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医療法人の廃業・売却を比較|どちらを選ぶべき?

医療法人の経営継続が難しくなった場合でも、廃業・解散だけが選択肢とは限りません。患者基盤やスタッフ、医療機器、立地などに承継価値が残っていれば、第三者承継・M&Aを検討できる可能性があります。本記事では「医療法人 廃業 売却」で迷う経営者に向けて、費用・手続き・雇用・患者への影響を比較し、判断する順番を解説します。

医療法人の廃業と売却は何が違う?

まず知っておきたいのは、「医療機関を閉院すること」「医療法人を解散すること」「第三者へ事業を承継すること」はそれぞれ別の手続きだという点です。

閉院と医療法人の解散・清算は別の手続き

病院や診療所の診療を終了しても、それだけで医療法人そのものが消滅するわけではありません。医療法人自体を終了させる場合には、解散後に債権・債務や資産などを整理する清算手続きが必要です。

医療法第55条では、社団医療法人の解散事由として、定款で定めた解散事由の発生、目的たる業務の成功の不能、社員総会の決議、合併、社員の欠亡、破産手続開始の決定、設立認可の取消しなどを定めています。社員総会の決議による解散は、原則として総社員の4分の3以上の賛成が必要で、定款に別段の定めがある場合はその定めによります。また、社員総会の決議または目的たる業務の成功の不能による解散には、都道府県知事の認可が必要です。

さらに医療法第56条の2では、解散した医療法人も清算が結了するまでは清算目的の範囲で存続するとされています。

出典:厚生労働省「医療法」第55条、第56条の2(2026年9月1日確認)

医療法人の「売却」は株式会社の株式売却とは異なる

本記事では分かりやすさのため「医療法人の売却」という表現を使用しますが、医療法人には株式会社のような株式がありません。そのため、一般企業の株式譲渡と同じ仕組みで法人を売買するわけではありません。

実際には、持分あり医療法人における出資持分の譲渡、事業譲渡、合併など複数の方法があり、医療法人の類型や譲渡対象によって適した方法が異なります。持分なし医療法人には出資持分そのものがないため、特に慎重なスキーム設計が必要です。

したがって、「医療法人を売れば理事長個人が売却代金を受け取れる」と一律に考えることはできません。譲渡対価を誰が受け取るか、退職金や出資持分をどのように扱うかなどは、M&Aの方法や法人の形態によって異なります。

後継者がいなくても第三者承継は検討できる

親族や院内に適切な後継者がいない場合でも、外部の医療法人や医師などへの第三者承継を検討できます。

買い手にとっては、既存の患者基盤、スタッフ、診療体制、立地、設備などが、新規開設にはない価値になる場合があります。「後継者がいないから廃業する」と決める前に、承継できる経営資源が残っているか確認することが重要です。

医療法人の廃業と売却を6つの項目で比較

比較項目廃業・解散第三者承継・M&A
事業終了する第三者が継続できる可能性がある
経済面処分・原状回復等の費用が生じる場合があるスキームに応じて譲渡対価等が生じる場合がある
スタッフ退職等への対応が必要雇用継続を検討できる場合がある
患者転院・診療終了への対応が必要診療を継続できる可能性がある
医療機器・設備売却・撤去・廃棄等を検討譲渡対象に含められる場合がある
主な手続き廃止届、解散・清算等M&A契約、行政手続き、引き継ぎ等

どちらが有利かは一律には判断できません。M&Aでも希望条件に合う買い手が見つからない場合があり、廃業にも合理性があるケースがあります。

比較するときは単純な「売却金額」だけでなく、廃業に必要な支出、借入・リース、スタッフへの対応、患者への影響、設備や事業基盤を残せるかという点まで含めて検討することが重要です。

医療法人を廃業・解散する場合の主な手続き

医療機関の廃止に関する手続き

医療法第9条では、病院・診療所等を廃止した場合、開設者は原則として廃止後10日以内に都道府県知事へ届け出ることが定められています。実際の提出先や併せて必要となる手続きは所在地・施設形態等によって異なるため、管轄行政庁への確認が必要です。

出典:厚生労働省「医療法」第9条(2026年9月1日確認)

法人を解散する場合は認可が必要になるケースがある

社員総会の決議等によって医療法人を解散する場合には、医療法に基づく解散手続きを進めます。

医療法施行規則第34条では、解散認可申請に際し、理由書、解散手続きを経たことを証する書類、財産目録・貸借対照表、残余財産の処分に関する書類を申請書に添付して都道府県知事へ提出するとされています。

