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介護M&Aの失敗例7選|売り手の共通点と回避策

介護M&Aの失敗は、希望価格で売れないことや交渉が破談になることだけではありません。成約後に職員が離職する、経営者保証が残る、利用者へのサービスに影響が出ることも、売り手にとって大きな後悔につながります。失敗を避けるには、指定・人員配置・加算・契約を早期に整理し、価格以外の条件や買い手の運営能力まで確認することが重要です。

介護M&Aにおける「失敗」とは

介護M&Aの失敗は、「成約前に交渉が行き詰まる失敗」と「成約したものの、希望した承継にならない失敗」に分けて考える必要があります。

失敗の場面主な結果代表的な原因
成約前買い手が見つからない、減額、破談、手続きの遅延準備不足、資料の不備、問題の未開示、指定手続きの確認不足
成約後職員の離職、利用者への影響、保証の残存、契約上の紛争買い手確認の不足、条件の曖昧さ、引き継ぎ計画の不足

売却価格が希望に届いても、職員の雇用や屋号、介護方針が守られなければ、売り手が望んだ事業承継とは異なる結果になる可能性があります。また、金融機関との調整が不十分で経営者保証が残る、退任後も想定以上の実務対応を求められる、表明保証や補償条項を巡って請求を受けるといった問題も考えられます。

そのため、介護M&Aでは「いくらで売るか」だけでなく、「誰に、どのような条件で、どのような状態の事業を引き継ぐか」まで設計することが大切です。

介護M&Aで失敗する売り手の7つの共通点と回避策

1.経営が悪化してから売却準備を始める

利用者数の減少、人材不足、資金繰りの悪化が重なってから売却を始めると、買い手を探せる期間が短くなります。必要な人員を確保できず、事業の休止や加算の取り下げが必要になれば、従来の収益を前提とした評価も難しくなるでしょう。

赤字だから直ちに売却できないわけではありません。立地、利用者基盤、在籍職員、地域の需要、買い手の既存拠点との連携可能性などが評価される場合もあります。ただし、資金が尽きる直前では選択肢が狭まりやすいため、廃業を決める前にM&Aと自主再建の両方を比較することが重要です。

売却意思が固まる前から、決算書、月次試算表、利用者数、人員配置、加算の算定状況を整理しておきましょう。「まだ売るか決めていない」という段階でも、譲渡可能性と課題を把握しておけば、判断を急がずに済みます。

2.希望価格だけを優先し、条件の順位を決めていない

高い価格を希望すること自体は問題ではありません。しかし、価格だけを基準に交渉すると、職員の雇用、屋号、利用者へのサービス、引き継ぎ期間など、本来守りたかった条件が後回しになることがあります。

売却条件は、次の3段階に分けておくと整理しやすくなります。

  • 必須条件:職員の雇用継続、経営者保証の解除など
  • 希望条件:屋号や運営方針の継続、一定期間の処遇維持など
  • 調整可能な条件:引き継ぎ期間、代金の支払時期など

譲渡価格と経営者の最終的な手取り額も同じではありません。M&Aの手法、税金、仲介手数料、借入金の返済、役員退職金などによって結果が変わります。価格を比較するときは、税理士などへ確認したうえで手取り額を試算しましょう。価格の考え方は「介護事業の売却相場【2026年版】」でも詳しく解説しています。

3.指定・人員配置・加算・請求の不備を後回しにする

介護M&Aでは、財務資料だけでなく、介護保険法に基づく指定と実際の運営状況が確認されます。特に注意したいのは、指定申請書や変更届の内容と現状が一致していないケースです。

  • 管理者や所在地などの変更届が提出されていない
  • 資格証や雇用関係を確認できる資料が不足している
  • 勤務実績から人員配置基準の充足を確認できない
  • 加算要件を裏付ける計画書、会議録、実施記録がない
  • 請求内容とサービス提供記録に不一致がある

介護事業では、人員や記録の不備が加算要件や報酬請求へ影響し、返還リスク、価格調整、補償条項の追加、交渉中止へと連鎖する可能性があります。

重要なのは、問題を見つけたときに隠さないことです。対象期間、想定される影響、行政への相談状況、是正内容を整理して示せれば、買い手もリスクを具体的に判断できます。取扱いはサービス種別や自治体によって異なるため、所轄の指定権者にも確認してください。

売却前の点検項目は「介護事業の売却準備|稼働率・人件費率・加算の磨き上げ」も参考にしてください。

4.売却情報の管理が不十分

M&Aの情報が準備段階で広がると、職員が雇用条件の変更を不安視し、退職を検討する可能性があります。利用者や家族、取引先に断片的な情報が伝われば、サービス継続への懸念も生じます。

秘密保持契約(NDA)を締結するだけでなく、匿名の概要資料から始め、相手の検討状況に応じて開示範囲を広げることが大切です。閲覧者を限定し、どの資料を誰へ開示したか記録しておくと、情報管理を行いやすくなります。

一方、職員への説明準備を成約直前まで行わないことも避けたいところです。いつ、誰が、何を伝えるのかを買い手と決め、職員、利用者、家族、ケアマネジャーなど対象ごとに説明内容を準備します。詳しくは「M&AのNDAとは?秘密保持契約の注意点」をご覧ください。

