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積極的な買収で事業拡大を目指すソラストのM&A事例と今後の展望予測

1. ソラストとは – 医療・介護・保育分野のリーディングカンパニー

株式会社ソラスト(東証プライム:6197)は、1965年の創業以来、日本初の医療事務教育機関として出発し、現在では医療関連受託事業、介護事業、こども事業を柱とする総合ヘルスケアサービス企業として成長を遂げています。

ソラスト セグメント別売上高構成(2024年度)

図1:ソラスト セグメント別売上高構成(2024年度)

事業セグメント別概要(2024年度実績)

  • 医療関連受託事業:売上高70,981百万円(構成比51.6%)
  • 介護事業:売上高55,337百万円(構成比40.3%)
  • こども事業:売上高10,836百万円(構成比7.9%)

同社は「安心して暮らせる地域社会」の実現を目指し、地域包括ケアシステムの構築に向けた「地域トータルケア」戦略を推進。この戦略実現の手段として、積極的なM&A(合併・買収)を展開してきました。

創業60年を迎える2025年現在、全国732ヶ所の事業所を展開し、約30,000人の従業員を擁する業界屈指の規模を誇っています。

2. ソラストのM&A戦略の変遷 – 「拡大」から「拡充」へ

従来のM&A戦略:規模拡大重視

ソラストのM&A戦略は、2014年のカーライル・グループによる買収を契機に本格化しました。それまでの自社開設中心の成長から、買収による規模拡大へと戦略を大きく転換。特に介護事業領域での積極的な買収により、事業所数と売上高の急速な拡大を実現してきました。

ソラストのM&A投資額推移(2020年3月期~2025年3月期)

図2:ソラストのM&A投資額推移(2020年3月期~2025年3月期)

過去6年間のM&A投資額推移

  • 2020年3月期:4,213百万円
  • 2021年3月期:3,300百万円
  • 2022年3月期:7,151百万円(過去最高)
  • 2023年3月期:172百万円
  • 2024年3月期:1,324百万円

2022年3月期の71億円という大規模投資により、売上高は前年比86,490百万円から135,037百万円へと約56%の大幅増収を達成しました。

戦略転換:新経営陣による「拡充」路線

2024年4月に野田亨氏が新社長に就任し、M&A戦略に大きな変化が生まれています。従来の「拡大」重視から、質を重視した「拡充」へと方針を転換。新規開設と厳選されたM&Aのバランスを重視する方針を打ち出しました。

この戦略転換の背景には、過去の積極的買収により一定の規模を確保できた一方で、統合による効率化やサービス品質向上の重要性が高まったことがあります。

3. 近年の主要M&A事例詳細分析

2023年の大型M&A:6件85事業所を取得

2023年はソラストにとって特に活発なM&A活動の年となりました。年間6件のM&Aを実行し、85ヶ所の新規事業所を獲得しています。

ケース1:ポシブル医科学株式会社の買収

概要

  • 買収時期:2023年7月
  • 事業内容:リハビリ型通所介護(デイサービス)
  • 事業所数:57事業所(うち24事業所はフランチャイズ)
  • 展開エリア:関西圏中心

戦略的意義
JR西日本グループの一員だったポシブル医科学は、「積極的自立支援」をコンセプトとした科学的根拠に基づくリハビリサービスを提供。要介護度が比較的軽い利用者向けのサービス強化により、ソラストの「地域トータルケア」戦略の幅を広げました。

ケース2:メディカルライフケアの買収

概要

  • 買収時期:2023年7月
  • 事業内容:通所介護、グループホーム等
  • 事業所数:19ヶ所
  • 展開エリア:神奈川県・埼玉県

戦略的意義
「医療、看護、介護との連携」と「地域との連携」を理念とする同社の買収により、首都圏における地域密着型サービスの基盤を強化。子ども食堂や認知症カフェなど、地域交流活動のノウハウも獲得しました。

ケース3:総合ケアネットワークの買収

概要

  • 買収時期:2023年6月
  • 取得価額:1億3,000万円
  • 展開エリア:福岡県

戦略的意義
九州地方における事業基盤確立の足がかりとして重要な意味を持つ買収。地方展開の加速化を図る戦略の一環として位置づけられています。

2024年の組織統合:こころケアプランの吸収合併

2024年4月1日、完全子会社の株式会社こころケアプランを吸収合併しました。同社は東京都内中心に認可保育所17園を運営する保育事業者で、2022年の子会社化を経て統合に至りました。

この統合により、保育事業の経営効率化と運営基盤の強化を実現。ソラストグループとしての一体的なサービス提供体制を構築しています。

4. 業績に見るM&A効果と統合シナジー

売上高・営業利益の推移分析

ソラストの売上高・営業利益推移(2020年3月期~2025年3月期)

図3:ソラストの売上高・営業利益推移(2020年3月期~2025年3月期)

6年間の業績推移

  • 2020年3月期:売上高69,636百万円、営業利益2,927百万円
  • 2021年3月期:売上高75,948百万円、営業利益3,864百万円
  • 2022年3月期:売上高86,490百万円、営業利益4,320百万円
  • 2023年3月期:売上高135,037百万円、営業利益5,517百万円
  • 2024年3月期:売上高134,985百万円、営業利益5,518百万円
  • 2025年3月期:売上高137,435百万円、営業利益7,017百万円

