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内科クリニック売却・M&A|患者基盤と立地の評価

内科クリニックの売却価格は、決算上の利益だけでは決まりません。継続通院する患者層、地域の医療需要、院長交代後も診療を維持できる体制、物件・設備・職員の引き継ぎやすさが評価を左右します。本記事では、内科クリニック売却の評価方法、準備資料、手続き、注意点を売り手の視点から解説します。

内科クリニック売却では何が評価されるのか

内科クリニックのM&Aでは、現在の売上だけでなく、「譲渡後にも残る診療需要」が重視されます。院長が交代しても患者が通院し、職員が診療を支え、同じ場所で運営を続けられるかがポイントです。

厚生労働省の「令和8(2026)年5月末医療施設動態調査」によると、一般診療所は全国に10万5,690施設あります。ただし、この数値は月次の概数であり、内科だけの施設数ではありません。地域内に複数の診療所があるなかで買い手へ価値を伝えるには、自院の患者構成、診療内容、立地上の役割を具体的に示す必要があります。

内科クリニックの売却を検討する主な理由

  • 親族や院内に後継者候補がいない
  • 院長の年齢や体調を踏まえて診療負担を減らしたい
  • 医師、看護師、医療事務の採用が難しい
  • 経営管理や設備更新の負担が大きくなっている
  • 廃院せず、患者の通院先と職員の雇用を残したい
  • 医療法人や医療グループとの連携で経営基盤を整えたい

売却は、経営不振のときだけに行うものではありません。患者数や職員体制が安定している段階で準備を始めたほうが、買い手候補や引継ぎ条件を比較しやすくなる場合があります。

廃院とM&A・第三者承継の違い

比較項目廃院M&A・第三者承継
患者転院先の案内が必要条件が整えば同じ場所で診療を継続できる
職員退職等の手続きが必要スキームに応じて雇用継続を検討する。事業譲渡では原則として個々の労働者の承諾が必要
設備・内装処分や原状回復が必要になる場合がある診療に使用できるものを譲渡対象にできる
院長閉院手続きと患者対応が中心一定期間の引継ぎ勤務を求められる場合がある
地域医療地域の診療機能が減少する患者の通院環境を維持できる可能性がある

M&Aを選べば必ず診療を継続できるわけではありません。買い手となる医師や医療法人の確保、物件契約、職員の意向、行政手続きなどの条件を一つずつ確認します。全体の進め方は、クリニックM&Aの流れと注意点も参考にしてください。

内科クリニックの売却価格はどう決まる?

内科クリニックの譲渡価格に、全国共通の相場表はありません。資産・負債、平常時の収益力、患者基盤、立地、承継上のリスクを評価し、最終的には売り手と買い手の交渉で決まります。

評価の中心となる6項目

評価領域主な確認項目
資産・負債現預金、医療機器、内装、借入金、リース債務、未払金
収益力医業収益、実質利益、月別変動、診療内容別の売上
患者基盤新患・再来患者数、来院頻度、疾患・年齢構成
診療体制勤務医、看護師、事務職員の配置と継続可能性
立地・物件診療圏、競合、交通手段、賃料、契約承継の可否
承継リスク院長への依存、行政手続き、設備更新、偶発債務

同じ利益額でも、複数の医師が診療している医院と、院長一人の専門性や人脈に売上が集中している医院では、譲渡後の維持可能性が異なります。決算書上の利益に加え、院長報酬、私的経費、一時的な収入・支出、将来の設備更新費を調整し、通常の運営で得られる収益を確認します。

主な評価方法

中小規模のM&Aでは、資産・負債を時価に修正する「修正純資産法」や、正常収益の一定期間分を営業権として加える簡便的な方法が使われることがあります。将来のキャッシュフローから価値を算定するDCF法、類似取引を参照する方法もあります。