5.不都合な情報を開示しない

売却に不利になりそうな情報を伝えなければ、高い価格で売れるとは限りません。デューデリジェンスでは、決算書だけでなく、総勘定元帳、給与資料、契約書、議事録、行政対応履歴なども確認されます。

未払い残業代、介護報酬の返還可能性、重大事故、訴訟・紛争、利用者からの苦情、賃貸借契約の制約などが後から判明すると、買い手との信頼関係を損ないかねません。最終契約後に判明した場合は、表明保証違反や補償の問題に発展する可能性もあります。

問題点は「ある・ない」だけでなく、発生原因、影響範囲、現在の対応、再発防止策まで整理します。判断が確定していない事項も、「調査中」「行政へ確認中」と明示し、推測で断定しないことが重要です。

6.株式譲渡と事業譲渡の違いを理解していない

介護M&Aで採用する手法によって、指定、雇用、利用者契約、資産・負債の扱いが変わります。

確認項目株式譲渡事業譲渡
法人同じ法人が存続売り手法人と買い手法人は別法人
介護事業の指定法人格が変わらないため継続するのが一般的。ただし変更届等を確認買い手側で新規指定申請等が必要となるのが基本
労働契約雇用主である法人との契約が原則として継続譲受会社へ承継するには原則として労働者本人の承諾が必要
その他の契約法人との契約は原則として残るが、支配権変更条項等を確認相手方の同意を含む個別の移転手続きを確認
資産・負債法人内に残る資産・負債を含めて確認譲渡対象を契約で個別に特定

事業譲渡で運営法人が変わる場合は、一般に売り手側の廃止手続きと買い手側の新規指定申請等を調整します。手続きが間に合わなければ、予定した承継日にサービスを開始できないおそれがあります。

また、厚生労働省の事業譲渡等指針は2026年5月25日から改正後の内容が適用されています。事業譲渡に伴って労働契約を移す場合は、労働者への十分な説明と本人の承諾が必要です。労働条件を変更する場合は、その変更についても適切な同意・手続きが求められます。

厚生労働省は「合併・事業譲渡等マニュアル(令和8年3月31日改訂版)」も公表していますが、主に社会福祉法人を対象とする資料です。株式会社などの介護事業者へ一律に適用できるとは限らないため、法人形態、サービス種別、指定権者に応じて確認してください。

指定承継の詳細は「介護M&Aの許認可|指定承継の手続きを解説」で確認できます。

7.提示価格だけで買い手や仲介会社を選ぶ

最も高い価格を提示した買い手が、最も適した承継先とは限りません。買収資金を確実に用意できるか、介護事業を継続して運営できるか、職員の雇用や利用者へのサービスをどう考えているかを確認する必要があります。

中小企業庁は2024年8月、不適切な買い手とのM&Aトラブルについて注意喚起を公表しています。売り手側も、次の項目を確認しましょう。

  • 資金調達方法と決済資金の確実性
  • 既存事業や過去に買収した事業の運営状況
  • 成約後の責任者と人員配置計画
  • 職員の雇用条件と利用者へのサービス方針
  • 経営者保証や担保を解除する手順と期限

仲介会社については、介護事業への理解だけでなく、手数料、最低報酬、専任条項、直接交渉の制限、テール条項、相手方から受け取る報酬、セカンドオピニオンの可否も確認します。

中小企業庁の「中小M&Aガイドライン第3版」では、支援内容と手数料、買い手調査、経営者保証などの留意点が示されています。

無料相談・無料簡易査定:「自社のどこが買い手から問題視されるのか分からない」という段階でも、早めに課題を整理すれば対応方法を検討できます。M&A承継サポートでは、介護・医療・障がい分野に特化した知見をもとに、現在の相場感や必要資料を無料でご案内しています。

介護M&Aの失敗を防ぐために整理したい資料

資料は買い手に求められてから集めるのではなく、売却準備の段階で分野ごとに整理します。書類の有無だけでなく、届出内容や実際の運営との一致も確認しましょう。

財務・税務に関する資料

  • 決算書、勘定科目内訳書、申告書、直近の試算表
  • 総勘定元帳、資金繰り表、借入金・リースの一覧
  • 未払金、役員報酬、オーナー個人との取引明細
  • 補助金・助成金の交付決定通知や実績報告

指定・介護報酬・運営に関する資料

  • 指定通知書、指定申請書、変更届、更新書類
  • 運営規程、重要事項説明書、利用契約書
  • 勤務形態一覧表、勤務実績、資格証
  • 加算届、計画書、会議録、サービス提供記録
  • 実地指導、監査、行政指導、返還に関する資料
  • 利用者数、稼働率、介護度、紹介経路の推移

労務・契約・資産に関する資料

  • 雇用契約書、就業規則、賃金台帳、勤怠記録
  • 不動産賃貸借契約、車両・設備のリース契約
  • 医療機関、紹介元、委託先との契約
  • 固定資産台帳、修繕履歴、設備一覧
  • 事故、苦情、紛争、保険対応の記録

