介護事業譲渡の理由とは?老舗経営者が選ぶ背景と本音
長年続けてきた介護事業を譲渡する理由は、経営不振や後継者不足だけではありません。経営者自身の引退、職員の雇用、利用者へのサービス継続など、さまざまな事情から第三者への承継を考える場合があります。
大切に育ててきた事業だからこそ、経営を手放す決断は簡単ではありません。本記事では、老舗介護事業者が譲渡を考える理由や経営者の葛藤、譲渡以外の選択肢、事前に確認したいポイントをわかりやすく解説します。
長年続けた介護事業を譲渡する理由とは?
介護事業の譲渡を検討する背景には、主に次のような理由があります。
- 親族や職員の中に後継者が見つからない
- 人材不足や経営コストの増加で負担が大きくなった
- 経営者自身の年齢や健康面から引退を考えている
- 今後の設備投資や事業運営に不安がある
- 利用者や職員を守るため、事業を次の経営者に引き継ぎたい
これらは単独ではなく、複数の事情が重なっていることもあります。例えば、現在は黒字であっても、後継者が不在で、数年後の経営継続に不安を抱えている場合などです。
中小企業庁の「2025年版中小企業白書」によると、中小企業全体では後継者不在率が減少傾向にある一方、60歳以上の経営者が過半数を占めています。介護業界だけの統計ではありませんが、経営者の高齢化と事業承継が重要な課題であることがうかがえます。
出典:中小企業庁「2025年版中小企業白書 第1部第1章第9節 事業承継」
後継者が見つからず、将来の運営に不安を感じる
介護事業を長く経営してきた事業者にとって、後継者の不在は大きな悩みの一つです。
子どもが別の職業に就いていたり、親族に経営を引き継ぐ意思がなかったりすることがあります。また、現場で信頼されている管理者がいても、法人経営まで任せられるとは限りません。
介護事業の経営には、職員の採用や資金管理、行政対応、介護報酬の算定体制の管理など、多様な業務が必要です。現場経験だけでは対応が難しい領域もあります。
後継者が決まらないまま経営者が高齢になると、病気や突然の退任によって事業運営が不安定になるおそれがあります。そのため、経営者自身に余力があるうちに譲渡を検討する場合があります。
人材不足や経営コストの増加で負担が大きくなる
介護事業では、職員の確保と安定した人員配置が欠かせません。採用が難しくなると、既存職員の負担が増え、経営者や管理者が現場業務を補うケースも考えられます。
さらに、人件費、光熱費、食材費、送迎車両や設備の維持管理費などにも対応しなければなりません。
介護保険サービスでは、公定価格である介護報酬が収入の基礎となるため、コストが上昇した分を自由に利用料金へ転嫁できるわけではありません。
例えば、地域で長年運営してきたデイサービスで、一定の利用者数を維持していても、設備更新や職員確保の費用が増えることで利益が減少する場合があります。
こうした状況では、単独経営を続けるだけでなく、採用体制や管理機能を持つ法人との統合・譲渡を検討することも選択肢になります。
経営者自身の年齢や生活環境が変化する
創業当初は現場にも積極的に関わっていた経営者が、年齢とともに業務負担を重く感じることがあります。
介護事業では、利用者家族への対応、職員との面談、行政手続き、経営判断などが日常的に発生します。小規模な事業所ほど、経営者個人に業務が集中する場合もあるでしょう。
また、自身や家族の健康、親の介護、今後の生活設計をきっかけに、経営への関わり方を見直すこともあります。
経営者が引退を考えることは、事業そのものを終了したいという意思と必ずしも同じではありません。事業を継続できる体制を整えたうえで、次の世代に経営を託したいと考える場合があります。
これまで築いた事業を次の世代へ残したい
長年続けた介護事業には、地域の利用者や家族との信頼関係、職員の経験、医療機関やケアマネジャーとの連携などが蓄積されています。
例えば、地域に根ざした訪問介護事業所が廃業する場合、利用者は新しいサービス提供先を探す必要が生じます。受け入れ先の状況によっては、サービスの調整に時間がかかることも考えられます。
一方、適切な譲渡先が見つかれば、必要な行政手続きや契約の確認を行ったうえで、事業継続を目指せる可能性があります。
このように、譲渡は経営から退くためだけではなく、地域に必要な介護サービスを残すための選択肢にもなり得ます。
老舗介護事業者だからこそ感じる譲渡への葛藤
長年事業を経営してきた方にとって、会社は単なる収益源ではありません。創業時の苦労や職員との思い出、地域との関係など、さまざまな経験が積み重なっています。
そのため、譲渡を検討する際には、金額や条件だけでは割り切れない思いが生じることがあります。
利用者や家族との信頼関係を失いたくない
