社会福祉法人の事業譲渡|障害福祉の留意点
社会福祉法人が運営する障害福祉事業は、一定の条件のもとで事業譲渡を検討できます。ただし、株式会社の株式譲渡とは異なり、所轄庁による定款変更認可や基本財産処分の承認、障害福祉サービスの新規指定、補助財産、社会福祉法人会計への対応が必要です。価格だけで判断せず、行政と早期に協議し、サービスを継続できる計画を組み立てることが重要です。
社会福祉法人による障害福祉事業の譲渡とは
社会福祉法人そのものを株式のように売却することはできない
社会福祉法人には、株式会社の株式に相当する持分や、利益の配当を受ける株主が存在しません。そのため、理事長や設立者が保有株式を買い手へ渡し、法人の所有権を売却するような株式譲渡は利用できません。
理事長や理事を交代する方法もありますが、これは法人内部の人事変更です。役員交代を事実上の経営権売買として扱い、法人財産を関係者へ不適切に移転すれば、公益性・非営利性や特別の利益供与の禁止との関係で問題になる可能性があります。
また、事業譲渡の対価を受け取るのは、対象事業や財産を保有する社会福祉法人です。理事長や設立者個人が売却代金を受け取る仕組みではありません。
特定の障害福祉事業を切り出す事業譲渡は検討できる
厚生労働省の「合併・事業譲渡等マニュアル(令和8年3月31日改訂版)」では、社会福祉法に事業譲渡を直接定めた規定はないものの、取引行為の一類型として実施可能と解釈されています。
一方、社会福祉法人は社会福祉事業を行う目的で設立されるため、法人が実施する社会福祉事業の全部を譲渡することはできないと考えられています。一部事業の譲渡を検討する際も、譲渡後に法人へ残る事業と定款目的を確認しなければなりません。
譲渡対象は土地や建物だけではありません。設備、車両、利用者との契約、職員、取引先との契約、運営上のノウハウ、借入金などから、引き継ぐ範囲を個別に決めます。
たとえば、生活介護と共同生活援助を運営する法人が、共同生活援助だけを他法人へ譲渡する場合、建物、備品、利用契約、職員、敷金、借入金などを一つずつ整理します。
譲受法人が対象事業を運営できるか確認する
買い手候補が見つかっても、その法人が対象事業を運営できなければ、事業譲渡は実行できません。
社会福祉事業には第1種と第2種があり、第1種社会福祉事業は、原則として国、地方公共団体または社会福祉法人が経営主体となります。障害分野では、障害者支援施設や障害児入所施設などが第1種に含まれます。社会福祉法人以外の者が経営できる例外もありますが、所定の許可などが必要です。
生活介護、就労継続支援、共同生活援助、放課後等デイサービスなど、対象サービスによって根拠法令、指定権者、譲受法人に求められる要件が異なります。交渉を本格化させる前に、事業所管行政庁へ法人格と指定取得の可否を確認する必要があります。
事業譲渡・合併・役員交代の違い
| 手法 | 主な特徴 | 職員・契約の扱い | 主な検討場面 |
|---|---|---|---|
| 事業譲渡 | 選定した事業、資産、負債などを個別に移す | 原則として個別の承諾や契約手続きが必要 | 一部事業を切り離して承継したい場合 |
| 合併 | 法人の権利義務を包括的に承継する | 消滅法人の権利義務を存続法人等が承継 | 社会福祉法人同士で法人全体を統合する場合 |
| 役員・理事長交代 | 法人格を維持したまま役員構成を変更する | 契約主体は原則として変わらない | 法人を残して後継体制を構築する場合 |
事業譲渡は対象を選べる一方、財産や契約を個別に移す必要があります。合併は包括承継が可能ですが、社会福祉法上の合併は社会福祉法人間に限られ、法人全体の統合を伴います。
社会福祉法人が障害福祉事業を譲渡する際の7つの留意点
1.所轄庁と指定権者へ早期に相談する