資料が見つからない場合は、その事実を曖昧にせず、再取得できるか、代替資料で説明できるかを確認します。

段階別に確認する失敗回避チェックリスト

段階売り手が確認すること
相談・準備売却目的、希望時期、条件の優先順位、指定・労務・契約上の問題を整理する
買い手探索情報を段階的に開示し、価格、資金力、介護事業の運営能力を比較する
基本合意・調査価格の前提条件、独占交渉期間、未解決事項、行政手続きの予定を確認する
最終契約・決済表明保証、補償、保証解除、代金調整、指定・契約移転の順序を確認する
成約後職員・利用者への説明、実務の引き継ぎ、旧経営者の対応範囲を明確にする

M&A全体の進行は「介護M&Aの流れ|相談から成約まで徹底解説」もご覧ください。

失敗を防ぐ介護M&Aの相談先の選び方

相談先を選ぶ際は、成約件数や料金だけでなく、担当者が介護事業の指定、人員配置、加算、報酬請求を理解しているかを確認します。買い手の資金力や運営能力をどのように調査するか、問題が見つかったときに弁護士・税理士・社会保険労務士などへ相談できるかも重要です。

登録支援機関はM&A支援機関登録制度のデータベースで検索できます。ただし、登録は個別案件の成約や支援品質を保証するものではありません。担当者の経験、契約内容、支援範囲を個別に比較してください。

問題がある介護事業でもM&Aは相談できる

赤字、債務超過、人員不足、行政指導などの問題があるからといって、相談前にM&Aを諦める必要はありません。一方、すべての事業所を譲渡できるわけではなく、問題の内容、改善可能性、買い手のニーズによって判断は異なります。

まず、問題が一時的なものか構造的なものかを分けます。介護報酬の返還可能性がある場合は、対象期間、想定される影響、行政への確認状況を整理します。廃業期限が迫っている場合は、M&Aだけに固執せず、利用者の移行、職員への対応、行政手続き、原状回復費用なども含めて比較しましょう。

まとめ|介護M&Aの失敗は早めの準備で回避する

介護M&Aで失敗する売り手には、準備開始が遅い、価格以外の条件を決めていない、指定や加算の不備を後回しにする、買い手を十分に確認しないといった共通点があります。

特に介護事業では、人員配置の不備が加算や報酬請求へ影響し、減額や破談につながる可能性があります。不利な情報も早めに整理し、対応状況とともに開示することが、買い手との信頼関係を保つうえで重要です。

介護M&Aの失敗に関するよくある質問

赤字の介護事業所でも売却できますか?

赤字でも、立地、利用者基盤、在籍職員、他拠点との相乗効果などが評価され、譲渡候補になる可能性があります。ただし、赤字の原因と改善可能性を説明できる資料が必要です。すべての事業所に買い手が見つかるとは限らないため、廃業や自主再建も含めて比較してください。

職員にはいつM&Aを伝えるべきですか?

一律の正解はありません。早すぎる告知は情報漏えいや離職につながる一方、説明準備が遅いと成約後の混乱を招きます。契約の進行状況、職員への影響、買い手との合意を踏まえ、告知時期・説明者・説明内容を事前に決めます。

指定や加算に不備があると売却できませんか?

不備の内容によって異なります。是正可能な問題もあれば、介護報酬の返還や指定への影響を検討すべき問題もあります。対象期間、行政への相談状況、是正内容を整理し、所轄自治体と専門家へ確認してください。

デューデリジェンスで問題が見つかるとどうなりますか?

問題の重大性に応じて、価格調整、補償条項の追加、代金の一部留保、是正を決済条件とする対応などが検討されます。影響が大きい場合は破談になる可能性もありますが、早期に開示し、対応策を示すことで交渉を継続できる場合もあります。

売却後に経営者保証が残ることはありますか?

株式を譲渡しただけで、金融機関との保証契約が自動的に解除されるとは限りません。買い手による債務引受や借り換え、金融機関の承諾などが関係します。最終契約前に金融機関へ相談し、解除の手順、期限、解除されない場合の対応を契約書で確認することが重要です。

本記事は2026年9月時点の公表資料に基づく一般的な情報提供を目的としており、個別案件に関する税務・法務・労務・行政手続き上の助言ではありません。M&Aの手法、法人形態、サービス種別、自治体、契約内容によって取扱いが異なります。所轄行政庁、金融機関、弁護士、税理士、社会保険労務士などへ個別にご確認ください。

まずはお気軽にお問い合わせください。

松本 圭祐
記事監修
取締役
松本 圭祐
新卒で楽天株式会社に入社し、その後合同会社DMM.comに転職。オンライン英会話サービスの「DMM英会話」の立ち上げを担当し、3年で業界最大手となる。
日本チームのマネージャーを務めた他、新規事業や法人営業なども管掌。その後ヘルスケア・福祉関連の事業を行う上場企業に転職し、M&A支援事業の立ち上げ、グロース全般を担当。
今までにM&Aコンサルタントとして50件以上の案件を成約に導く。
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