複合法人M&A|障害福祉・介護を一体譲渡
障害福祉と介護を同じ法人で運営する複合法人も、M&Aによって複数事業をまとめて譲渡できる可能性があります。ただし、一体譲渡が常に適しているとは限りません。法人格、指定、部門別収支、共通人員・資産、買い手との相乗効果を整理し、法人全体・複数事業・個別事業所のどこまでを譲渡するか設計することが重要です。
複合法人M&Aとは?障害福祉と介護をまとめて譲渡する方法
本記事でいう「複合法人」とは、障害福祉サービスと介護保険サービスなど、異なる制度に基づく複数の福祉事業を運営する法人を指します。法律上の固有名称ではありません。
例えば、次のような組み合わせがあります。
- 訪問介護と障害福祉の居宅介護・重度訪問介護
- 通所介護と生活介護
- 居宅介護支援と計画相談支援
- 介護施設と共同生活援助(障害者グループホーム)
- 高齢者向け住宅と訪問介護・障害福祉サービス
「一体譲渡」も法律上のM&A手法の名称ではありません。実際には、株式譲渡、持分譲渡、事業譲渡、合併、会社分割などから、法人格や譲渡範囲に合う方法を検討します。
| 譲渡方法 | 主な対象 | 特徴 |
|---|---|---|
| 法人全体の譲渡 | 法人が運営する全事業 | 株式会社の株式譲渡などにより、法人を存続させたまま経営権を移す |
| 複数事業の一括譲渡 | 介護・障害福祉など複数の事業 | 対象とする複数事業を一つのパッケージとして事業譲渡する |
| 個別譲渡 | 特定の部門・事業所 | 残したい事業と手放したい事業を分けやすい |
同じ「まとめて譲渡する」取引でも、法人そのものを承継する場合と、複数事業をまとめて別法人へ移す場合では、指定、契約、雇用、税務上の取扱いが異なります。
障害福祉と介護を一体譲渡するメリット
利用者への支援や地域のサービス網を維持しやすい
介護と障害福祉を横断して運営する法人では、それぞれの事業が独立しているとは限りません。相談支援機関や医療機関からの紹介、家族への相談対応、送迎、緊急時対応などが一体となっていることがあります。
複数事業を同じ買い手へ承継すれば、こうした地域内の連携や支援体制を維持しやすくなる可能性があります。売り手にとっても、長年築いた支援方針や地域との関係を、次の経営者へまとめて伝えやすくなります。
人材・本部機能・設備をまとめて引き継ぎやすい
複合法人では、経理、採用、研修、請求、勤怠管理などを本部でまとめて行っている場合があります。事務所、送迎車、システム、備品などを複数事業で共用しているケースもあります。
一体譲渡では、これらの経営資源を同じ買い手へ承継する設計が可能です。ただし、職員の兼務が人員基準上認められるかは、サービス種別、職種、勤務場所、勤務実態によって異なります。譲渡後の配置を決める前に、各指定権者へ確認する必要があります。
買い手に事業間の相乗効果を説明しやすい
買い手にとっては、一度のM&Aで事業エリア、サービス、人材、利用者基盤を広げられる可能性があります。例えば、介護事業者が障害福祉分野への展開を検討している場合、現場職員や運営ノウハウを備えた複合法人の承継は、新規開設とは異なる選択肢になります。
ただし、事業数が多いだけで高く評価されるわけではありません。事業間の紹介、本部業務の共通化、採用・研修の連携など、法人全体で運営する意味を具体的に説明することが重要です。
一体譲渡と分割譲渡はどちらを選ぶべきか
判断の出発点は、「何を売りたいか」だけではなく、「事業を分けた後も運営を継続できるか」です。管理者、請求担当者、建物、車両、システムなどを共有している場合、一部事業だけを切り離すと双方の運営に支障が出ることがあります。
| 判断項目 | 一体譲渡が向く傾向 | 分割譲渡が向く傾向 |
|---|---|---|
| 事業間の連携 | 紹介や支援の連携が強い | 各事業が独立している |
| 本部機能 | 経理・請求・採用を共通化している | 事業別に管理できている |