社会福祉法人の事業譲渡では、法人運営を監督する所轄庁と、障害福祉サービスを所管する指定権者の双方との調整が必要です。
| 確認事項 | 主な相談先 |
|---|---|
| 定款変更・基本財産 | 社会福祉法人の所轄庁 |
| 事業所の廃止・新規指定・加算 | 障害福祉サービスの指定権者 |
| 補助財産の処分 | 補助金交付窓口 |
| 借入金・抵当権 | 福祉医療機構・金融機関 |
必要書類、事前相談、標準処理期間などの運用は、所轄庁や指定権者によって異なります。候補先との最終契約前に、想定する譲渡方法と実行時期を行政へ相談することが重要です。
2.定款変更と基本財産処分の手続きを確認する
事業の廃止や追加に伴う定款変更は、原則として評議員会の決議と所轄庁の認可が必要です。
譲渡対象に、定款へ基本財産として記載された土地・建物などを含める場合は、法人の定款に従って理事会・評議員会の承認を得たうえで、原則として所轄庁の承認を受けます。
譲渡側が事業と基本財産を削除し、譲受側が追加する場合は、双方の手続きが関連します。議事録、財産目録、不動産評価書、事業譲渡契約書、事業計画書、収支予算書などを早めに準備しましょう。
3.補助金で取得した財産を洗い出す
国や自治体の補助金で取得・整備した土地、建物、設備を処分する場合、基本財産処分とは別に、補助金上の財産処分手続きが必要になることがあります。
承認、報告、国庫納付などの要否は、補助制度、経過年数、有償・無償の別、譲渡後の用途によって異なります。交付決定通知書、確定通知書、施設整備時の図面、補助対象面積、国庫補助金等特別積立金の明細を照合し、補助金交付窓口へ確認します。
「補助金を返還しないために無償譲渡する」といった理由だけで対価を決めるのは適切ではありません。補助金上の取扱いと、事業価値の評価を分けて検討する必要があります。
4.障害福祉サービスの新規指定を譲渡日に間に合わせる
運営法人が変わる事業譲渡では、譲渡側が廃止手続きを行い、譲受側が新規申請・指定を受ける必要があります。指定日と譲渡実行日がずれると、サービス提供や給付費請求に空白が生じるおそれがあります。
厚生労働省・こども家庭庁の令和6年6月21日事務連絡では、職員などに変更がなく、指定権者が譲渡前後で実質的に継続運営されると認めた場合、変更部分を中心とした申請書類で足りる取扱いが示されています。
この場合も、新規指定そのものが不要になるわけではありません。過去実績に基づく基本報酬、加算・減算の実績通算についても、該当要件と取扱いを指定権者へ確認します。
5.譲渡価格の合理性と説明可能性を確保する
社会福祉法人の財産には公益性・非営利性が求められます。関係者へ不当に安い価格で財産を譲渡するなど、法人の財産を実質的に外部へ流出させる取引は避けなければなりません。
事業価値は、不動産や設備の時価だけでは決まりません。引き継ぐ負債、将来収支、修繕計画、人員確保、利用状況、指定・加算の継続可能性などを含めて検討します。
一つの評価方法で自動的に正解が出るものではないため、評価資料、専門家の意見、相手先の選定理由、理事会・評議員会での検討過程を残し、価格の合理性を説明できる状態にすることが重要です。
6.社会福祉法人会計上の処理を確認する
譲渡価格の検討前に、どの拠点区分・サービス区分の資産と負債を移すのかを明確にします。
- 土地、建物、設備、車両などの固定資産
- 現預金、未収金、未払金
- 福祉医療機構や金融機関からの借入金
- 国庫補助金等特別積立金
- 退職給付引当金や賞与引当金
- 社会福祉充実計画と社会福祉充実残額
- 給付費返還や未払残業代などの潜在的な負担
厚生労働省のマニュアルでは、譲受側は譲受資産・負債について、結合時の公正な評価額に基づく受入処理を行う考え方が示されています。帳簿価額と時価に差がある不動産や、引当金の計上不足がある場合は、査定と譲渡後の会計に影響します。
