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【介護、障がい、歯科医院のM&A】売却後も運営支援に関わることはできる?

目次

近年、介護、障がい福祉、歯科医院の業界では、事業承継や規模拡大を目的としたM&A(Mergers and Acquisitions:合併と買収)が活発になっています。長年培ってきた大切な事業を手放す決断は、経営者にとって非常に大きなものです。その際、「売却後もこれまで築き上げてきた事業や、大切な従業員たちのために何かできることはないだろうか?」という疑問や、運営への関与を希望される方も少なくありません。

本記事では、介護、障がい福祉、歯科医院のM&Aにおいて、売却後も運営支援に関わるという選択肢について、その可能性、具体的な方法、メリット・デメリット、そして注意点などを詳しく解説します。M&Aを検討されている経営者の方々にとって、より納得のいく決断をするための一助となれば幸いです。

1. M&Aにおける「売却後も運営支援に関わる」という選択肢

M&Aは、単に事業を譲渡するだけでなく、その後の事業の成長や安定的な運営を見据えた上で進められることが重要です。特に、地域に根ざした介護施設、障がい福祉サービス事業所、歯科医院などは、長年の信頼関係や地域社会との連携が不可欠であり、経営者が変わることでそのバランスが崩れてしまう懸念もあります。

このような背景から、M&Aの交渉においては、「売却後も一定期間、運営支援という形で事業に関わる」という選択肢が検討されることがあります。これは、売り手側にとっては事業への愛着や従業員の雇用維持、地域医療への貢献意識などを満たす手段となり得ます。一方、買い手側にとっては、スムーズな事業承継、既存のノウハウの継承、従業員のモチベーション維持といったメリットが期待できます。

運営支援の形態は多岐にわたります。主なものとしては、以下のようなものが挙げられます。

  • 顧問契約: 一定期間、経営や運営に関するアドバイスを提供する形式です。
  • 業務委託契約: 特定の業務(例:専門的な技術指導、地域連携のサポートなど)を委託する形式です。
  • アドバイザーとしての関与: 定期的な会議への参加や、必要に応じた意見交換を行う形式です。
  • 非常勤としての役職: 一定の役職に就き、経営に関与する形式です。

どの形態を選択するかは、売り手と買い手の意向、事業の特性、M&Aの目的などによって異なります。

2. 運営支援に関わることのメリット・デメリット(売り手側)

売却後も運営支援に関わることは、売り手側にとって様々なメリットとデメリットをもたらします。

2.1. メリット

  • 従業員の不安軽減と離職防止: 長年共に働いてきた従業員にとって、経営者の交代は大きな不安要素です。売却後も一定期間関わることで、従業員に安心感を与え、離職を防ぐ効果が期待できます。
  • 事業の安定的な移行への貢献: 新しい経営体制への移行期間において、これまでの経験や知識を活かすことで、事業の混乱を最小限に抑え、スムーズな承継に貢献できます。
  • 地域社会との関係維持: 地域に根ざした事業の場合、経営者の交代が地域社会との関係性に影響を与える可能性があります。売却後も関わることで、これまで築いてきた信頼関係を維持し、地域社会との連携をサポートできます。
  • 売却後の収入源の確保(顧問料など): 顧問契約や業務委託契約を結ぶことで、売却代金とは別に、一定の収入を得ることができます。
  • 自身の経験や知識の活用: 長年培ってきた経験や専門知識を、後継者の育成や事業の発展に役立てることができます。自身の知識や経験が、新しい体制においても価値を発揮することは、大きなやりがいにつながります。
  • 精神的な充足感: 大切に育ててきた事業が、自分の手を離れた後も成長していく様子を見守ることは、精神的な充足感につながります。また、従業員や地域社会への貢献を続けることができます。

