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後継者不足の歯科医院|第三者承継と廃院を比較

後継者不足に悩む歯科医院でも、廃院だけが選択肢ではありません。外部の歯科医師や医療法人へ医院を引き継ぐ第三者承継、いわゆるM&A・売却によって、患者の診療やスタッフの雇用を継続できる可能性があります。ただし、すべての医院が希望条件で売却できるわけではありません。廃院を正式に決める前に、譲渡可能性と双方の実質負担を比較することが重要です。

後継者不足の歯科医院が直面する問題

歯科医院の後継者不足は、院長個人の引退問題だけではありません。後継者が決まらないまま診療継続が難しくなると、治療中の患者は新たな診療先を探す必要があり、スタッフも転職を迫られる可能性があります。訪問歯科などを担っている場合は、地域の診療体制にも影響します。

厚生労働省の「令和6(2024)年医療施設(動態)調査」によると、2024年10月1日時点の活動中の歯科診療所は6万6,378施設で、前年より440施設減少しました。また、2023年10月から2024年9月までに、開設は1,363施設、再開は111施設であった一方、廃止は1,748施設、休止は166施設でした。

これは2026年8月時点で公表されている最新の年次結果です。ただし、同調査は廃止・休止の理由を後継者不足に限定して集計したものではないため、「後継者不足によって1,748施設が廃止された」と解釈することはできません。

出典:厚生労働省「令和6(2024)年医療施設(動態)調査」

院長の体調が悪化してからでは選択肢が狭まりやすい

歯科医院には、治療途中の患者、診療録、スタッフの雇用、医療機器のリース、保険医療機関の指定など、一般企業とは異なる引継ぎ事項があります。

院長の体調が急に悪化すると、買い手との面談や引継ぎ診療、資料の準備に対応できなくなる場合があります。引退時期が決まっていなくても、医院が通常どおり診療できている段階で、第三者承継と廃院の両方を調べておくことが大切です。

後継者がいない歯科医院の4つの選択肢

選択肢主な候補者メリット主な課題
親族内承継子ども・親族理念や診療方針を伝えやすい本人の意思、歯科医師資格、育成期間
勤務医承継院内の勤務歯科医師患者やスタッフを理解している承継資金と経営への意思
第三者承継外部の歯科医師・医療法人診療基盤を残せる可能性がある買い手探索と条件調整
廃院なし経営を完全に終了できる患者対応、雇用、撤去、行政手続き

第三者承継とは、親族や院内の勤務医ではない外部の歯科医師・医療法人へ医院を引き継ぐことです。そのために事業譲渡などのM&A手法を用いることから、一般には「歯科医院の売却」とも呼ばれます。

親族や勤務医に承継の意思がない場合、現実的な比較対象は第三者承継と廃院になります。

第三者承継と廃院は何が違う?7項目で比較

比較項目第三者承継廃院
患者後継院長による診療継続を検討できる転院案内や治療途中の患者への対応が必要
スタッフ買い手との合意により雇用承継を検討できる退職説明や労務手続きが必要
設備・内装買い手が継続利用できる場合がある撤去・処分・原状回復が必要になる場合がある
金銭面譲渡対価を受け取れる可能性がある設備処分や契約終了に伴う支出が生じ得る
必要期間買い手探索、調査、契約、引継ぎが必要患者対応、雇用、契約、届出の整理が必要
借入・リース返済・解除・承継について個別に調整残債や解約条件の整理が必要
医院の継続名称や診療方針を残せる場合がある医院としての診療は終了する

比較するときは、「売却価格がいくらになるか」だけで判断しないことが重要です。第三者承継では、譲渡対価から借入金、リース残債、税金、専門家費用などを差し引きます。一方、廃院では医療機器の処分、テナントの原状回復、スタッフ対応などの費用が生じる場合があります。

それぞれの収入と支出を整理し、最終的な手残り、必要期間、患者・スタッフへの影響を比較しましょう。

廃院手続きを始める前に、自院の譲渡可能性を確認しておくと、選択肢を比較しやすくなります。
M&A承継サポートでは、売却を決めていない段階でも、秘密厳守で無料相談・無料簡易査定を受け付けています。まずは相場感や検討課題を整理するところからご相談いただけます。

