ショートステイ売却の相場は?M&Aの流れと注意点
ショートステイ(短期入所生活介護)は、M&Aによって第三者へ事業を引き継げる可能性があります。ただし、売却価格は売上だけで決まるものではありません。収益性や稼働率、職員体制、利用者の紹介経路、単独型・併設型といった運営形態、不動産や設備の状態などが総合的に確認されます。後継者不足や人材確保、収益面に不安がある場合も、廃業を決める前に売却可能性や相場感を把握しておくことが重要です。
ショートステイ(短期入所)の売却・M&Aとは
この記事では介護保険の「短期入所生活介護」を中心に解説
一般にショートステイと呼ばれる介護保険サービスには、「短期入所生活介護」と「短期入所療養介護」があります。厚生労働省の介護サービス情報公表システムによると、短期入所生活介護は、介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)などが短期間の入所を受け入れ、入浴・食事などの日常生活上の支援や機能訓練を提供するサービスです。一方、短期入所療養介護は、介護老人保健施設や介護医療院、医療機関などで療養・医療・看護・介護等を提供します。
| 項目 | 短期入所生活介護 | 短期入所療養介護 |
|---|---|---|
| 主な役割 | 生活支援・介護・機能訓練 | 療養・医療・看護・介護・機能訓練 |
| 主な提供場所 | 特別養護老人ホーム等 | 老健・介護医療院・医療機関等 |
| M&Aで確認したい事項 | 稼働状況、人員体制、施設形態、紹介経路など | 左記に加え医療・看護体制や母体施設との関係 |
なお、障害福祉制度にも「短期入所(ショートステイ)」という名称のサービスがありますが、介護保険の短期入所生活介護とは制度が異なります。厚生労働省では、障害福祉の短期入所を、介護者の疾病等により短期間の入所を必要とする障害者等に対して入浴・排せつ・食事等の支援を行うサービスと位置付けています。本記事では、特に断りがない限り介護保険の短期入所生活介護を対象とします。
M&Aなら事業を第三者へ引き継ぐ選択肢がある
親族や従業員に後継者がいない場合でも、M&Aによる第三者承継を検討できます。中小企業庁の「中小M&Aガイドライン(第3版)」では、M&Aを中小企業の事業承継や成長を支える手段の一つとして整理しています。
ショートステイでは、建物や設備だけでなく、職員、利用者との関係、地域の居宅介護支援事業所やケアマネジャーとの連携なども事業運営を支える重要な要素です。廃業とM&Aでは、これらの経営資源を次の運営者へ引き継げる可能性がある点が大きく異なります。
ショートステイの売却を検討する主な理由
ショートステイのM&Aは、業績が悪化したときだけ検討されるものではありません。経営者の年齢や後継者問題、事業ポートフォリオの見直しなど、さまざまな事情から売却が選択肢になります。
- 後継者候補がおらず、将来の事業承継に不安がある
- 経営者自身の年齢や体力を考え、引退を検討している
- 夜勤を含めた介護職員の採用・定着に苦労している
- 稼働率が伸びず、収益改善が難しい
- 複数の介護サービスを運営しており、主力事業へ経営資源を集中したい
- 廃業ではなく、職員の雇用や利用者のサービス提供環境をできる限り残したい
宿泊を伴うショートステイでは、日中のみの介護サービス以上に勤務シフトや夜間の人員体制が事業継続へ影響します。そのため、買い手も「現在の運営を承継後に続けられるか」という視点で事業を評価します。
ショートステイはM&Aでいくらで売れる?売却価格の考え方
ショートステイに一律の売却相場はない
ショートステイのM&Aに「売上の○年分」「1床○万円」といった一律の売却相場はありません。同程度の売上でも、利益が安定している事業所と赤字事業所、土地・建物を所有している事業所と賃貸している事業所では条件が大きく異なります。
M&Aでは、資産・負債、収益力、将来性、借入金、不動産、事業固有の強みやリスクなどを踏まえて企業・事業価値を検討し、最終的な譲渡価格は買い手との交渉で決まります。中小企業庁の中小M&Aガイドラインでも、企業価値評価はM&Aプロセスの重要な論点として整理されています。
