M&Aコラム

トップ > M&Aコラム > 歯科 > 分院売却を歯科グループが進める方法|切り離し譲渡

分院売却を歯科グループが進める方法|切り離し譲渡

歯科グループが運営する複数医院のうち、分院だけを売却することは、法人形態や行政手続きなどの条件を満たせば検討可能です。ただし、法人全体の譲渡とは異なり、分院の資産・契約・人員・システムを本院から切り分ける必要があります。本記事では、分院売却の方法、価格評価、行政手続き、患者・スタッフの引き継ぎを解説します。

歯科グループの分院だけを売却できる?

歯科グループの分院売却は、実務上検討できる選択肢です。ただし、本院と分院を同じ医療法人が開設している場合、分院自体に独立した法人格があるわけではありません。

そのため、「分院という会社」をそのまま売却するのではなく、分院事業に属する資産・契約・人員などを特定し、買い手へ移転する方法を検討します。

分院の事業譲渡が有力な選択肢

特定の分院だけを切り離す場合、事業譲渡が有力な選択肢になります。譲渡対象として想定されるのは、次のような項目です。

  • 歯科用ユニットや画像診断装置などの医療機器
  • 内装、什器、パソコンなどの固定資産
  • 不動産賃貸借契約
  • 医療機器のリース・保守契約
  • 技工所や材料業者との取引関係
  • スタッフの雇用
  • 医院名、電話番号、Webサイトなどの使用権
  • 診療継続に必要な患者情報や診療録の管理

ただし、契約や雇用が一括して自動的に移るとは限りません。賃貸人、リース会社、取引先、スタッフなどの同意・承諾が必要になる場合があります。

また、医療法人間の合併・分割等による再編が検討できるケースもあります。適切な方法は、医療法人の類型、買い手の法人形態、譲渡範囲、所轄庁の取扱いによって異なります。

法人形態ごとのM&A手法については、歯科M&Aのスキーム|株式・事業・分院譲渡の違いもご覧ください。

歯科グループが分院売却を検討する主な場面

分院売却は、不採算医院の処分だけを目的とするものではありません。グループ全体の経営資源を再配分するために検討されることもあります。

  • 本院や成長性の高い医院へ人材と資金を集中したい
  • 理事長が複数拠点を管理する負担を軽減したい
  • 遠隔地の分院を地域の歯科医師へ引き継ぎたい
  • 分院長の退職により診療体制の維持が難しくなった
  • 出店エリアや診療領域を見直したい
  • 閉院による患者やスタッフへの影響を抑えたい

帳簿上は赤字でも、本部経費やグループ共通の広告費が多く配賦されていることがあります。買い手の運営体制に変われば、採算が改善する可能性もあるため、閉院を決める前に分院単体の収益を確認することが重要です。

分院売却・グループ全体の譲渡・閉院を比較する

方法対象メリット主な注意点
分院の事業譲渡特定分院の事業・資産・契約本院を残してグループを再編できる資産、契約、雇用などの個別整理が必要
グループ全体の譲渡・承継医療法人や運営事業全体本部機能を含めて一体的に承継しやすい法人類型、社員、役員、出資持分などの確認が必要
分院の閉院診療所の廃止と資産処分買い手探索をせずに整理できる原状回復、解約、退職、患者対応などの負担が生じる

比較する際は、譲渡価格だけでなく、閉院した場合の原状回復費、リース残債、医療機器の処分費、退職対応、患者への案内なども含めて検討します。

譲渡価格が高くなくても、閉院費用を抑え、スタッフの雇用や患者の診療を継続できる点に意義があるケースもあります。

分院の売却価格を左右する評価項目

歯科医院の売却価格を「売上の何倍」といった一律の計算式だけで決めることは適切ではありません。分院単体の収益力、資産、引き継ぎ後の運営可能性などを総合して評価します。

評価項目主な確認内容
収益性分院単体の売上、正常利益、自由診療収入、固定費
患者動向患者数、新患数、定期管理患者数、来院経路
人員体制分院長、勤務医、歯科衛生士などの在籍状況と継続意向
医療機器状態、取得時期、所有者、リース残高、更新予定
不動産立地、賃料、契約期間、再契約や名義変更の可否
独立性本院の人員、患者紹介、システム、広告への依存度
リスク返戻・査定、労務問題、クレーム、契約・行政上の問題

分院単体の正常利益を算出する

複数医院を一括管理している場合、決算書だけでは分院の実力が見えないことがあります。分院別の売上と直接経費に加え、本部人件費、採用費、広告費、システム費、材料の共同購入費などを整理します。

