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介護M&Aの税制を徹底解説|2026年度改正で手取りはどう変わる?【経営者必読】


この記事でわかること

  • 介護施設をM&A(株式譲渡)した場合にかかる税金の基本
  • 2026年度税制改正「ミニマムタックス」の見直し内容と具体的な数字
  • 改正前(〜2026年)vs 改正後(2027年〜)の手取り額シミュレーション
  • 介護事業者が知っておくべき節税・対策のポイント
  • 「2026年中に動くべきか」判断するための実務チェックリスト

目次

  1. 介護M&Aにかかる税金の基本
  2. 「1億円の壁」とミニマムタックスの誕生背景
  3. 2025年導入・現行ミニマムタックスの仕組み
  4. 2026年度税制改正の内容(2027年適用)
  5. 介護事業者向け:手取り額シミュレーション比較
  6. 影響を受けやすい介護経営者のパターン
  7. 介護M&Aにおけるその他の税務ポイント
  8. 2026年内に検討すべきアクション
  9. よくある質問(FAQ)
  10. まとめ

1. 介護M&Aにかかる税金の基本

株式譲渡と事業譲渡で税負担が異なる

介護施設・事業所のM&Aは主に「株式譲渡」と「事業譲渡」の2つのスキームで行われますが、税の扱いが大きく異なります。

スキーム課税対象税率納税者
株式譲渡株式の売却益(譲渡所得)20.315%(所得税15%+住民税5%+復興特別所得税0.315%)個人オーナー(株主)
事業譲渡事業売却益(法人税の対象)実効税率 約30〜35%(法人税・住民税・事業税)売り手法人

介護M&Aの大多数は株式譲渡で行われます。 許認可の引き継ぎが容易で、オーナーの手取りも大きくなりやすいためです。ただし2026年度の税制改正により、この「株式譲渡の税率が低い」という構造が変わりつつあります。

株式譲渡の課税の仕組み

個人オーナーが株式を売却した場合の課税は以下のように計算されます。

譲渡所得 = 売却価格 − 取得費(株式の取得コスト)− 譲渡費用

所得税額 = 譲渡所得 × 15.315%
住民税額 = 譲渡所得 × 5%
合計税率  = 約 20.315%

通常であれば譲渡所得がいくら大きくなっても税率は一律20.315%で固定です。しかしこの「固定税率」が超高額所得者に対して不公平だという問題が生じ、「ミニマムタックス」制度が生まれました。


2. 「1億円の壁」とミニマムタックスの誕生背景

なぜ富裕層ほど税負担率が低くなるのか

日本の所得税は超過累進課税が原則で、給与所得や事業所得などには最高45%の税率が適用されます。一方、株式譲渡所得は分離課税で一律20.315%のままです。

その結果、所得の大部分が株式・不動産の譲渡益で占められる超高所得者ほど、所得全体に対する実効税率が下がるという逆転現象が起きます。これが「1億円の壁」と呼ばれる問題です。

具体例:

所得の内訳金額税率
役員報酬(総合課税)5,000万円最高45% ≒ 約2,250万円の所得税
株式譲渡所得(分離課税)5億円一律15.315% ≒ 7,500万円の所得税
合計所得:5.5億円税負担合計:約9,750万円実効税率:約17.7%

所得が5.5億円あるにもかかわらず、実効税率が20%を下回るこの構造が「公平でない」として是正されたのがミニマムタックスです。


3. 2025年導入・現行ミニマムタックスの仕組み

ミニマムタックスとは

正式名称は「極めて高い水準の所得に対する負担の適正化に関する措置」(租税特別措置法第41条の19)。2023年度税制改正で創設され、2025年(令和7年)分の所得税から適用されています。

制度の趣旨は「所得がいくら大きくても、最低限この税率は払ってもらう」というものです。

現行制度の計算式(2025〜2026年適用)

【Step 1】通常通りの所得税を計算(基準所得税額)

