障害福祉報酬改定2026とM&Aへの影響
障害福祉の報酬改定2026(令和8年度)は、処遇改善加算の拡充と、一部サービスの新規指定事業所に対する応急的な報酬単価が主なポイントです。既存事業所の基本報酬が一律に下がるわけではありません。M&Aでは、報酬単価だけでなく、指定の継続性、加算、人員配置、利用者基盤、改定後の利益を確認して事業価値を判断する必要があります。
障害福祉の報酬改定2026で何が変わったのか
2026年度(令和8年度)の障害福祉サービス等報酬改定は、通常の定期改定とは別に行われた臨時・応急的な見直しです。主な変更点は、次のとおりです。
- 福祉・介護職員等処遇改善加算の拡充
- 一部サービスの新規指定事業所に対する応急的な報酬単価
- 就労継続支援B型の基本報酬区分の基準見直し
- 就労移行支援体制加算の算定上限の見直し
本記事では、2026年9月時点で公表されている厚生労働省資料をもとに、制度の変更点と障害福祉M&Aへの影響を解説します。2027年度(令和9年度)改定に向けた検討内容は、確定した改定内容とは分けて考える必要があります。
処遇改善加算の対象と加算率が見直された
2026年度改定では、福祉・介護職員だけでなく、障害福祉従事者を幅広く対象とする処遇改善の措置が示されました。
厚生労働省の資料では、障害福祉従事者を対象に月額1万円程度、3.3%の賃上げを実現する措置に加え、生産性向上や協働化に取り組む事業者の福祉・介護職員を対象に、月額0.3万円程度、1.0%の上乗せ措置が示されています。定期昇給を含めると、福祉・介護職員について最大月額1.9万円、6.3%の賃上げとなる措置です。
ただし、職員の給与が自動的に一律で増えるという意味ではありません。加算の届出、賃金改善の実施、職場環境等の要件、実績報告などが必要です。加算による請求額が増えても、その全額が事業者の利益として残るわけではありません。
また、これまで処遇改善加算の対象外であった計画相談支援、地域相談支援、障害児相談支援にも、処遇改善加算が新設されました。相談支援事業を運営する法人は、加算率だけでなく、取得に必要な体制整備や事務負担も確認する必要があります。
新規指定事業所には応急的な報酬単価を適用
2026年6月1日以降に新規指定された事業所のうち、次のサービスでは、2027年度報酬改定までの間、応急的な報酬単価が適用されます。
| 対象サービス | 応急的な報酬単価 | 単純換算した減少率 |
|---|---|---|
| 就労継続支援B型 | 所定単位数の1,000分の984 | 約1.6% |
| 共同生活援助(介護サービス包括型・日中サービス支援型) | 所定単位数の1,000分の972 | 約2.8% |
| 児童発達支援 | 所定単位数の1,000分の988 | 約1.2% |
| 放課後等デイサービス | 所定単位数の1,000分の982 | 約1.8% |
ここでいう減少率は、応急的な報酬単価と通常の所定単位数を比較したものです。事業所の売上全体が同じ割合で減るという意味ではありません。実際の収入は、基本報酬、加算、利用者数、稼働率、地域区分、人件費などによって変わります。
既存事業所については従前の報酬単価が適用されます。また、重度障害者や医療的ケア児者を受け入れている場合、離島・中山間地域に所在する場合、自治体がサービス不足を理由に必要性を認めて設置する場合などには、配慮措置があります。
就労継続支援B型の報酬区分を見直し
就労継続支援B型では、平均工賃月額に関する基本報酬区分の基準額がそれぞれ3,000円引き上げられました。
一方で、今回の見直しによって報酬区分が下がる事業所については、基本報酬の減少額が3%程度に収まるよう中間的な区分が設けられています。また、2024年度改定の前後で報酬区分が上がっていない事業所は、今回の見直しの適用対象外とする配慮措置も示されています。
M&Aでは、平均工賃月額だけでなく、生産活動の収支、作業内容、販売先、利用者の通所状況を確認することが重要です。工賃の実績があっても、生産活動が赤字であれば、買収後に改善投資が必要になる可能性があります。
就労移行支援体制加算も見直された
2026年4月から、就労移行支援体制加算について、一つの事業所で算定できる年間の就職者数に定員数を上限とする見直しが行われました。
