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介護付き有料老人ホームの売却・M&A|相場と流れ

介護付き有料老人ホームは、後継者不足や人材採用難、赤字、修繕負担を抱えていても、M&Aによって入居者の生活と職員の雇用を引き継げる可能性があります。ただし、売却時は価格だけでなく、特定施設の指定、入居契約・前払金、不動産、職員体制を一体で整理することが重要です。

介護付き有料老人ホーム(特定施設)は売却できる?

介護付き有料老人ホームは、運営法人の株式や施設事業を第三者へ譲渡することで、事業承継を検討できます。親族や役職員に後継者がいない場合でも、外部の法人へ経営を引き継ぐことで、施設を閉鎖せずに運営を継続できる可能性があります。

ただし、一般企業の売却と異なり、次の4つを並行して確認しなければなりません。

  • 運営法人:株主、借入金、経営者保証、簿外債務
  • 指定・届出:特定施設の指定、有料老人ホームの届出、加算
  • 契約:入居契約、前払金、雇用契約、取引契約
  • 不動産・現場:土地建物、賃貸借、修繕、人員配置

介護付き有料老人ホームと特定施設の関係

介護付き有料老人ホームは、特定施設入居者生活介護の指定を受けた有料老人ホームです。特定施設入居者生活介護とは、特定施設に入居する要介護者に対し、日常生活上の世話、機能訓練、療養上の世話などを提供する介護保険サービスを指します。

一般型では施設に配置された職員が介護サービスを提供し、外部サービス利用型では、施設が基本サービスを担いながら、介護サービスの一部を委託先が提供します。売却前には、指定通知書、指定区分、運営規程、重要事項説明書を確認しましょう。
出典:厚生労働省「特定施設入居者生活介護」

住宅型有料老人ホームとの違い

比較項目介護付き有料老人ホーム住宅型有料老人ホーム
介護サービス施設が包括的に提供する一般型など入居者が訪問介護などを個別に利用
主な行政手続き有料老人ホームの届出と特定施設の指定有料老人ホームの届出。併設事業所は別途指定
主な収入特定施設の介護報酬と利用料など居住費等。介護サービスは各事業所が請求
売却時の重点項目指定、人員配置、加算、前払金、入居契約併設事業所、外部サービス、入居契約

住宅型やサービス付き高齢者向け住宅との売却実務の違いは、「サ高住と住宅型老人ホームの売却しやすさを比較」も参考にしてください。

介護付き有料老人ホームが売却される主な理由

  • 経営者や施設長が高齢となり、後継者がいない
  • 介護職員や看護職員を安定して採用できない
  • 稼働率の低下や人件費・給食費の上昇で収益が悪化している
  • 建物の老朽化により、大規模修繕や設備更新が必要になった
  • 複数事業のうち特定の施設を売却し、経営資源を集中したい

M&Aでは、入居者の生活環境や職員の雇用を維持しながら、買い手の採用力、資金力、管理部門を活用できる場合があります。一方、廃業では入居者の転居、職員の退職、前払金の返還、賃貸物件の原状回復などが必要になるため、M&Aと廃業の費用・負担を比較することが大切です。

どのような買い手が介護付き有料老人ホームを買収する?

買い手候補としては、同一地域で介護施設を運営する法人、別地域への進出を検討する介護事業者、医療・介護連携を強化したい法人などが考えられます。

特に近隣に既存施設を持つ買い手は、採用、教育、給食、購買、本部機能を共通化できる可能性があります。単独運営では赤字でも、買い手の既存拠点と一体運営することで改善余地が生まれる場合があります。

ただし、価格だけで買い手を選ぶと、成約後の職員離職や運営方針の不一致につながりかねません。入居者へのサービス方針、職員の雇用条件、施設名の継続、経営者の引継ぎ期間も比較します。

介護付き有料老人ホームの売却価格はどう決まる?

定員や売上だけで一律には決まらない

介護付き有料老人ホームに共通する固定的な売却相場はありません。同じ定員でも、稼働率、入居者構成、職員体制、不動産の所有関係、借入金、修繕の必要性によって評価は変わります。

また、運営法人の株式を譲渡するのか、施設事業だけを譲渡するのか、土地・建物まで含めるのかによっても価格は異なります。

主な企業価値評価の考え方

  • 時価純資産法:資産と負債を時価に修正し、純資産を基礎に評価する
  • 類似会社比較法:類似する会社の評価指標を参考にする
  • DCF法:将来生み出すと予測されるキャッシュフローを現在価値に換算する

中小M&Aでは、修正した純資産や正常収益力などを基礎に価格を検討する場合があります。ただし、企業価値評価は交渉の目安であり、その金額で成約できることを保証するものではありません。最終価格は、買収監査の結果や譲渡条件を踏まえて決まります。出典:中小企業庁「中小M&Aガイドライン(第3版)」

