障がいM&A手続き|指定・許認可の流れを解説
障がい福祉サービスのM&Aでは、一般企業のM&Aとは異なり、指定(許認可)や行政手続きへの対応が欠かせません。M&Aのスキームによって必要な手続きが異なり、準備不足のまま進めると、スケジュールの遅延や利用者・職員への影響につながる可能性があります。本記事では、障がい福祉サービス事業のM&Aを検討している経営者向けに、手続きの流れや指定(許認可)の考え方、実務上の注意点を分かりやすく解説します。
障がい福祉サービスのM&Aは「指定制度」が大きな違い
一般企業のM&Aでは、契約や財務・法務の手続きが中心となります。一方、障がい福祉サービス事業では、障害者総合支援法に基づく「指定制度」があるため、行政手続きまで含めて検討する必要があります。
指定の取り扱いは、採用するM&Aのスキームによって異なる場合があります。そのため、「会社を譲渡すれば手続きもそのまま引き継げる」と考えるのではなく、早い段階から指定権者へ相談しながら進めることが重要です。
指定(許認可)が事業運営の前提となる
障がい福祉サービスを提供するには、都道府県・指定都市・中核市などの指定権者から、指定障害福祉サービス事業者としての指定を受ける必要があります。
この指定を受けることで、障害福祉サービス等報酬の請求やサービス提供が可能になります。そのため、M&Aでは契約だけでなく、指定制度への影響も確認しながら進めることが欠かせません。
M&Aスキームによって必要な手続きは異なる
障がい福祉サービスのM&Aでは、主に次のようなスキームが利用されます。
| スキーム | 概要 | 主な確認事項 |
|---|---|---|
| 株式譲渡 | 法人はそのままで株主が変わる | 変更届の要否、役員変更など |
| 事業譲渡 | 事業のみを別法人へ承継する | 指定の取り扱い、契約の承継など |
| 会社分割 | 事業を会社分割により承継する | 指定権者との事前協議 |
どの方法が適しているかは、法人の状況や譲渡目的によって異なります。税務・法務だけでなく、行政手続きも踏まえて判断することが重要です。
障がい福祉サービスM&Aの手続きの流れ
障がい福祉サービスのM&Aは、契約だけで完了するものではありません。行政との調整や利用者・職員への引継ぎまで含めて計画的に進める必要があります。
① M&Aの相談・企業価値の把握
まずは売却目的を整理し、自社の現状を把握します。利用者数や稼働率、職員体制、財務状況などを整理し、企業価値や譲渡価格の目安を確認します。
この段階で、株式譲渡・事業譲渡など、どのスキームが自社に適しているかを検討し始めることも重要です。
② 買い手の選定・基本合意
秘密保持契約を締結したうえで買い手候補と面談し、条件が一致すれば基本合意書を締結します。
障がい福祉サービスでは、譲渡価格だけでなく、利用者への支援体制を継続できるか、職員を安心して引き継げるかといった観点も重要になります。
③ デューデリジェンス(DD)
買い手は財務・法務・労務・事業運営などを詳しく確認します。
障がい福祉サービス事業では、一般企業のDDに加え、指定基準への適合状況、人員配置、サービス管理責任者の配置状況、取得している加算、運営指導の履歴などを確認するケースもあります。
事前に必要資料を整理しておくことで、その後の手続きをスムーズに進めやすくなります。
④ 最終契約の締結
デューデリジェンスの結果を踏まえ、譲渡価格や引継ぎ条件を調整したうえで最終契約を締結します。
契約書には、譲渡対象となる資産・負債の範囲や従業員の引継ぎ方法などが定められるのが一般的です。
⑤ 行政手続き・指定の確認
契約締結後は、指定権者へ必要な届出や指定の取り扱いを確認します。
株式譲渡・事業譲渡では必要となる行政手続きが異なる場合があり、代表者変更や役員変更、所在地変更などに伴う届出が必要となるケースもあります。
提出書類や期限は指定権者によって異なる場合があるため、早い段階で相談しておくことが重要です。
⑥ 利用者・職員への引継ぎ
利用者やそのご家族、職員への説明も重要な手続きの一つです。
実際には、「サービス内容は変わりますか」「担当職員は変わりますか」といった質問を受けることも少なくありません。サービスの継続性や支援体制について丁寧に説明することで、不安の軽減につながります。
⑦ クロージング・事業承継完了
契約や行政手続きが完了すると、クロージングを迎えます。
その後も一定期間は旧経営者が引継ぎを支援するケースがあり、利用者・職員・関係機関が安心して移行できる体制を整えることが、円滑な事業承継につながります。
障がい福祉サービスの指定(許認可)は引き継げる?
