就労移行支援をM&Aで売却するには?後継者不在・赤字事業の対処法や事例

目次
就労移行支援業界の現状と課題
就労移行支援業界は、障害者の社会参加と職業自立を支援する重要な社会インフラとして急速に発展しています。しかし、多くの事業者が後継者不在や赤字経営といった深刻な課題に直面しており、M&Aによる事業承継が注目されています。
就労移行支援業界M&A動向分析
※上図は2019-2024年の就労移行支援業界M&A取引価格、背景理由、年次推移を示しています
業界が直面する主要課題
- 後継者不在率52.1% – 全国平均を上回る深刻な状況
- 赤字経営の増加 – 利用者確保の困難による収益悪化
- 人材不足 – 専門知識を持つスタッフの確保が困難
- 制度変更への対応 – 報酬改定や法改正への適応コスト
M&A・売却の基本戦略
就労移行支援事業のM&Aは、単なる事業売却ではなく、社会的使命の継承という重要な側面を持ちます。成功するためには、適切な戦略と準備が不可欠です。
事業価値の客観的評価
まず自社の強みと課題を正確に把握することが重要です。
- 利用者数と就職実績の分析
- 財務状況の詳細な検証
- 人材・ノウハウの棚卸し
- 立地・設備の評価
売却目的の明確化
なぜM&Aを選択するのか、その目的を明確にしましょう。

買手企業の選定
適切な買手企業を見つけることが成功の鍵となります。
理想的な買手企業の特徴
- ✓ 同業界での実績と経験
- ✓ 財務的な安定性
- ✓ 企業文化の適合性
- ✓ 事業継続への意欲
想定される買手企業
- • 同業大手企業
- • 医療・福祉系企業
- • 投資ファンド
- • 新規参入企業
注意すべきポイント
就労移行支援事業は社会的責任を伴うため、単純な利益追求だけでなく、利用者の継続的な支援を重視する買手企業を選ぶことが重要です。
後継者不在問題の解決策
全国の52.1%の企業が後継者不在に悩む中、就労移行支援事業ではこの問題がより深刻化しています。M&Aは効果的な解決策の一つです。
後継者不在解決のアプローチ
解決策 | メリット | デメリット | 適用条件 |
---|---|---|---|
M&A・事業売却 | ・事業継続の確保 ・創業者利益の実現 ・利用者への影響最小化 | ・企業文化の変化 ・従業員の雇用不安 | 事業価値がある場合 |
従業員承継 | ・企業文化の継承 ・利用者との関係維持 | ・資金調達の困難 ・経営スキルの不足 | 優秀な従業員がいる場合 |
廃業 | ・経営負担からの解放 | ・利用者への深刻な影響 ・雇用の喪失 ・社会的損失 | 他の選択肢がない場合 |
M&A成功のポイント
- 早期の準備開始 – 後継者問題が顕在化する前に検討を開始
- 事業の見える化 – 財務状況、運営体制、利用者情報の整理
- 従業員への配慮 – 雇用継続の保証と十分な説明
- 利用者への影響最小化 – サービス品質の維持と継続性の確保
赤字事業の立て直し方法
赤字経営の就労移行支援事業でも、適切な戦略でM&Aを成功させることが可能です。重要なのは赤字の原因分析と改善可能性の訴求です。
赤字原因の主要パターン
構造的要因
- • 利用者数の不足
- • 報酬単価の低さ
- • 立地条件の悪さ
- • 競合他社の増加
運営上の要因
- • 人件費の高騰
- • 非効率な運営体制
- • マーケティング不足
- • 専門スタッフの不足
赤字事業の価値向上策
短期施策
- • コスト削減の徹底
- • 利用者獲得の強化
- • 運営効率の改善
- • 不採算サービスの見直し
中期施策
- • プログラム内容の充実
- • 就職実績の向上
- • 地域連携の強化
- • スタッフ教育の実施
売却準備
- • 改善計画の策定
- • 将来性の訴求
- • 買手企業との相乗効果
- • 適正価格の設定
タイミングが重要
赤字が深刻化する前に、早期にM&Aを検討することが重要です。債務超過に陥ると、売却価格が大幅に下がる可能性があります。
成功事例とポイント分析
就労移行支援業界M&A取引価格分布
事例1: manaby × スタンディ(2,000万円)
取引概要
- 譲受企業: 株式会社manaby
- 譲渡企業: スタンディ株式会社
- 取引価格: 2,000万円
- 取引時期: 2023年3月
成功要因
- • 関東エリアでの事業拡大
- • 専門人材の獲得
- • ノウハウの相互活用
- • 適正価格での取引
ポイント: 対象事業は赤字(経常利益▲1,963万円)でしたが、将来性とシナジー効果を評価した戦略的買収の成功例です。
事例2: manaby × 奥洲物産運輸(6,000万円)
取引概要
- 譲受企業: 株式会社manaby
- 譲渡企業: 奥洲物産運輸株式会社
- 取引価格: 6,000万円
- 取引時期: 2022年10月
成功要因
- • 売上高1.2億円の規模
- • 有形固定資産の取得
- • 運営ノウハウの承継
- • 段階的な支払い条件
ポイント: 赤字事業(経常利益▲832万円)でも、売上規模と将来性を評価し、適切な価格での取引が成立しました。
事例3: ケア21 × かがやく学び舎(500万円)
取引概要
- 譲渡企業: 株式会社ケア21
- 譲受企業: 野口株式会社
- 取引価格: 500万円
- 取引時期: 2019年11月
特徴
- • 事業承継型の取引
- • 共同出資者への売却
- • 損失拡大の抑制
- • 事業継続の確保