介護事業全般の評価方法については、「介護事業の売却相場【2026年版】」もあわせてご覧ください。

令和8年度介護報酬改定後の収益を確認する

2026年8月時点では、2026年6月施行の令和8年度介護報酬改定が最新です。今回の期中改定では、介護職員等処遇改善加算の対象や区分などが見直され、特定施設も改定後の算定構造に含まれます。

そのため、2026年度の収益を評価する際は、4~5月と6月以降を分けて確認し、改定後の加算収入と賃金改善額を正常収益へ適切に反映する必要があります。単純に直近決算だけを見ると、現在の収益構造とずれる可能性があります。
出典:厚生労働省「令和8年度介護報酬改定について」

価格を左右する主な項目

評価項目評価されやすい状態注意が必要な状態
稼働状況稼働率が安定し、紹介経路も分散空室が長期化し、紹介元が偏っている
人員体制必要職種が定着し、勤務表が安定派遣依存や離職が多く、欠員がある
行政対応届出が整理され、指摘事項が改善済み未届や介護報酬返還の懸念がある
不動産長期運営でき、修繕計画が明確契約期間が短く、大規模修繕が迫る
前払金未償却残高と保全状況が明確帳簿と契約上の残高が一致しない

株式譲渡と事業譲渡はどちらを選ぶべきか

項目株式譲渡事業譲渡
仕組み運営会社の株主が変わる選定した事業・資産を別法人へ移す
法人格変わらない運営主体が変わる
指定変更届などの要否を確認新規指定を含む手続きについて事前協議
契約原則存続するが、契約条項を確認移転同意や再契約が必要になる場合がある
債務・リスク法人内の債務やリスクも残る対象を選べるが、個別の移転手続きが多い

株式譲渡では運営法人が変わらないため、指定や契約の連続性を保ちやすい一方、過去の介護報酬請求、未払残業代、事故・紛争などのリスクも法人内に残ります。また、賃貸借契約や融資契約に株主変更時の承諾条項が設けられていないか確認が必要です。

事業譲渡では、譲渡する施設や資産を選べますが、運営主体が変わります。特定施設の指定、入居契約、雇用契約、取引契約、賃貸借契約について個別に整理しなければなりません。

事業譲渡に伴う新規指定、申請書類の簡素化、加算実績の通算などの取り扱いは、施設の継続性や自治体の運用によって異なるためです。

特定施設の指定と行政手続きの注意点

介護保険法と老人福祉法を分けて確認する

介護付き有料老人ホームでは、介護保険法上の特定施設入居者生活介護の指定と、老人福祉法上の有料老人ホームの届出を分けて確認します。

事業譲渡により買い手側の新規指定が必要となる場合、指定日が譲渡実行日より遅れると、サービス提供や介護報酬請求に空白が生じるおそれがあります。既存施設の承継であっても、指定が当然に認められるとは限らないため、指定権者への事前相談が必要です。

廃止・休止届の期限を確認する

老人福祉法第29条では、有料老人ホームを廃止・休止する場合、原則として廃止・休止日の1か月前までの届出が定められています。M&Aに伴う届出の名称、必要書類、提出先は自治体によって確認が必要です。
出典:厚生労働省「有料老人ホームを対象とした指導の強化について」

加算・人員配置の根拠資料を整理する

買い手は、管理者、生活相談員、看護・介護職員、計画作成担当者などの配置状況に加え、加算の届出と実際の運用が一致しているかを確認します。

勤務表、資格証、介護記録、加算要件の根拠資料に欠落がある場合は、売却活動前に補います。令和6年度に設けられた生産性向上に関する人員配置基準の特例を利用している場合は、適用要件、届出、定期報告の状況も確認対象です。

入居者・職員・不動産を引き継ぐ際の注意点

入居契約と前払金返還債務

入居一時金や前払金を受領している施設では、入居者別の受領額、償却期間、未償却残高、退去時の返還条件を確認します。

老人福祉法では、前払金の算定根拠の書面による明示や、返還債務に備えた保全措置が定められています。帳簿と契約書の残高が一致しない場合、価格調整や売り手の補償義務が交渉事項になる可能性があります。出典:厚生労働省「高齢者向け住まい」

職員への説明と雇用承継

交渉初期から情報を広げると、風評や離職につながる可能性があります。秘密保持の範囲を決め、買い手、雇用条件、説明担当者、発表時期が固まってから説明します。

株式譲渡では雇用主である法人は変わりませんが、事業譲渡では職員の同意を得たうえで雇用を引き継ぐ必要があります。有給休暇、勤続年数、退職金、給与、処遇改善の取り扱いを明文化しましょう。

土地・建物の権利関係

賃借物件の場合は、賃貸借期間、更新条件、賃料改定、修繕負担、譲渡・転貸禁止条項を確認します。事業譲渡や株主変更について、貸主の承諾が必要となる場合があります。

自社所有の場合も、抵当権、借入金、大規模修繕の予定を確認し、不動産も売却するのか、買い手へ賃貸するのかを検討します。

特定施設の指定、入居契約、不動産が複雑で判断しにくい場合は、無料簡易査定を利用することで、想定価格や検討可能な譲渡方法を整理する参考になります。売却を決めていない段階でもご相談いただけます。