就労移行支援体制加算を取得している事業所や、就労継続支援A型・B型などから一般就労への移行実績を強みとしている事業所では、過去の算定実績と現在の要件を確認しておく必要があります。
報酬改定2026が障害福祉M&Aに与える影響
既存事業所と新規指定事業所を分けて考える
今回の改定をM&Aの観点から見ると、最も重要なのは、買収対象が既存事業所なのか、2026年6月1日以降に新規指定された事業所なのかを区別することです。
新規指定事業所には応急的な報酬単価が適用される可能性があります。一方、既存事業所は従前の報酬単価が適用されます。そのため、買い手が新規開設する場合と、既存事業所を買収する場合では、収支の前提が異なる可能性があります。
事業譲渡をすると必ず新規扱いになるわけではない
厚生労働省の改定資料では、合併・分割・事業譲渡に伴う指定について、その前後で事業所が実質的に継続して運営されると認められる場合は、既存事業所と同様に扱う旨が示されています。
ただし、これは応急的な報酬単価の適用判定に関する取扱いです。事業譲渡によって指定が自動的に承継されることを意味するものではありません。指定申請、変更届、廃止届、利用者契約、職員の雇用契約などの手続きは、サービス種別や指定権者によって異なる場合があります。
事業譲渡を検討する場合は、基本合意や最終契約の前に、対象事業所の所在地を管轄する指定権者へ確認する必要があります。
株式譲渡・事業譲渡・合併の違い
| スキーム | 主な特徴 | 報酬改定に関する確認点 |
|---|---|---|
| 株式譲渡 | 法人ごと引き継ぐ | 指定や契約の継続性を確認しやすい一方、過去の返還・行政対応リスクも引き継ぐ |
| 事業譲渡 | 特定の事業や資産を引き継ぐ | 実質的な継続運営に該当するか、指定権者への手続きと報酬の扱いを確認する |
| 合併・会社分割 | 法人再編によって事業を承継する | 再編前後の運営実態と指定の取扱いを確認する |
株式譲渡と事業譲渡の違いについては、障がいM&A|事業譲渡と株式譲渡を比較でも解説しています。
事業価値は報酬単価だけで決まらない
障害福祉事業の企業価値を判断するときは、報酬改定の影響に加えて、次の要素を総合的に確認します。
- 改定後の売上と営業利益
- 基本報酬と加算の内訳
- 利用者数、契約者数、稼働率
- 管理者やサービス管理責任者等の配置
- 職員の定着状況と退職予定
- 指定更新や行政指導の状況
- 利用者・職員・物件の引継ぎ可能性
報酬単価が一部見直されても、利用者基盤や人員体制が安定していれば、事業全体の利益を維持できる場合があります。反対に、報酬単価が維持されても、職員不足によって定員まで受け入れられなければ、売上は伸びません。
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サービス別に見るM&Aの確認ポイント
就労継続支援B型
就労継続支援B型では、平均工賃月額の推移と生産活動収支を確認します。工賃の算定方法や報酬区分が変わることで、将来の売上や利益に影響する可能性があります。
買い手は、作業内容や販売先が特定の取引先に依存していないか、職員が変わっても生産活動を継続できるか、利用者の通所状況が安定しているかを確認します。
共同生活援助
共同生活援助では、夜間支援体制、世話人・生活支援員の配置、入居者の状態、医療機関との連携、物件契約を確認します。
少人数の職員に夜勤や支援業務が集中している場合、買収後の退職によって運営体制が不安定になる可能性があります。勤務表だけでなく、実際の業務分担や代替職員の有無も確認が必要です。
児童発達支援・放課後等デイサービス
児童発達支援と放課後等デイサービスでは、利用児童数、契約枠、稼働率、キャンセル率、送迎体制、児童発達支援管理責任者の配置を確認します。
医療的ケア児、重症心身障害児、強度行動障害のある児童を受け入れている場合は、配慮措置や加算の要件も確認します。支援記録や個別支援計画が整備されているかも、買い手が重視する項目です。
売り手・買い手が準備すべき資料
売り手が整理する資料
- 直近数年分の決算書・試算表
- サービス別・月別の売上と利益
- 基本報酬と加算の内訳
- 利用者数・稼働率の推移
