複数の施設を運営している場合の売却戦略

介護業界において、複数の施設を運営する事業者が増加しています。事業の拡大に伴い、経営資源の分散や後継者問題、地域ニーズの変化など、さまざまな課題が生じることがあります。これらの課題に対応するための一つの手段として、M&A(企業の合併・買収)による事業の再編や売却が注目されています。
1. 複数施設運営の課題と売却の必要性
複数の施設を運営することで、スケールメリットや地域貢献の拡大が期待できます。しかし、以下のような課題も生じます。
- 経営資源の分散:人材や資金、時間などのリソースが分散し、各施設の運営効率が低下する可能性があります。
- 後継者問題:事業の拡大に伴い、後継者の確保が難しくなるケースがあります。
- 地域ニーズの変化:地域の高齢化率や介護ニーズの変化により、施設の需要が変動することがあります。
これらの課題に対処するため、事業の一部または全部を売却し、経営の集中や再編を図る戦略が有効です。
2. 売却戦略の立案
複数施設の売却を検討する際は、以下のステップで戦略を立案します。
2-1. 売却対象の選定
全施設を一括で売却するか、特定の施設のみを売却するかを決定します。施設の収益性や将来性、地域ニーズなどを考慮し、売却対象を選定します。
2-2. 売却手法の選択
売却手法には、株式譲渡や事業譲渡があります。株式譲渡は法人全体を譲渡する方法で、事業譲渡は特定の事業や資産を譲渡する方法です。目的や状況に応じて適切な手法を選択します。
2-3. 売却価格の設定
施設の収益性や資産価値、市場動向などを基に、適正な売却価格を設定します。専門家の意見を参考にすることが重要です。
3. 売却プロセスと注意点
売却を進める際の一般的なプロセスと注意点は以下の通りです。
3-1. 事前準備
財務諸表や契約書類、施設の運営状況など、必要な情報を整理・準備します。
3-2. 買い手の選定
信頼できる買い手を選定することが重要です。買い手の経営方針や財務状況、介護事業への理解度などを評価します。
3-3. 契約交渉と締結
売却条件や契約内容について交渉し、合意に至ったら契約を締結します。法的なリスクを回避するため、専門家のサポートを受けることが望ましいです。
4. 売却後の対応
売却後も、従業員や利用者への影響を最小限に抑えるための対応が求められます。
- 情報共有:従業員や利用者に対して、売却の理由や今後の運営方針を丁寧に説明します。
- 引き継ぎ:業務やノウハウの引き継ぎを円滑に行い、サービスの質を維持します。
- フォローアップ:売却後も一定期間、運営状況を確認し、必要に応じてサポートを提供します。
5. 遠方拠点の切り離し戦略
遠方に位置する施設の運営は、管理コストや人材確保の面で課題が多く、売却を検討する際の重要なポイントとなります。
5-1. 遠方拠点の課題
- 管理コストの増加:本部からの距離があるため、管理や監督にかかるコストが増加します。
- 人材確保の難しさ:地域によっては、介護人材の確保が難しい場合があります。
- 地域ニーズとのミスマッチ:地域の介護ニーズと施設の提供するサービスが合致しないことがあります。
5-2. 切り離しのメリット
- 経営資源の集中:本部から近い施設に経営資源を集中させ、効率的な運営が可能になります。
- 収益性の向上:管理コストの削減により、全体の収益性が向上します。
- 地域特性に合った運営:地域の特性を理解した買い手による運営が期待できます。
5-3. 切り離しの進め方
遠方拠点の切り離しには、明確な手順と戦略が求められます。以下のステップで進めるとスムーズです。
- 収支と管理負担の分析:遠方施設の年間収支、稼働率、管理工数、人員確保状況などを整理し、売却の優先順位を定めます。
- 地域内での買い手選定:その地域で施設展開をしている法人、もしくは参入を検討している事業者にアプローチすることで、買い手が見つかりやすくなります。
- 段階的な売却:一気にすべてを売却するのではなく、まずは問題の大きい施設から段階的に切り離すことで、混乱を最小限に抑えられます。
- 現場との十分な連携:現地のスタッフや管理者に対し、売却理由や方針を丁寧に説明し、協力体制を築きます。
「採算は悪くないが距離が遠くて目が行き届かない」「職員採用だけがネック」といった施設は、むしろ地域の他法人にとっては魅力的な買収対象になることも多いです。
6. よくある質問と専門家のアドバイス
Q. 採算が取れていない施設でも売却できますか?
はい、可能です。地域でニーズがある・スタッフが定着している・建物の状態が良いなど、強みが明確であれば買い手は見つかります。赤字でも引き継ぎ後の立て直しが見込める場合、交渉の余地はあります。
Q. すべて売却せず、一部だけ売却することもできますか?
もちろん可能です。一部切り離しはよくある戦略で、財務改善や経営リスク分散のために使われます。法人としての体力を保ちつつ、再成長を目指すきっかけになります。
Q. 遠方拠点を売却する際、従業員の雇用はどうなりますか?
買い手法人が基本的に雇用を引き継ぐケースがほとんどです。従業員にとっても職場が継続されるメリットがあり、安心感につながります。
Q. 実際にどんな法人が買い手になるのですか?
介護・医療系法人の他、福祉法人、近隣で施設展開を進めている地域密着型の法人などが中心です。買い手の傾向はエリアによって異なりますが、近隣の法人が拡大を目指している場合はマッチしやすいです。
7. まとめ|「選択と集中」が未来を拓く
複数施設の運営は事業成長の象徴である一方、経営者にとっては大きな負担ともなります。特に遠方拠点や採算が合いづらい施設は、思い切って戦略的に切り離すことで、残された施設に集中しやすくなり、全体の経営体力が向上します。
経営資源を集中すべき施設はどこか、継承すべき価値はどこにあるのかを見極め、部分的なM&Aを活用することは、これからの介護業界において非常に有効な手段です。
売却によってすべてを手放す必要はありません。「残す施設」と「譲る施設」のバランスを取りながら、自社に合った将来像を描くことが重要です。
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