買い手は「現在の収益を承継後も維持できるか」を見る
| 評価項目 | 確認されやすい内容 |
|---|---|
| 売上・利益 | 売上推移、利益、臨時的な費用・収益の有無 |
| 稼働状況 | 定員に対する利用状況、月別の変動、利用日数 |
| 職員 | 人数、資格、勤続状況、夜勤体制、採用状況 |
| 利用者獲得 | 居宅介護支援事業所やケアマネジャー等からの紹介状況 |
| 施設形態 | 単独型・併設型、従来型・ユニット型等 |
| 不動産・設備 | 所有・賃貸、賃料、修繕予定、設備更新 |
| 法令・請求 | 人員配置、加算、介護報酬請求、行政対応 |
たとえば高稼働でも、利用者紹介の大部分が現経営者個人の人脈に依存していれば、経営者交代後の再現性が課題になります。一方、複数の居宅介護支援事業所との関係が組織として構築され、営業や受入れ業務が標準化されていれば、買い手が承継後の運営をイメージしやすくなります。
単独型と併設型では評価の視点も異なる
厚生労働省の介護サービス情報公表システムでは、短期入所生活介護には従来型・ユニット型などさまざまな施設形態があることが示されています。
単独型では、その事業所だけで人員配置や収益が成立しているかが重要になります。一方、特養などへの併設型では、人員・厨房・建物・設備などを本体施設と共有している場合があるため、「ショートステイだけを切り出した後でも運営できるか」を確認しなければなりません。併設事業との一体性が高いほど、事業譲渡時の切り分け方が重要になります。
赤字・低稼働でも売却可能性がなくなるとは限らない
赤字という理由だけでM&Aの可能性がなくなるわけではありません。たとえば買い手が近隣で介護施設を運営しており、人材採用や本部機能、送迎、営業などを共有できれば、買収後に収支改善を目指せる場合があります。
ただし、赤字だから必ず売却できるわけでもありません。一時的な採用費増加による赤字なのか、慢性的な低稼働や大規模修繕など構造的な課題があるのかを整理しておくことが重要です。
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買い手がショートステイのM&Aで確認する7つのポイント
1.稼働率・利用実績
直近の売上だけでなく、月ごとの利用状況や繁閑差、利用日数などから、収益の安定性を確認します。複数年度の数字と、稼働率が上下した理由まで整理できていると事業の実態を説明しやすくなります。
2.ケアマネジャーなどからの紹介経路
どこから利用者紹介を受けているのか、特定の居宅介護支援事業所や担当者への依存度が高すぎないかも重要です。経営者交代後にも地域との関係を維持できる仕組みがあるかが確認されます。
3.職員数・資格・夜勤体制
必要な職員を確保できているかに加え、夜勤シフトを無理なく継続できるか、退職予定者はいないか、採用難が慢性化していないかなども重要な論点です。
4.管理者や経営者への依存度
営業、採用、請求、シフト作成、行政対応などを経営者や特定の管理者だけが担っている場合は、引継ぎリスクが高くなります。業務マニュアルや担当者を整備し、属人化を減らしておくことが望まれます。
5.単独型・併設型など施設の形態
併設型の場合は、本体施設との人員・設備・契約の共有状況を整理します。ショートステイ単独で譲渡するなら、譲渡後も人員や設備に無理が生じないかを事前に検討する必要があります。
6.土地・建物の所有状況と修繕負担
不動産を所有している場合は評価額、借入金、担保設定などが論点となります。賃貸の場合は賃貸借契約の承継や賃貸人との調整が必要になる場合があります。空調、浴室、消防設備、送迎車などの更新予定も整理しておきましょう。
7.介護報酬請求・加算・行政対応
介護報酬や加算が算定要件どおり請求されているか、人員配置や届出に不整合がないか、過去の運営指導への対応が完了しているかなどもデューデリジェンスで確認される可能性があります。
介護報酬改定はショートステイ売却にどう影響する?
