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後継者不足のクリニック売却|第三者承継と閉院を比較

後継者がいないクリニックでも、すぐに閉院を決める必要はありません。外部の医師や医療法人へ第三者承継できれば、患者の診療環境やスタッフの雇用を残し、院長が譲渡対価を得られる場合があります。本記事では、後継者不足に悩む院長に向けて、クリニック売却と閉院の違い、判断基準、2026年時点の行政手続きを解説します。

後継者がいないクリニックが選べる4つの選択肢

院長が引退を考えたときの選択肢は、閉院だけではありません。主に次の4つがあります。

  • 親族内承継:子どもや親族へ経営を引き継ぐ
  • 院内承継:勤務医や医療法人の役員へ引き継ぐ
  • 第三者承継:外部の医師や医療法人へ譲渡する
  • 閉院:診療を終了し、設備・契約・債務などを整理する

親族や勤務医に後継者候補がいなくても、第三者承継であれば外部から候補を探せます。一般に「クリニック売却」「医院売却」と呼ばれますが、実際の手法は個人開設か医療法人かによって異なります。

患者数の減少、院長の健康状態、債務の状況などによっては、第三者承継より閉院が適するケースもあります。最初から一方に決めるのではなく、両方に必要な費用と手続き、実現可能性を比較することが大切です。

第三者承継と閉院は何が違う?7項目で比較

比較項目第三者承継閉院
患者後継者のもとで診療を継続できる場合がある転院先の案内や診療情報の提供が必要
スタッフ条件を協議し、継続雇用を目指せる退職・解雇に伴う説明や労務手続きが必要
院長の収支譲渡対価を得られる場合がある原状回復、設備処分、契約解約などの費用が生じる
借入金・リース買い手や金融機関などと引継ぎ条件を調整する返済、解約、残債処理などが必要
行政手続き手法に応じて開設・廃止、指定、役員変更などを行う診療所や保険医療機関の廃止手続きなどを行う
引退時期買い手探索と行政手続きの状況に左右される院長側で決めやすいが、閉院準備期間は必要
引退後一定期間の診療や引継ぎを求められる場合がある診療終了後も記録保存や清算対応が残る場合がある

第三者承継では、借入金、個人保証、雇用、リース契約などが当然に買い手へ移るわけではありません。誰が何を引き継ぎ、どの債務を負担するのかを契約で明確にします。

後継者不足のクリニックが第三者承継を選ぶメリット

患者の診療環境を残しやすい

かかりつけのクリニックが閉院すると、患者は新たな受診先を探さなければなりません。第三者承継によって診療場所や主な診療科を維持できれば、患者の負担を抑えながら地域の医療機能を残しやすくなります。

スタッフの継続雇用を協議できる

買い手にとって、経験のある看護師や医療事務スタッフは重要な経営資源です。ただし、個人クリニックの事業譲渡では、労働契約は自動的に承継されません。厚生労働省の事業譲渡等指針も踏まえ、スタッフへ十分な情報を提供し、承継について本人の承諾を得る必要があります。

出典:厚生労働省「事業譲渡又は合併を行うに当たって会社等が留意すべき事項に関する指針の一部改正等について」(2026年1月20日告示、同年5月25日適用)

設備や患者基盤が譲渡価値になる場合がある

内装、医療機器、立地だけでなく、患者基盤、スタッフ体制、地域での認知なども買い手の判断材料です。閉院時には処分費用がかかる設備でも、承継先が継続使用できれば譲渡対象として評価されることがあります。

引退時期や引継ぎ方法を調整できる

「譲渡日に完全引退する」「一定期間は非常勤で診療する」など、院長の希望と買い手の要望を協議できます。ただし、希望条件がすべて認められるわけではなく、患者への引継ぎや行政手続きに必要な期間も考慮しなければなりません。

第三者承継のデメリットと注意点

  • 希望する時期までに買い手が見つからない場合がある
  • 譲渡価格や引退後の勤務条件が希望どおりになるとは限らない
  • 情報が漏れるとスタッフや取引先に不安が広がるおそれがある
  • 財務・労務・診療報酬請求などの資料開示が必要になる
  • 行政指導、未払残業代、返還請求リスクなどが条件に影響する場合がある

譲渡価格だけで買い手を選ぶことも避けたいところです。診療方針、スタッフの処遇、患者への対応、院長の引継ぎ期間まで確認し、優先順位を決めて交渉します。

個人クリニックと医療法人で売却方法は異なる

個人クリニックは事業譲渡が中心

個人開設の場合は、医療機器、内装、在庫、電話番号、ウェブサイトなど、合意した資産を買い手へ譲る事業譲渡が中心です。賃貸借契約、医療機器のリース、雇用関係などは、契約相手の承諾や個別手続きが必要になります。

開設者が変わる場合、原則として従前の保険医療機関を廃止し、新たな開設者が開設・指定手続きを行います。診療を途切れさせないためには、遡及指定の可否を含め、早期に地方厚生局へ確認することが重要です。

