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表明保証保険とは?中小M&Aでの仕組みと活用

表明保証保険とは、M&Aの最終契約で定めた表明保証に違反が見つかり、経済的損失が生じた場合に備える保険です。売り手の売却後リスクや買い手の回収不安を軽減する選択肢ですが、すべての問題を補償するものではありません。中小M&Aでの仕組み、費用の考え方、福祉・医療分野特有の注意点を解説します。

表明保証保険とは?基本的な仕組み

M&Aにおける「表明保証」とは

表明保証とは、M&Aの契約当事者が、一定の時点における会社や取引に関する事実が真実かつ正確であると表明し、その内容を保証する契約上の取り決めです。

株式譲渡契約では、売り手が対象会社について、主に次のような事項を表明保証します。

  • 決算書や会計資料が適切に作成されていること
  • 開示していない簿外債務や重大な契約違反がないこと
  • 税務申告や社会保険の手続きが適切に行われていること
  • 重大な訴訟、行政処分、労務問題などがないこと
  • 事業に必要な許認可や指定を受けていること

成約後に表明保証の内容と事実が異なると判明した場合、買い手が売り手へ補償を求めることがあります。ただし、違反があれば当然に一定額の責任が発生するわけではありません。請求できる損害の範囲、上限額、請求期間、免責事項などは、売買契約の補償条項等によって決まります。

売り手にとっては「いつまで、いくらまで責任を負うのか」、買い手にとっては「問題が見つかったときに損失を回収できるのか」が重要な交渉事項です。中小企業庁の「中小M&Aガイドライン(第3版)」(2024年8月)でも、表明保証の期間や責任上限、適用場面を明確にする重要性が示されています。

表明保証保険が補償するもの

表明保証保険は、最終契約に定められた表明保証の違反によって被保険者に生じた経済的損失を、保険契約の範囲内で補償する商品です。「R&W保険」「W&I保険」「レプワラ保険」と呼ばれることもあります。

例えば、成約後に未把握の税務債務や未払残業代が判明した場合、それが売買契約上の表明保証違反に該当し、保険契約でも対象になっていれば、保険金が支払われる可能性があります。

ただし、表明保証違反があれば自動的に保険金が支払われるわけではありません。補償の可否は、約款、特約、個別の除外事項、免責金額、被保険者が認識していた事実などに基づいて判断されます。

買主用保険と売主用保険の違い

項目買主用保険売主用保険
主な被保険者買い手売り手
基本的な役割表明保証違反によって買い手が被った損失を補償する売り手が負担する補償責任を一定範囲で補償する
一般的な請求方法買い手が保険会社へ直接請求する売り手が買い手から請求を受けた後、保険会社へ請求する
主な利点売り手の資力だけに依存しない補償を検討できる売却後の偶発的な負担を抑えやすい

実務では買主用保険が利用されることが多いとされていますが、誰が保険契約者になるか、保険料を負担するかは案件ごとに異なります。売り手が費用を負担して買主用保険を付ける設計も考えられるため、契約者・被保険者・費用負担者を分けて確認します。

表明保証保険の補償対象と対象外になりやすい事項

補償対象になり得る表明保証違反

分野問題の例
財務未開示の債務、資産の過大計上、会計処理の誤り
税務未把握の申告漏れや追徴課税につながる事項
労務未払残業代、社会保険手続き、雇用契約上の問題
法務重要契約の違反、未開示の係争、法令違反
許認可等事業運営に必要な許認可・指定に関する事実との相違

これらは一般的な論点であり、項目名だけで補償対象になるわけではありません。同じ「税務」や「労務」の表明保証でも、実施されたデューデリジェンス(DD)の範囲や保険会社の審査によって、補償対象、条件付きの対象、対象外に分かれることがあります。

対象外になりやすい事項

  • 保険契約前に、保険契約で定める関係者が認識していた問題
  • DD報告書や開示資料ですでに指摘されていた事項
  • 将来の売上、利益、利用者数などの予測が未達となったこと
  • 売買契約上の表明保証に含まれていない事項
  • 保険契約で個別に除外された税務、環境、年金等のリスク
  • 罰金、行政上の制裁その他約款で免責とされた事項
  • 告知内容の不備や保険契約上の義務違反がある場合

表明保証保険は、すでに分かっている問題を保険会社へ移す仕組みではありません。適切に調査・開示しても発見できなかった偶発的なリスクを補完するものです。

保険でカバーできないリスクへの対応

既知の問題には、売買価格への反映、売り手による個別補償、問題解消後の譲渡などで対応します。代金の一部を一定期間留保するエスクローや、条件達成後に追加代金を支払う仕組みを検討する場合もあります。

保険を使う場合も、保険の自己負担額、限度額を超えた損害、除外事項について、売り手と買い手のどちらが負担するかを契約で決める必要があります。

表明保証保険を利用するメリット

売り手側のメリット

売り手にとっては、売却後の偶発的な請求リスクを軽減できる可能性があります。引退後の生活設計を立てたい経営者や、売却後の潜在債務を整理したいオーナーにとって、責任範囲を明確にする手段の一つです。