令和6年度改定では長期利用がさらに適正化された
令和6年度(2024年度)介護報酬改定では、短期入所生活介護の長期利用について、施設入所と同様の利用形態となる場合に施設サービスとの報酬上の均衡を図る見直しが行われました。要介護3の例では、31~60日の長期利用者減算に加え、61日以降について単独型等に新たな報酬上の調整が設けられています。
M&Aでは年間売上だけでなく、どの利用者・利用日数によって売上が構成されているかを確認することが重要です。長期利用への依存度が高い場合は、現行制度を前提に収益の再現性を検証する必要があります。
令和8年度改定は2026年6月・8月に順次施行
令和8年度(2026年度)は、令和9年度の全面的な介護報酬改定を待たず期中改定が実施され、厚生労働省が示した改定率は+2.03%です。介護職員等処遇改善加算は2026年6月から拡充され、短期入所生活介護についても新しい加算率が設定されています。
また、2026年8月から基準費用額(食費)は1日1,445円から1,545円へ100円引き上げられました。低所得者の負担限度額についても一部見直されています。ショートステイの収支や利用者負担に関係するため、M&A時の収支分析では最新の料金設定や契約内容まで確認しておきたい項目です。
ショートステイの売却方法|法人全体の承継と事業譲渡
| 項目 | 株式会社の株式譲渡 | 事業譲渡 |
|---|---|---|
| 主な譲渡対象 | 会社の株式 | ショートステイ事業に必要な資産・契約等 |
| 運営法人 | 原則として同じ法人が存続 | 譲受法人へ事業を移す |
| 対象範囲 | 法人全体 | 対象事業を選定できる |
| 主な検討場面 | 法人全体を承継したい場合 | ショートステイだけを切り出したい場合など |
株式会社では株式譲渡による法人承継を検討できる
株式会社であれば、オーナーが保有する株式を買い手へ譲渡し、運営法人自体を存続させながら経営権を承継する方法があります。ただし法人が抱える資産・負債や契約関係なども基本的に法人内に残るため、買い手は財務・法務・労務等を詳しく確認します。
ショートステイだけを切り出す場合は事業譲渡を検討
複数の介護サービスを運営している法人がショートステイのみを譲渡する場合は、事業譲渡が候補になります。譲渡対象となる資産、契約、不動産、リースなどを特定し、それぞれの承継方法を整理します。
職員については特に注意が必要です。厚生労働省は、事業譲渡に伴って労働契約関係を譲受会社へ移転する場合、対象労働者の個別の同意が必要と説明しています。また、事業譲渡等指針は2026年5月25日から改正後の内容が適用されています。
社会福祉法人は株式譲渡とは異なる方法を検討する
社会福祉法人には株式会社のような株式がないため、株式譲渡によるM&Aはできません。合併や事業譲渡等を案件に応じて検討します。厚生労働省は「合併・事業譲渡等マニュアル」の2026年3月31日改訂版を公表しています。
介護事業の指定は譲渡スキームごとに事前確認する
介護サービスの指定については、M&Aを行えば自動的に買い手へ移ると考えないことが重要です。運営法人が変わる事業譲渡について、旧法人の廃止と譲受法人の新規指定を案内している自治体があります。ただし、必要な届出や申請、時期は譲渡方法や法人形態、指定権者によって異なるため、契約・クロージング日を決める前に所管行政へ確認してください。
ショートステイをM&Aで売却する流れ
- M&A会社へ相談・簡易査定:決算書や事業所情報を基に売却可能性を整理します。
- 資料収集・企業価値評価:売上、利益、稼働、人員、不動産、借入等を確認します。
- 買い手候補を探索:秘密保持に配慮しながら候補企業へ匿名情報等を提示します。
- トップ面談・条件交渉:価格、職員雇用、運営方針などを話し合います。
- 基本合意・デューデリジェンス:財務・法務・労務・介護報酬請求等を精査します。
- 最終契約:譲渡条件やクロージング条件を確定します。
- クロージング・引継ぎ:行政手続きや職員・利用者等への引継ぎを進めます。
中小企業庁の「中小M&Aガイドライン(第3版)」でも、企業価値評価、基本合意、デューデリジェンス、最終契約、クロージングといったM&Aプロセスが整理されています。
ショートステイ売却のデューデリジェンスで確認されやすい事項
デューデリジェンス(DD)とは、買い手が対象事業の実態やリスクを調査する手続きです。ショートステイでは、一般的な財務・法務確認に加えて介護事業特有の資料も重要になります。
- 人員配置や実際の勤務状況
- 資格証、雇用契約書、勤怠資料
- 介護報酬請求や各種加算の算定状況
- 未払い残業代などの労務リスク
- 事故・苦情・行政対応の履歴
- 利用契約書、重要事項説明書
- 土地・建物・消防設備・修繕履歴
- 借入金、リース、賃貸借契約