2.2. デメリット

  • 新たな経営方針との摩擦: 買い手側の新しい経営方針や運営方法と、自身の考え方や経験との間に摩擦が生じる可能性があります。
  • 責任の所在の曖昧さ: 経営権が買い手に移譲された後も運営に関わる場合、責任の所在が曖昧になり、意思決定の遅れや混乱を招く可能性があります。
  • 時間や労力の拘束: 運営支援の内容によっては、時間や労力が拘束され、自身の自由な時間を確保することが難しくなる場合があります。
  • 経営判断への影響力の低下: 最終的な経営判断は買い手側が行うため、自身の意見が必ずしも反映されるとは限りません。影響力の低下を感じ、ストレスにつながる可能性もあります。
  • 買い手側とのコミュニケーションの ポイント: 買い手側の経営陣とのコミュニケーションが円滑に進まない場合、運営支援がスムーズに行われず、双方にとって不利益となる可能性があります。

3. 運営支援に関わることのメリット・デメリット(買い手側)

買い手側にとっても、売り手側の運営支援は多くのメリットをもたらす一方で、いくつかの注意点も存在します。

3.1. メリット

  • スムーズな事業承継の実現: 売り手側の協力により、既存の運営ノウハウや業務フローをスムーズに引き継ぎ、事業の立ち上げや移行期間におけるリスクを軽減できます。
  • 既存の顧客や取引先の維持: 売り手側の地域社会における信頼や人脈を引き継ぐことで、既存の顧客や取引先との関係を維持し、事業の安定性を高めることができます。
  • 従業員のモチベーション維持と定着: 従業員は、慣れ親しんだ経営者が一定期間関わることで安心感を覚え、モチベーションを維持しやすくなります。これにより、キーパーソンの離職を防ぎ、組織の安定化を図ることができます。
  • 売り手側のノウハウや経験の活用: 長年の経験に基づいて培われた専門知識や運営ノウハウを直接学ぶことができ、事業の質向上や効率化に繋げることができます。
  • 地域社会からの信頼維持: 地域に深く根ざした事業の場合、売り手側の存在は地域社会からの信頼の証です。売却後も関わってもらうことで、その信頼を維持し、スムーズな事業運営に繋げることができます。
  • 予期せぬトラブルの回避: 過去の経験に基づいたアドバイスを受けることで、予期せぬトラブルを回避し、安定的な事業運営を行うことができます。

3.2. デメリット

  • 売り手側との意見対立のリスク: 経営方針や運営方法に関して、売り手側と意見が対立する可能性があります。
  • 経営の独立性の制約: 売り手側の意向を尊重する必要があるため、完全に自由な経営判断ができない場合があります。
  • コミュニケーションコストの増加: 売り手側との定期的な情報共有や意見交換が必要となり、コミュニケーションコストが増加する可能性があります。
  • 契約内容の複雑化: 運営支援の内容や期間、報酬などを明確にする必要があるため、契約内容が複雑になる場合があります。
  • 支援期間終了後の自立運営への不安: 売り手側の支援に依存しすぎると、支援期間終了後に自立した運営が困難になる可能性があります。

4. 運営支援に関わるための具体的なステップと注意点

売却後も運営支援に関わるためには、売り手と買い手の双方がしっかりと協議し、合意形成を図ることが重要です。以下に具体的なステップと注意点をまとめました。

4.1. ステップ

  1. M&A仲介会社への相談: M&Aの専門家である仲介会社に、運営支援の希望や条件を伝え、アドバイスを受けることが最初のステップです。仲介会社は、両者のニーズを調整し、円滑な交渉をサポートしてくれます。
  2. 買い手との交渉: 買い手側との交渉において、希望する支援内容(範囲、期間、頻度など)、役割、報酬などを具体的に伝え、合意を目指します。曖昧な点は徹底的に話し合い、明確にしておくことが重要です。
  3. 契約書の作成: 合意に至った支援内容、責任範囲、報酬、期間などを明確に記載した契約書を作成します。法務の専門家(弁護士など)に確認を依頼し、法的なリスクを回避することが重要です。
  4. 運営支援の開始: 契約に基づき、運営支援を開始します。円滑なコミュニケーションを心がけ、協力体制を構築することが成功の鍵となります。定期的なミーティングや報告などを通じて、情報共有を図りましょう。
  5. 定期的な見直し: 運営支援の状況や効果を定期的に見直し、必要に応じて契約内容や支援方法を調整します。状況の変化に合わせて柔軟に対応することが、長期的な成功につながります。