【Step 2】ミニマムタックスを計算
  =(基準所得金額 − 3.3億円)× 22.5%

【Step 3】比較
  Step 2 > Step 1 の場合 → 差額を追加で納税
  Step 2 ≤ Step 1 の場合 → 追加納税なし

つまり、年間所得から3.3億円を差し引いてもなお残る部分に22.5%の「最低税率」を課す制度です。

財務省の試算では、現行制度では所得が約30億円以上の超富裕層からミニマムタックスの影響が出始めるとされていました(ただし、所得に占める株式譲渡の割合が高い場合、10億円超から影響が出るケースも確認されています)。


4. 2026年度税制改正の内容(2027年適用)

制度が大幅に強化される

2025年12月19日に公表された2026年度(令和8年度)税制改正大綱により、ミニマムタックスの仕組みが大幅に見直されることが決まりました。2027年(令和9年)分の所得税から適用されます。

改正前後の比較

改正前(〜2026年)改正後(2027年〜)
特別控除額3.3億円1.65億円(半減)
ミニマム税率22.5%30%(引き上げ)
計算式(所得 − 3.3億円)× 22.5%(所得 − 1.65億円)× 30%
追加納税が発生し始める所得水準(株式譲渡のみの場合)約10.3億円超約3.4億円超

この改正の本質

「一部の超富裕層の問題」だったミニマムタックスが、株式譲渡所得が3〜4億円規模の介護経営者にも影響する制度に変わりました。

介護M&Aで株式売却を検討している多くの経営者にとって、3〜5億円規模の売却は珍しくありません。これまで「自分は関係ない」と思っていた層が、2027年以降は直接影響を受ける可能性があります。


5. 介護事業者向け:手取り額シミュレーション比較

以下のシミュレーションは、株式譲渡所得以外の所得はゼロと仮定した簡易計算です(実際の税負担は個別の所得状況により異なります)。

ケース①:株式譲渡所得 5億円(訪問介護・デイサービス経営者の典型例)

改正前(2026年中)改正後(2027年以降)
通常の株式譲渡税(20.315%)約1億157万円約1億157万円
ミニマムタックス計算(5億 − 3.3億)× 22.5% − 所得税 = 追加なし(5億 − 1.65億)× 30% − 所得税 = 約8.8百万円追加
合計税負担約1億157万円約1億1,037万円
手取り額の差約880万円の差

ケース②:株式譲渡所得 20億円(有料老人ホーム運営・複数施設経営の例)

改正前(2026年中)改正後(2027年以降)
通常の株式譲渡税(20.315%)約4億630万円約4億630万円
ミニマムタックス(追加額)6,945万円2億4,420万円
合計税負担約4億7,575万円約6億5,050万円
手取り額の差約1億7,475万円の差

ケース③:株式譲渡所得 3.5億円(小規模介護事業者の事業承継例)

改正前(2026年中)改正後(2027年以降)
通常の株式譲渡税(20.315%)約7,110万円約7,110万円
ミニマムタックス(追加額)追加なし2,393万円追加
合計税負担約7,110万円約9,503万円
手取り額の差約2,393万円の差

⚠️ 上記はあくまで概算シミュレーションです。実際の税負担は役員報酬・不動産所得など他の所得の有無、株式の取得費、各種控除によって異なります。必ず税理士・M&Aアドバイザーにご相談ください。


6. 影響を受けやすい介護経営者のパターン

ミニマムタックスの影響を受けやすいケース

売却予定の株式時価が3億円以上(特に5億円超)
→ 改正後は追加納税が発生する可能性が高い

所得のほとんどが株式譲渡所得のみ(役員報酬が少ない)
→ 累進課税オフセット効果が働かないため影響大

有料老人ホーム・グループホームなど施設系の複数拠点経営
→ 施設評価が高く、売却価格が大きくなりやすい

介護保険制度発足時(2000年前後)創業の老舗事業者
→ 株式の取得費が低く、譲渡益が膨らみやすい

後継者不在で近い将来の事業承継を検討している
→ タイミングの判断が税負担に直結する

比較的影響を受けにくいケース

⬜ 役員報酬を高く設定しており、総合課税の税率が高い方
⬜ 不動産賃貸収入など累進課税対象の所得が多い方
⬜ 売却予定の事業価値(株式価値)が1〜2億円程度の小規模事業者


