共通の期限ではありません。また、実際に申請する際は最新の運用を確認する必要があります。
譲渡予定日から逆算して必要な手続きを整理し、サービス提供が中断しないよう計画を立てましょう。
利用者・家族への説明と契約の引継ぎ
日中一時支援は、障がいのある方とその家族の生活を支える事業です。
運営主体が変わる際には、利用者や家族が安心してサービスを継続できるよう、次の事項を整理しておくことが望まれます。
- 事業所の場所や利用時間に変更があるか
- 担当職員や支援内容が変わるか
- 利用契約の再締結が必要か
- 送迎や利用料金に変更があるか
- 相談窓口や緊急時の連絡先が変わるか
また、利用者情報の引継ぎでは、個人情報保護法への対応も必要です。
個人情報保護委員会のガイドラインでは、事業譲渡などの事業承継に伴う個人データの提供は、一定の条件の下で第三者提供に関する本人同意を要しない場合があるとされています。ただし、承継後の利用目的や安全管理措置には注意が必要です。
個人情報の承継と利用契約の引継ぎは別の問題であるため、それぞれ必要な対応を確認しましょう。
出典:個人情報保護委員会「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)」
職員の雇用・人員配置・送迎体制
職員の継続勤務は、譲渡後のサービス品質を左右する重要な要素です。
特に、利用者の特性や支援上の注意事項を理解している職員が勤務を続けられるかどうかは、事業継続の見通しに関係します。
事業譲渡では、雇用契約が当然に譲受会社へ移転するわけではありません。職員本人の意向を踏まえ、必要な雇用手続きを進めることが重要です。
また、送迎車両を引き継ぐ場合は、所有権、リース契約、保険、運転担当者などを確認しましょう。
借入金・未収金・補助金等の確認
売却にあたっては、事業の収益だけでなく、債権・債務や過去の運営状況も整理する必要があります。
例えば、自治体への請求に関する未収金、設備のリース契約、金融機関からの借入金などが挙げられます。
補助金を活用して取得した設備を譲渡対象に含める場合は、交付条件に基づく財産処分の承認手続きや返還義務の有無を確認する必要があります【要確認】。
また、過去の行政指導や請求上の問題がある場合には、改善状況を含めて資料を整理しておくことが重要です。
買い手の信用力と契約条件の確認
買い手選びでは、提示価格の高さだけで判断しないことが大切です。
中小企業庁が2024年8月に公表した「中小M&Aガイドライン(第3版)」では、不適切な買い手によるトラブルや、経営者保証の取扱いなどについて注意が示されています。
日中一時支援事業でも、買い手の資金力や運営方針を確認し、借入金や経営者保証の処理、契約不履行時の対応などを専門家と検討することが重要です。
出典:中小企業庁「中小M&Aガイドライン(第3版)」(2024年8月)
日中一時支援事業を納得できる条件で譲渡するための準備
収支・利用実績・稼働状況を整理する
事業価値を適切に説明するためには、買い手が運営状況を理解できる資料を準備することが重要です。
- 直近数期分の決算書・月次収支資料
- 月別・曜日別の利用者数と利用日数
- 自治体別の請求額や契約内容
- 職員の資格・勤務状況・人員配置
- 施設の賃貸借契約や設備・車両の情報
- 借入金、補助金、行政指導等の関連資料
併設事業がある場合は、共通経費の分け方も整理しましょう。日中一時支援単独の収支を説明できれば、買い手が譲渡後の運営を検討しやすくなります。
単独譲渡と複数事業の一括譲渡を比較する
生活介護や放課後等デイサービスなどを併設している場合は、日中一時支援のみを譲渡する方法と、複数事業をまとめて譲渡する方法を比較しましょう。
一括譲渡によって設備や職員体制を維持しやすくなる可能性がある一方、複数事業の行政手続きや契約調整が必要になる場合もあります。
それぞれの収益性や運営体制、買い手の希望を踏まえて検討することが重要です。
廃業を決める前に事業承継の可能性を確認する
経営者の高齢化、後継者不在、人材不足などを理由に廃業を検討している場合でも、第三者への事業承継という選択肢があります。
ただし、すべての事業で買い手が見つかるわけではなく、売却条件や行政手続きによって承継が難しい場合もあります。
早めに事業価値や譲渡の可能性を確認することで、廃業と第三者承継を比較し、利用者や職員への影響を踏まえた判断がしやすくなります。
日中一時支援の譲渡に関するよくある質問(FAQ)
Q1. 日中一時支援事業だけでも売却できますか?
事業用資産や契約、運営体制を引き継げる場合は、単独での事業譲渡も検討できます。ただし、自治体の登録・指定・委託契約等については、事前確認が必要です。
Q2. 自治体の登録や委託契約はそのまま引き継げますか?
自治体や譲渡方法によって異なります。事業譲渡では新規登録や契約の再締結が必要になる場合があります。株式譲渡でも、変更届や契約条件の確認が必要となる可能性があります。
Q3. 赤字の事業所でも買い手は見つかりますか?
赤字であっても、地域の利用ニーズや職員体制、既存事業との連携可能性などが評価される場合があります。ただし、売却成立や希望価格での譲渡が保証されるわけではありません。
Q4. 利用者やスタッフにはいつ説明すべきですか?
譲渡条件や行政手続きの見通しを踏まえ、適切な時期に説明することが大切です。雇用契約や利用契約の承継に必要な手続きは、個別に確認しましょう。
Q5. 売却までにどのくらいの期間がかかりますか?
事業規模、買い手候補の状況、行政手続き、契約調整などによって異なります。日中一時支援では自治体との調整が必要になる場合があるため、一律の期間を示すことは困難です。
まとめ|日中一時支援の譲渡は早めの準備と自治体確認が重要
日中一時支援事業は、事業譲渡やM&Aによって第三者への承継を検討できます。ただし、地域生活支援事業は自治体ごとの運用が重要であり、登録・指定・委託契約等の確認が欠かせません。
売却価格だけでなく、利用者へのサービス継続、職員の雇用、設備や契約の引継ぎまで含めて準備することが大切です。
後継者不在や経営負担を理由に廃業を考えている場合も、早めに事業価値や承継の可能性を確認することで、選択肢を比較しやすくなります。
※本記事は2026年10月時点で確認できる公的資料等に基づく一般的な情報提供を目的としており、個別の税務・法務・行政手続きに関する助言ではありません。自治体の制度、事業者要件、契約条件は地域や事業者によって異なります。実際の譲渡にあたっては、関係自治体および弁護士、税理士、行政書士等の専門家へご確認ください。
まずはお気軽にお問い合わせください。