4.2. 注意点

  • 支援の目的を明確にする: 売り手側は、何のために運営支援に関わりたいのか(金銭的報酬、事業承継の円滑化、従業員のサポートなど)、目的を明確にしておくことが重要です。
  • 買い手側の経営方針を尊重する姿勢を持つ: 経営権は買い手に移譲されていることを理解し、買い手側の経営方針を尊重する姿勢が求められます。自身の経験や意見を伝えることは重要ですが、最終的な決定は買い手側に委ねるべきです。
  • 責任の所在を明確にする: 運営支援における自身の役割と責任範囲を明確にし、買い手側と共通認識を持つことが重要です。曖昧な責任範囲は、後々のトラブルの原因となりかねません。
  • 支援期間を適切に設定する: 支援期間は、事業の特性や承継の状況に合わせて、現実的かつ適切な期間を設定することが重要です。期間が長すぎると買い手側の自立を妨げ、短すぎると十分なサポートができない可能性があります。
  • 秘密保持義務を遵守する: M&A交渉過程や運営支援を通じて知り得た機密情報は、契約期間中はもちろん、契約終了後も厳格に管理し、第三者に漏洩してはなりません。
  • 法務・税務の専門家のアドバイスを受ける: 契約書の作成や税務処理など、法務・税務に関する事項は、必ず専門家(弁護士、税理士など)に相談し、適切なアドバイスを受けるようにしましょう。

5. 【業界別】売却後の運営支援事例

実際に、介護、障がい福祉、歯科医院のM&Aにおいて、売却後の運営支援が行われている事例をご紹介します。

  • 介護事業: 長年地域に根ざした介護施設の施設長を務めてきたA氏は、M&A後も顧問として、運営ノウハウの提供や地域包括ケアシステムとの連携強化をサポートしています。これにより、買い手側はスムーズな運営体制を構築し、地域からの信頼も維持することができています。
  • 障がい福祉事業: 複数の障がい福祉サービス事業所を運営してきたB氏は、M&A後、買い手側の従業員向けに、障がい特性に応じた専門的な支援方法に関する研修講師として関わっています。これにより、サービスの質の維持・向上に貢献し、利用者の満足度を高めています。
  • 歯科医院: 地域で長年親しまれてきた歯科医院の院長C氏は、後継者となる若手歯科医師に医院を譲渡した後も、非常勤の歯科医師として診療を継続しています。自身の高度な治療技術を若い世代に伝えながら、患者さんとの信頼関係も維持しています。

これらの事例からもわかるように、売却後の運営支援は、事業の円滑な承継、従業員の安定、地域社会との良好な関係維持など、様々な面でプラスの効果をもたらす可能性があります。

6. まとめ

介護、障がい福祉、歯科医院のM&Aにおいて、売却後も運営支援に関わることは、決して珍しい選択肢ではありません。売り手側にとっては、長年培ってきた事業への想いや、従業員への配慮を示すことができ、買い手側にとっては、スムーズな事業承継や事業価値の向上に繋がる可能性があります。

しかし、運営支援を行う際には、双方の目的を明確にし、支援内容、期間、責任範囲などをしっかりと協議し、合意することが不可欠です。また、法務・税務の専門家のアドバイスを受けながら、慎重に契約を進めることが重要です。

M&Aは、事業の新たなスタートを切るための重要な決断です。売却後も運営支援という形で事業に関わることを検討されている方は、まずはM&Aの専門家である仲介会社に相談し、自身の希望や不安を共有することから始めてみてはいかがでしょうか。専門家のアドバイスを受けることで、より納得のいくM&Aを実現できるはずです。

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