7. 介護M&Aにおけるその他の税務ポイント

① 事業譲渡を選ぶ場合の税務

事業譲渡では売り手法人に**法人税(実効税率約30〜35%)**が課税されます。株式譲渡と比べて税負担が重くなる傾向がありますが、以下の点で使われるケースがあります。

  • 特定の施設・事業のみを切り出して売却したい場合
  • 補助金返済リスクを回避したい場合(※別途確認必要)
  • 買い手が資産の取得コストをステップアップさせたい場合

② 介護施設の補助金と税務

介護施設の建設・設備投資(特にスプリンクラー等)に際して行政の補助金を受けている場合、事業譲渡のスキームを使うと補助金の返還を求められる可能性があります。

事業譲渡を検討する際は事前に管轄の都道府県・市町村に確認が必要です。この確認を怠ると、想定外のコストが発生します。

③ 許認可の引き継ぎと税務スキームの選択

スキーム許認可税務インパクト
株式譲渡自動的に引き継がれる個人への20.315%(ミニマムタックス注意)
事業譲渡新規取得が必要(行政手続き)法人税(実効税率30〜35%)

介護事業の場合、許認可の手続き負担から株式譲渡が主流です。しかしミニマムタックスの影響で、事業譲渡の選択を再検討するケースも今後増える可能性があります。

④ 株式取得費の確認(重要)

株式譲渡所得は「売却価格-取得費」で計算されます。設立時に数万円で取得した株式を数億円で売却した場合、取得費がほぼゼロになるためほぼ全額が課税対象になります。

取得費が不明な場合は「売却価格の5%」を概算取得費として使えますが、できるだけ実際の取得費を把握・証明しておくことが重要です。

⑤ 株式譲渡契約の締結日と申告年度

重要なポイントとして、2026年中に株式譲渡契約を締結すれば、クロージング(資産移転・代金支払い)が2027年になっても2026年の所得として申告できる特例があります。

これにより、年末ギリギリまで交渉を進めながらも旧制度の税率を適用できる可能性があります。ただし要件の確認は必ず専門家に依頼してください。


8. 2026年内に検討すべきアクション

タイムラインの整理

2026年12月31日まで ─── 旧ミニマムタックス(特別控除3.3億円・税率22.5%)が適用
        ↓
2027年1月1日以降  ─── 新ミニマムタックス(特別控除1.65億円・税率30%)が適用

今すぐ確認すべきチェックリスト

STEP 1:自社の株式価値を把握する

  • [ ] 直近3期分の決算書を用意する
  • [ ] 「時価純資産額+営業利益の3〜5年分」で概算評価額を算出
  • [ ] M&A仲介会社や税理士に企業価値算定を依頼する

STEP 2:税負担をシミュレーションする

  • [ ] 今年(2026年)中に譲渡した場合の手取り額を試算
  • [ ] 2027年以降に譲渡した場合の手取り額を試算
  • [ ] 差額を確認し、2026年内に動く必要があるか判断する

STEP 3:M&Aの準備を進める

  • [ ] 事業の現状(稼働率・人員・許認可)を整理する
  • [ ] 売却の方向性(株式譲渡・事業譲渡)を税理士と相談する
  • [ ] M&A仲介会社に相談し、買い手探索を開始する