| 人員 | 複数事業を支える共通人員が多い | 事業ごとに人員が完結している |
| 収益性 | 法人全体で安定している | 事業ごとの差が大きい |
| 売却後の希望 | 全事業の承継を希望する | 一部事業を手元に残したい |
| 買い手候補 | 両分野を運営できる候補がいる | 分野別の買い手の方が探しやすい |
複数事業所の一括譲渡と一部譲渡については、障がい法人の複数事業所を一括・一部売却する方法でも詳しく解説しています。
不採算事業があっても一体譲渡を検討できる
一部に赤字事業が含まれていても、直ちに一体譲渡が難しくなるとは限りません。赤字の原因が一時的な欠員、開設直後の低稼働、本部費の配賦方法などであれば、改善可能性を説明できる場合があります。
また、単独では赤字でも、地域の利用者を別サービスへつなぐ入口として機能している事業もあります。一方、恒常的な人員不足や給付費・介護報酬の返還リスクがある場合は、買い手が分割譲渡や取引条件の調整を求める可能性があります。
障害福祉と介護をまとめるべきか、事業別に譲渡すべきか判断できない段階でもご相談いただけます。M&A承継サポートでは、法人全体と各事業の状況を整理し、無料相談・無料簡易査定を通じて譲渡範囲と相場感を検討します。
法人格とM&A手法によって承継方法が異なる
株式会社・合同会社を法人単位で承継する場合
株式会社の株式譲渡では、株主は変わりますが、法人自体は存続します。雇用契約、賃貸借契約、利用契約などの当事者も同じ法人のままです。ただし、チェンジ・オブ・コントロール条項など、株主や支配関係の変更について承諾・通知を求める契約がないか確認します。
指定についても、運営法人そのものが変わる事業譲渡とは取扱いが異なります。ただし、代表者、役員、登記事項、管理体制等の変更届が必要になる場合があります。必要書類や届出時期は、介護・障害福祉それぞれの指定権者へ確認してください。
合同会社では持分譲渡等が候補になりますが、定款や社員構成によって必要な手続きが異なります。基本的な手法の違いは、福祉業界のM&Aで法人格ごと売却する方法をご覧ください。
複数事業を事業譲渡する場合
事業譲渡では、譲渡する資産、負債、契約、職員などを個別に決めます。介護と障害福祉を一括して事業譲渡することも考えられますが、運営法人が変わるため、指定、利用契約、雇用、賃貸借契約などを項目ごとに整理しなければなりません。
障害福祉分野について、厚生労働省・こども家庭庁は2024年6月21日付け事務連絡で、吸収合併、会社分割、事業譲渡等に伴う指定の取扱いを示しています。運営法人が変わる場合は、新しい法人として新規指定が必要です。
ただし、職員等に変更がなく、事業所が実質的に継続すると指定権者が認めた場合には、指定申請書類の簡素化や、過去の実績に基づく基本報酬・加算・減算の実績通算など、柔軟な取扱いが示されています。
指定が自動的に承継される制度ではない点に注意が必要です。適用条件や申請期限は、譲渡スケジュールを決める前に指定権者へ確認します。出典:厚生労働省・こども家庭庁「障害福祉サービス事業者等の吸収合併等に伴う事務の簡素化について」(2024年6月21日)
社会福祉法人・NPO法人は株式会社と同じ売却ができない
社会福祉法人やNPO法人には、株式会社のような株式がありません。そのため、株式を売買してオーナーが法人の売却代金を受け取る取引とは整理できません。
事業承継の目的に応じて、合併、事業譲渡などを検討します。単なる役員交代を法人売却と同一視することも適切ではありません。
社会福祉法人では、所轄庁との事前相談、法人内部の機関決定、資産・利用者・職員の承継方法などを確認します。厚生労働省は「合併・事業譲渡等マニュアル(2026年3月31日改訂版)」を公表しています。出典:厚生労働省「合併・事業譲渡」
複合法人の売却価格はどのように評価されるか
複合法人の価格は、介護事業と障害福祉事業の売上を単純に合計して決めるものではありません。時価純資産、正常な収益力、将来性、引き継ぐ資産・負債、買い手との交渉条件などを総合して検討します。