7.職員・利用者との契約は自動承継とは限らない
事業譲渡は合併のような包括承継ではないため、職員の雇用契約は当然には買い手へ移りません。転籍する職員本人の承諾が必要であり、労働条件を変更する場合は、その変更についても同意を得ます。
利用者との契約も原則として自動承継ではありません。利用者や家族へ、譲渡の目的、運営法人、サービス内容、料金、担当職員の変更などを説明し、個別承諾や再契約の要否を確認します。
説明が早過ぎれば、交渉成立前に不安や離職を招く可能性があります。一方、実行直前では十分な検討時間を確保できません。秘密保持に配慮しながら、基本合意、行政協議、最終契約などの節目に合わせて説明計画を作成します。
社会福祉法人の事業譲渡では、所轄庁、指定権者、基本財産、補助金、社会福祉法人会計を並行して確認する必要があります。M&A承継サポートでは、介護・医療・障がい分野に特化し、秘密厳守で無料相談・無料簡易査定を受け付けています。「譲渡できる事業か確認したい」という初期段階からご相談いただけます。
社会福祉法人の障害福祉事業を譲渡する流れ
- 譲渡目的と対象事業を整理する:法人に残す事業と譲渡する事業を区分します。
- 行政へ事前相談する:所轄庁と指定権者へ、譲渡方法、買い手の法人格、希望時期を相談します。
- 資料を整理して査定する:計算書類、財産、指定、人員、補助金に関する資料を準備します。
- 買い手候補を探す:秘密保持契約を締結し、必要な情報を段階的に開示します。
- 基本合意と調査を行う:財務、法務、労務、指定、給付費請求などを確認します。
- 条件を確定する:譲渡対象、価格、前提条件、引継ぎ方法を契約書へ反映します。
- 法人内決議と行政手続きを行う:理事会・評議員会の決議、定款変更、財産処分、廃止・新規指定を進めます。
- 関係者へ説明して譲渡を実行する:職員・利用者の承諾や契約手続きを行い、指定日に合わせて引き渡します。
行政手続き、契約交渉、財産整理、職員・利用者対応は、実務上並行して進みます。希望日だけで実行日を決めず、指定や認可に必要な期間を確認して工程表を作成しましょう。
売却準備で整理しておきたい資料
法人・行政手続きの資料
- 定款、登記事項証明書、役員・評議員名簿
- 理事会・評議員会議事録
- 指定通知書、変更届、加算届
- 運営指導・監査の結果と改善報告
- 補助金の交付決定通知書・確定通知書
会計・財産の資料
- 過年度の計算書類、附属明細書、財産目録
- 拠点区分・サービス区分別の収支
- 固定資産台帳、不動産登記事項証明書
- 借入金、担保、リース契約の一覧
- 国庫補助金等特別積立金と退職給付の資料
障害福祉事業の運営資料
- 利用者数、定員、稼働状況
- 職員配置、資格、勤続年数、雇用条件
- 基本報酬・加算・減算の算定根拠
- 給付費の返還・過誤調整の履歴
- 事故、苦情、虐待防止、身体拘束適正化の記録
- 賃貸借、業務委託、車両、システムなどの契約
資料に不足や問題があるからといって、直ちに譲渡できなくなるわけではありません。未整備の事項を早期に把握し、改善状況と残るリスクを買い手へ説明できるようにすることが重要です。
障害福祉事業の譲渡価格を考えるポイント
社会福祉法人の事業譲渡では、売上や利益へ一律の倍率を掛けるだけで事業価値を判断することは困難です。不動産、設備、借入金、将来の修繕費、人員配置、稼働状況、加算の継続可能性、給付費返還リスクなどを総合的に確認します。
土地・建物を譲渡せず賃貸する、車両だけを譲渡する、借入金は譲渡法人に残すなど、移転範囲によって対価も変わります。「事業の評価」と「実際に移転する財産・負債」を対応させることが必要です。