STEP 4:契約締結のタイミングを設計する

  • [ ] 2026年中に基本合意〜最終契約を完了させるスケジュールを組む
  • [ ] 補助金の返済リスク等の特殊事項を事前に行政に確認する

注意: M&Aの実際のプロセスには通常7〜12ヶ月かかります。2026年中の契約を目指すなら、遅くとも2026年前半には動き出す必要があります。


9. よくある質問(FAQ)

Q. 介護施設を3億円で売却した場合、ミニマムタックスは関係ありますか?
A. 2026年中の譲渡であれば関係ない可能性が高いです(現行制度では約10.3億円超から追加納税が発生)。しかし2027年以降は約3.4億円超から追加納税が生じるため、3億円規模でも関係してくる可能性があります。具体的な金額は個別の所得状況により異なるため、専門家への相談をお勧めします。

Q. 「2026年中に株式譲渡契約を締結」すれば必ず旧制度が適用されますか?
A. 所得税の特例として、契約締結が2026年中であれば2026年の所得として申告できる取り扱いがあります。ただし要件の詳細は必ず税理士に確認してください。

Q. 役員報酬を高くしているとミニマムタックスの影響が小さくなりますか?
A. その通りです。役員報酬などの総合課税対象所得が高い場合、基準所得税額が高くなるため、ミニマムタックスとの差額が縮小し追加納税が発生しにくくなります。

Q. 事業譲渡にすればミニマムタックスは関係なくなりますか?
A. ミニマムタックスは個人の所得税に関する制度なので、事業譲渡で法人が売却益を得る場合は直接関係しません。ただし法人税(実効税率30〜35%)が課税されるため、必ずしも有利とは言えません。スキームの選択は総合的に検討が必要です。

Q. 介護施設のM&Aでよくある節税対策はありますか?
A. 一般的なアプローチとして、①2026年中の早期実行による制度適用の差活用、②取得費の適切な計上(証明書類の整備)、③所得の分散(複数年度への分散が可能かどうかの検討)などがあります。ただし節税対策はケースバイケースのため、必ず専門家に相談してください。

Q. 仲介会社への手数料も節税に影響しますか?
A. M&A仲介会社への成功報酬は「譲渡費用」として株式譲渡所得から控除できる場合があります。適切に費用計上することで課税所得を圧縮できます。


10. まとめ

2026年度税制改正(ミニマムタックスの見直し)は、介護M&Aを検討している経営者にとって無視できない重大テーマです。

今回の改正のポイント整理

項目改正前(〜2026年)改正後(2027年〜)
特別控除額3.3億円1.65億円(半減)
ミニマム税率22.5%30%
影響が出始める所得約10.3億円超約3.4億円超
影響を受ける介護M&Aの規模感超大型案件のみ中規模案件にも波及

介護事業者が取るべき行動

今すぐ動くべき方:

  • 株式時価が3億円以上で、近い将来の売却を検討している方
  • 後継者不在で事業承継を迫られている方
  • 2026年内に基本合意を締結できる見込みがある方

慎重に検討すべき方:

  • 事業価値が1〜2億円程度の小規模事業者
  • まだ準備が整っていない方(慌てた売却は失敗の原因になります)

最も重要なのは、税制の変化を正確に理解した上で、自社・従業員・利用者にとって最適なタイミングと方法を選ぶことです。

M&Aと税務は複雑に絡み合っています。「売却価格」だけでなく「手取り額」を最大化するために、介護業界と税務の両方に精通した専門家への早期相談を強くお勧めします。

松本 圭祐
記事監修
取締役
松本 圭祐
新卒で楽天株式会社に入社し、その後合同会社DMM.comに転職。オンライン英会話サービスの「DMM英会話」の立ち上げを担当し、3年で業界最大手となる。
日本チームのマネージャーを務めた他、新規事業や法人営業なども管掌。その後ヘルスケア・福祉関連の事業を行う上場企業に転職し、M&A支援事業の立ち上げ、グロース全般を担当。
今までにM&Aコンサルタントとして50件以上の案件を成約に導く。
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