ただし、「利益の何年分」という倍率だけで価格を断定することはできません。月別患者数の安定性、後任医師の確保、物件条件、医療機器の更新、診療報酬請求上のリスクなどによって評価は変わります。簡易査定は確定価格ではなく、売却条件を検討するための参考値です。詳しくは、クリニックの売却価格と評価方法をご覧ください。

個人開設と医療法人ではスキームが異なる

個人開設のクリニックでは、医療機器、内装、営業上の権利など、対象を特定して引き継ぐ事業譲渡が中心です。医療法人では、出資持分の有無、定款、社員・役員構成などを確認し、経営権の承継、事業譲渡、合併等の選択肢を検討します。

医療法人は株式会社と制度が異なるため、一般企業の株式譲渡と同じようには扱えません。譲渡代金の受取主体や税負担もスキームによって異なります。交渉開始前に、医療法人M&Aの承継手続きを確認し、税理士・弁護士等へ相談しましょう。

患者基盤は「人数」ではなく継続性で確認する

複数年の推移から診療需要を把握する

買い手が確認するのは、現在の患者数だけではありません。院長が交代した後も、地域の診療需要が残るかが重要です。月別レセプト件数、新患・再来の内訳、来院頻度、季節変動を複数年で並べると、患者基盤の特徴を説明しやすくなります。

確認指標分かること注意点
新患・再来の推移新規流入と継続通院のバランス感染症流行等による一時的な増減を分ける
疾患構成継続診療の需要と必要な専門性患者個人を特定しない集計資料を使う
年齢構成地域人口との適合性高齢患者の移動手段も確認する
診療別売上保険診療、健診、予防接種等の構成特定メニューへの依存を確認する
紹介経路病院、介護事業所等との連携状況院長個人の関係に依存していないか確認する

たとえば、生活習慣病の患者が定期的に来院する医院と、特定の流行期だけ患者数が増える医院では、収益の変動要因が異なります。増減の数字だけでなく、その理由まで説明できる資料が必要です。

院長交代後も運営できる状態を示す

院長の評判や専門性は医院の強みです。一方、診療、患者対応、紹介、経営判断のすべてを院長一人が担っている場合、買い手は承継後の負担を慎重に見ます。

  • 診療方針や検査運用を文書化する
  • スタッフごとの業務と権限を整理する
  • 地域連携先と紹介件数を記録する
  • 医療機器・電子カルテの操作担当者を明確にする
  • 院長が引継ぎ勤務できる期間を整理する

売却後に院長が勤務する場合は、期間、診療日、報酬、責任範囲、競業避止義務を契約で明確にします。「必要な間は勤務する」といった曖昧な合意は避けましょう。

患者情報の開示範囲を管理する

診療録や患者情報には、病歴などの要配慮個人情報が含まれます。個人情報保護法上、事業承継に伴って個人データが提供される場合、提供先が第三者に該当しないと整理されることがあります。ただし、承継後も原則として承継前の利用目的の範囲内で取り扱う必要があります。

交渉段階では、患者個人を特定しない集計資料を優先します。個人データを含む情報を開示する必要がある場合は、利用目的、取扱方法、安全管理措置、交渉不成立時の返還・消去等を契約で定め、必要最小限の範囲に限定します。具体的な対応は弁護士等に確認してください。

立地はアクセス・地域需要・物件条件で評価する

診療圏と患者ニーズの組み合わせを見る

内科クリニックの立地は、駅からの距離だけで評価されません。住宅地では居住人口や年齢構成、オフィス街では昼間人口、郊外では駐車場や幹線道路からのアクセスが重要です。

厚生労働省・都道府県が運営する「医療情報ネット(ナビイ)」では、地域の医療機関、診療科目、対応可能な疾患・治療内容などを検索できます。人口統計と組み合わせ、競合数だけでなく、地域で不足している診療機能を確認します。

近隣医療機関との違いを整理する

近隣に内科が多くても、すべてが同じ診療内容とは限りません。呼吸器、循環器、消化器、糖尿病などの専門領域、診療時間、健診、訪問診療の有無を比較すると、自院の地域内での役割が見えてきます。

