M&Aコラム

トップ > M&Aコラム > M&A用語・法務 > M&AのNDAとは?秘密保持契約の注意点

M&AのNDAとは?秘密保持契約の注意点

M&AにおけるNDAとは、開示された秘密情報を第三者へ漏らしたり、M&Aの検討以外に使ったりしないことを約束する秘密保持契約です。原則として、社名や詳細資料を開示する前に締結します。ただし、NDAは無制限な情報開示を認めるものではありません。特に介護・医療・障がい福祉事業では、利用者・患者・職員の情報を必要最小限に絞り、段階的に開示することが重要です。

M&AのNDAとは?秘密保持契約の基本

NDAは情報漏えいと目的外利用を防ぐ契約

NDAは「Non-Disclosure Agreement」の略称で、日本語では「秘密保持契約」「機密保持契約」などと呼ばれます。M&Aでは、売り手が買い手候補やM&A仲介会社へ情報を開示する前に、その情報の利用目的や管理方法を定めるために締結します。

NDAで制限するのは第三者への漏えいだけではありません。買収検討のために受け取った情報を、自社の営業活動、採用、競合分析などに転用する「目的外利用」も制限の対象になります。

すべてのM&Aで「NDA」という名称の独立した契約書を作成することが、一律に法律で義務付けられているわけではありません。ただし、中小企業庁の「中小M&Aガイドライン(第3版・2024年8月)」では、売り手の名称を買い手候補へ開示するネームクリアについて、売り手の同意を得て、候補先との秘密保持契約を締結してから実施する考え方が示されています。

NDA・CA・秘密保持契約の違い

秘密保持契約は、CA(Confidentiality Agreement)と呼ばれることもあります。NDA、CA、秘密保持契約という名称だけで、効力や義務の範囲が決まるわけではありません。秘密情報の定義、利用目的、開示先、有効期間、不成立時の処理など、実際の条項を確認する必要があります。

また、不正競争防止法上の「営業秘密」と、NDAで定める「秘密情報」は同じとは限りません。経済産業省によると、営業秘密として同法上の保護を受けるには、秘密管理性・有用性・非公知性の3要件を満たす必要があります。一方、NDAでは当事者間の合意により、M&Aを検討している事実や交渉内容も秘密情報に含められます。

M&AでNDAが重要になる理由

売却を検討している事実自体を守るため

売却方針が予定より早く社内外へ伝わると、職員、利用者・家族、取引先、金融機関などに不安や憶測が広がる可能性があります。そのため、会社名や事業所名だけでなく、「M&Aを検討している」という事実自体を秘密情報に含めることが重要です。

地域密着型の介護・福祉事業では、社名を伏せても、市区町村、サービス種別、定員、開設時期などの組み合わせから事業所が推測される場合があります。初期のノンネーム資料には、買い手候補の関心を確認するために必要な情報だけを記載します。

買い手へ詳細な経営情報を開示するため

買い手は、買収価格や承継後の運営を検討するため、売上・利益だけでなく、職員構成、給与、資格、稼働率、加算、賃貸借契約、行政対応などを確認します。検討が進むほど開示情報は詳細になるため、開示前にルールを決める必要があります。

情報区分主な情報福祉・医療事業での注意点
経営・財務決算書、試算表、借入金、資金繰り金融機関や個人保証の情報を含む
人事・労務職員数、資格、給与、雇用契約初期段階では氏名を伏せて集計する
利用者・患者利用状況、介護度、診療・支援情報個人を特定できる情報を最小限にする
行政・指定指定、加算、実地指導、返還、改善報告不利益情報も安全な方法で正確に開示する
事業運営稼働率、事故、苦情、紹介元、取引先地域や数値から事業所が特定される場合がある

M&AのNDAはいつ・誰と締結する?

社名や詳細資料を開示する前に締結する

一般的な中小M&Aでは、次の順序で情報を開示します。

  1. 法人名を伏せたノンネーム資料で買い手候補へ打診する
  2. 関心を示した候補先を売り手が確認する
  3. 買い手候補または仲介会社との間でNDAを締結する
  4. 法人名や企業概要書などを開示する
  5. 基本合意後、デューデリジェンスで詳細資料を開示する
  6. 最終条件を調整して最終契約・クロージングへ進む

売り手とM&A仲介会社との間では、決算書などの社内資料を渡す前に秘密保持の取扱いを確認します。買い手候補との関係では、社名や事業所名を開示する前が重要な締結時期です。M&A全体の工程は、関連記事「介護M&Aの流れ|相談から成約まで徹底解説」も参考にしてください。

基本合意書・最終契約書との関係

基本合意書や最終契約書にも、秘密保持条項が設けられる場合があります。その場合は、先に締結したNDAとの優先関係、有効期間、秘密情報の範囲に矛盾がないかを確認します。