本部経費の配賦が多い分院は、帳簿上の利益が実態より低い可能性があります。反対に、本部が負担している経費を分院へ配賦していなければ、譲渡後に必要となる費用が帳簿へ反映されていない可能性があります。

特に、理事長や本院勤務医が無償または低い内部単価で応援診療をしている場合は、譲渡後に必要となる歯科医師人件費を加えて収益を見直します。

本院への依存度を明らかにする

分院の売上が本院からの患者紹介、理事長の診療、グループ名による集患に大きく依存している場合、譲渡後も同じ売上を維持できるとは限りません。

一方、分院長とスタッフだけで診療が完結し、分院独自に新患を獲得できている医院は、買い手が引き継ぎやすいと評価されやすくなります。過去の売上だけでなく、「本院から切り離した後も運営できるか」が重要です。

売却代金を受け取る主体にも注意する

医療法人が分院事業を譲渡する場合、原則として譲渡契約の当事者と対価の受取人は医療法人です。理事長個人が分院の売却代金を直接受け取る取引とは限りません。

譲渡する資産の所有者が理事長個人、医療法人、MS法人などに分かれている場合は、資産ごとに売り手を確認します。譲渡価格と理事長個人の手取り額は同じではないため、税務・退職金・借入金返済なども含めて税理士等へ確認する必要があります。

分院売却で必要な「切り分け」の実務

分院売却では、分院に置かれている物を一覧にするだけでは不十分です。本院と分院が譲渡後にそれぞれ独立して運営できる状態を設計します。

分野確認する内容
財務分院別売上、直接経費、本部配賦、内部取引
人員所属先、応援勤務、給与負担、承継希望
資産所有者、設置場所、リース・担保、保守契約
不動産契約名義、転貸・譲渡禁止条項、原状回復
システム電子カルテ、レセコン、予約、会計、勤怠
ブランド医院名、ロゴ、Webサイト、SNS、ドメイン
取引先技工所、材料業者、廃棄物処理、清掃、保守
患者対応診療継続、予約、治療途中の患者、前受金

共通システムを分離できるか確認する

電子カルテや予約システムをグループ共通で利用している場合、分院分の情報だけを抽出・移行できるか、ベンダーへ確認します。

契約上アカウントの譲渡が認められなければ、買い手による新規契約が必要です。データ形式、移行費用、作業期間、システム停止時間まで工程表に反映します。

医療機器の所有者を資産台帳で確認する

医療機器が分院に設置されていても、医療法人ではなく理事長個人やMS法人が所有している場合があります。また、本院側の借入金の担保や一括リース契約に含まれている可能性もあります。

機器名、製造番号、所有者、帳簿価額、リース残高、保守契約、譲渡可否を一覧化し、譲渡契約書の対象資産と一致させます。

分院売却の準備から引き継ぎまでの流れ

  1. 売却目的を整理する:希望価格、雇用維持、医院名、引き継ぎ期間などの優先順位を決めます。
  2. 分院単体の資料を作る:財務、人員、資産、契約、本院依存を整理します。
  3. 譲渡方法を検討する:分院の事業譲渡、法人全体の承継、閉院を比較します。
  4. 買い手候補を探索する:秘密保持契約を締結し、匿名情報から段階的に開示します。
  5. 基本合意と調査を進める:価格、対象範囲、予定日を確認し、デューデリジェンスを受けます。
  6. 最終契約と行政手続きを進める:開設・保険指定などの工程を契約条件と連動させます。
  7. スタッフ・患者へ説明する:診療、雇用、予約への影響を具体的に案内します。
  8. 資産・契約・情報を引き継ぐ:チェックリストを用いて引き継ぎの完了を確認します。

分院別の損益や共有契約を整理できていない段階でも、売却可能性は検討できます。
閉院と分院売却のどちらが適しているか迷っている場合は、無料簡易査定で分院の相場感と切り離しに必要な条件をご確認ください。

分院売却で確認する行政手続き

分院の事業譲渡では、契約を締結するだけで診療所の開設者が自動的に切り替わるわけではありません。

東京都南多摩保健所の案内では、診療所・歯科診療所の開設者を変更する場合、従前施設の廃止手続きと新規開設手続きが必要とされています。また、法人が開設する場合は、医療法第7条第1項に基づく事前の開設許可が必要です。

出典:東京都南多摩保健所「診療所・歯科診療所の開設等」

これは東京都の案内例であり、提出先、様式、添付書類、事前相談の時期は所在地や開設者の形態によって異なります。管轄保健所へ計画段階で確認してください。

保険医療機関の指定は診療開始日から逆算する

開設者が変わる場合、買い手側は保険医療機関の指定に関する手続きも確認します。近畿厚生局が2026年8月4日に公表した案内では、新たに開設した保険医療機関の指定日は原則として申請翌月の1日とされ、開設者変更など一定の事例では遡及指定が可能とされています。