後継者不足の歯科医院を第三者承継するメリット

患者の診療を継続できる可能性がある

買い手が同じ場所で診療を続ければ、患者は大きく通院環境を変えずに済む可能性があります。矯正、インプラント、補綴など治療期間が長い患者についても、治療計画、費用の精算方法、診療記録の扱いを整理したうえで引継ぎを検討できます。

スタッフの雇用承継を検討できる

スタッフが継続勤務すれば、後継院長は患者対応や院内業務を理解している人材を確保できます。ただし、事業譲渡では雇用契約が自動的に移るわけではありません。

厚生労働省の事業譲渡等指針では、労働契約を譲受側へ承継する場合、承継予定の労働者から承諾を得る必要があるとされています。承継先の概要、仕事内容、勤務地、給与、勤務時間などを説明し、本人と協議することが必要です。

出典:厚生労働省「事業譲渡等を行うに当たって会社等が留意すべき事項に関する指針」

設備や患者基盤を譲渡価値として評価してもらえる

廃院すれば処分対象になるユニット、画像診断装置、内装なども、買い手が利用できれば譲渡対象に含められる場合があります。立地、患者基盤、スタッフ体制、訪問歯科の取引関係など、決算書だけでは分からない要素も評価材料になります。

ただし、老朽設備に多額のリース残債がある場合や、テナント契約を引き継げない場合は、譲渡条件に影響します。資産だけでなく、契約と債務をセットで確認することが必要です。

段階的な引退を検討できる

買い手との合意により、譲渡後も一定期間だけ勤務歯科医師として残る方法があります。患者やスタッフを後継院長へ紹介し、段階的に引退する形です。

継続勤務する場合は、勤務期間、報酬、診療日数、診療上の権限、契約終了条件を明確にします。

第三者承継のデメリットと注意点

希望条件で買い手が見つかるとは限らない

第三者承継は、必ず成立するものではありません。買い手は診療圏、収益、スタッフ、設備、賃貸条件、院長の引継ぎ協力などを総合的に判断します。

譲渡価格を優先するのか、スタッフの雇用や早期引退を優先するのかによっても、候補となる買い手は変わります。譲れない条件と調整できる条件を分けておくことが大切です。

情報管理と買い手の確認が必要

売却情報が早い段階で広がると、スタッフの離職や患者の不安につながるおそれがあります。初期段階では医院を特定しにくい資料を使用し、詳細情報は秘密保持契約後に段階的に開示する方法が一般的です。

また、価格だけで買い手を選ばず、資金力、買収実績、診療方針、スタッフの雇用方針も確認します。中小企業庁の「中小M&Aガイドライン(第3版)」では、手数料、業務内容、利益相反、経営者保証、不適切な買い手への対応などが整理されています。

出典:中小企業庁「中小M&Aガイドライン」

個人医院と医療法人では承継方法が異なる

個人経営の歯科医院

個人医院では、医療機器、内装、在庫、屋号、契約上の地位などを選んで譲る事業譲渡が中心です。開設者が変わるため、診療所や保険医療機関に関する廃止・開設等の手続きも必要になります。

医療法人が運営する歯科医院

医療法人では、法人の種類、定款、社員・役員構成、出資持分の有無、運営する施設数などによって方法が異なります。社員や役員の変更、出資持分がある場合の持分の取扱い、事業譲渡、合併などを組み合わせて検討します。

株式会社の株式譲渡と同じように、出資持分を譲るだけで経営権が当然に移るとは限りません。社員・役員の変更、都道府県への届出・認可、定款などを確認する必要があります。

保険医療機関の指定は事前確認が必要

開設者変更後も、保険医療機関の指定が自動的にそのまま移るとは限りません。経営譲渡後も患者が継続して診療を受ける場合など、一定の要件を満たすと遡及指定が認められることがあります。