ポイント: 2期連続で大幅赤字の事業でしたが、共同出資者への売却により事業継続を実現し、損失拡大を防いだ事例です。
成功事例から学ぶポイント
- 1. 赤字事業でも売却可能 – 将来性やシナジー効果があれば価値は認められる
- 2. 適切な価格設定 – 事業規模と財務状況を考慮した現実的な価格設定
- 3. 買手企業との相性 – 事業戦略や企業文化の適合性が重要
- 4. 段階的な取引条件 – リスクを分散し、双方が納得できる条件設定
価格相場と評価のコツ
就労移行支援事業のM&A価格は、500万円〜6,000万円と幅広いレンジにあります。適正価格を設定するには、複数の評価手法を組み合わせることが重要です。
年次M&A取引件数推移
評価手法 | 計算方法 | メリット | 注意点 |
---|---|---|---|
収益還元法 | 将来キャッシュフロー ÷ 割引率 | 将来性を反映 成長性の評価 | 予測の不確実性 割引率の設定 |
市場比較法 | 類似企業の取引倍率 × 財務指標 | 市場実勢の反映 客観性の確保 | 類似企業の少なさ 事業規模の違い |
純資産法 | 総資産 – 負債 | 計算の簡便性 最低価格の目安 | 営業価値の未反映 のれんの評価困難 |
価格設定のポイント
価格を上げる要因
- • 高い就職実績
- • 安定した利用者数
- • 優秀な専門スタッフ
- • 良好な立地条件
- • 独自のプログラム
価格を下げる要因
- • 継続的な赤字
- • 利用者数の減少
- • 競合他社の増加
- • 設備の老朽化
- • 法的リスク
価格交渉の進め方
- 複数の評価手法で算定 – 収益還元法、市場比較法、純資産法を組み合わせ
- レンジでの提示 – 最低価格と希望価格の幅を設定
- 条件の調整 – 価格以外の条件(支払い方法、雇用継続等)も含めて交渉
- 第三者評価の活用 – 専門家による客観的な評価を取得
専門家との連携方法
就労移行支援事業のM&Aは、法的・税務的・財務的な専門知識が必要な複雑な取引です。適切な専門家チームを組成することが成功の鍵となります。
M&Aアドバイザー
取引全体の統括と戦略立案
- • 事業評価と価格算定
- • 買手企業の選定
- • 交渉戦略の策定
- • 取引条件の調整
弁護士
法的リスクの評価と契約書作成
- • 法的デューデリジェンス
- • 契約書の作成・チェック
- • 法的リスクの評価
- • 許認可の承継手続き
税理士・会計士
財務・税務面のサポート
- • 財務デューデリジェンス
- • 税務リスクの評価
- • 最適な取引スキーム
- • 税務申告のサポート
専門家選定のポイント
選定基準
- • 障害者福祉業界の経験
- • M&A取引の実績
- • 中小企業への理解
- • 報酬体系の透明性
- • コミュニケーション能力
費用の目安
- • M&Aアドバイザー: 成功報酬型
- • 弁護士: 100-300万円
- • 税理士・会計士: 50-150万円
- • 合計: 取引価格の5-10%
M&A総合研究所のサポート
就労移行支援事業のM&Aでお困りの方は、ぜひM&A総合研究所にご相談ください。
サービス特徴
- • 障害者福祉業界の専門知識
- • 豊富なM&A実績
- • 完全成功報酬制
- • 平均7.0ヶ月のスピード成約
サポート内容
- • 事業評価・価格算定
- • 買手企業の選定・紹介
- • 交渉・条件調整
- • 契約締結までの総合支援
今後の市場展望
就労移行支援業界は、年平均成長率29.2%で拡大を続けており、今後も持続的な成長が期待されます。M&A市場も更なる活性化が予想されます。
市場成長の推進要因
政策・制度面
- • 障害者雇用促進法の強化
- • 法定雇用率の段階的引き上げ
- • 就労移行支援報酬の見直し
- • デジタル化支援の推進
社会・経済面
- • ESG経営の普及
- • 多様性・包摂性の重視
- • 人材不足の深刻化
- • 社会的責任投資の拡大
M&A市場の展望
短期見通し
(2025-2026)
- • 年間20-25件の取引
- • 大手企業の参入加速
- • 価格水準の安定化
- • 地方市場での活性化
中期見通し
(2027-2029)
- • 業界再編の本格化
- • 技術革新による差別化
- • 国際展開の開始
- • 新サービスモデルの登場
長期見通し
(2030年以降)
- • 市場の成熟化
- • 質的競争の激化
- • 統合型サービスの主流化
- • 社会インフラとしての確立
新たなトレンド
テクノロジー活用
- • AI・機械学習の導入
- • VR・ARを活用した訓練
- • IoT機器による生活支援
- • データ分析による個別最適化
サービス多様化
- • 在宅就労支援の拡充
- • 企業内就労支援の提供
- • 生涯学習プログラムの開発
- • 家族支援サービスの強化
まとめ
成功への重要ポイント
- 1. 早期の準備開始 – 問題が深刻化する前に専門家に相談
- 2. 適切な価格設定 – 複数の評価手法を活用した現実的な価格設定
- 3. 買手企業の選定 – 事業継続と利用者支援を重視する企業の選択
- 4. 専門家との連携 – 業界知識を持つ専門家チームの組成
- 5. 社会的使命の継承 – 単なる事業売却ではなく、社会的価値の継承
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