NDAの締結だけで、売り手にM&Aを成立させる義務が生じるとは限りません。一方、基本合意書では、独占交渉や秘密保持など一部の条項に法的拘束力を持たせる場合があります。詳しくは「基本合意書とは?M&Aでの役割と法的拘束力を解説」をご覧ください。

片務契約・双務契約・差入方式の違い

売り手だけが情報を開示し、買い手だけが秘密保持義務を負う形は片務的なNDAです。双方が情報を開示し、双方が義務を負う形は双務的なNDAです。

また、情報を受け取る側が秘密保持誓約書を提出する「差入方式」と、双方が署名・記名押印する「契約書方式」があります。形式だけでなく、誰がどの情報について義務を負うのかを確認しましょう。

M&AのNDAで確認すべき条項

条項定める内容売り手側の確認ポイント
秘密情報の定義保護対象と除外情報M&A検討の事実や口頭開示を含むか
利用目的M&A検討以外の利用禁止営業・採用・競合分析への転用を防げるか
開示可能な相手役員、従業員、専門家、金融機関などグループ会社まで無制限に広がっていないか
管理・複製保管、複製、持ち出しの制限再開示先にも同等の義務が課されるか
有効期間契約期間と終了後の義務情報の性質に合った期間か
返還・廃棄不成立時の返却、削除、廃棄複製やバックアップの扱いが明確か
違反時の対応報告、損害賠償、差止めなど対応方法や責任範囲が明確か
直接接触の制限職員、利用者、取引先等への接触方法無断接触を制限する必要があるか

秘密情報の定義と除外情報

秘密情報の定義が狭すぎると、口頭で伝えた情報、現地見学で知った情報、M&Aの検討事実などが保護対象から漏れる可能性があります。一方、範囲が過度に広いと、受領側が以前から保有していた情報まで対象となり、運用が難しくなります。

一般には、公知情報、受領前から保有していた情報、守秘義務を負わない第三者から適法に取得した情報、秘密情報によらず独自に取得・開発した情報などを除外する条項が検討されます。

開示先と再開示先

買い手がM&Aを検討する際は、役員や担当者のほか、弁護士、公認会計士、税理士、金融機関などへの共有が必要になる場合があります。開示を認める場合でも、「M&Aの検討に必要な者」に限定し、同等の秘密保持義務を負わせることが重要です。

買い手の親会社、子会社、関連会社を一括して開示先に含める契約では、情報が届く範囲が想定以上に広がることがあります。誰が閲覧できるのかを確認してください。

有効期間と返還・廃棄

NDA自体の有効期間と、契約終了後も続く秘密保持義務の期間は、別に定められる場合があります。適切な期間は情報の内容や漏えい時の影響によって異なるため、一律には判断できません。

M&Aが不成立になった場合は、紙資料に加え、ダウンロード済みファイル、メール添付、クラウド保存、複製物、バックアップの扱いを確認します。個人情報保護委員会のガイドラインQ&Aでも、事業承継の交渉が不調となった場合、提供を受けた個人データの返還、消去、廃棄が必要とされています。

直接接触を制限する条項

買い手候補が売り手の許可なく職員、利用者、取引先、貸主などへ連絡すると、M&Aの検討事実が広がるおそれがあります。そのため、NDAや仲介契約などに、直接接触の方法や事前承諾について定める場合があります。

M&A承継サポートでは、介護・医療・障がい分野に特化したM&A支援を行っています。NDAを締結するタイミングや、買い手候補へどこまで資料を開示すべきか迷っている場合は、実名を公表する前の段階から無料でご相談いただけます。

NDA締結前のチェックリスト

  • M&Aを検討している事実も秘密情報に含まれているか
  • 書面、口頭、メール、データルーム内の情報が対象になっているか
  • 情報の利用目的がM&Aの検討に限定されているか
  • 買い手の役員、従業員、専門家など開示先が明確か
  • グループ会社や金融機関への再開示条件が定められているか
  • 不成立時の返還、削除、廃棄方法が決められているか
  • 職員、利用者、取引先等への無断接触を防ぐ必要がないか
  • 基本合意書など後続契約との優先関係が明確か

NDAだけに頼らず情報管理を行う

NDAは情報漏えいを抑止し、問題発生時の対応根拠を明確にするものですが、誤送信や担当者の操作ミスまで自動的に防ぐものではありません。次のような管理を組み合わせます。

  • 開示先、開示日、資料名を一覧で記録する
  • データルームの閲覧者とアクセス権限を限定する
  • ダウンロードや印刷の可否を資料ごとに設定する
  • 資料に候補先名や通し番号の透かしを入れる
  • 個人メールや私物端末への保存を避ける
  • 不成立後にアカウントを停止し、返還・削除を確認する