仲介会社を利用する場合は、理事会等で利用の必要性、選定理由、業務内容、手数料の算定方法と金額の妥当性も確認します。
譲渡を円滑に進めるための注意点
- 行政相談前に譲渡日や手法を確定しない
- 価格だけでなく、買い手の運営能力と支援方針を確認する
- 譲渡する財産、負債、契約を一覧化する
- 給付費請求や人員基準の問題を隠さず整理する
- 職員・利用者への説明時期と担当者を決める
- 譲渡後の支援体制と引継ぎ期間を契約へ反映する
管理者、サービス管理責任者、児童発達支援管理責任者などの退職は、指定基準や加算へ影響する場合があります。交渉中も必要な人員体制を維持し、譲渡後の配置まで確認しましょう。
社会福祉法人の事業譲渡は早期の準備が重要
社会福祉法人が運営する障害福祉事業の譲渡では、定款、基本財産、補助金、障害福祉サービスの指定、社会福祉法人会計を同時に確認する必要があります。職員や利用者との契約も、事業譲渡だけで自動的に移るわけではありません。
価格交渉を急ぐ前に、買い手が対象事業を運営できるか、指定とサービスを切れ目なくつなげられるかを確認することが重要です。廃業を決める前に事業譲渡の可能性を検討することで、利用者への支援や職員の雇用を継続できる場合があります。
M&A承継サポートは、介護・医療・障がい分野に特化し、M&A成約100件以上の実績を持つメンバーが対応します。着手金・中間金無料の完全成功報酬制で、成約まで原則費用はかかりません。2年以内に買収実績のある買い手200社以上のリストを活用し、赤字・廃業検討中のご相談にも対応しています。まずは無料相談・無料簡易査定で、譲渡可能性と相場感をご確認ください。
社会福祉法人の障害福祉事業譲渡に関するFAQ
社会福祉法人そのものを売却できますか?
社会福祉法人には株式や持分がないため、株式会社のような株式譲渡はできません。一部事業の事業譲渡、社会福祉法人同士の合併、適正な役員交代などを個別に検討します。
障害福祉事業の一部だけを譲渡できますか?
特定の事業を切り出す事業譲渡は検討できます。ただし、社会福祉法人が実施する社会福祉事業の全部譲渡はできないと考えられているため、譲渡後に残る事業と定款目的を所轄庁へ確認する必要があります。
株式会社へ障害福祉事業を譲渡できますか?
対象サービスによって異なります。特に第1種社会福祉事業は経営主体に制限があるため、買い手の法人格と事業継続の可否を事業所管行政庁へ確認してください。
障害福祉サービスの指定はそのまま引き継がれますか?
運営法人が変わる事業譲渡では、譲受法人による新規申請・指定が必要です。実質的に継続運営されると指定権者が認める場合には、提出書類の簡素化や過去実績の通算が行われます。
売却代金を理事長個人が受け取ることはできますか?
事業や財産の譲渡対価は、譲渡主体である社会福祉法人が受け取ります。理事長や設立者個人へ売却代金を帰属させることは、法人財産の不適切な流出や特別の利益供与との関係で問題になる可能性があります。
参考資料
- 厚生労働省「合併・事業譲渡」
- 厚生労働省「合併・事業譲渡等マニュアル(令和8年3月31日改訂版)」
- 厚生労働省・こども家庭庁「障害福祉サービス事業者等の吸収合併等に伴う事務の簡素化について」
- 厚生労働省「企業組織の再編に伴う労働契約の承継等について」
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の税務、法務、労務または行政手続きに関する助言ではありません。必要な手続きや運用は、法人の定款、事業種別、財産、地域、所轄庁・指定権者によって異なります。実際の事業譲渡では、関係行政機関および弁護士、公認会計士、税理士、社会保険労務士などの専門家へご確認ください。
まずはお気軽にお問い合わせください。