病院からの逆紹介、介護施設や訪問看護との連携も評価材料になります。ただし、院長個人の人間関係だけで成り立つ紹介は、承継後に継続しない可能性があります。連携先、経緯、紹介件数、連絡方法を整理しておきましょう。

好立地でも評価が伸びない場合がある

  • 賃料が収益を圧迫している
  • 賃貸人が契約承継や新規契約に同意しない
  • 駐車場が不足し、患者層の移動手段と合っていない
  • 建物の老朽化や修繕負担が大きい
  • 医療機器の搬入・更新に制約がある
  • 近隣に診療内容が重なる競合が増えている

自己所有物件の場合は、クリニックと不動産を一緒に譲渡するのか、売り手が不動産を保有して買い手へ賃貸するのかを決めます。売却価格だけでなく、譲渡後の賃料収入や不動産に関する税務も含めて検討が必要です。

内科クリニック売却前に整える資料

財務・診療資料

  • 決算書または確定申告書
  • 月別試算表と月別医業収益
  • レセプト件数、新患・再来患者数の推移
  • 診療内容別の売上資料
  • 借入金、リース、未払金の一覧
  • 医療機器台帳と保守・更新状況

売上が急に減少している場合は、診療日数の削減、医師の退職、競合開院などの理由も整理します。問題のないように見せることより、増減の背景と改善可能性を説明できることが重要です。

人材・契約資料

  • 職種、雇用形態、勤務日数を記載した職員一覧
  • 雇用契約書、就業規則、給与・賞与資料
  • 有給休暇、社会保険、未払残業代の状況
  • 賃貸借契約書と駐車場契約
  • 検査会社、電子カルテ、医療廃棄物等の契約
  • 行政への届出、施設基準、指導・監査への対応履歴

事業譲渡で雇用主が変わる場合、労働契約の承継には原則として個々の労働者の承諾が必要です。職員への説明が早すぎると不安や情報漏えいにつながる一方、遅すぎると十分な説明期間を確保できません。スキームと交渉状況に合わせて説明計画を立てます。

内科クリニックの査定では、決算書だけでなく、患者基盤、診療圏、職員、物件契約まで確認します。売却を決める前でも、無料簡易査定を通じて、自院の評価材料と整理すべき課題を確認できます。まずは相場感を知りたい段階でもご相談ください。

内科クリニック売却の流れ

  1. 目的と希望条件を整理する:希望時期、価格、職員の雇用、院長の引継ぎ勤務、医院名や診療方針について優先順位を決めます。
  2. 資料を準備して簡易査定を受ける:財務、患者構成、人材、物件、設備、契約資料から評価項目とリスクを確認します。
  3. 買い手候補を探す:当初は医院名を伏せた資料で打診し、秘密保持契約後に必要な情報を段階的に開示します。
  4. 条件交渉と基本合意を行う:価格、譲渡対象、職員の処遇、院長の引継ぎ、独占交渉期間等を調整します。
  5. デューデリジェンスを受ける:財務、税務、法務、労務、診療報酬請求、行政手続き等について買い手の調査を受けます。
  6. 最終契約と引継ぎを行う:前提条件を確認し、患者、職員、連携先への説明と診療体制の移行を進めます。

デューデリジェンスで確認される項目は、医療M&Aのデューデリジェンスで詳しく解説しています。

2026年9月以降の保険医療機関手続きに注意する

開設者変更、個人から法人への変更、所在地変更等では、旧医療機関の廃止と新たな保険医療機関指定の手続きが必要になる場合があります。2026年9月1日からは、遡及指定等の取扱いが変更されました。

一定の類型では指定期日の遡及を申請できますが、手続きは変更内容によって異なります。東海北陸厚生局の案内では、「その他の場合」に該当するときは、原則として遡及指定を希望する日の3か月前までに予定届出書を提出する必要があるとされています。施設基準も改めて届出が必要になる場合があるため、譲渡日を決める前に管轄自治体・地方厚生局へ相談してください。