医療法人は法人形態・定款・持分を確認する

医療法人では、法人を残して社員・理事・理事長を交代する方法や、診療所の事業を別の医療法人へ譲渡する方法が考えられます。社団・財団の別、出資持分の有無、定款、社員構成、借入金、基金などによって適切な手法は変わります。

同じ医療法人が開設者として残る場合と、別法人へ事業を移す場合では、保険医療機関の指定や契約の扱いも異なります。役員変更届、登記、定款変更認可などの要否を所管行政庁へ確認してください。

2026年の制度変更を踏まえた行政手続きの注意点

遡及指定の取扱いは2026年9月1日から変更

厚生労働省は、保険医療機関の遡及指定と機能移転について、2026年9月1日から新たな取扱いを適用するとしています。

所在地を変えず、開設者だけを変更する場合でも、譲受人が親族や従来から勤務する保険医に当たらない第三者承継などは、個別判断を要する「その他の場合」に該当する可能性があります。その場合、遡及指定を希望する日の原則3か月前までに予定届出書を提出し、地方厚生局と事前相談を行う手続きが示されています。

診療録や患者の引継ぎ、主な標榜診療科、医師・職員の引継ぎ状況なども判断材料です。承継スキームによって適用関係が異なるため、契約日や譲渡日を決める前に管轄の地方厚生局へ確認してください。

出典:厚生労働省「保険医療機関等の遡及指定及び機能移転の取扱いについて」(2026年6月5日通知、原則同年9月1日適用)

保険医療機関の管理者要件も確認する

2026年4月1日から、新たに保険医療機関の管理者となる人には、保険医であることや、原則として一定期間の保険診療等への従事経験などの要件が設けられました。

2026年4月1日時点で管理者だった人には経過措置があり、適用される要件も経歴などによって異なります。買い手側が予定する管理者が要件を満たすか、厚生労働省の案内と地方厚生局で確認します。

診療録の承継と個人情報保護

個人情報保護委員会は、医療機関の廃止などに伴い別の医療機関が事業を承継する場合、診療録等の個人データの提供は、個人情報保護法上の「事業の承継に伴う提供」に当たり、承継先は第三者に該当しないため、患者の個別同意がなくても提供できると示しています。

ただし、承継と無関係な目的での利用まで認められるわけではありません。承継契約で対象となる記録、利用目的、保存方法、問い合わせ対応、安全管理措置を明確にする必要があります。

出典:個人情報保護委員会「医療・介護関係事業者における個人情報の取扱いに関するFAQ Q4-27」

クリニックを第三者承継できるか確認する7項目

  • 直近数年の売上・利益・患者数の推移を説明できるか
  • 院長が交代しても患者が通院を続けやすいか
  • 資格者を含むスタッフが定着しているか
  • 立地や診療圏に今後も医療需要が見込めるか
  • 賃貸借契約や医療機器を引き継げるか
  • 借入金、個人保証、リース残高を把握しているか
  • レセプト、労務、行政対応に重大な懸念がないか

赤字でも、立地、診療科、スタッフ、設備、買い手との相乗効果が評価されるケースがあります。反対に黒字でも、院長個人への依存度が高く、交代後の患者維持が難しい場合は評価が下がることがあります。

閉院を決める前に、第三者承継の可能性を確認してみませんか。
M&A承継サポートでは、秘密厳守で無料相談・無料簡易査定に対応しています。査定を受けても売却を決断する必要はありません。閉院費用と比較するための材料としてご活用ください。

クリニックの売却可能性を左右する要素

収益性と患者基盤

買い手は売上だけでなく、人件費や賃料を差し引いた収益性、患者数の推移、診療内容、自費診療と保険診療の構成などを確認します。一時的な利益より、院長交代後も診療を継続できるかが重要です。

スタッフと業務体制

有資格者が定着し、業務手順が整理されているクリニックは、承継後の運営を想定しやすくなります。診療、採用、経理のすべてを院長一人が担っている場合は、承継前に業務を整理すると買い手の不安を減らせます。

不動産・医療機器・契約関係

賃貸物件では、貸主が新しい開設者との契約を認めるかが重要です。医療機器も、所有、リース、割賦購入のどれに当たるかを確認します。高額なリース残高や修繕が必要な設備は、譲渡価格と契約条件に影響します。

財務・法務・行政上のリスク

未払債務、個人保証、労務問題、診療報酬の返還リスクなどは、買い手による調査の対象です。問題を隠さず早い段階で専門家へ共有し、対応方針を検討します。

後継者不足のクリニックを第三者へ承継する流れ

  1. 現状整理:引退希望時期、希望条件、財務・契約状況を整理します。
  2. 簡易査定:決算書や申告書、患者数、設備、スタッフ体制を確認します。
  3. 買い手探索:クリニック名を伏せた匿名資料で候補を探します。
  4. 秘密保持と情報開示:候補者を絞り、詳細資料を段階的に開示します。
  5. 面談・条件交渉:価格、雇用、診療方針、引継ぎ期間を協議します。
  6. 基本合意・調査:財務・法務・労務・行政面のデューデリジェンスを行います。
  7. 最終契約・引継ぎ:行政申請、契約変更、患者・スタッフへの説明を進めます。