また、買い手が広い表明保証と高額な補償を求める一方、売り手が責任を限定したい場合に、保険を利用することで交渉条件を調整しやすくなる可能性があります。

買い手側のメリット

買主用保険では、買い手が保険会社へ直接保険金を請求できる設計があります。売り手の資力や支払意思だけに依存せず、一定の補償を確保できる点が利点です。

売り手である元経営者がM&A後も顧問や役員として残る案件では、元経営者への直接請求が承継後の関係へ影響することも考えられます。保険会社への請求で対応できれば、当事者間の対立を抑えられる可能性があります。

売り手の責任が完全になくなるわけではない

表明保証保険へ加入しても、売り手の責任が当然にゼロになるわけではありません。売買契約に保険で補償されない責任が残っている場合や、故意の不開示、不正確な説明などが問題となる場合があります。

保険があることだけを理由に表明保証の範囲を広げず、売買契約と保険契約を条項ごとに照合することが重要です。

中小M&Aでも表明保証保険は活用できる?

中小M&A向け商品の公表例もある

表明保証保険は、以前は大規模・クロスボーダーM&Aを中心に利用されていましたが、国内の中小M&A向け商品も開発されています。

公表例として、東京海上日動は2022年5月に「国内M&A保険Light」の販売開始を発表しました。発売時の資料では、最低保険料50万円、支払限度額1,000万円からとされています。ただし、これは2022年の公表内容であり、現在の取扱状況、保険料、限度額、引受条件を示すものではありません。利用時には保険会社または取扱代理店へ最新条件を確認してください。

活用を検討しやすい案件

  • 売り手が引退後の補償責任を限定したい
  • 買い手が売り手の資力に不安を感じている
  • 補償限度額や責任期間の交渉が難航している
  • 複数株主への請求を避け、窓口を整理したい
  • 適切なDDと資料開示を実施できる
  • 売り手と買い手が成約後も関係を維持する予定がある

利用しにくい可能性がある案件

  • 決算書、契約書、労務資料などが整っていない
  • 重大な法令違反や返還リスクがすでに判明している
  • 買い手が十分なDDを実施していない
  • 契約締結直前まで保険会社へ相談していない
  • 保険料や審査対応の負担が取引規模に見合わない

費用は保険料以外も確認する

表明保証保険の保険料は、補償限度額だけで決まるものではありません。対象会社の業種・規模、補償期間、DDの範囲、表明保証条項、除外事項などを踏まえて見積もられます。

保険料のほか、免責金額、引受審査費用、弁護士等の専門家費用も確認が必要です。保険を利用しない場合の売り手の補償責任やエスクローの負担と比較し、費用対効果を判断します。

自社の規模で表明保証保険を検討できるか分からない場合は、譲渡価格だけでなく、想定されるリスクと希望する責任範囲を整理することが大切です。M&A承継サポートの無料相談・無料簡易査定では、相場感とあわせて、成約前に整理すべき契約上の論点をご確認いただけます。

介護・医療・障がい福祉・歯科M&Aで確認したいリスク

報酬請求と返還リスク

介護・医療・障がい福祉・歯科では、公的な報酬制度に基づく売上の割合が高く、過去の請求の適正性が重要です。算定要件を満たしていない請求があれば、成約後に返還が必要となる可能性があります。

例えば、加算の根拠となる勤務表や研修記録が不足している、医療・介護記録と請求内容に不整合があるといった問題です。返還金が表明保証保険の対象になるかは、表明保証条項、DD、問題を認識した時期、損失の定義、約款上の除外事項によって異なります。

返還金、加算金、罰金、行政上の制裁は法的な性質が同じではありません。「行政に支払う金銭だからすべて対象外」または「表明保証違反だからすべて補償される」と一括りにせず、個別に確認する必要があります。

指定・許認可と人員配置のリスク

福祉・医療事業では、事業所指定、保険医療機関の指定、開設許可・届出、人員基準などが事業継続に直結します。M&Aの手法によって、法人が受けている指定等を維持できるのか、新規申請や変更手続きが必要なのかも異なります。

DDでは、指定通知書だけでなく、行政への届出、変更履歴、指導監査の結果、人員配置表、資格証、雇用契約、勤務実績まで確認します。現在の配置だけでなく、過去の報酬算定対象期間にも基準を満たしていたかを確認することが重要です。

労務・個人情報・補助金のリスク

夜勤やシフト勤務のある施設、訪問系サービス、医療機関では、残業代、固定残業代、休憩・宿直の取扱いが論点になります。利用者・患者の個人情報、事故・苦情記録、賃貸借契約、補助金の財産処分制限なども確認が必要です。

業界特有の論点主な確認資料対応の考え方
報酬請求請求データ、記録、加算届、返還履歴DD・開示・個別補償・保険の範囲を整理
指定・人員基準指定通知、勤務表、資格証、行政対応記録承継手続きと過去の基準充足を確認
労務賃金台帳、就業規則、勤怠記録潜在債務を算定し、価格や補償へ反映
個人情報・事故管理規程、事故報告、苦情・訴訟資料発生状況、未解決事項、再発防止策を確認

