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障がい法人売却|複数事業所の一括・一部売却を解説

障がい法人の売却では、複数事業所をまとめて譲渡する方法が常に最適とは限りません。法人格、拠点別の収益、指定・加算、人員体制、買い手との相乗効果を整理し、一括売却・一部売却・再編後の売却を比較することが重要です。本記事では、複数の障がい事業を運営する法人の評価方法と売却戦略、実務上の注意点を解説します。

障がい法人・障がい事業の売却とは

障がい法人の売却とは、障害福祉サービスを運営する法人や、その法人が持つ事業所を第三者へ承継することです。対象には、就労継続支援、生活介護、共同生活援助、放課後等デイサービス、居宅介護、相談支援などがあります。

複数事業所を運営している場合、主な選択肢は「法人全体の承継」と「一部事業所の承継」です。法人格、残したい事業、債務、契約関係などによって適した方法は異なります。基本的な手法の違いは、福祉業界のM&Aで法人譲渡と事業譲渡を選ぶ方法でも解説しています。

法人全体を承継する方法

株式会社では、株主が保有する株式を買い手へ譲渡する株式譲渡が代表的です。指定を受けた法人自体は変わらないため、法人が保有する資産、契約、従業員、債務を残したまま経営権を承継しやすい方法です。

ただし、株式譲渡であっても、役員変更等に関する行政への届出、欠格事由、賃貸借契約や融資契約の変更条項を確認する必要があります。株主や経営者が変わることについて、契約相手の承諾が必要な場合もあります。

一部の事業所を承継する方法

事業譲渡では、対象となる事業所の設備、車両、契約などを選んで買い手へ移します。売り手は他の事業を法人内に残せますが、資産、債務、契約、従業員などの承継範囲を個別に定めなければなりません。

法人が変わる事業譲渡や合併等では、譲受法人による新規指定が必要です。厚生労働省の2024年6月21日付事務連絡では、職員に変更がないなど、譲渡前後で事業所が実質的に継続して運営されると指定権者が認めた場合、変更部分のみの書類提出や、過去の実績に基づく基本報酬・加算・減算の実績通算など、柔軟な取扱いを行うことが示されています。

これは新規指定そのものを不要にする制度ではありません。対象となる手続きは、厚生労働省「障害福祉サービス事業者等の吸収合併等に伴う事務の簡素化について」と各指定権者の案内を照合してください。

法人格によって第三者承継の方法が異なる

株式会社のように株式を譲渡できる法人と、社会福祉法人やNPO法人などでは承継方法が異なります。社会福祉法人やNPO法人には株式会社の株式に相当するものがないため、通常の株式譲渡と同じ形で法人を売却することはできません。

合併、事業譲渡、役員等の体制変更などを検討し、定款、理事会・評議員会等の手続き、所轄庁への相談が必要です。社会福祉法人については、厚生労働省が「合併・事業譲渡等マニュアル(令和8年3月31日改訂版)」を公表しています。

比較項目株式譲渡事業譲渡
譲渡対象法人の株式選択した事業・資産・契約等
運営法人原則として変わらない譲受法人へ変わる
事業者指定役員変更等の届出・確認が中心譲受法人による新規指定が必要
労働契約使用者である法人が変わらない承継には原則として対象労働者の承諾が必要
主な注意点債務や潜在リスクも法人内に残る承継対象を個別に確定する必要がある

一括売却と一部売却はどちらを選ぶべきか

複数事業所法人では、譲渡価格だけでなく、拠点間の関係、本部機能、行政手続き、買い手候補の範囲を踏まえて売却戦略を決めます。

比較項目法人・全拠点の一括売却一部事業所の売却再編後の売却
主な目的法人全体の第三者承継事業の選択と集中事業構成を整理して承継
メリット本部機能や拠点連携を維持しやすい売却する事業を選びやすい残す事業と譲渡する事業を明確にできる
買い手候補複数拠点を管理できる法人が中心地域・サービス単位で探せる再編後の規模やサービスによる
主な注意点法人全体の債務・潜在リスクが調査対象になる指定・契約・人員の切り分けが必要整理に時間と費用がかかる