ただし、開設者変更であれば自動的に遡及されるわけではありません。定められた類型、要件、提出期限を満たす必要があります。施設基準についても、再度の届出が必要となる場合があります。

出典:近畿厚生局「保険医療機関等の遡及指定及び機能移転の取扱い」

所在地を管轄する地方厚生局へ、診療開始予定日、開設者変更の内容、施設基準の取扱いを事前に確認します。

そのほか確認する手続き

  • 医療法人の定款変更に関する認可・届出
  • 診療用エックス線装置の廃止・備付等の届出
  • 施設基準の届出
  • 生活保護法等による指定
  • 自治体健診や歯科検診の契約
  • オンライン資格確認、レセプト請求関係の手続き

必要な手続きは、法人形態、所在地、診療内容、譲渡方法によって異なります。最終契約には、必要な許可・指定の取得を実行条件として定める方法もあります。

スタッフ・患者を引き継ぐ際の注意点

スタッフの雇用契約は当然には移らない

事業譲渡では、スタッフの労働契約が当然に買い手へ移転するわけではありません。承継対象者、買い手側の労働条件、入職日、勤続年数、有給休暇、退職金などの取扱いを整理し、スタッフ本人の承諾を得ながら進めます。

情報開示が早すぎれば、不安から退職につながる可能性があります。一方、説明が遅すぎれば不信感を招きます。基本合意後など一定の確度が得られた段階で、買い手と説明時期・対象者・内容を調整することが重要です。

患者データそのものを売買対象と考えない

患者の診療情報は要配慮個人情報を含むため、医療機器などの資産と同じように自由に売買できるものではありません。事業承継に伴い、診療を継続するために必要な範囲で適切に取り扱います。

個人情報保護委員会のガイドラインでは、事業譲渡などの事業承継に伴う個人データの提供は、一定の場合に個人情報保護法上の第三者提供に該当しないとされています。ただし、承継後も原則として従前の利用目的の範囲内で取り扱う必要があります。

また、契約前の調査で買い手へ個人データを開示する場合は、利用目的、取扱方法、漏えい時の措置、交渉不成立時の返却・消去などを契約で定める必要があります。初期段階では患者を特定できない集計情報を使用し、個別情報は必要性を確認したうえで段階的に開示します。

出典:個人情報保護委員会「個人情報保護法ガイドライン(通則編)」

診療録の保存責任を明確にする

歯科医師法第23条では、診療録について5年間の保存が求められています。分院売却では、誰が原本または電子データを保管するのか、買い手がどの範囲を利用できるのか、患者から照会があった場合に誰が対応するのかを整理します。

診療録の保存義務があることと、すべての情報を無条件で買い手へ渡せることは別の問題です。個人情報保護、安全管理、診療継続の必要性を踏まえて、契約書と引き継ぎ手順に定めます。

デューデリジェンスで準備する資料

  • 分院別の月次試算表、売上明細、経費明細
  • 保険診療・自由診療別の実績資料
  • 患者数、新患数、定期管理患者数などの匿名集計資料
  • 従業員名簿、雇用契約書、賃金台帳、勤務表
  • 医療機器・備品の資産台帳、リース・保守契約
  • 不動産賃貸借契約書と原状回復条件
  • 診療所の開設、保険医療機関指定、施設基準関係の資料
  • 返戻・査定、患者クレーム、紛争、行政指導に関する資料
  • 技工所、材料業者、システム会社などとの契約書
  • 本院との資金移動、費用配賦、応援勤務、患者紹介の資料

資料が存在しない場合や、本院と共通で分けられない場合は、その事実を早めに共有します。資料不足を後から指摘されるより、代替資料や契約条件で対応しやすくなります。

分院売却で起こりやすい失敗

分院単体の収益を説明できない

グループ合算の決算書だけでは、買い手が分院の収益性を判断できません。直近の月次売上、人件費、家賃、材料費、外注費、本部配賦費を整理し、譲渡後に必要となる費用も反映します。

共有契約をそのまま利用できると思い込む

電子カルテ、予約システム、医療機器リースなどの契約を買い手へ移せず、譲渡前に新規契約が必要になる場合があります。契約書の譲渡禁止条項や、サービス提供会社の承諾条件を確認します。

