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保育所等訪問支援のM&A|売却相場と注意点

保育所等訪問支援のM&A・売却では、売上や利益に加え、訪問支援員の専門性、保育所・学校等との連携、指定基準への適合状況が重要な評価ポイントになります。児童発達支援や放課後等デイサービスと併設する場合も、法人全体または一部事業の譲渡を検討できます。ただし、売却方法によって指定手続きや職員・利用者への対応は異なります。本記事では、保育所等訪問支援の売却価格の考え方、多機能型事業の譲渡方法、報酬改定や指定の注意点、売却までの流れを解説します。

保育所等訪問支援のM&Aとは?売却できる事業の特徴

保育所等訪問支援は、障害のあるこどもが保育所や学校などで集団生活を送れるよう、訪問支援員が施設を訪問し、本人への支援や施設職員への助言などを行う障害児通所支援です。

後継者不足や人材確保の難しさ、複数事業の管理負担などを理由に、経営者が第三者への事業承継を検討する場合があります。保育所等訪問支援は単独事業でもM&Aの対象となり得ますが、売却の可否や条件は収益、人員体制、買い手の方針などによって異なります。

保育所等訪問支援と児発・放デイの違い

保育所等訪問支援と児童発達支援(児発)、放課後等デイサービス(放デイ)は、支援する場所や運営の仕組みが異なります。

項目保育所等訪問支援児発・放デイ
主な支援場所保育所・学校等の訪問先施設主に指定事業所
支援の特徴集団生活への適応支援、訪問先職員への助言等発達支援、生活能力向上等
運営上の特徴訪問日程、移動、施設との調整利用定員、設備、送迎等の管理
M&Aの評価ポイント訪問実績、職員の専門性、連携体制利用状況、職員配置、設備、収益性

保育所等訪問支援では、こども本人だけでなく、保育所や学校の担当者と継続的に連携することが重要です。そのため、買い手は訪問実績だけでなく、担当職員が変わっても支援関係を維持できるかを確認します。

単独事業と児童系多機能事業の売却パターン

保育所等訪問支援のM&Aでは、主に次のような譲渡範囲が考えられます。

  • 保育所等訪問支援のみを運営する法人全体の譲渡
  • 児発・放デイなどを含む複数事業の一括譲渡
  • 保育所等訪問支援だけを切り出した事業譲渡
  • 特定の事業所やサービスを組み合わせた譲渡

注意したいのは、法令上の「多機能型事業所」と、同一法人が複数事業を併設するケースは必ずしも同じではないことです。

多機能型では、人員配置等に特例が認められる場合があります。一部事業を切り離すことで、残る事業の人員基準や収益性が変わる可能性があるため、譲渡対象を明確にしたうえで検討する必要があります。

保育所等訪問支援のM&A売却価格を左右する評価ポイント

保育所等訪問支援の売却価格について、すべての事業所に共通する一定の相場を示すことは困難です。

一般的なM&Aでは、利益や保有資産、将来の収益見込み、必要な追加投資などをもとに事業価値を検討します。保育所等訪問支援では、これらに加えて訪問型サービス特有の運営条件を確認する必要があります。

売上・利益・訪問実績から事業価値を確認する

まず確認したいのは、売上がどの程度安定しており、必要な経費を差し引いた後にどれだけ利益が残るかという点です。

  • 月別の訪問件数と利用児童数
  • 基本報酬・加算による売上の内訳
  • 訪問支援員の人件費と稼働時間
  • 移動時間・交通費・記録作成にかかる負担
  • 訪問先施設の分布と日程調整のしやすさ
  • 特定の利用者や職員への依存度

例えば、訪問件数が多くても、訪問先が広範囲に分散していれば移動負担が増え、利益が圧迫される場合があります。

一方、訪問先が一定の地域にまとまり、職員の稼働時間を効率的に管理できている事業は、買い手が譲渡後の収益を見積もりやすくなります。

児発・放デイと職員を兼務している場合には、共通の人件費や事務費を合理的に配賦し、保育所等訪問支援単独の損益を把握することが重要です。

訪問支援員の専門性と継続勤務の見込み

保育所等訪問支援では、訪問支援員の専門性がサービスの質を左右します。

こどもの発達や障害特性を理解し、訪問先の環境に応じて適切な支援や助言ができる人材は、買い手が運営継続を判断する際の重要な材料になります。

ただし、経験豊富な職員が在籍していても、売却後の退職が見込まれる場合は、買い手が追加採用や研修の費用を考慮する可能性があります。

経営者自身が訪問支援を担当している場合には、後任者の育成や一定期間の業務引継ぎを売却条件に含めることも考えられます。

訪問先との連携実績と支援品質

保育所等訪問支援では、保育所や学校との関係を継続できるかが重要です。

例えば、特定の職員だけが訪問先と連絡を取り、支援の経緯を把握している場合、その職員が退職すると支援継続が難しくなる可能性があります。

反対に、個別支援計画、訪問記録、ケース会議の内容、訪問先との連絡方法が整理されていれば、引継ぎの負担を軽減できます。

買い手が児発・放デイを運営している場合、保育所等訪問支援を加えることで地域の支援体制を広げられる可能性もあります。ただし、こうした相乗効果が実際の譲渡価格に反映されるかは、個別の交渉によって異なります。