表明保証保険の検討から加入までの流れ

  1. 初期段階で相談する:取引概要、希望する補償、スケジュールを保険会社や取扱代理店へ伝えます。
  2. DDを実施する:財務・税務・法務・労務・事業面のリスクを調査します。
  3. 売買契約書と開示資料を作成する:表明保証、除外事項、補償上限、請求期間を整理します。
  4. 引受審査を受ける:保険会社がDD報告書、売買契約書案、開示資料などを確認します。
  5. 補償条件を確定する:対象条項、除外事項、限度額、免責金額、保険期間、保険料を決めます。
  6. 契約内容を照合する:売買契約と保険契約に食い違いがないか確認します。
  7. 違反の疑いがあれば通知する:約款所定の期限と方法に従い、保険会社へ連絡します。

保険会社は、取引規模や性質に応じた合理的なDDが実施されていることを前提に審査します。DDが行われていない分野だけでなく、調査が不十分な分野も補償から除外される可能性があります。

加入前に確認すべき注意点

情報開示を省略しない

問題を開示すると不利になると考え、資料や事実を伏せることは避けるべきです。適切な開示は、表明保証の対象外となる事項を明確にし、成約後の紛争を防ぐためにも重要です。

売買契約と保険契約を照合する

売買契約では補償対象でも、保険契約では除外されている場合があります。保険の免責金額、支払限度額、補償期間、通知期限を確認し、補償されない部分を誰が負担するかまで決めます。

「既知」と判断される人の範囲を確認する

誰が問題を知っていた場合に既知事項と扱われるかは、保険契約の定義によって異なります。買い手の役員、担当者、DD担当者など、知識を帰属させる対象者の範囲を確認します。

問題を認識したら早めに通知する

表明保証違反の疑いが生じたときは、損害額が確定する前でも通知が必要な場合があります。行政から照会や指導を受けた場合も、約款や保険会社の案内に従って早めに対応します。

表明保証保険を検討するためのチェックリスト

  • 売り手が成約後に負担できる責任上限と期間を決めているか
  • 買い手が必要とする補償額を把握しているか
  • 既知の問題と未発見の偶発リスクを分けているか
  • 合理的な範囲のDDと資料開示を実施できるか
  • 保険料、免責金額、専門家費用を含めて比較したか
  • 保険審査に必要な期間をスケジュールへ組み込んだか
  • 報酬請求や指定基準など、業界特有の論点を確認したか

まとめ|表明保証保険は契約とDDを補完する選択肢

表明保証保険とは、M&Aの表明保証違反による経済的損失を、保険契約の範囲内で補償する保険です。売り手の売却後リスクと買い手の回収リスクを軽減し、補償条件の交渉を進めやすくする可能性があります。

一方、既知の問題や開示済み事項などは対象外になりやすく、保険はDDや正確な情報開示の代わりにはなりません。特に介護・医療・障がい福祉・歯科では、報酬請求、指定、人員基準、労務などを事前に整理し、売買契約と保険契約を一体で検討する必要があります。

M&A承継サポートは、介護・医療・障がい分野に特化し、M&A成約100件以上の実績を持つメンバーが支援します。着手金・中間金無料の完全成功報酬制で、成約まで原則費用はかかりません。まずは無料相談・無料簡易査定で、自社の相場感と売却前に整理すべきリスクをご確認ください。

表明保証保険に関するよくある質問

表明保証保険は売り手と買い手のどちらが加入しますか?

買主用と売主用があります。誰が契約し、保険料を負担するかは、保険商品や売り手・買い手間の交渉条件によって異なります。

小規模な中小M&Aでも利用できますか?

中小M&A向け商品の公表例はあります。ただし、現在の取扱状況、対象となる取引、保険料、補償範囲は保険会社ごとに異なるため、個別の確認が必要です。

赤字企業でも加入できますか?

赤字であることだけで一律に決まるものではありません。問題の内容、情報開示、DDの結果、取引条件などを踏まえて審査されます。

すでに判明している問題も補償されますか?

保険契約前に認識していた問題や、DD・開示資料ですでに判明していた事項は、一般に対象外になりやすいと考えられます。価格調整や個別補償など、別の対応を検討します。

表明保証保険へ加入すればDDは不要ですか?

不要にはなりません。合理的なDDが実施されていない事項は、補償から除外される可能性があります。保険は、適切なDD後にも残る未知のリスクを補完するものです。

本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の税務・法務・行政手続き、保険加入に関する助言や特定の保険商品の推奨を行うものではありません。実際のM&Aや保険契約については、弁護士、税理士、公認会計士、保険会社、保険代理店などの専門家へご相談ください。

参考資料

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松本 圭祐
記事監修
取締役
松本 圭祐
新卒で楽天株式会社に入社し、その後合同会社DMM.comに転職。オンライン英会話サービスの「DMM英会話」の立ち上げを担当し、3年で業界最大手となる。
日本チームのマネージャーを務めた他、新規事業や法人営業なども管掌。その後ヘルスケア・福祉関連の事業を行う上場企業に転職し、M&A支援事業の立ち上げ、グロース全般を担当。
今までにM&Aコンサルタントとして50件以上の案件を成約に導く。
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