出典:厚生労働省「医療法施行規則」第34条(2026年9月1日確認)

解散後は清算を行う

解散後は、原則として清算人が債権の回収、債務の弁済、残余財産の処理などを進めます。医療法第56条の3では、合併や破産手続開始決定による解散を除き、原則として理事が清算人になるとされています。ただし、定款・寄附行為に別段の定めがある場合などは異なります。

残余財産を院長が自由に受け取れるとは限らない

残余財産の扱いは、持分あり・持分なし、定款・寄附行為、設立時期などによって異なります。

2007年4月1日以降、新たに設立する社団医療法人は持分なし医療法人に限定されています。また、新制度の医療法人では、残余財産の帰属先について医療法上の制限があります。したがって、「解散時に残った財産は院長が受け取れる」と一律には判断できません。

出典:厚生労働省「医療法人制度について」「持分なし医療法人への移行に関する手引き書」

医療法人の廃業ではどのような費用を確認する?

医療法人の廃業費用は施設規模や契約状況による差が大きく、全国共通の「標準的な廃業額」で判断することは適切ではありません。具体的には、次の項目を個別に積算します。

  • 医療機器・什器・備品の撤去や処分
  • 賃貸物件の原状回復や解約に伴う負担
  • 従業員の退職等に伴う費用
  • 借入金・リース契約等の整理
  • 登記・税務・清算等を専門家へ依頼する費用
  • 未払金やその他の債務の整理

医療機器を処分してからM&Aを検討すると、買い手が活用できた設備まで失ってしまう場合があります。そのため、廃業見積もりを取る段階で、第三者承継した場合の条件も並行して確認すると比較しやすくなります。

医療法人を第三者へ承継するメリット

事業として残せる可能性がある

M&Aでは医療機器などの有形資産だけではなく、診療基盤、人材、立地なども含めて事業全体が評価されます。その結果、個々の資産を処分するよりも、事業として承継した方が経済的価値を残せる場合があります。

ただし、譲渡条件は財務内容、収益性、地域性、設備、契約、負債などによって異なります。希望価格での成約を保証できるものではありません。

スタッフの雇用を残せる可能性がある

買い手との交渉では、スタッフの雇用継続を条件として検討できる場合があります。ただし、雇用契約の扱いはM&Aのスキームによって異なり、全員が自動的に同条件で承継されるとは限りません。

患者への影響を抑えられる可能性がある

事業承継が実現すれば、経営者が引退しても地域の診療体制を維持できる可能性があります。患者への説明方法や診療情報の取り扱いなども含め、承継計画を慎重に進める必要があります。

医療法人の売却にも注意点がある

M&Aは必ず成立するものではなく、買い手が見つからない、希望条件が合わない、デューデリジェンスで課題が判明するといった可能性があります。

また、借入に経営者保証が付いている場合、M&Aが成立しただけで保証が当然に解除されるわけではありません。金融機関との調整を含めて確認する必要があります。

中小企業庁が2024年8月に改訂した「中小M&Aガイドライン(第3版)」でも、不適切な譲受側、経営者保証、仲介手数料、利益相反、営業・広告などに関する注意点が示されています。M&A支援会社を選ぶ際は、成功報酬だけでなく、契約条件や支援範囲、買い手確認の体制なども確認しましょう。

出典:中小企業庁「中小M&Aガイドライン(第3版)」2024年8月

赤字の医療法人でも売却できる?

赤字だからという理由だけで第三者承継の可能性がなくなるわけではありません。買い手は利益だけでなく、患者基盤、立地、診療科、人材、設備、賃貸条件、借入・リース、改善余地などを総合的に確認します。

例えば、院長の診療日数減少によって売上が落ちている場合と、地域需要そのものが縮小している場合では、買い手の評価も異なります。

反対に、多額の債務や重要な法務・労務上の問題などがあれば、条件が厳しくなることもあります。赤字・黒字だけで自己判断せず、現在残っている経営資源とリスクの両方を整理することが大切です。

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医療法人の廃業と売却で迷ったときの判断順序

  1. 現在の経営状況を整理する:収益、借入、人材、設備、院長の今後の勤務可能期間などを確認します。
  2. 親族・院内承継の可能性を確認する:親族や勤務医などに承継候補がいるか整理します。
  3. 第三者承継の可能性を確認する:患者基盤、人材、設備、立地などを含めて買い手需要を確認します。
  4. 廃業コストとM&A条件を比較する:金額だけでなく、スタッフ、患者、個人保証、引退時期なども比較します。
  5. 最終的な出口を決める:M&Aの条件が合わなければ、廃業・解散を含めて改めて判断します。