- 加算の届出書類と実績報告
- 職員名簿、勤務表、雇用契約書
- 指定関係書類と行政からの通知
- 支援記録、個別支援計画、工賃関連資料
売却準備では、直近の利益だけでなく、その利益を買収後も維持できる体制を説明できることが重要です。詳しくは障がい福祉事業の売却準備|加算・稼働率・記録の磨き上げもご覧ください。
買い手が確認する資料
- 改定後の収支シミュレーション
- 加算の算定根拠と継続可能性
- 職員の資格・配置・退職予定
- 利用者契約と継続利用の見込み
- 行政指導、返還、過誤請求の有無
- 物件の賃貸借契約や設備の状態
- 事業譲渡後に必要な指定・変更手続き
指定や許認可の手続きは、M&Aのスケジュールに影響します。契約締結前から行政へ相談することが重要です。手続きの詳細は障がいM&A手続き|指定・許認可の流れを解説で確認できます。
報酬改定後にM&Aを進める際の考え方
売却を検討する場合
売却を検討する場合は、改定後の月次収支を整理し、基本報酬と加算、人件費、利用者数の変化を分けて説明します。
また、指定や加算を維持するために必要な職員、引継ぎ期間、利用者や家族への説明方法も整理します。資料が整っていれば、買い手が承継後の運営をイメージしやすくなります。
買収を検討する場合
買収を検討する場合は、新規開設と既存事業所の買収を比較します。新規開設では指定申請、利用者募集、人材採用、物件確保が必要です。既存事業所の買収では、利用者・職員・地域との関係を引き継げる可能性がある一方、過去の行政対応や加算返還リスクを確認する必要があります。
買収価格だけでなく、買収後の人件費、設備更新、加算維持、職員採用、利用者の継続率まで含めて収支を試算しましょう。
まとめ
障害福祉の報酬改定2026では、処遇改善加算の拡充と、一部サービスの新規指定事業所に対する応急的な報酬単価が示されました。既存事業所の基本報酬が一律に引き下げられる改定ではありません。
M&Aでは、対象サービスかどうかだけでなく、事業譲渡後に実質的な継続運営と認められるか、加算を維持できるか、職員と利用者を引き継げるかを確認する必要があります。
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よくある質問
2026年度の報酬改定で、既存事業所も減収になりますか?
一律に減収となるわけではありません。応急的な報酬単価は、原則として2026年6月1日以降に新規指定された対象サービスに適用されます。既存事業所は従前の報酬単価が適用されますが、加算、人件費、利用者数などによって実際の収支は変わります。
報酬改定の対象サービスは、売却価格が下がりますか?
対象サービスであることだけで売却価格が決まるわけではありません。改定後の利益、加算、人員体制、利用者基盤、指定の継続性、行政上のリスクなどを総合的に確認します。
事業譲渡をすると、必ず新規指定事業所として扱われますか?
必ず新規指定事業所として扱われるわけではありません。事業譲渡の前後で実質的に継続して運営されると認められる場合、応急的な報酬単価の適用判定では既存事業所と同様に扱われる旨が示されています。ただし、指定手続きが自動的に承継されるわけではないため、指定権者への確認が必要です。
赤字の障害福祉事業所でもM&Aは可能ですか?
赤字であっても、利用者基盤、指定、人材、立地、設備、地域との関係性などが評価される場合があります。赤字の原因と改善可能性を整理し、買い手が承継するメリットを説明できる資料を準備することが重要です。
免責事項:本記事は、障害福祉サービス等報酬改定とM&Aに関する一般的な情報提供を目的としたものです。個別の税務、法務、会計、行政手続きに関する助言ではありません。実際の報酬や指定の取扱いは、サービス種別、自治体、指定権者、契約内容によって異なる場合があります。具体的な案件では、行政機関や税理士、弁護士などの専門家へご確認ください。
主な出典:厚生労働省「令和8年度障害福祉サービス等報酬改定における改定事項について」、厚生労働省「令和8年度障害福祉サービス等報酬改定等に関するQ&A VOL.1」、厚生労働省「障害福祉サービス等報酬改定検討チーム」
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