M&Aコラム

トップ > M&Aコラム > 横断 > 独占交渉権とは?優先交渉権との違い・注意点を解説

独占交渉権とは?優先交渉権との違い・注意点を解説

独占交渉権とは、M&Aで売り手が一定期間、特定の買い手に限定して交渉することを約束する仕組みです。優先交渉権とは異なり、原則として他の買い手との交渉が制限されます。

交渉を円滑に進められる一方、より良い条件の買い手と交渉する機会を失う可能性もあります。本記事では、独占交渉権と優先交渉権の違い、期間、法的拘束力、契約時の注意点を解説します。介護・障がい福祉・医療・歯科事業の売却を検討する経営者の方も参考にしてください。

独占交渉権とは?M&Aにおける意味と役割

独占交渉権とは、M&Aにおいて特定の買い手だけが一定期間、売り手と独占的に交渉できるようにする取り決めです。

例えば、介護事業を経営するA社が、買い手候補であるB社とC社から買収提案を受けたとします。

A社がB社に独占交渉権を付与すると、契約で定めた期間中、原則としてC社を含む他の買い手候補との売却交渉が制限されます。

ただし、独占交渉権を付与しただけで売却が確定するわけではありません。最終条件に合意できず、取引が成立しないこともあります。

独占交渉権が設定される目的

独占交渉権の目的は、売り手と買い手が具体的な条件の調整や調査に集中できる環境を整えることです。

M&Aでは、買い手が財務資料、契約関係、事業内容などを詳しく確認する必要があります。この調査には時間や専門家への費用がかかるため、他社との競合交渉が制限されることは買い手にとって安心材料になります。

売り手にとっても、複数社との並行交渉による負担を減らし、譲渡条件の調整に集中できるメリットがあります。

一方、買い手の調査や意思決定が遅れれば、売却スケジュールが長期化する可能性があるため、期間の設定が重要です。

基本合意書(LOI・MOU)との関係

独占交渉権は、一般的にM&Aの基本合意書に盛り込まれます。

基本合意書とは、売り手と買い手が、譲渡価格の目安、譲渡方法、交渉スケジュールなど、その時点での了解事項を整理した文書です。

LOI(意向表明書)やMOU(覚書)という名称が使われることもありますが、名称だけで法的効力が決まるわけではありません。

中小企業庁の「中小M&Aガイドライン(第3版・2024年8月)」では、基本合意書は基本的に法的拘束力がないものの、独占的交渉権や秘密保持義務などには法的拘束力を認めることが通常とされています。

そのため、正式な売却契約ではないという理由だけで、内容を確認せず署名することは避けましょう。

独占交渉権と優先交渉権の違い

独占交渉権と似た言葉に「優先交渉権」があります。両者の主な違いは、売り手が他の買い手候補と交渉できるかどうかです。

優先交渉権とは?他社より優先して交渉できる権利

優先交渉権とは、特定の買い手に他の候補よりも優先的な交渉機会を与える取り決めです。

例えば、売り手がB社に優先交渉権を付与しながら、C社からの提案も受け付けるケースが考えられます。

ただし、優先交渉権の内容は契約ごとに異なります。他社との交渉を認める場合もあれば、一定の制限を設ける場合もあるため、名称ではなく契約条項を確認する必要があります。

独占交渉権と優先交渉権の比較

比較項目独占交渉権優先交渉権
基本的な意味特定の買い手に交渉相手を限定する特定の買い手を優先する
他社との交渉原則として制限される契約内容によって可能
売り手の自由度比較的低い比較的高い場合がある
売却の確約されないされない
主な注意点他社との交渉機会を失う可能性優先する範囲が曖昧になりやすい

※上記は一般的な比較です。具体的な効力は契約の定めによって異なります。

売り手はどちらを選ぶべきか

売り手は、買い手候補の比較が十分にできているかを基準に判断することが大切です。

価格、資金調達の見通し、経営方針、従業員の処遇などを確認し、特定の買い手との交渉に進む合理性があれば、独占交渉権を設定する選択肢があります。

一方、他にも有力な買い手候補がいる場合や、提示条件が十分に整理されていない場合には、独占交渉に進む前に比較検討することも重要です。

独占交渉権を設定するメリット・デメリット

独占交渉権には売り手と買い手の双方にメリットがありますが、売り手の交渉機会が制限される点には注意が必要です。

売り手側のメリット・デメリット

売り手にとっての主なメリットは次のとおりです。

  • 特定の買い手との交渉に集中できる
  • 複数社への資料提供や面談の負担を減らせる
  • 買い手による詳細な調査を進めやすくなる
  • 最終契約に向けたスケジュールを整理しやすい