この順番で検討する理由は、設備処分やスタッフ退職、賃貸借契約の解約などを先に進めると、買い手が引き継げる経営資源が減る可能性があるためです。

医療法人M&Aの基本的な流れ

  1. 専門家への相談・初期検討
  2. 財務・人員・設備・契約等の整理
  3. 買い手候補の探索
  4. トップ面談・条件交渉
  5. 基本合意
  6. デューデリジェンス
  7. 最終契約
  8. 必要な行政手続き・引き継ぎ

M&Aの方法によって行政手続きや契約承継の方法は異なります。医療法人の形態を確認したうえで、行政機関や税理士・弁護士等の専門家と連携しながら進めることが重要です。

詳しい手順については、関連記事「医療M&Aの流れ」もあわせてご確認ください。

廃業準備を始める前に確認したい3つのポイント

1. 何が承継価値になるか棚卸しする

財務内容だけでなく、人材、患者基盤、設備、立地、賃貸条件など、買い手が評価する可能性のある項目を整理します。

2. 設備処分や契約解約を先行させない

廃業のために設備を処分したり賃貸借契約を解約したりすると、事業承継の選択肢を狭める場合があります。重要な処分を行う前に、承継対象になり得るか確認することが望まれます。

3. 情報開示の時期を慎重に決める

M&Aでは秘密保持が重要ですが、患者やスタッフへの適切な説明も必要です。「最後まで知らせない」と決めるのではなく、取引の進捗や雇用への影響を踏まえて、専門家と告知時期を調整しましょう。

医療法人の廃業・売却に関するよくある質問

Q. 赤字の医療法人でも売却できますか?

A. 赤字だけで売却可否は決まりません。患者基盤、人材、立地、設備、改善可能性なども含めて評価されます。ただし、財務状態によって条件が厳しくなる場合があります。

Q. 借入金が残っていてもM&Aできますか?

A. 借入があることだけでM&Aが不可能になるわけではありません。ただし、債務や担保、経営者保証の扱いについて買い手・金融機関との調整が必要になる場合があります。

Q. 医療法人を解散すると残余財産は院長が受け取れますか?

A. 一律には判断できません。持分の有無、定款・寄附行為、設立時期などによって扱いが異なります。特に持分なし医療法人では残余財産の帰属先に制限があるため、個別確認が必要です。

Q. スタッフの雇用は売却後も継続できますか?

A. 雇用継続を条件として交渉できる場合がありますが、M&Aスキームによって必要な手続きが異なります。自動的に同条件で承継されるとは限りません。

Q. 廃業を決めた後でも売却できますか?

A. 可能性はあります。ただし、スタッフの退職、患者数の減少、設備処分、賃貸借契約の解約などが進んでいると承継条件に影響する場合があります。廃業準備を本格化する前の相談の方が、比較できる選択肢を残しやすくなります。

まとめ|医療法人は廃業前に第三者承継の可能性も比較する

医療法人の廃業と売却のどちらが適しているかは、財務状態、患者基盤、人材、設備、借入、後継者の有無などによって異なります。

廃業・解散では設備処分や契約整理、清算等への対応が必要です。一方、第三者承継が成立すれば、事業や雇用、診療体制を残せる可能性があります。ただし、M&Aが必ず成立するわけではなく、希望条件での成約も保証されません。

そのため、「廃業すると決めてから動く」のではなく、まず現在残っている経営資源と廃業コストを整理し、第三者承継した場合の条件と比較してから最終判断することが重要です。

※本記事は2026年9月1日時点で確認できる法令・公表資料に基づく一般的な情報提供を目的としており、個別案件の税務・法務・労務・行政手続きに関する助言ではありません。医療法人の類型、定款・寄附行為、所在地、取引スキームなどによって必要な手続きや税務上の扱いは異なります。具体的な手続きについては、管轄行政機関、税理士、弁護士、司法書士、社会保険労務士等の専門家へご確認ください。

まずはお気軽にお問い合わせください。

松本 圭祐
記事監修
取締役
松本 圭祐
新卒で楽天株式会社に入社し、その後合同会社DMM.comに転職。オンライン英会話サービスの「DMM英会話」の立ち上げを担当し、3年で業界最大手となる。
日本チームのマネージャーを務めた他、新規事業や法人営業なども管掌。その後ヘルスケア・福祉関連の事業を行う上場企業に転職し、M&A支援事業の立ち上げ、グロース全般を担当。
今までにM&Aコンサルタントとして50件以上の案件を成約に導く。
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