障がい福祉サービスのM&Aを検討する際、多くの経営者が気になるのが「指定(許認可)はそのまま引き継げるのか」という点です。
結論として、指定の取り扱いはM&Aのスキームや事業の状況によって異なります。また、指定権者(都道府県・指定都市・中核市など)の運用によって必要な手続きが異なる場合もあるため、一律に判断することはできません。
そのため、M&Aの方向性が固まった段階で、仲介会社や専門家だけでなく、指定権者にも相談しながら進めることが重要です。
株式譲渡の場合
株式譲渡では、株主が変更されても法人そのものは存続します。そのため、指定の継続が認められるケースがあります。
ただし、代表者や役員、管理者などの変更に伴い、変更届の提出や追加資料の提出が必要となる場合があります。必要な手続きや提出期限は指定権者によって異なるため、事前確認を行いましょう。
事業譲渡の場合
事業譲渡では、事業を別法人へ承継するため、株式譲渡とは指定の取り扱いが異なる場合があります。
状況によっては、新たな指定申請や各種届出が必要となるケースもあります。行政手続きには一定の期間を要することもあるため、契約締結前からスケジュールを確認しておくことが重要です。
会社分割などその他のスキーム
会社分割などのスキームを採用する場合も、指定の取り扱いは個別に確認する必要があります。
契約上は事業を承継できても、指定制度上は別の対応が必要となることもあるため、法務・税務だけでなく行政手続きまで含めて検討することが重要です。
指定変更届が必要になる主なケース
M&A後には、指定権者への変更届などが必要となる場合があります。具体的な届出事項は自治体によって異なりますが、次のようなケースでは確認が必要です。
- 法人名称の変更
- 代表者の変更
- 役員の変更
- 事業所所在地の変更
- 管理者の変更
- サービス管理責任者の変更
- その他、指定内容に影響する変更
必要書類や提出期限は指定権者によって異なるため、最新の案内を確認しましょう。【要確認】
指定更新とのスケジュール調整も重要
指定には更新手続きが必要となる場合があります。M&Aの実施時期と指定更新のタイミングが重なると、準備する書類や確認事項が増える可能性があります。
スムーズな事業承継のためにも、指定更新の時期を確認しながらM&Aのスケジュールを組むことが望ましいでしょう。
無料相談・無料簡易査定のご案内
障がい福祉サービスのM&Aでは、採用するスキームによって必要な手続きや指定(許認可)の取り扱いが異なります。「自社ではどのような手続きが必要になるのか知りたい」という方は、まずは無料相談・無料簡易査定をご利用ください。
行政手続きで注意したいポイント
契約を締結しても、行政手続きが完了しなければ、予定どおりに事業承継を進められない可能性があります。ここでは、事前に確認しておきたいポイントを紹介します。
指定権者ごとに運用が異なる場合がある
障がい福祉サービスは障害者総合支援法に基づく制度ですが、実務上の提出書類や事前相談の方法などは指定権者によって異なる場合があります。
インターネット上の情報だけで判断せず、必ず管轄の指定権者へ確認しましょう。
行政への事前相談はできるだけ早く行う
買い手が決まってから相談するのではなく、M&Aの方向性が見えてきた段階で行政へ相談することで、必要な届出やスケジュールを整理しやすくなります。
契約締結後に追加手続きが判明すると、クロージングの延期につながる可能性もあります。
利用者との契約内容も確認する
M&Aのスキームによっては、利用者との契約手続きについて確認が必要になる場合があります。
利用者やご家族からは、「サービスは継続されますか」「これまでと同じ事業所を利用できますか」といった質問を受けることもあります。安心して利用を継続してもらうためにも、丁寧な説明を心がけましょう。
職員への説明と雇用の引継ぎ
障がい福祉サービスでは、人材が事業継続の重要な要素です。
特に、管理者やサービス管理責任者など、指定基準に関わる職員の配置は事業運営にも影響します。雇用条件や役割分担について十分に説明し、不安なく引継ぎを進められる体制を整えることが大切です。