長く介護サービスを利用している方にとって、慣れ親しんだ職員や事業所の雰囲気は安心感につながります。
経営者としても、「運営法人が変わっても、利用者を同じように大切にしてもらえるだろうか」という不安があるでしょう。
譲渡を検討するときは、買い手の資金力だけでなく、介護理念、サービス方針、既存事業所の運営実績を確認することが重要です。
長年働いてきた職員の将来が心配
創業当初から働いている職員や、長年事業所を支えてきた管理者がいる場合、譲渡後の雇用や働き方が気になるものです。
給与、勤務時間、福利厚生、管理者の役割などが変われば、職員の生活にも影響する可能性があります。
例えば、現在の職員に継続して働いてほしい場合は、譲渡先との交渉において雇用条件や配置方針を確認しておく必要があります。
ただし、事業譲渡では労働契約が当然に移転するわけではありません。労働者の承諾や適切な説明などが重要であり、手法に応じた対応が求められます。
厚生労働省は2026年5月25日から適用される改正「事業譲渡等指針」を公表しています。実際の承継では、最新の指針を踏まえて専門家に確認することが大切です。
自分の代で経営を手放すことへの迷い
「自分が始めた事業だから、最後まで責任を持ちたい」。長年経営してきた方の中には、そのように考える方もいるでしょう。
一方で、後継者がいないまま経営を続けることには、突然の休業や事業停止につながるリスクもあります。
重要なのは、事業を続けること自体を目的にするのではなく、利用者、職員、経営者自身にとって望ましい将来を考えることです。
自ら経営を続ける場合と、第三者に託す場合の両方を比較し、納得できる判断をすることが大切です。
介護事業の譲渡で引き継げる可能性がある3つの価値
事業を譲渡する際には、売却価格だけでなく、何を引き継ぎたいのかを明確にしておくことが重要です。
利用者への介護サービス
適切な譲渡先と引継ぎ計画を整えることで、利用者へのサービス継続を目指せる可能性があります。
ただし、事業譲渡後も同じサービスを提供できるかどうかは、指定や契約、人員配置などの条件によって異なります。
譲渡方法によっては、新たな指定申請や利用者との契約手続きが必要になるため、指定権者と事前に相談することが欠かせません。
職員の経験と働く環境
長年勤めてきた職員の経験や専門性は、事業所の重要な強みです。
例えば、利用者の状態を熟知した介護職員や、地域の関係機関との連携を担う管理者の存在は、事業の安定した運営に役立ちます。
譲渡先を選ぶ際には、現在の職員の雇用継続方針や教育体制、管理者への支援内容などを確認しましょう。
ただし、雇用や待遇の維持が保証されるわけではないため、合意可能な条件と必要な手続きを整理することが重要です。
地域の信頼と創業者の思い
老舗介護事業所には、地域における認知度や長年の運営経験、利用者との関係など、数字だけでは捉えにくい価値があります。
こうした強みは、買い手が事業を評価する際の検討材料になることがあります。
譲渡を考え始めたら、次のような希望を整理してみましょう。
- 現在の利用者へのサービスを継続してほしい
- 職員の雇用や働く環境に配慮してほしい
- 地域の医療機関や関係者との連携を大切にしてほしい
- 可能な範囲で事業所の名称や理念を残してほしい
- 必要に応じて、譲渡後の引継ぎ期間を設けたい
希望がすべて実現するとは限りませんが、事前に優先順位を明確にすることで、譲渡先との条件交渉が進めやすくなります。
介護事業を続けるか譲渡するか|主な選択肢を比較
事業の将来を考える際、第三者への譲渡が常に最善とは限りません。経営状況や後継者の有無によって、適した方法は異なります。
| 選択肢 | メリット | 主な注意点 |
|---|---|---|
| 自社で経営を継続 | 現在の経営方針を維持しやすい | 経営者の負担や後継者問題が残る可能性がある |
| 親族内承継 | 理念や経営方針を引き継ぎやすい場合がある | 後継者の意思や能力、資金面の確認が必要 |
| 従業員承継 | 現場を理解した人材に経営を託せる | 取得資金や経営責任への対応が必要 |
| 第三者承継・M&A | 外部の経営資源を活用できる可能性がある | 譲渡先の選定や契約条件の確認が必要 |
| 廃業 | 事業運営を終了できる | 利用者・職員への対応や廃業費用が発生する場合がある |
自社で経営改善を進める
事業を続ける意思があり、経営改善の余地がある場合は、まず現状の見直しを検討できます。
採用方法の改善、業務効率化、加算算定体制の点検、サービス構成の見直しなどが考えられます。
ただし、後継者不在や経営者自身の引退といった課題は、経営改善だけで解決できるとは限りません。
親族や従業員への承継を検討する