介護付き有料老人ホームを売却する流れ

  1. 希望時期、譲渡対象、雇用継続などの条件を整理する
  2. 財務、指定、入居者、職員、不動産の資料を準備する
  3. M&A仲介会社へ相談し、企業価値評価を行う
  4. 施設名を伏せた匿名資料で買い手候補へ打診する
  5. 秘密保持契約後に詳細資料を開示する
  6. トップ面談で価格以外の承継方針も確認する
  7. 基本合意書を締結し、デューデリジェンスを受ける
  8. 指定権者、金融機関、貸主などと調整する
  9. 最終契約を締結し、決済と引き渡しを行う
  10. 入居者、家族、職員、取引先へ説明する

基本合意書を締結しても、その時点で売却が確定するわけではありません。価格の前提、独占交渉期間、買収監査後の条件変更を確認してください。詳しくは、「基本合意書とは?M&Aでの役割と法的拘束力を解説」をご覧ください。

売却前に準備したい資料

  • 直近の決算書、月次試算表、施設別損益
  • 指定通知書、変更届、加算届、運営規程
  • 運営指導結果、改善報告、介護報酬返還履歴
  • 入居契約書、重要事項説明書、前払金管理表
  • 職員名簿、資格、勤務表、雇用条件
  • 不動産登記、賃貸借契約、修繕履歴
  • 建築、消防、設備点検に関する資料
  • 事故、苦情、訴訟、紛争に関する記録

問題があっても、それだけで売却できなくなるとは限りません。資料を隠すよりも、問題の内容、原因、改善状況、再発防止策をまとめて開示した方が、買い手は承継後のリスクを判断しやすくなります。

赤字や借入金があっても売却できる?

赤字施設でも、立地、建物、職員、特定施設としての運営基盤、稼働率の改善余地、買い手との相乗効果によっては譲渡できる可能性があります。

一方、借入金や経営者保証は、M&A成立だけで自動的に解除されるものではありません。債務の返済・承継方法と保証解除について金融機関と協議し、最終契約の実行条件として明確にする必要があります。

赤字施設の評価や準備については、「赤字・債務超過でも介護事業は売却できる?」も参考にしてください。

介護付き有料老人ホームの売却に関するFAQ

Q1.赤字でも買い手は見つかりますか?

赤字だけで売却の可否は決まりません。立地、稼働率の改善余地、職員体制、修繕負担、買い手との相乗効果を含めて評価されます。ただし、資金繰りが厳しくなる前に相談した方が、検討時間を確保しやすくなります。

Q2.売却相場はいくらですか?

一律の相場はありません。正常収益、資産・負債、指定や加算、不動産価値、前払金返還債務、修繕負担などを基に個別に算定します。

Q3.特定施設の指定は引き継げますか?

株式譲渡では法人が存続しますが、変更届などの確認が必要です。事業譲渡では、新規指定を含む手続きについて指定権者との事前協議が必要です。

Q4.建物を借りていても売却できますか?

売却できる可能性はあります。ただし、賃貸借契約の承継、株主変更・事業譲渡に関する承諾条項、貸主の意向、残存期間を確認する必要があります。

Q5.売却にはどのくらいかかりますか?

案件ごとに異なり、一律の期間はありません。買い手探索、買収監査、行政手続き、貸主・金融機関との調整に要する期間を踏まえ、希望する引退時期から逆算して準備します。

まとめ

介護付き有料老人ホームの売却では、運営法人、特定施設の指定、入居契約・前払金、職員、不動産を一体で整理する必要があります。売却価格だけでなく、入居者の生活と職員の雇用をどのように引き継ぐかも、買い手選定の重要な基準です。

稼働率や人員体制、資金繰りが大きく悪化する前に資料を整理すれば、譲渡方法や買い手候補を比較する時間を確保しやすくなります。

本記事は2026年8月時点で確認した公表情報を基にした一般的な情報提供であり、個別の法務・税務・労務・行政手続きに関する助言ではありません。実際の売却では、管轄自治体、指定権者、税理士、弁護士、社会保険労務士などへご確認ください。

まずはお気軽にお問い合わせください。

松本 圭祐
記事監修
取締役
松本 圭祐
新卒で楽天株式会社に入社し、その後合同会社DMM.comに転職。オンライン英会話サービスの「DMM英会話」の立ち上げを担当し、3年で業界最大手となる。
日本チームのマネージャーを務めた他、新規事業や法人営業なども管掌。その後ヘルスケア・福祉関連の事業を行う上場企業に転職し、M&A支援事業の立ち上げ、グロース全般を担当。
今までにM&Aコンサルタントとして50件以上の案件を成約に導く。
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