福祉・医療事業者が個人情報の開示で注意すべきこと

NDAがあっても無制限には開示できない

介護・医療・障がい福祉事業の資料には、利用者・患者の健康や支援に関する情報、職員の人事情報などが含まれます。これらは買収判断に必要になる場合がありますが、NDAがあるという理由だけで、初期段階から氏名付き資料を一括提供することは適切ではありません。

個人情報保護委員会の「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)」では、事業承継の契約前の交渉段階でも、法第27条第5項第2号に該当する場合には、本人同意や第三者提供のオプトアウト手続きを行わずに個人データを提供できるとしています。

ただし、利用目的と取扱方法、漏えい等が発生した場合の措置、交渉が不調となった場合の措置など、相手会社に安全管理措置を守らせるために必要な契約を締結しなければなりません。実際に提供できる範囲は、M&Aの手法、データの内容、必要性、契約条項などによって異なります。

段階的に情報の粒度を上げる

初期段階では、「有資格者の人数」「年齢層」「常勤・非常勤の内訳」「利用者数」「要介護度の構成」など、個人を特定しにくい集計情報を使用します。買い手候補が絞られ、デューデリジェンス上の合理的な必要性が生じてから、詳細資料を限定的に開示します。

氏名を削除しただけで、個人情報保護法上の「匿名加工情報」になるとは限りません。小規模事業所では、年齢、役職、資格、勤務年数などの組み合わせから個人を推測できる場合もあります。個人データを含む資料を開示するときは、弁護士などの専門家へ確認することが望まれます。

NDA違反や情報漏えいが判明したときの対応

漏えいまたは目的外利用の疑いが判明した場合は、追加開示を止め、データルームの権限や共有リンクを停止します。そのうえで、漏えいした情報、閲覧者、複製・転送の有無、影響を受ける本人の範囲を確認し、記録を保存します。

個人データが含まれ、個人情報保護法上の報告対象事態に該当する場合は、個人情報保護委員会への報告と本人への通知が必要です。該当性や初動対応を自己判断せず、弁護士や個人情報保護の専門家へ速やかに相談しましょう。

M&AのNDAに関するよくある質問

NDAは法律上必ず締結しなければなりませんか?

すべてのM&Aで、NDAという名称の独立した契約書が一律に必要と定められているわけではありません。ただし、重要情報を安全に開示するため、詳細情報や社名を開示する前に締結することが一般的です。

NDAを締結すればすべての資料を渡せますか?

いいえ。交渉段階と買い手の検討状況に応じ、必要な情報だけを開示します。特に個人情報は、集計化やマスキングを行い、開示目的と安全管理措置を確認してください。

電子契約でNDAを締結できますか?

一般にNDAは電子契約でも締結できます。ただし、電子契約サービスを利用すれば、すべての場合に真正な契約成立が自動的に保証されるわけではありません。締結者の権限、本人確認、改ざん防止、操作記録、契約データの保存方法を確認します。

家族や職員にM&Aのことを話してもよいですか?

M&Aの検討事実が秘密情報に含まれている場合、契約上認められていない相手への共有が問題になる可能性があります。家族、役員、幹部職員へ共有する必要があるときは、開示可能な範囲と守秘義務を確認してください。

M&Aが不成立になった後も秘密保持義務は続きますか?

NDAに契約終了後の存続条項があれば、不成立後も秘密保持義務が続きます。秘密保持期間に加え、受領済み資料と複製データの返還・消去・廃棄方法も確認しましょう。

まとめ|NDAと情報管理の両方でM&Aの秘密を守る

M&AのNDAでは、秘密情報の範囲、利用目的、開示先、不成立時の処理などを明確にします。売り手はNDA締結前に法人を特定できる情報を出しすぎず、締結後も交渉段階に応じて開示範囲を管理する必要があります。

介護・医療・障がい福祉事業では、利用者・患者・職員の情報が含まれるため、契約書の確認とアクセス権限などの運用を組み合わせ、安全に交渉を進めましょう。

本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別案件に関する法務・税務・行政手続き上の助言ではありません。契約内容や個人情報の取扱いについては、弁護士、税理士、行政機関などの専門家へご相談ください。

参考:中小企業庁「中小M&Aガイドライン」、個人情報保護委員会「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)」、個人情報保護委員会「ガイドラインに関するQ&A」、経済産業省「営業秘密~営業秘密を守り活用する」、法務省「電子署名法の概要と認定制度について」(2026年8月31日閲覧)

まずはお気軽にお問い合わせください。

松本 圭祐
記事監修
取締役
松本 圭祐
新卒で楽天株式会社に入社し、その後合同会社DMM.comに転職。オンライン英会話サービスの「DMM英会話」の立ち上げを担当し、3年で業界最大手となる。
日本チームのマネージャーを務めた他、新規事業や法人営業なども管掌。その後ヘルスケア・福祉関連の事業を行う上場企業に転職し、M&A支援事業の立ち上げ、グロース全般を担当。
今までにM&Aコンサルタントとして50件以上の案件を成約に導く。
一覧に戻る