親族や職員の中に経営を引き継ぐ意思のある人がいれば、内部承継も選択肢です。
事業への理解や職員との信頼関係を生かせる一方、株式取得資金、借入金、経営者保証、経営能力などの課題について確認する必要があります。
後継者候補がいる場合でも、本人の意思を尊重し、十分な準備期間を設けることが大切です。
第三者への事業譲渡・M&Aを検討する
内部での承継が難しい場合は、外部の法人への譲渡を検討できます。
M&Aには株式譲渡や事業譲渡など複数の手法があります。株式譲渡は株主が変わる方法であり、事業譲渡は事業を構成する資産や契約などを個別に移転する方法です。
法人形態によって選択できる手法や必要な手続きが異なる点にも注意が必要です。
譲渡先が持つ採用体制や資金力、管理機能などを活用できる可能性がありますが、事業運営方針が一致するとは限りません。
そのため、価格だけでなく、利用者への対応や職員の雇用、事業の継続方針などを比較することが重要です。
廃業と譲渡では何が違うのか
廃業は事業の運営を終了する方法ですが、譲渡は事業や経営資源を第三者へ引き継ぐことを目指す方法です。
廃業の場合、利用者の受け入れ先や職員の転職先への対応などが必要になることがあります。一方、譲渡では、条件が整えばサービス継続を目指せる可能性があります。
ただし、譲渡にも費用や交渉上のリスクがあり、必ず買い手が見つかるわけではありません。
それぞれの特徴を把握し、事業と経営者自身の将来を総合的に判断することが重要です。
介護事業を続けるか、第三者に託すか迷っている方へ。
譲渡を決める前に、自社の価値や考えられる選択肢を整理することができます。M&A承継サポートでは、介護事業の無料相談・無料簡易査定を承っています。まずは今後の経営について、情報収集から始めてみませんか。
介護事業の譲渡を考え始めたら確認したい4つのポイント
譲渡を検討する場合、すぐに買い手を探すのではなく、事業の現状や希望条件を把握することから始めましょう。
1. 財務状況と事業所の運営体制を整理する
買い手が事業を評価する際には、売上や利益に加えて、利用者数、職員配置、設備、契約関係なども確認対象になります。
例えば、同程度の売上がある事業所でも、職員の定着状況や設備更新の必要性によって、評価が変わることがあります。
初期段階では、次の資料や情報を整理しておくとよいでしょう。
- 直近の決算書や月次試算表
- 事業所数、サービス種別、利用者数
- 稼働率や介護報酬収入の推移
- 職員数、資格保有状況、人員配置
- 土地・建物の所有形態や賃貸借契約
- 借入金、リース契約、経営者保証の状況
- 行政指導や監査への対応状況
資料がすべてそろっていなくても、把握できる情報から整理できます。利用者の個人情報や職員の詳細情報については、開示の必要性と範囲を慎重に判断してください。
2. 譲渡後に守りたい条件を明確にする
希望する譲渡価格だけでなく、事業所の存続、職員の雇用、利用者への対応、経営者の引継ぎ期間などを整理することが重要です。
例えば、価格面では希望に近くても、買い手が事業所の統廃合を計画している場合、経営者の意向に合わないことがあります。
「譲れない条件」と「交渉できる条件」を分けておくことで、譲渡先との話し合いを進めやすくなります。
3. 買い手の信用力と仲介会社の契約条件を確認する
譲渡先を検討する際には、買い手の財務状況や過去の運営実績、介護サービスへの理解を確認しましょう。
また、M&A仲介会社に依頼する場合は、手数料の算定方法、最低手数料、秘密保持、専任条項、契約終了後の取扱いなどの確認も必要です。
中小企業庁が2024年8月に改訂した「中小M&Aガイドライン(第3版)」では、手数料の説明、利益相反への対応、不適切な買い手との取引リスクなどについて示されています。
特に経営者保証がある場合は、譲渡後の保証の取扱いを金融機関や専門家と確認することが重要です。
4. 介護事業特有の指定・契約・人員体制を確認する
介護事業の譲渡では、一般企業のM&Aとは異なる行政手続きが関係する場合があります。
特に重要なのは、介護保険法に基づく事業所指定、介護報酬の算定要件、職員の人員配置、利用者との契約などです。
例えば、事業譲渡では譲受側による新たな指定申請が必要になる場合があります。これに対し、株式譲渡では法人そのものが存続するため、取引手法によって必要な対応が異なります。
また、社会福祉法人では株式会社と異なる法人制度が適用されます。厚生労働省は「合併・事業譲渡等マニュアル(令和8年3月31日改訂版)」を公表しており、所轄庁との事前調整も重要です。
実際の手続きは法人形態、サービス種別、指定権者によって異なるため、譲渡スケジュールを決める前に関係行政機関へ確認する必要があります。