一方、独占交渉中に他社から高い買収価格を提示されても、契約上すぐには交渉できない可能性があります。

また、買い手側の調査が長引けば、事業承継の予定が遅れ、他の候補先への売却機会を逃すおそれもあります。

買い手側のメリット・デメリット

買い手側のメリットは、他社との競争を抑えながら、デューデリジェンス(DD)を進められることです。

デューデリジェンスとは、買収対象の財務状況、契約関係、事業運営上のリスクなどを調査することを指します。

介護・医療事業では、事業所ごとの収支、人員配置、設備、指定・許認可なども確認対象となり得ます。

ただし、独占交渉権を得ても買収が確約されるわけではありません。調査結果によって条件変更が必要になったり、最終的に交渉が成立しなかったりする場合があります。

関連する調査内容については、サイト内の「M&Aのデューデリジェンスとは?」の記事も参考になります。

独占交渉中に他社から好条件の提案があった場合

例えば、独占交渉期間中に、別の買い手から現在の提示価格を上回る提案が届いたとします。

この場合、他社と直接交渉してよいかどうかは契約内容によって異なります。

提案の受領自体が制限されているのか、面談や情報提供、条件交渉が禁止されているのかを確認しましょう。

他社との交渉を希望する場合には、独占期間の終了を待つ方法や、現在の買い手と合意して条件を変更する方法などが考えられます。

契約違反を避けるため、事前に弁護士などの専門家に相談することが望まれます。

独占交渉権の期間と法的拘束力

独占交渉権を設定する際は、交渉期間と法的拘束力の範囲を明確にしておく必要があります。

独占交渉期間はどのくらい?

独占交渉期間に法律上の一律の期限はありません。

M&A実務では2〜3か月程度を目安とする解説もありますが、案件の規模、調査の範囲、当事者の状況によって異なります。

例えば、複数の介護施設を運営する法人では、各施設の収支や契約関係、人員配置などの確認に時間がかかることがあります。

期間を設定する際には、開始日・終了日だけでなく、延長条件や自動更新の有無まで確認することが大切です。

基本合意書の法的拘束力はどこまで及ぶ?

基本合意書では、譲渡予定価格などを暫定的な条件として扱う一方、独占交渉義務や秘密保持義務には法的拘束力を持たせることがあります。

そのため、「基本合意書には法的拘束力がない」と一括りに考えることは適切ではありません。

どの条項に法的拘束力があるかは、契約の文言や個別の事情に応じて判断されます。

署名前に、独占交渉義務、秘密保持義務、費用負担、解除条件などの条項を確認しましょう。

独占交渉権に違反すると違約金が発生する?

独占交渉権に違反した場合でも、必ず一定額の違約金が発生するわけではありません。

違約金の定めがあるか、契約違反が成立するか、損害賠償責任が発生するかなどは、契約内容や具体的な事情によって異なります。

例えば、独占交渉期間中に他の買い手と売却契約を締結した場合、独占交渉義務に違反したと評価される可能性があります。

違約金や損害賠償の条項がある場合には、その適用条件と責任の範囲を専門家に確認してください。

交渉を途中で中止・解除できるケース

独占交渉期間中でも、契約上の解除条件を満たした場合や、当事者双方が合意した場合には、交渉を終了できることがあります。

例えば、次のような事情が考えられます。

  • 買い手が合意した期限までに調査を進めない
  • 買い手の資金調達が難しくなった
  • 重要な譲渡条件について合意できなくなった
  • 当事者双方が交渉終了に合意した