一括売却を検討しやすいケース

  • 複数拠点で職員、採用、請求業務を共有している
  • 相談支援、日中活動、住まいなどの連携が強みになっている
  • 経営者が障がい事業全体から退く予定である
  • 法人全体を引き継げる買い手候補が見込める

たとえば、相談支援から生活介護、共同生活援助へつながる支援体制が構築されている場合、一部拠点だけを切り離すと、紹介経路や職員配置に影響する可能性があります。この場合は、単なる事業所数ではなく、拠点連携によって生まれている価値を買い手へ説明することが重要です。

一部売却を検討しやすいケース

  • 特定地域や特定サービスから撤退したい
  • 主力事業に経営資源を集中させたい
  • 拠点ごとに人員、契約、会計が独立している
  • 法人全体より拠点単位の方が買い手を探しやすい

一方、同じ建物、設備、車両を複数事業所で共用している場合は、所有権や利用条件の整理が必要です。本部が採用・請求・研修を一括管理している場合は、譲渡後に買い手が同じ業務を再現できるかも確認します。

不採算拠点を整理してから売却する場合

不採算拠点を閉鎖すれば、表面的には法人全体の収益性が改善する場合があります。しかし、その拠点が他拠点への紹介、職員採用、本部費の分担などを担っていれば、閉鎖によって残存事業の利益が下がる可能性もあります。

不採算という結果だけではなく、赤字の原因、改善可能性、法人全体で担う機能を分析しましょう。閉鎖する場合は、利用者の継続支援、職員の配置転換、廃止に関する行政手続きも計画する必要があります。

障がい法人の売却価格は何で決まるのか

非上場法人の売却価格には定価がありません。一般的には、資産・負債を実態に合わせて評価した純資産、継続的に生み出せる利益、将来性、買い手との相乗効果などを踏まえて交渉します。

中小企業庁の「中小M&Aガイドライン(第3版、2024年8月)」でも、評価額は譲渡額を検討する目安の一つであり、企業の実態や特性に応じた評価手法を選ぶ考え方が示されています。計算結果がそのまま成約価格になるわけではありません。

純資産を基礎とする評価については、修正純資産法による企業価値評価も参考にしてください。

複数事業所では拠点別損益が重要

法人全体の決算書だけでは、どの拠点が利益を生み、どの拠点が本部の支援を受けているか分かりません。売却前には、次の項目をサービス別・拠点別に整理します。

  • 売上高、人件費、家賃、車両費などの直接収支
  • 定員、実利用者数、利用日数などの推移
  • 本部人件費、システム費、採用費などの共通費
  • 加算収入と、その算定に必要な人員・運営コスト
  • 一時的な収入・支出や経営者関連費用

共通費を各事業所へ配賦するときは、人数、売上、利用面積など、合理的な基準と計算根拠を残しておくことが重要です。

令和8年度報酬改定を反映する

2026年8月時点では、令和8年度障害福祉サービス等報酬改定の告示、通知、Q&Aが公表されています。売却価格を検討するときは、過去の決算だけでなく、最新の報酬体系を反映した将来収支を確認しなければなりません。

特に複数サービスを運営する法人では、改定の影響が拠点ごとに異なる可能性があります。サービス種別、算定区分、配慮措置、加算要件を厚生労働省「令和8年度障害福祉サービス等報酬改定」の最新通知・Q&Aと照合してください。

買い手が確認する法人・拠点の価値

評価領域主な確認内容
収益性拠点別利益、利用状況、報酬改定後の収支
人材管理者・サービス管理責任者等の配置、採用・定着状況
運営個別支援計画、加算根拠、運営指導への対応
組織業務マニュアル、権限分担、経営者への依存度
拠点構成地域、サービス種別、拠点間連携、本部機能