売却で後悔を避けるための注意点

提示価格だけで買い手を選ばない

提示価格が高くても、資金調達が不確実、職員の処遇が合わない、診療方針が大きく異なる場合は、交渉が破談になる可能性があります。譲渡対価に加え、保証債務の解除、退職金、税負担、譲渡後の勤務条件を含めて比較します。

情報開示の順序を決める

売却情報が早期に広がると、職員、患者、取引先へ不要な不安を与えかねません。匿名資料、秘密保持契約、実名開示、詳細調査、職員説明という順序を決め、閲覧者と開示資料を記録します。

支援会社との契約内容を確認する

中小企業庁の「中小M&Aガイドライン(第3版)」では、手数料、業務内容、利益相反等に関する説明など、支援機関に求められる対応が示されています。契約前に、着手金・中間金・成功報酬、最低報酬、契約期間、専任条項、直接交渉の制限、解除条件を確認しましょう。

内科クリニック売却に関するよくある質問

赤字の内科クリニックでも売却できますか?

売却できる可能性はあります。赤字が一時的な休診、院長報酬、改善可能な固定費などによる場合、正常収益へ調整して検討できることがあります。ただし、患者数の継続的な減少や診療報酬請求上の問題がある場合は、条件が厳しくなる可能性があります。

患者数が減っていても買い手は見つかりますか?

減少理由と今後の地域需要によります。院長が診療日数を減らしたことが原因なら、後任医師の配置によって回復できる可能性があります。人口動態や競合開院が原因の場合は、診療内容の見直しも含めて検討します。

賃貸物件でもクリニックを譲渡できますか?

譲渡できる可能性はありますが、現在の賃貸借契約をそのまま引き継げるとは限りません。賃貸人の承諾、新規契約、賃料改定、敷金、原状回復義務を確認します。

患者や職員にはいつ伝えるべきですか?

買い手との主要条件が固まり、承継の実現可能性が高まった段階が一つの目安です。ただし、職員の承諾やキーパーソンの継続確認が先に必要な場合もあります。秘密保持と十分な説明期間の両方を考えて決めます。

売却後も院長として勤務できますか?

買い手との合意により勤務できます。患者や職員の移行を支えられる一方、勤務期間、診療日、報酬、責任範囲を曖昧にするとトラブルになり得ます。最終契約や雇用・業務委託契約で条件を明確にします。

まとめ|内科クリニック売却は早めの現状整理が重要

内科クリニックの売却では、資産や利益だけでなく、譲渡後も残る患者需要、診療体制の移しやすさ、立地・物件の継続性が評価されます。売却時期が迫ってから準備すると、買い手候補や引継ぎ方法の選択肢が狭くなる可能性があります。まずは財務、患者動向、職員、設備、契約を整理し、自院の強みとリスクを把握しましょう。

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参考資料

本記事は一般的な情報提供を目的とするものであり、個別の税務・法務・労務・行政手続きに関する助言ではありません。実際の売却方法、税負担、労働契約、患者情報の取扱い、許認可・届出については、税理士、弁護士、社会保険労務士、行政書士および管轄する自治体・地方厚生局等へご確認ください。

まずはお気軽にお問い合わせください。

松本 圭祐
記事監修
取締役
松本 圭祐
新卒で楽天株式会社に入社し、その後合同会社DMM.comに転職。オンライン英会話サービスの「DMM英会話」の立ち上げを担当し、3年で業界最大手となる。
日本チームのマネージャーを務めた他、新規事業や法人営業なども管掌。その後ヘルスケア・福祉関連の事業を行う上場企業に転職し、M&A支援事業の立ち上げ、グロース全般を担当。
今までにM&Aコンサルタントとして50件以上の案件を成約に導く。
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