行政手続きの確認が遅れる

開設者変更は、単なる医院名の変更として処理できるとは限りません。保健所、地方厚生局、所轄庁への相談が遅れると、予定日に診療を開始できない可能性があります。

価格だけで買い手を選ぶ

分院売却では、価格だけでなく、管理者となる歯科医師の確保、スタッフの雇用条件、患者への対応、地域医療に対する方針も確認します。譲渡後の運営が不安定になれば、売り手側グループの信用にも影響する可能性があります。

分院売却を円滑に進める5つのポイント

  1. 分院別の損益と患者動向を早めに整理する
  2. 資産・契約・人員・システムの共有状況を可視化する
  3. 売却価格以外の希望条件にも優先順位を付ける
  4. 歯科医療の行政手続きに詳しい専門家へ相談する
  5. 譲渡日だけでなく、引き継ぎ期間と役割分担を契約で定める

中小企業庁の「中小M&Aガイドライン(第3版、2024年8月)」では、M&A専門業者に対し、手数料、業務内容、利益相反などの説明を求めています。医療法人への適用関係を含めて個別確認は必要ですが、仲介会社を比較する際の参考資料になります。

出典:中小企業庁「中小M&Aガイドライン」

まとめ|分院売却は独立運営できる状態の設計が重要

歯科グループの分院売却では、分院の売上や医療機器だけでなく、人員、契約、患者情報、システム、行政手続きを本院から切り分ける必要があります。

特に、本院の管理部門、応援勤務、紹介患者、グループ共通システムに依存している分院は、譲渡後の運営方法を具体化しなければ、適切な評価や円滑な引き継ぎにつながりません。

閉院を決める前に、分院単体の収益と承継可能な資産を整理することで、売却によって雇用や診療を継続できる可能性があります。早い段階から複数の選択肢を比較し、行政機関や専門家への相談を進めることが大切です。

分院の売却可能性や価格の目安を確認してみませんか。
M&A承継サポートでは、介護・医療・障がい分野に特化し、M&A成約100件以上の実績を持つメンバーが対応します。着手金・中間金無料の完全成功報酬制で、2年以内に買収実績のある買い手200社以上のリストを保有しています。売却を決めていない段階でも、秘密厳守で無料相談・無料簡易査定をご利用いただけます。

分院売却に関するよくある質問

赤字の歯科分院でも売却できますか?

赤字でも、立地、患者の来院動向、スタッフ、設備などを評価する買い手が見つかる可能性はあります。本部経費の配賦や一時的な採用費を調整すると、譲渡後の収益性が帳簿上の利益と異なることもあります。ただし、売却可能性や条件は個別判断です。

医療法人の分院を勤務医へ譲渡できますか?

勤務医への譲渡も検討できます。ただし、資産、雇用、賃貸借契約などの移転に加え、新しい開設者による開設手続きや保険医療機関指定の確認が必要です。勤務医が個人で開設するか、別の医療法人が開設するかによっても手続きが変わります。

分院のスタッフはそのまま引き継がれますか?

事業譲渡では、スタッフの労働契約が当然に買い手へ移るわけではありません。買い手側の労働条件、入職日、勤続年数、有給休暇などの取扱いを説明し、対象スタッフ本人の承諾を得ながら進めます。

医院名や電話番号は買い手へ引き継げますか?

契約や権利関係に問題がなければ、引き継げる可能性があります。ただし、法人名を含む医院名、グループ共通ブランド、電話契約、ドメインなどは分離できない場合もあるため、個別確認が必要です。

分院売却にはどのくらいの期間がかかりますか?

買い手探索、デューデリジェンス、賃貸人等の承諾、行政手続きによって異なるため、一律の期間は示せません。保険診療の空白を避けるため、希望譲渡日から余裕を持って準備することが重要です。

本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別案件に関する法務・税務・労務・行政手続き上の助言ではありません。必要な手続きや課税関係は、法人形態、所在地、契約内容、譲渡方法によって異なります。具体的な判断は、管轄行政機関、弁護士、税理士、社会保険労務士、行政書士その他の専門家へご確認ください。

まずはお気軽にお問い合わせください。

松本 圭祐
記事監修
取締役
松本 圭祐
新卒で楽天株式会社に入社し、その後合同会社DMM.comに転職。オンライン英会話サービスの「DMM英会話」の立ち上げを担当し、3年で業界最大手となる。
日本チームのマネージャーを務めた他、新規事業や法人営業なども管掌。その後ヘルスケア・福祉関連の事業を行う上場企業に転職し、M&A支援事業の立ち上げ、グロース全般を担当。
今までにM&Aコンサルタントとして50件以上の案件を成約に導く。
一覧に戻る