障がい福祉サービスのM&Aでよくある失敗例
M&Aそのものではなく、事前準備や手続き不足によって想定外の対応が必要となるケースもあります。
行政への相談が遅れてしまった
契約締結後に行政へ相談した結果、追加書類や届出が必要となり、予定していたクロージング日程を変更せざるを得なくなるケースがあります。
指定制度を十分に理解しないまま進めてしまった
「株式譲渡だから何も手続きはいらない」「事業譲渡でもすぐに運営できる」と思い込んで進めると、後から必要な対応が判明することがあります。
指定制度については、指定権者や専門家へ確認しながら進めることが重要です。
利用者・職員への説明が不十分だった
説明不足によって、「サービス内容が変わるのではないか」「雇用条件が変わるのではないか」といった不安が広がることがあります。
説明するタイミングや内容を事前に整理し、関係者が安心できるよう丁寧に伝えることが大切です。
専門家への相談が遅れた
障がい福祉サービスのM&Aでは、法務・税務に加えて指定制度への理解も求められます。
実績のある専門家へ早めに相談することで、手続き漏れやスケジュールの遅延といったリスクを抑えやすくなります。
まとめ
障がい福祉サービスのM&Aでは、価格や契約条件だけでなく、指定(許認可)や行政手続きを含めて計画的に進めることが重要です。
特に、株式譲渡と事業譲渡では指定の取り扱いや必要な手続きが異なる場合があります。そのため、「どのスキームが自社に適しているか」「どのような行政手続きが必要になるか」を早い段階で整理しておくことが、円滑な事業承継につながります。
また、指定権者によって提出書類や運用が異なる場合もあるため、契約締結前から担当部署へ相談し、スケジュールに余裕を持って準備を進めることが大切です。
障がい福祉サービスは、利用者の生活を支える公共性の高い事業です。利用者や職員への影響にも配慮しながら適切に手続きを進めることで、安心して次の経営者へ事業を引き継ぎやすくなります。
障がい福祉サービスのM&Aをご検討中の方へ
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よくある質問
指定(許認可)は必ず引き継げますか?
いいえ。指定の取り扱いは、M&Aのスキームや事業の状況、指定権者の運用によって異なります。具体的な手続きは、管轄する指定権者へ事前に確認することが重要です。
行政への相談はいつ行えばよいですか?
M&Aの方向性が固まった段階で相談を始めることをおすすめします。契約締結後に相談すると、追加手続きが必要となりスケジュールへ影響する可能性があります。
利用者への説明はいつ行うべきですか?
案件ごとに適切なタイミングは異なりますが、秘密保持とのバランスを考慮しながら、必要な時期に丁寧な説明を行うことが重要です。
手続きにはどれくらいの期間がかかりますか?
事業規模やM&Aの手法、行政手続きの内容によって異なります。必要書類の準備や行政との調整期間も考慮し、余裕を持ったスケジュールを立てましょう。
赤字の事業所でもM&Aは可能ですか?
赤字だからといって必ずしもM&Aが難しくなるとは限りません。利用者数や立地、人員体制などを評価する買い手もいるため、まずは専門家へ相談し、自社の状況を整理することをおすすめします。
出典・参考資料
- 厚生労働省「障害者総合支援法」
- 厚生労働省「指定障害福祉サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準」
- 各都道府県・指定都市・中核市が公表する指定障害福祉サービス事業者向け手続き案内
※本記事は、障がい福祉サービスのM&Aに関する一般的な情報提供を目的として作成しています。制度や運用は法改正や自治体の取扱いにより変更される場合があります。実際の手続きについては、管轄する指定権者や税理士・弁護士などの専門家へご相談ください。
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