なお、保険医療機関等の遡及指定および機能移転の取扱いは、2026年9月1日から変更されます。承継日や申請時期によって必要書類・要件が異なる可能性があるため、必ず管轄の地方厚生局へ事前に確認してください。

出典:関東信越厚生局「保険医療機関・保険薬局の指定申請手続き」

廃院を選んだ場合に必要となる対応

患者・スタッフへの対応

治療途中の患者には、治療内容や緊急性に応じて、転院先の案内や診療情報の提供を行います。長期治療では、治療計画や支払済み費用の整理も必要です。

スタッフには、廃院時期、退職日、賃金、有給休暇、社会保険などを説明します。解雇や雇止めの取扱いは契約内容によって異なるため、社会保険労務士等への確認が必要です。

廃止届と診療録の保存

医療法第9条では、診療所を廃止したときは10日以内に都道府県知事へ届け出ることとされています。実際の提出窓口は保健所等になる場合があります。

また、歯科医師法第23条により、診療録は5年間保存しなければなりません。廃院後も保存義務は残るため、保存場所、個人情報の管理方法、患者から開示を求められた場合の連絡先を決めておきます。エックス線画像など診療録以外の資料は、資料ごとの保存義務や期間も確認してください。

出典:厚生労働省「医療法」厚生労働省「歯科医師法」

設備・契約・税務の整理

医療機器は、医院の所有物かリース物件かによって処分方法が異なります。テナントでは、内装や配管まで撤去する原状回復を求められることもあります。敷金、医療廃棄物、薬品、レセコン、ホームページ、電話番号なども整理が必要です。

国税庁の案内では、2026年1月1日以後に個人事業を廃止した場合の「個人事業の開業・廃業等届出書」は、廃業した年分の所得税の確定申告期限までに提出するとされています。青色申告、消費税、インボイス、給与支払事務所等に関する届出は別途確認が必要です。

出典:国税庁「廃業する場合」

小規模・地方・赤字の歯科医院でも売却できる?

小規模、地方、赤字という理由だけで、第三者承継が不可能と決まるわけではありません。買い手は現在の利益だけでなく、赤字の原因、診療圏、患者基盤、スタッフ、設備、訪問歯科の実績、改善余地などを確認します。

たとえば、院長の診療日数を減らしたことで一時的に売上が下がっている医院と、患者数が継続的に減少している医院では、買い手の評価が異なります。勤務継続を希望する歯科衛生士がいる、競合が少ない、賃料が適正といった条件が評価される場合もあります。

反対に、院長個人への依存が強い、スタッフが全員退職予定、賃貸人の承諾を得られない、会計資料と実態が一致しないといった事情は、承継を難しくする要因になります。

歯科医院の売却価格を左右する主な要素

  • 過去の売上・利益と、院長報酬等を調整した実質的な収益力
  • 預金、医療機器などの資産と、借入金・リースなどの負債
  • 患者数、リコール率、保険診療と自費診療の構成
  • 歯科衛生士などのスタッフ体制
  • 立地、診療圏、賃貸借契約の条件
  • 医療機器の年式、修繕・更新の必要性
  • 院長が引継ぎ診療に協力できる期間

歯科医院の売却価格に、公的な一律相場はありません。現在の利益に一定年数を掛けるだけではなく、資産・負債、今後必要となる設備投資、買い手が引き継げる診療基盤などを踏まえて個別に査定します。

廃院を決める前に避けたい5つの行動

  1. 買い手を探す前に廃院を確定事項として告知する
    スタッフの退職が進むと、診療継続と承継が難しくなる可能性があります。
  2. 急激に診療日や患者数を減らす
    直近の業績低下が、買い手の評価や融資判断に影響する場合があります。
  3. 医療機器や内装を先に撤去する
    買い手が利用できた設備まで失われる可能性があります。
  4. テナント解約を先に確定させる
    同じ場所で診療を続けられなければ、患者基盤を引き継ぎにくくなります。
  5. 資料を整理せず判断を先延ばしにする
    体調悪化後では、資料準備や買い手対応の負担が大きくなります。