課題がある場合でも、早い段階で内容と対応策を整理しておけば買い手へ説明できます。交渉終盤で重要事項が初めて判明すると条件変更やスケジュールへの影響が大きくなりやすいため、売り手側でも事前に資料を点検しておくことが大切です。
ショートステイを売却しやすい状態にするための準備
稼働率と利用状況を月別に整理する
複数年度の利用状況を整理し、稼働が低下した時期には理由も説明できるようにします。数字そのものだけでなく、変動理由を示すことで事業の実態を伝えやすくなります。
職員・資格・シフトを一覧化する
職員数、保有資格、勤続年数、雇用形態、夜勤体制などを整理します。特定職員への依存度や採用面の課題も把握しておきましょう。
利用者の紹介経路を可視化する
どの居宅介護支援事業所等から紹介を受けているのかを整理します。経営者個人ではなく、事業所として地域との関係を築けているかを説明できると、買い手が承継後の利用者獲得を検討しやすくなります。
不動産・設備の修繕履歴を整理する
建物の修繕、空調・浴室設備、消防設備、送迎車両、リースなどについて、今後予定される投資まで整理します。将来の支出を含めて開示した方が、買い手も適切に条件を判断できます。
売却検討の情報管理を徹底する
売却情報が早い段階で職員や取引先へ広がると、離職や取引関係に影響する可能性があります。誰に、どの段階で、どこまで情報を伝えるかをM&Aアドバイザーと整理しながら進めることが重要です。
ショートステイの売却は介護M&Aに詳しい専門家へ相談する
ショートステイのM&Aでは、一般的な企業売却の知識だけでなく、介護報酬、人員配置、指定手続き、行政対応、併設施設との関係などを踏まえて進める必要があります。同じ規模の事業所でも、買い手の既存施設との距離やサービス構成、人材体制によって評価が変わる場合があります。
M&A承継サポートは、介護・医療・障がい分野に特化し、M&A成約100件以上の実績を持つメンバーが対応しています。着手金・中間金無料の完全成功報酬制で、2年以内に買収実績のある買い手200社以上のリストを保有しています。赤字や廃業を検討している案件にも対応しており、最短12日での成約実績があります。
ただし、買い手の有無、譲渡価格、成約までの期間は案件ごとに異なり、成約や一定の売却価格・期間を保証するものではありません。
まとめ|廃業前にショートステイの売却可能性を確認する
ショートステイはM&Aによって第三者へ承継できる可能性があります。売却時には売上だけでなく、収益性、稼働率、職員体制、利用者の紹介経路、施設形態、不動産、介護報酬請求や行政対応などが総合的に確認されます。
赤字や低稼働の場合も、直ちに売却対象外になるとは限りません。一方で、買い手が見つかることを前提にせず、廃業や他の承継方法も含めて比較することが重要です。
ショートステイの売却・M&Aに関するよくある質問
Q1.赤字のショートステイでも売却できますか?
赤字でもM&Aを検討できる場合があります。立地や職員、利用者基盤、買い手の既存事業との組み合わせなどが評価されることがあるためです。ただし、赤字でも必ず買い手が見つかるわけではありません。
Q2.ショートステイだけを売却できますか?
事業譲渡によってショートステイのみを対象とする方法は検討できます。ただし、併設施設と人員・設備を共有している場合は、切り離した後も指定基準や運営体制を満たせるか確認が必要です。
Q3.土地・建物が賃貸でも売却できますか?
賃貸物件でもM&Aを検討できます。賃貸借契約の承継条件や賃貸人との調整、賃料、契約期間などを事前に確認します。
Q4.職員は売却後もそのまま働けますか?
譲渡方法によって扱いが異なります。株式会社の株式譲渡では雇用主となる法人自体は原則変わりません。一方、事業譲渡で労働契約を譲受会社へ移転する場合は、対象労働者の個別同意が必要です。
Q5.ショートステイの指定は買い手へそのまま引き継げますか?
譲渡スキームによって異なります。運営法人が変わる事業譲渡について旧法人の廃止と譲受法人の新規指定を求める自治体もあります。指定権者によって必要な手続きや期限が異なる可能性があるため、M&Aのスケジュールを確定する前に所管行政へ確認してください。
Q6.ショートステイの売却にはどのくらいの期間がかかりますか?
一律の期間はありません。買い手探索、デューデリジェンス、条件交渉に加え、指定や契約の引継ぎが必要な案件では行政手続きのスケジュールも影響します。希望する退任時期がある場合は、余裕を持って相談を始めることが重要です。
※本記事は2026年8月時点の公表情報を基にした一般的な情報提供を目的としており、個別の税務・法務・労務・介護保険制度上の手続きについて助言するものではありません。具体的なM&Aスキーム、契約、税務、労務、指定・行政手続き等については、税理士、弁護士、社会保険労務士、所管行政機関その他の専門家へご確認ください。
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