拠点数が多いだけで評価が上がるわけではありません。各事業所を継続運営できる人員と、法人全体を管理できる仕組みの両方が確認されます。サービス固有の論点は、就労継続支援B型の売却評価生活介護事業のM&Aも参考になります。

障がい法人の売却前に整理すべき7項目

  1. 拠点別の月次損益と利用状況
  2. 指定基準、人員配置、加算の遵守状況
  3. 運営指導、改善報告、給付費返還の履歴
  4. 管理者、サービス管理責任者等の配置と退職予定
  5. 不動産、賃貸借契約、設備、車両の所有・契約関係
  6. 本部機能、共用資産、共通契約の切り分け
  7. 借入金、経営者保証、補助金で取得した財産

補助金で取得した建物や設備を譲渡する場合、財産処分に関する承認や報告、国庫納付等が必要になる可能性があります。補助金の交付元、取得年度、処分制限期間、譲渡方法によって扱いが異なるため、売却契約を結ぶ前に最新の承認基準と交付元の判断を確認してください。

複数事業所法人は、法人全体の利益だけでは売却方針を判断しにくいことがあります。一括売却と一部売却のどちらが適しているか迷っている場合は、まず拠点別の状況を整理し、無料簡易査定で相場感を確認することも一つの方法です。

デューデリジェンスで確認されること

デューデリジェンスとは、買い手が対象法人の実態とリスクを調査する手続きです。複数事業所案件では、法人全体の財務・法務・労務に加え、各拠点の運営状況が確認されます。

財務・法務・労務の確認項目

  • 給付費、利用者負担、未収金の計上
  • 借入金、リース、簿外債務、経営者保証
  • 役員や関係会社との取引
  • 不動産、賃貸借、業務委託等の契約
  • 残業代、有給休暇、社会保険等の労務管理

障がい事業特有の確認項目

  • 指定・変更届の状況
  • 人員・設備・運営基準の遵守
  • 個別支援計画の作成とモニタリング
  • 加算届、算定根拠、実績報告
  • 運営指導、行政処分、返還の履歴
  • 事故、虐待防止、身体拘束、感染症対策等の記録

本部に共通マニュアルがあっても、拠点ごとに実際の運用が異なる場合があります。一部の拠点だけでなく、全拠点の書類と現場運用を確認しておくことが重要です。

障がい法人・複数事業所を売却する流れ

  1. 売却理由、希望時期、残したい事業を整理する
  2. 法人全体と各拠点の財務・運営状況を分析する
  3. 一括売却、一部売却、再編後売却を比較する
  4. 法人名を伏せた匿名資料で買い手を探す
  5. 秘密保持契約後に資料開示とトップ面談を行う
  6. 基本条件を整理し、必要に応じて基本合意を締結する
  7. デューデリジェンスと最終条件交渉を行う
  8. 指定権者への相談・申請と契約手続きを進める
  9. 最終契約、決済、経営・現場の引き継ぎを行う

複数の自治体に事業所がある場合、提出先、書類、受付時期が指定権者ごとに異なる可能性があります。すべての拠点を一覧化し、希望する承継日から逆算して個別に相談しましょう。

複数事業所法人に適した買い手の選び方

提示価格だけで判断しない

買い手を比較するときは、提示価格に加えて、資金調達の確実性、障がい事業の運営経験、買収後の管理体制、職員の処遇、契約履行能力を確認します。

拠点構成との相乗効果を確認する

買い手が同じ地域で別の障害福祉サービスを運営していれば、採用、研修、送迎、本部管理を共有できる可能性があります。一方、遠隔地の拠点や未経験サービスを承継する場合は、買収後の責任者と支援体制を具体的に確認する必要があります。

経営者保証の解除条件を明確にする

法人の借入れに売り手経営者の個人保証が付いている場合、株式譲渡だけで保証が自動的に解除されるとは限りません。中小企業庁の「中小M&Aガイドライン(第3版)」では、経営者保証の解除・移行をめぐるトラブルへの対応が追加されています。