法人全体と事業別の収益を両方確認する
最初に、事業所・サービス別の売上と費用を把握します。決算書だけでは部門別の収益が分からない場合、請求データ、利用状況、勤務実績、家賃、車両費などから管理会計上の損益を組み直します。
特に注意したいのが共通経費です。本部職員の人件費、役員報酬、採用費、システム費、家賃などを一方の事業だけに計上していると、部門別利益が実態とずれます。人員数、売上、使用面積、業務時間など、説明可能な基準で配賦しましょう。
一体運営の価値と依存リスクを分けて示す
買い手から評価される可能性がある要素には、次のものがあります。
- 介護・障害福祉間の紹介や地域連携が機能している
- 有資格者や管理職が定着している
- 本部の請求・採用・研修体制が整っている
- 複数拠点に継続的な利用実績がある
- オーナーが不在でも日常運営を継続できる
反対に、共通管理者一人に業務が集中している、部門別収支を説明できない、加算の根拠資料が不足しているといった状況は、買い手のリスク評価につながります。一体運営の強みと、特定人物・資産への依存を分けて説明することが大切です。
複合法人M&Aのデューデリジェンスで確認される項目
デューデリジェンス(DD)とは、買い手が対象法人の価値とリスクを調査する工程です。複合法人では、財務・税務・法務・労務に加え、介護と障害福祉それぞれの指定、人員、報酬請求、記録を確認します。
指定・人員・報酬請求をサービス別に確認する
- 指定通知書、更新、変更届、体制届
- 管理者、サービス管理責任者、サービス提供責任者等の配置
- 勤務形態一覧表、雇用契約書、資格証、勤怠記録
- 基本報酬、加算・減算と根拠資料の整合性
- 利用者契約、計画、モニタリング、支援・介護記録
- 運営指導・監査、行政処分、報酬返還の履歴
介護と障害福祉で似た名称の職種や加算があっても、根拠法令や要件が同一とは限りません。法人全体の一覧だけでなく、事業所・サービスごとに確認できる形へ整理します。DDの全体像は、デューデリジェンスとは?種類・流れを解説も参考にしてください。
共通人員・資産・契約の帰属を確認する
一体譲渡と分割譲渡のどちらでも、共通資源の帰属が重要です。建物の所有者、賃貸借契約の名義、車両のリース、請求システムの契約者、電話番号やウェブサイトの管理者まで一覧化します。
厚生労働省所管一般会計補助金等で取得した財産は、承継方法によって財産処分の申請等が必要になる場合があります。交付要綱、処分制限期間、承継後の用途、国庫納付の要否を、交付元へ確認してください。
一方の事業の問題が法人全体へ及ぼす影響を確認する
株式譲渡などで法人全体を承継する場合、買い手は両部門にまたがるリスクを確認します。報酬返還、未払い残業代、事故、虐待防止・身体拘束等に関する記録、苦情、訴訟、借入、個人保証などが主な対象です。
課題が見つかっても、直ちに取引中止になるとは限りません。事前是正、価格調整、補償条項、譲渡範囲の変更などを検討できます。重要なのは、買い手の調査で初めて重要な問題が発覚する状態を避けることです。
障害福祉・介護の複合法人を売却する流れ
- 法人・事業所・サービスを一覧化する
法人格、所在地、指定権者、定員、職員、共通資産を整理します。 - 部門別収支を作成する
決算数値と請求データを照合し、共通経費の配賦方法を決めます。 - 一体譲渡と分割譲渡を比較する
価格、指定手続き、職員・利用者、残す事業への影響を比べます。 - 買い手候補を選定する
資金力だけでなく、両分野を運営できる体制や承継方針を確認します。 - 基本合意・DD・最終契約を進める
譲渡範囲、価格、雇用、個人保証、表明保証などを具体化します。 - 行政手続きと引継ぎを行う
指定権者との協議、職員・利用者への説明、契約やシステムの切替えを行います。
仲介会社を利用するときは、業務内容、手数料、最低手数料、専任条項、直接交渉の制限、契約終了後のテール条項などを確認します。