2023年3月期の売上高大幅増加(前年比56%増)は、主に前年度の大型M&Aによる効果です。日本エルダリーケアサービス(2020年買収)の通年寄与や、その他買収企業の統合効果が業績に大きく貢献しました。

セグメント別M&A効果

介護事業の成長

  • 2024年度売上高:55,337百万円(前年比2.7%増)
  • 2024年度営業利益:2,218百万円(前年比49.6%増)

介護事業では、買収企業の統合シナジーが顕著に現れています。特に2024年度は、ポシブル医科学等の買収企業による業績貢献に加え、コロナ禍からの回復効果、事業所統廃合による効率化効果により大幅増益を達成しました。

M&A投資収益性の向上
2021年3月期に設定したM&A案件の業績貢献目標42億円に対し、実際の貢献額は53億円となり、目標を上回る成果を実現。投資効率の高いM&A戦略の有効性を証明しています。

5. 新経営体制下での戦略転換

野田新社長の経営方針

2024年4月に就任した野田亨社長(筑波大学大学院ビジネス科学研究科教授も兼任)は、これまでのM&A中心の「拡大」戦略から、質を重視した「拡充」戦略への転換を表明しています。

新戦略の3つの柱

  1. 厳選されたM&A:投資効率と統合シナジーを重視した慎重な案件選定
  2. 新規開設の強化:自社での事業所開設による安定成長
  3. 統合効率化の推進:既存事業所の収益性向上と運営効率化

中期経営計画(FY2025-2029)の方向性

新経営陣は、創業60年の節目を迎えて新たな中期経営計画を策定。「規模の拡大のみを追わず、環境変化に俊敏に対応し、進化し続ける」ことを基本方針として掲げています。

重点戦略項目

  • 人財育成とデジタル化推進による生産性向上
  • ESG経営の強化とサステナビリティ重視
  • 地域包括ケアシステムへの貢献拡大

6. 介護業界全体のM&Aトレンドと市場環境

介護業界の市場規模拡大

日本の介護業界は継続的な成長を遂げており、市場規模は2021年度に約11兆円に達しています。高齢者人口の増加に伴い、2030年度には更なる市場拡大が予想されています。

市場成長の背景

  • 75歳以上人口の急増(2025年問題)
  • 要介護認定者数の増加(前年比1.6%増)
  • 介護サービス利用率の向上

業界全体のM&A動向

2024年のM&A市場特徴

  • 大型案件は減少傾向
  • 地方での承継ニーズ増加
  • 中小規模事業者の統合加速

特に注目すべきは、2023年の日本生命保険によるニチイホールディングス買収(約2,100億円)など、異業種からの大型参入が業界再編を加速させていることです。

2024年介護報酬改定の影響

2024年の介護報酬改定では大規模事業者優遇の方向性が示され、規模拡大による競争力強化の重要性が高まっています。これにより、M&Aを通じた規模拡大戦略の重要性が一層増しています。

7. 今後の展望と予測

ソラストの成長戦略予測

短期戦略(2025-2027年)
新社長の「拡充」方針に基づき、大型M&Aは控えめとなる一方で、以下の施策が予想されます:

  1. 既存事業所の収益性向上:統合シナジーの最大化
  2. 新規開設の加速:自社開発による着実な成長
  3. デジタル化推進:業務効率化とサービス品質向上

中長期戦略(2028年以降)
市場環境の変化に応じて、再びM&A戦略が活発化する可能性があります:

  1. 地域密着型サービスの強化:地方展開の加速
  2. 新サービス領域への進出:医療DX、介護テクノロジー分野
  3. 海外展開の検討:アジア諸国でのサービス輸出

業界全体の変化予測

2025年以降の市場動向

  • 人材不足の深刻化:年間5万人規模の不足継続
  • テクノロジー活用の加速:AIやIoTの本格導入
  • サービス多様化:個別ニーズに対応した高付加価値サービス

M&A市場の今後

  • 中小事業者の承継ニーズ拡大
  • 異業種参入の継続
  • 地域統合の進展

投資家向け展望

財務予測
2025年度業績予想では、売上高139,450百万円(1.5%増)、営業利益6,000百万円(14.5%減)と予想されており、M&A投資抑制による一時的な利益減少が見込まれています。

しかし、中長期的には統合効果による収益性向上と、新規開設による安定成長により、持続的な成長が期待されます。

株価材料

  • 配当利回り5.30%の高配当株として注目
  • ESG経営強化による企業価値向上
  • 大東建託との資本業務提携効果

8. まとめ

ソラストのM&A戦略は、創業60年の歴史の中で特に2014年以降に本格化し、積極的な買収により業界トップクラスの規模を実現してきました。2023年には年間6件のM&Aを実行し、「地域トータルケア」戦略の基盤を大幅に拡充しています。

2024年の新経営体制下では、「拡大」から「拡充」への戦略転換により、質を重視した成長へとシフト。短期的にはM&A投資が抑制される一方で、既存事業の収益性向上と新規開設による安定成長を目指しています。

日本の介護業界は2025年問題を控え、市場規模の継続的拡大が予想される中、ソラストは業界のリーディングカンパニーとして、M&Aと自社開発のバランスを取りながら持続的成長を追求していくものと予測されます。

投資家にとっては、高い配当利回りと安定した事業基盤を背景に、中長期的な成長が期待できる銘柄として注目に値するでしょう。特に高齢化社会の進展という確実な成長ドライバーを背景とした事業展開は、今後も堅調な業績成長をもたらすと考えられます。