譲渡を決める前に、自社の価値を知ることから始めよう
「長年続けてきた事業所に買い手がつくだろうか」「現在の経営状況でも譲渡できるのだろうか」。このような不安を感じる場合は、まず自社の状況を客観的に把握することが役立ちます。
黒字・赤字だけでは測れない介護事業の価値
介護事業の評価では、利益や純資産に加え、利用者基盤、職員の定着状況、立地、サービスの特色、今後の収益見通しなども検討材料になります。
例えば、現在の利益が小さくても、地域で安定した利用者基盤があり、経験豊富な職員が在籍している場合、買い手が関心を示す可能性があります。
一方、長年の運営実績があっても、設備の老朽化や管理者への業務集中などが評価に影響することもあります。
赤字だから譲渡できない、老舗だから高く売れる、と一律に判断することはできません。
売却を決めていない段階でも相談できる
事業譲渡を検討する初期段階では、売却するかどうかを決めるよりも、選択肢を把握することが重要です。
無料相談や簡易査定を活用することで、事業の現状を整理し、譲渡を検討するべきか、経営改善や内部承継を優先するべきかを考える材料が得られます。
M&A承継サポートは、介護・医療・障がい福祉分野に特化したM&A支援を行っています。M&A成約100件以上の実績を持つメンバーが在籍し、2年以内に買収実績のある買い手200社以上のリストを保有しています。
着手金・中間金無料の完全成功報酬制を採用し、成約まで原則費用は発生しません。具体的な手数料や費用の条件は契約内容をご確認ください。
赤字経営や廃業を検討している事業者からの相談にも対応しており、売却を決めていない段階でも今後の選択肢について相談できます。
まとめ|介護事業の譲渡は、築いてきた価値を次世代へ託す選択肢
長年続けてきた介護事業を譲渡する理由には、後継者不足、人材確保、経営者の高齢化、将来の事業継続への不安などがあります。
譲渡を考えることは、経営が失敗したことを意味するわけではありません。利用者や職員、地域との関係を大切にしながら、事業の将来を考えるための選択肢の一つです。
一方で、譲渡には行政手続きや契約上の注意点があり、雇用やサービスの継続が保証されるわけではありません。
自社での継続、親族・従業員への承継、第三者への譲渡などを比較し、経営者自身が納得できる方法を選ぶことが重要です。
長年大切にしてきた介護事業の将来について、まずは無料で相談してみませんか。
M&A承継サポートでは、介護事業の譲渡・事業承継に関する無料相談、無料簡易査定を承っています。情報の取扱いに配慮しながら、自社の価値や今後の選択肢を整理するお手伝いをしています。売却を決めていない段階でもご相談いただけます。
介護事業の譲渡理由に関するよくある質問(FAQ)
Q1. 介護事業を譲渡する理由で最も多いのは何ですか?
後継者不足、経営者の高齢化、人材確保の負担、経営環境の変化などが主な理由として考えられます。ただし、介護事業に限定して譲渡理由の順位を示す統一的な最新公的統計は【要確認】です。実際には複数の理由が重なることもあります。
Q2. 黒字の介護事業でも譲渡する経営者はいますか?
はい。黒字でも後継者不在や経営者の引退、将来の設備投資などを理由に譲渡を検討することがあります。経営状況が安定している段階から準備することで、譲渡先や条件を比較する時間を確保しやすくなります。
Q3. 事業を譲渡すると職員や利用者はどうなりますか?
譲渡方法や契約条件、行政手続きによって異なります。雇用やサービスの継続を目指すことはできますが、自動的にすべてが引き継がれるわけではありません。職員の同意、利用者契約、事業所指定などの確認が必要です。
Q4. 小規模な介護事業所でも譲渡できますか?
小規模な事業所でも、事業の状況や買い手の希望によっては譲渡を検討できます。立地、利用者基盤、収益性、職員体制などが評価の材料になります。ただし、すべての事業所に買い手が見つかるとは限りません。
Q5. まだ譲渡を決めていなくても相談できますか?
はい。M&A承継サポートでは、売却を決めていない段階での無料相談・無料簡易査定にも対応しています。自社の相場感や事業承継の選択肢を整理し、今後の経営判断に役立てることができます。
【免責事項】本記事は介護事業の譲渡や事業承継に関する一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の税務・法務・労務・行政手続きに関する助言を行うものではありません。必要な手続きや条件は、法人形態、サービス種別、契約内容、法令、自治体の運用等によって異なります。具体的な判断にあたっては、弁護士、税理士、社会保険労務士、行政機関等にご確認ください。
まずはお気軽にお問い合わせください。