中小企業庁の「中小M&Aガイドライン(第3版)」では、手数料・業務内容の説明、不適切な買い手への対応、経営者保証などの留意点が示されています。出典:中小企業庁「中小M&Aガイドライン」
一体譲渡を円滑に進めるための売却準備
譲渡範囲マップを作成する
法人を中心に、介護事業、障害福祉事業、本部、建物、人員、契約、借入の関係を図にします。そのうえで、それぞれを「譲渡する」「残す」「買い手と協議する」に分類します。
例えば、両事業が同じ建物を使用している場合は、建物も売却するのか、売り手が保有して買い手へ賃貸するのかを決めます。請求担当者が両部門を担当しているなら、雇用承継だけでなく、事業別の業務時間も整理します。
職員への説明はスキームに合わせて設計する
株式譲渡では、雇用主である法人が変わらないのが基本です。一方、事業譲渡で、譲渡元との労働契約を譲受側へ承継するには、対象となる職員の承諾が必要です。
厚生労働省の改正後の事業譲渡等指針は、2026年5月25日から適用されています。労働者や労働組合等との適切なコミュニケーションを踏まえて進めましょう。出典:厚生労働省「事業譲渡又は合併を行うに当たって会社等が留意すべき事項に関する指針」
雇用承継の実務については、介護M&Aで従業員の雇用はどうなる?で詳しく解説しています。
価格以外の希望条件に優先順位を付ける
複合法人のM&Aでは、価格だけでなく、職員の雇用、利用者への支援、事業所名、運営方針、オーナーの引継ぎ期間、不動産の扱いなども重要です。
「全事業を同じ買い手に任せたい」「一部の職員は残す事業へ異動してもらいたい」など、譲れない条件と調整できる条件を分けておくと、候補先を比較しやすくなります。
まとめ|複合法人M&Aは譲渡範囲の設計が重要
障害福祉と介護を運営する複合法人では、法人全体、複数事業の一括譲渡、個別事業所の譲渡という選択肢があります。
事業間の連携や共通本部への依存度が高い場合は、一体譲渡を検討しやすくなります。一方、各事業が独立している、一部事業を残したい、収益性やリスクに大きな差がある場合は、分割譲渡も候補になります。
法人格、指定、部門別収支、人員、資産、契約を可視化し、利用者・職員と残存事業への影響を含めて比較することが大切です。
複合法人のM&Aに関するよくある質問
障害福祉と介護のうち、一方だけを売却できますか?
事業譲渡などにより、一方の事業や特定の事業所だけを譲渡できる可能性があります。ただし、共通職員、建物、車両、契約を分けた後も双方が運営できるか確認が必要です。
赤字事業が含まれていても一体譲渡できますか?
赤字事業があるだけで譲渡できないとは限りません。赤字の原因、改善可能性、他事業との連携価値、必要な追加投資を整理して判断します。
株式譲渡なら指定はそのまま継続しますか?
株式譲渡では法人自体が変わらないため、運営法人が変わる事業譲渡とは取扱いが異なります。ただし、役員等の変更届や指定上の確認が必要になる場合があります。取引前に各指定権者へ確認してください。
共通の職員は譲渡後も複数事業を兼務できますか?
兼務の可否は、サービス種別、職種、勤務時間、勤務場所などによって異なります。各事業の人員基準を満たすか、勤務実態と合わせて確認が必要です。
社会福祉法人やNPO法人も法人ごと売却できますか?
社会福祉法人やNPO法人には株式がないため、株式会社の株式譲渡と同じ方法による法人売買はできません。合併や事業譲渡等による事業承継を検討し、所轄庁や専門家へ必要な手続きを確認します。
免責事項:本記事は2026年9月時点の公表情報を基にした一般的な情報提供であり、個別の税務・法務・労務・会計・行政手続きに関する助言ではありません。実際のM&A、指定、加算、雇用、補助金財産の承継については、弁護士、税理士、公認会計士、社会保険労務士、行政書士等の専門家および所管自治体・指定権者へご確認ください。
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