仲介会社へ依頼するときは、業務内容、手数料、専任条項、直接交渉の制限、契約終了後の扱いなどを確認しましょう。中小企業庁の「中小M&Aガイドライン(第3版)」も契約内容を確認する際の参考になります。

第三者承継が難しい場合に必要となる閉院対応

  • 患者への告知、転院先の案内、診療情報の提供
  • スタッフへの説明と退職・解雇に関する手続き
  • 診療録、画像、検査記録などの保存・管理
  • 医薬品、医療廃棄物、医療機器の処分
  • リース、保守、賃貸借などの契約解約
  • 原状回復工事と敷金等の精算
  • 保健所、地方厚生局、都道府県などへの届出
  • 借入金、買掛金、税金などの精算

医師法第24条では、診療録を5年間保存することが定められています。閉院後に誰がどこで保管し、患者からの問い合わせにどう対応するかを決めておかなければなりません。診療録以外の記録には異なる保存期間が定められている場合があります。

医療法人を解散する場合は、診療所の廃止とは別に、解散認可、登記、清算、債権者対応、清算結了届などが関係します。残余財産の扱いも設立時期、持分の有無、定款によって異なるため、所管行政庁、税理士、弁護士へ確認してください。

第三者承継と閉院で迷ったときの判断手順

  1. 院長の健康状態と引退希望時期を明確にする
  2. 閉院に必要な費用・期間・作業を洗い出す
  3. 第三者承継の可能性と想定条件を査定する
  4. 患者、スタッフ、譲渡対価、引退時期の優先順位を決める
  5. 家族や専門家と比較し、最終方針を決める

判断を先送りすると、院長の体調悪化や患者数の減少により、選べる条件が狭くなる場合があります。一方で、急いで不利な契約を結ぶ必要もありません。売却と閉院の両方を検討できる段階で情報を集めることが重要です。

後継者不足のクリニック売却に関するFAQ

赤字のクリニックでも売却できますか?

赤字だけで売却できないとは決まりません。立地、診療科、スタッフ、設備、患者基盤、買い手との相乗効果などが評価される場合があります。ただし、赤字の原因と改善可能性を説明できる資料が必要です。

スタッフに知られずに買い手を探せますか?

初期段階では、クリニック名を伏せた匿名資料で候補を探せます。ただし、雇用を承継するにはスタッフへの説明と承諾が必要です。開示範囲と説明時期を買い手・専門家と計画します。

借入金やリースが残っていても相談できますか?

相談は可能です。ただし、買い手が当然に引き継ぐわけではなく、金融機関やリース会社の承諾が必要になる場合があります。残高、契約期間、個人保証の有無を一覧化しておきましょう。

売却後すぐに引退できますか?

契約条件と行政手続きによります。買い手から一定期間の診療や患者への引継ぎを求められる場合もあるため、対応できる期間を事前に伝えて交渉します。

買い手が見つからなかった場合はどうなりますか?

条件や探索範囲を見直して再探索する方法と、閉院準備へ移行する方法があります。探索と閉院準備を一定期間並行し、最終判断の期限を決めておくことも一案です。

まとめ|閉院前にクリニック売却の可能性を確認する

後継者がいないクリニックでも、外部の医師や医療法人への第三者承継によって、患者の診療環境やスタッフの雇用を残せる場合があります。一方、買い手が見つからない場合や、債務・健康状態などの事情によっては、閉院が現実的な選択になります。

個人クリニックと医療法人では承継方法が異なります。特に2026年9月1日から適用される遡及指定の取扱いでは、承継内容によって早期の予定届出や事前相談が必要になる可能性があります。譲渡日を決める前に、専門家と管轄行政機関へ確認してください。

本記事は2026年8月25日時点の法令・公表資料に基づく一般的な情報であり、個別の税務・法務・労務・行政手続きに関する助言ではありません。実際の承継・閉院に際しては、管轄の保健所・地方厚生局・都道府県、税理士、弁護士、社会保険労務士などへご確認ください。

まずはお気軽にお問い合わせください。

松本 圭祐
記事監修
取締役
松本 圭祐
新卒で楽天株式会社に入社し、その後合同会社DMM.comに転職。オンライン英会話サービスの「DMM英会話」の立ち上げを担当し、3年で業界最大手となる。
日本チームのマネージャーを務めた他、新規事業や法人営業なども管掌。その後ヘルスケア・福祉関連の事業を行う上場企業に転職し、M&A支援事業の立ち上げ、グロース全般を担当。
今までにM&Aコンサルタントとして50件以上の案件を成約に導く。
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