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売却前に確認したい指定基準・報酬・運営上の注意点

保育所等訪問支援のM&Aでは、財務状況だけでなく、指定基準や報酬請求が適切かを確認することが重要です。

指定基準への不適合や報酬請求の誤りが見つかった場合、譲渡価格や契約条件に影響する可能性があります。

保育所等訪問支援の指定・人員基準

「児童福祉法に基づく指定通所支援の事業等の人員、設備及び運営に関する基準」(平成24年厚生労働省令第15号)第73条では、保育所等訪問支援の従業者について、次の配置が定められています。

  • 訪問支援員:事業規模に応じて訪問支援を行うために必要な数
  • 児童発達支援管理責任者:1人以上

児童発達支援管理責任者のうち1人以上は原則として当該事業所の職務に専ら従事する必要があります。管理者の兼務についても、同基準第74条で準用する規定などに注意が必要です。

多機能型事業所では兼務等に関する特例が設けられる場合がありますが、譲渡後も同じ配置を続けられるとは限りません。

売却前には、職員名簿、資格証明書、勤務形態一覧表、実際の勤務状況を確認し、譲渡後も人員基準を満たせるか整理しましょう。

参考:e-Gov法令検索「児童福祉法に基づく指定通所支援の事業等の人員、設備及び運営に関する基準」

2024年度・2026年度報酬改定と加算の確認

令和6年度(2024年度)の障害福祉サービス等報酬改定では、保育所等訪問支援について、訪問先と連携した個別支援計画の作成、支援時間の下限設定、関係機関連携加算の新設などが行われました。

訪問支援の提供時間は原則30分以上とされ、短時間の訪問に関する例外的な算定には所定の条件があります。そのため、実際の訪問時間と個別支援計画の内容が一致しているかを確認する必要があります。

また、令和8年度(2026年度)の臨時的な報酬改定では、福祉・介護職員等処遇改善加算の拡充が行われました。保育所等訪問支援も対象であり、適用される加算区分や要件によって算定率が異なります。

一方、2026年6月1日以降の新規指定事業所を対象とした応急的な基本報酬の見直しは、児童発達支援・放課後等デイサービスなどの一部サービスが対象です。保育所等訪問支援単独は対象に含まれていません。

ただし、多機能型事業所で児発・放デイも運営している場合には、対象サービスごとに適用条件を確認する必要があります。

売却時には、報酬改定後の実際の請求状況、加算届出、算定根拠、職員への賃金改善状況などを確認しましょう。

詳しくは「障害福祉報酬改定2026とM&Aへの影響」でも解説しています。

参考:こども家庭庁「令和6年度障害福祉サービス等報酬改定について」、同「令和8年度障害福祉サービス等報酬改定について」

自己評価・保護者評価・訪問先施設評価の確認

保育所等訪問支援では、2024年度から自己評価、保護者評価、訪問先施設評価の実施・公表が義務付けられました。

評価結果と改善内容は、概ね1年に1回以上、保護者と訪問先施設に示すとともに、インターネット等で公表する必要があります。

さらに、2025年4月1日からは、必要な自己評価等の実施・公表を行っていない場合、所定単位数の85%を算定する「自己評価等未公表減算」が適用されています。

これは基本報酬の算定に影響するため、買い手が将来の収益や過去の請求リスクを評価する際にも重要な確認事項です。

売却前には、評価の実施記録、公表日、公表内容、自治体への届出状況を確認しましょう。

参考:こども家庭庁「保育所等訪問支援ガイドライン」

保育所等訪問支援・多機能型事業の譲渡方法と指定の引継ぎ

保育所等訪問支援のM&Aでは、株式譲渡と事業譲渡が代表的な方法です。どちらを選ぶかによって、運営法人や指定、契約の取扱いが変わります。

株式譲渡と事業譲渡の違い

比較項目株式譲渡事業譲渡
譲渡対象会社の株式選定した事業・資産等
運営法人原則として同一法人が存続通常は別法人が運営
指定指定主体は原則として変わらない原則として新規指定が必要
契約・雇用原則として既存契約が継続個別の承継手続き等を確認
主な注意点潜在債務や過去の行政対応指定申請、契約承継、人員確保