スタッフへの説明を不当に遅らせるという意味ではありません。買い手候補や承継条件、雇用の取扱いを整理したうえで、スタッフが判断できる情報を適切な時期に伝えることが重要です。

歯科医院の第三者承継を進める流れ

  1. 現状と希望条件を整理する
    決算書、患者数、スタッフ、借入・リース、物件契約などを確認します。
  2. 無料相談・簡易査定を受ける
    譲渡可能性、価格に影響する要素、想定される買い手を確認します。
  3. 秘密保持のもとで買い手候補を探す
    初期段階では医院を特定しにくい情報を使用します。
  4. 面談・条件交渉・基本合意を行う
    価格、雇用、引継ぎ期間、設備、債務などを調整します。
  5. デューデリジェンスを受ける
    買い手が財務、法務、労務、行政手続きなどを確認します。
  6. 最終契約と行政手続きを進める
    譲渡条件を契約書へ落とし込み、保健所や地方厚生局等と調整します。
  7. 患者・スタッフ・診療体制を引き継ぐ
    承継日から逆算して、説明と業務移行を進めます。

詳しい手順は、内部リンク「歯科医院M&Aの流れ」もあわせてご覧ください。

後継者不足の歯科医院に関するよくある質問

後継者がいない歯科医院は必ず売却できますか?

必ず売却できるとは限りません。診療圏、収益、患者基盤、スタッフ、設備、物件契約、希望条件などを買い手が総合的に判断します。廃院を決める前に簡易査定を受けることで、譲渡可能性を確認できます。

赤字や設備が古い医院でも相談できますか?

相談できます。赤字の原因や改善可能性、立地、患者基盤、スタッフ体制などが評価される場合があります。ただし、設備の更新費用やリース残債は譲渡条件に影響します。

スタッフや患者にはいつ伝えるべきですか?

買い手候補や承継条件が固まる前の公表は、情報漏えいにつながる可能性があります。秘密保持のもとで検討し、雇用契約や治療状況を踏まえて説明時期を計画します。

個人経営の歯科医院も第三者承継できますか?

可能です。医療機器、内装、在庫、契約上の地位などを事業譲渡で引き継ぐ方法が中心ですが、診療所や保険医療機関に関する廃止・開設等の手続きが必要です。

売却後も院長として診療を続けられますか?

買い手との合意により、一定期間勤務歯科医師として診療を続ける方法があります。勤務期間、報酬、診療日数、権限などを契約で明確にします。

まとめ|廃院を決める前に第三者承継の可能性を確認しよう

後継者がいない歯科医院でも、第三者承継によって患者、スタッフ、設備、地域の診療体制を引き継げる可能性があります。一方、希望条件に合う買い手が見つからない場合もあるため、第三者承継と廃院の費用・期間・負担を比較することが大切です。

テナント解約、設備撤去、廃院告知を進めた後では、売却の選択肢が狭まる可能性があります。売却を決めていなくても、医院が通常どおり診療できている段階で、相場感と譲渡可能性を確認しておきましょう。

免責事項
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の税務・法務・労務・行政手続きに関する助言ではありません。歯科医院の開設・廃止、保険医療機関の指定、医療法人の承継、税金等の取扱いは、法人形態、所在地、契約内容、取引方法、手続時期によって異なります。実際に手続きを進める際は、管轄の保健所・地方厚生局・税務署等および弁護士、税理士、社会保険労務士などの専門家へご確認ください。

まずはお気軽にお問い合わせください。

松本 圭祐
記事監修
取締役
松本 圭祐
新卒で楽天株式会社に入社し、その後合同会社DMM.comに転職。オンライン英会話サービスの「DMM英会話」の立ち上げを担当し、3年で業界最大手となる。
日本チームのマネージャーを務めた他、新規事業や法人営業なども管掌。その後ヘルスケア・福祉関連の事業を行う上場企業に転職し、M&A支援事業の立ち上げ、グロース全般を担当。
今までにM&Aコンサルタントとして50件以上の案件を成約に導く。
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