ただし、これらの事情があるだけで当然に解除できるとは限りません。

解除の可否は契約内容などにより異なるため、交渉開始時点で終了条件を整理しておくことが重要です。

独占交渉権を付与する前に確認したい5つのポイント

独占交渉権を付与する前に、売り手が確認しておきたい事項を5つ紹介します。

① 買い手候補の信頼性と買収資金を確認する

最初に確認したいのは、買い手が事業を引き継ぐ能力を持っているかという点です。

買収経験、財務状況、資金調達の見通し、買収後の運営体制などを確認しましょう。

中小企業庁の「中小M&Aガイドライン(第3版・2024年8月)」でも、不適切な買い手への対応や、譲り受け側の調査の重要性が示されています。

借入金や経営者保証がある場合には、M&A後の取り扱いについても確認が必要です。

経営者保証の取り扱いは、関連する「介護事業のM&Aにおける個人保証・借入金」の記事も参考になります。

② 独占交渉の期間と延長条件を確認する

独占交渉の期間は、必要な調査を進められる長さであることに加え、売り手が過度に拘束されないことも重要です。

期限を過ぎた場合に自動延長されるのか、双方の合意が必要なのかを確認しましょう。

また、買い手側の事情で調査が長引いた場合に、どのような対応を取るかも事前に整理しておくと安心です。

③ 他社との接触・情報提供の制限範囲を確認する

独占交渉権の契約では、他社との面談や価格交渉だけでなく、資料提供や買収提案の募集なども制限されることがあります。

以前から交渉していた候補先への対応や、新たな買収提案が届いた場合の取り扱いも確認しておきましょう。

なお、仲介会社との契約に設けられる専任条項と、買い手に与える独占交渉権は別の取り決めです。

両方の契約がある場合には、それぞれの制限内容を確認する必要があります。

④ デューデリジェンスの期限と必要資料を整理する

独占交渉権を付与した後に調査が進まなければ、売却手続きは停滞します。

事前に必要資料、調査期間、条件協議の期限を整理しておきましょう。

介護・障がい福祉事業では、決算書に加えて、事業所別の収支、職員配置、加算の算定状況、行政指導の履歴などが確認対象となる場合があります。

調査への対応と通常業務を両立させるため、資料準備の担当者や情報共有の方法も決めておくことが望まれます。

⑤ 解除条件・違約金・損害賠償の条項を確認する

独占交渉権を付与する前に、次の項目を確認しましょう。

  • 交渉の開始日と終了日が明確になっているか
  • 期間の延長には双方の合意が必要か
  • 他社との接触はどこまで制限されるか
  • 買い手が調査を進めない場合の対応が定められているか
  • 中途解除の条件が明確か
  • 違約金・損害賠償の条項があるか

契約内容について疑問がある場合には、基本合意書への署名前に弁護士などの専門家へ確認することが重要です。

【無料相談のご案内】
「買い手を1社に絞ってよいか迷っている」「売却条件の比較が十分にできていない」という方は、M&A承継サポートへご相談ください。介護・医療・障がい福祉分野に特化し、秘密厳守でご相談に対応しています。まずは無料相談・無料簡易査定で、事業の相場感や譲渡条件を整理してみませんか。

介護・障がい福祉・医療事業のM&Aで注意すべきこと

介護・障がい福祉・医療・歯科事業では、譲渡価格だけでなく、職員の雇用や利用者・患者へのサービス継続も重要な判断材料です。

従業員の雇用や利用者・患者への影響を確認する

福祉・医療事業では、職員の経験や利用者・患者との信頼関係が事業運営を支えています。

例えば、介護事業所で管理者や主要職員が退職すると、サービス提供体制や人員配置に影響する可能性があります。

買い手を選定する際には、職員の雇用継続、労働条件、管理者の処遇、サービス提供方針などを確認しましょう。

また、労働契約の承継方法はM&Aの手法によって異なります。

厚生労働省の「事業譲渡又は合併を行うに当たって会社等が留意すべき事項に関する指針」(2016年8月17日)では、事業譲渡に伴い労働契約を譲受会社に承継させる場合、原則として労働者本人の個別承諾が必要とされています。