株式譲渡では、株主が変わっても法人自体は存続するため、指定や契約関係を維持しやすい特徴があります。ただし、役員変更等の届出が必要になる場合があります。

事業譲渡では、必要な事業を選んで譲渡できる一方、新規指定や利用契約、雇用契約などの整理が必要です。

なお、一般社団法人やNPO法人など株式のない法人では、株式会社と同じ株式譲渡は利用できません。法人形態に応じた承継方法を検討します。

児発・放デイを残して訪問支援だけ売却できる?

保育所等訪問支援のみの事業譲渡は検討可能ですが、人員・費用・契約を切り分ける必要があります。

例えば、児発と訪問支援の双方を担当する職員がいる場合、その職員をどちらの事業に配置するかによって、譲渡後の人員基準に影響する可能性があります。

また、事務所やシステム、共通の管理業務などについても、譲渡対象に含める範囲を決める必要があります。

一部譲渡によって残る児発・放デイの収益性が悪化する場合もあるため、売却対象事業だけでなく、法人全体の経営への影響を試算しましょう。

詳しくは「障がいM&A|事業譲渡と株式譲渡を比較」をご覧ください。

指定権者・訪問先施設との調整

事業譲渡等で運営法人が変わる場合、譲受法人による新規指定が原則必要です。

ただし、厚生労働省・こども家庭庁の令和6年6月21日付事務連絡では、合併や事業譲渡等の前後で事業所が実質的に継続して運営されると認められる場合、指定申請手続きの簡素化や報酬上の実績通算などの取扱いが示されています。

また、会社法に基づき旧法人の権利義務を承継する場合には、利用契約の再締結が不要となる取扱いも示されています。ただし、通常の事業譲渡で契約が自動的に移転するという意味ではありません。

具体的な指定手続き、利用契約の承継、職員配置については、譲渡前に指定権者へ相談することが重要です。

さらに、保育所や学校との連携が継続できるよう、訪問先施設や保護者への説明時期、支援内容の引継ぎ方法も調整しましょう。

参考:厚生労働省・こども家庭庁「障害福祉サービス事業者等の吸収合併等に伴う事務の簡素化について」(令和6年6月21日)

保育所等訪問支援を売却する前に準備したい資料

売却を円滑に進めるためには、買い手が事業の収益性と運営継続の可能性を確認できる資料を整理することが大切です。

財務・訪問実績に関する資料

  • 直近数期分の決算書・試算表
  • 月別売上・利益・経費の内訳
  • 利用児童数と訪問実績の推移
  • 基本報酬・加算の請求資料
  • 人件費・交通費・事務費等の内訳
  • 児発・放デイとの共通経費の配賦資料

訪問支援の売上だけでなく、移動や記録作成を含めた実際の業務負担を説明できるようにしておくと、買い手が譲渡後の運営を計画しやすくなります。

人員・指定・運営に関する資料

  • 指定通知書、変更届、運営規程
  • 職員名簿、資格証、勤務形態一覧表
  • 雇用契約書、給与関連資料
  • 個別支援計画、訪問支援記録
  • 評価結果と公表状況
  • 行政指導、苦情、事故等への対応記録

資料を確認する際は、帳票が揃っているかだけでなく、実際の支援や勤務状況と一致しているかを確認しましょう。

個人情報と秘密保持への配慮

保育所等訪問支援では、利用児童の障害特性や家庭環境、支援内容など、慎重に扱うべき個人情報が含まれます。

個人情報保護委員会のガイドラインでは、合併や事業譲渡等による事業承継に伴う個人データの提供は、一定の条件のもとで第三者提供に該当しないとされています。

ただし、承継後も原則として従前の利用目的の範囲内で取り扱う必要があります。また、M&Aの交渉段階で個人データを開示する場合には、情報の利用目的、取扱方法、交渉不成立時の対応などを契約で定める必要があります。

売却準備では、初期段階で個人を特定できる情報を極力伏せ、必要に応じて段階的に開示する方法が適切です。

参考:個人情報保護委員会「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)」

保育所等訪問支援のM&A売却の流れ

保育所等訪問支援のM&Aは、一般的に次の流れで進みます。

  1. 秘密保持を前提とした売却相談
  2. 事業の簡易査定と譲渡条件の整理
  3. 買い手候補の選定・面談
  4. 意向表明・基本合意
  5. デューデリジェンス(買収前調査)
  6. 最終契約と指定手続きの調整
  7. 譲渡実行・職員や関係者への引継ぎ