金融機関との協議を行う主体、解除期限、解除されなかった場合の対応を最終契約で明確にしましょう。

利用者・職員に配慮しながら秘密裏に進める方法

  • 初期段階では情報を共有する関係者を限定する
  • 買い手への開示範囲を検討段階に応じて広げる
  • 職員への説明時期、説明者、想定質問を準備する
  • 利用者・家族にはサービス継続への影響を丁寧に説明する
  • 拠点ごとに引き継ぎ責任者を決める

株式譲渡では使用者である法人は変わりませんが、事業譲渡で労働契約を譲受法人へ移す場合は、原則として対象労働者の承諾が必要です。厚生労働省の事業譲渡等指針は2026年5月25日から改正後の内容が適用されています。

対象職員には、譲受法人の概要、業務、勤務地、給与その他の労働条件を説明し、承諾に向けた協議を行う必要があります。説明時期は秘密保持とのバランスを取りつつ、弁護士や社会保険労務士と検討してください。

障がい法人の売却を円滑に進めるポイント

  • 法人全体の決算だけでなく拠点別損益を可視化する
  • 令和8年度報酬改定後の収支を拠点別に見直す
  • 指定、加算、人員配置の問題を早期に把握する
  • 把握した問題を隠さず、対応方針とともに開示する
  • 一括売却と一部売却の双方で買い手候補を比較する
  • 価格、雇用、利用者支援、保証解除の優先順位を決める
  • M&A契約と行政手続きを一つの工程表で管理する

複数事業所法人では、拠点数だけでなく、経営者が交代しても一定の水準で運営を続けられる仕組みが重要です。経営者個人に集中している業務は、売却前からマニュアル化と権限移譲を進めると、買い手が承継後の運営を検討しやすくなります。

まとめ|障がい法人の売却は拠点別分析から始める

障がい法人の売却には、全拠点をまとめて譲渡する方法、一部の障がい事業を切り離す方法、事業構成を整理してから売却する方法があります。適した方針は、法人格、拠点別収益、指定・加算、契約関係、買い手候補によって異なります。

まずは各拠点の利益とリスクを可視化し、法人全体で承継する価値を整理しましょう。あわせて、職員の雇用、利用者への支援、経営者保証など、価格以外の希望条件にも優先順位を付けることが大切です。

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障がい法人の売却に関するよくある質問

複数事業所はまとめて売却した方が高く評価されますか?

一概にはいえません。拠点間の連携や本部機能に相乗効果があれば、一括売却が評価される可能性があります。一方、不採算拠点や行政上のリスクが含まれる場合は、一部売却の方が交渉しやすいこともあります。

赤字の事業所があっても法人を売却できますか?

売却を検討することは可能です。赤字の原因、改善可能性、他拠点との関係を分析し、法人全体で売るか、一部を切り分けるかを判断します。ただし、成約や希望条件を保証するものではありません。

一部の事業所だけを売却できますか?

事業譲渡などにより可能な場合があります。ただし、指定、従業員、利用契約、賃貸借契約、共用資産などの切り分けが必要です。

事業者指定や加算実績は引き継げますか?

法人が変わる事業譲渡等では、譲受法人による新規指定が必要です。実質的な継続運営が認められる場合には、申請書類の簡素化や過去実績の通算が認められる可能性がありますが、指定権者による個別確認が必要です。

社会福祉法人やNPO法人も法人ごと売却できますか?

株式会社の株式譲渡と同じ方法は採れません。合併、事業譲渡、役員等の体制変更などを検討し、法人格、定款、所轄庁に関する手続きを個別に確認する必要があります。

本記事は、障害福祉事業および法人のM&Aに関する一般的な情報提供を目的としたものです。個別案件における税務・法務・労務・指定・行政手続きについては、税理士、弁護士、社会保険労務士、行政書士、指定権者その他の専門家・関係機関へご確認ください。

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