株式譲渡では通常、雇用主である法人自体は変わりませんが、売却後の経営方針や労働条件について確認することが大切です。

事業所の指定・許認可と行政手続きを確認する

介護・障がい福祉・医療事業では、事業所の指定や開設許可などが関係する場合があります。

特に、法人自体の譲渡と個別事業の譲渡では、必要な手続きが異なることがあります。

例えば、事業譲渡では、既存事業所の指定をそのまま引き継げるとは限りません。新たな指定申請や各種届出が必要になる可能性があります。

厚生労働省は2026年6月30日付で「障害福祉サービス事業者等の指定のガイドライン」の作成について通知を公表しています。

ただし、M&Aに伴う具体的な手続きは、サービス種別、譲渡方法、指定権者の取り扱いなどによって異なります。

独占交渉期間中に行政手続きの見通しを確認できないと、予定していた譲渡日に事業を引き継げない可能性もあります。所管行政機関への確認を早めに進めましょう。

買い手の運営方針や事業継続の意思を見極める

売却価格が高いことだけを理由に買い手を決めると、引き継ぎ後の運営方針が想定と異なる場合があります。

例えば、地域密着型の介護事業所を売却する場合、地域との関係性や利用者への支援方針をどのように維持するかが重要な検討事項です。

歯科医院やクリニックの売却でも、診療体制、スタッフの処遇、患者の継続通院への配慮などを確認する必要があります。

独占交渉権を付与する前に、買い手の取得目的や運営計画を確認し、売り手が大切にしてきた方針との相違がないか整理しましょう。

条件変更や交渉長期化に備える

デューデリジェンスの結果、買い手から譲渡価格や条件の変更を求められることがあります。

例えば、介護施設の設備更新費用や人員配置上の課題などが判明した場合、当初の条件を見直す協議が必要になる可能性があります。

しかし、買い手から条件変更を求められたからといって、売り手がすべて受け入れなければならないわけではありません。

変更理由を確認し、必要に応じて専門家と協議することが大切です。

福祉事業の売却に関する具体的なリスクは、サイト内の「介護M&Aの注意点」「障がい福祉M&Aの注意点」でも解説しています。

独占交渉権に関するよくある質問(FAQ)

Q1. 独占交渉権を与えたら必ず売却しなければなりませんか?

独占交渉権の付与だけで売却が確定するわけではありません。ただし、独占交渉義務に法的拘束力が認められる場合があるため、契約内容に従って交渉を進める必要があります。

Q2. 独占交渉期間中に他社から連絡が来たらどうすべきですか?

まず契約内容を確認しましょう。他社からの提案の受領、資料提供、面談、交渉などが制限されている場合があります。

Q3. 独占交渉権は途中で解除できますか?

契約上の解除条件を満たす場合や、当事者双方が合意した場合などには解除できる可能性があります。具体的な解除方法は契約内容によって異なります。

Q4. 優先交渉権があれば他社と交渉できますか?

契約内容によっては可能です。ただし、優先交渉権という名称でも他社との交渉に制限が設けられる場合があります。

Q5. 独占交渉期間中に買い手から価格を下げられたらどうなりますか?

基本合意書で示した譲渡価格が暫定的な条件であれば、調査結果などを理由に再交渉となる場合があります。ただし、価格変更の申し出を無条件で受け入れる義務があるとは限りません。契約内容を確認して判断しましょう。

まとめ|独占交渉権は条件を理解したうえで慎重に設定しよう

独占交渉権とは、M&Aで特定の買い手との交渉に集中するための取り決めです。

交渉を効率的に進められる一方、他社との交渉機会が制限されるため、独占期間、解除条件、法的拘束力を事前に確認することが重要です。

介護・障がい福祉・医療・歯科事業では、譲渡価格だけでなく、職員の雇用や利用者・患者へのサービス継続、指定・許認可の手続きも踏まえて買い手を選定しましょう。

参考資料・出典

免責事項:本記事はM&Aに関する一般的な情報提供を目的としており、個別案件に対する法律・税務・会計・行政手続き上の助言ではありません。契約の法的効力、損害賠償責任、指定・許認可の取り扱いなどは個別事情によって異なります。具体的な判断にあたっては、弁護士、税理士、行政機関などの専門家にご確認ください。

まずはお気軽にお問い合わせください。

松本 圭祐
記事監修
取締役
松本 圭祐
新卒で楽天株式会社に入社し、その後合同会社DMM.comに転職。オンライン英会話サービスの「DMM英会話」の立ち上げを担当し、3年で業界最大手となる。
日本チームのマネージャーを務めた他、新規事業や法人営業なども管掌。その後ヘルスケア・福祉関連の事業を行う上場企業に転職し、M&A支援事業の立ち上げ、グロース全般を担当。
今までにM&Aコンサルタントとして50件以上の案件を成約に導く。
一覧に戻る