相談・簡易査定から買い手選定まで

最初に、経営者が売却を検討する理由と希望条件を整理します。

「経営から退きたい」「訪問支援だけを譲渡したい」「職員の雇用や支援方針をできるだけ維持したい」など、優先したい条件を明確にしましょう。

そのうえで収益や運営体制を確認し、条件に合う買い手を探します。価格だけでなく、障害児支援に関する経験や事業承継後の運営方針も比較することが大切です。

デューデリジェンスから最終契約まで

デューデリジェンス(DD)とは、買い手が対象事業の財務・法務・労務・運営状況などを調査する手続きです。

保育所等訪問支援では、訪問実績と報酬請求の整合性、職員の配置、加算算定の根拠、指定関係書類などが重要な確認対象になります。

調査結果によって、売却価格や契約条件を見直す場合があります。過去の請求誤りや人員不足などの問題がある場合は、隠さずに整理し、対応方針を協議することが重要です。

詳しくは「デューデリジェンスとは?種類・流れを解説」をご覧ください。

職員・保護者・訪問先施設への引継ぎ

保育所等訪問支援の承継では、買い手に資料を渡すだけでなく、実際の支援を継続できる体制づくりが欠かせません。

職員への説明、保護者への案内、訪問先施設との調整について、担当者と時期を決めます。

必要に応じて旧担当者と新担当者が同行し、こどもの特性、支援の方針、訪問先での配慮事項を共有することも考えられます。

ただし、情報開示の時期は秘密保持や雇用契約、利用者の権利保護に配慮して決定する必要があります。

保育所等訪問支援のM&Aに関するよくある質問

Q1. 保育所等訪問支援だけでも売却できますか?

単独事業でもM&Aによる売却を検討できます。収益、訪問実績、職員体制、買い手の事業方針などによって可能性は異なります。事業規模が小さいことだけを理由に、必ずしも売却対象から外れるわけではありません。

Q2. 赤字や訪問件数が少ない事業でも売却できますか?

赤字や小規模でも売却を検討することは可能です。専門職員の在籍状況や地域の連携実績、買い手との相乗効果などが評価される場合があります。ただし、買い手が見つかることや希望価格での成約を保証するものではありません。

Q3. 児発・放デイを残して訪問支援事業のみ譲渡できますか?

事業の一部譲渡は検討可能です。ただし、職員の兼務、共通経費、指定、人員基準などを整理し、譲渡後に残る事業も適切に運営できるか確認する必要があります。

Q4. 指定や訪問先施設との契約はそのまま引き継げますか?

株式譲渡と事業譲渡では取扱いが異なります。事業譲渡等で運営法人が変わる場合は新規指定が原則必要ですが、実質的な継続運営が認められる場合には申請手続きの簡素化等が可能です。訪問先施設との契約や取決めは個別に確認しましょう。

Q5. 職員が退職予定でも売却を検討できますか?

検討は可能ですが、後任職員の確保や人員基準への適合が重要です。特定職員への依存が大きい場合には、採用計画や一定期間の業務引継ぎについて買い手と協議する必要があります。

まとめ|保育所等訪問支援の売却は事業価値と支援継続の両面から検討

保育所等訪問支援のM&Aでは、売上や利益に加えて、訪問支援員の専門性、訪問先施設との連携、指定基準、支援継続の見込みが重要です。

児発・放デイを含む多機能型事業所では、譲渡範囲によって人員配置や行政手続きが変わるため、早い段階で確認することが大切です。

売却を決める前に、自社の収益や運営体制を整理し、事業承継の選択肢を比較しましょう。

【免責事項】本記事は、2026年10月時点で確認できる公表資料等に基づく一般的な情報提供を目的としており、個別の税務・法務・行政手続きに関する助言ではありません。報酬、加算、指定手続き等は法令改正や指定権者による運用によって異なる場合があります。具体的なM&Aの実施に当たっては、指定権者、税理士、弁護士等の専門家へご確認ください。

まずはお気軽にお問い合わせください。

松本 圭祐
記事監修
取締役
松本 圭祐
新卒で楽天株式会社に入社し、その後合同会社DMM.comに転職。オンライン英会話サービスの「DMM英会話」の立ち上げを担当し、3年で業界最大手となる。
日本チームのマネージャーを務めた他、新規事業や法人営業なども管掌。その後ヘルスケア・福祉関連の事業を行う上場企業に転職し、M&A支援事業の立ち上げ、グロース全般を担当。
今までにM&Aコンサルタントとして50件以上の案件を成約に導く。
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