介護法人 売却|法人ごと譲渡する方法を解説
介護法人を第三者へ引き継ぐ方法として、「法人ごと売却(株式譲渡など)」を選択するケースが増えています。後継者不足や人材確保の難しさを背景に、M&Aは廃業以外の事業承継の選択肢として注目されています。一方で、「法人売却」と「事業譲渡」は引き継ぐ対象や手続き、介護保険事業者指定への影響などが異なるため、自社に合った方法を選ぶことが重要です。本記事では、介護法人を法人ごと売却する方法や流れ、メリット、注意点をわかりやすく解説します。
介護法人を法人ごと売却する方法とは
介護事業を第三者へ承継する方法には、大きく「法人ごと売却する方法」と「事業だけを譲渡する方法」があります。
どちらもM&Aの手法ですが、引き継ぐ内容や必要な手続きが異なるため、それぞれの特徴を理解したうえで選択することが大切です。
法人売却(株式譲渡)とは
株式会社が介護事業を運営している場合は、株式を買い手へ譲渡し、会社そのものの経営権を引き継ぐ「株式譲渡」が一般的な方法です。
法人自体は存続するため、契約や資産・負債、従業員との雇用関係などは原則として法人に残ります。そのため、利用者や職員への影響を比較的抑えながら事業を継続しやすいことが特徴です。
ただし、金融機関との融資契約やリース契約などでは、契約内容によって承諾や変更手続きが必要になる場合があります。
なお、社会福祉法人には株式が存在しないため、株式会社のような株式譲渡はできません。承継方法は合併や事業譲渡等が中心となり、所轄庁との協議や社会福祉法に基づく手続きが必要になります。
事業譲渡との違い
| 比較項目 | 法人売却(株式譲渡) | 事業譲渡 |
|---|---|---|
| 売却対象 | 法人そのもの | 事業・施設など |
| 法人格 | 存続する | 売り手法人は存続可能 |
| 契約関係 | 原則として継続 | 契約ごとに承継手続きが必要な場合がある |
| 従業員 | 原則として雇用継続 | 個別に転籍・同意が必要となる場合がある |
| 向いているケース | 法人全体を引き継ぎたい | 一部事業のみ売却したい |
事業譲渡では、利用者との契約や職員の転籍、労働条件の取扱いなどについて個別の対応が必要となるケースがあります。厚生労働省も、事業譲渡時には労働者保護や十分な説明を行うことが重要としています。
介護法人ではどちらが選ばれやすいか
介護施設を継続的に運営したい場合は、法人全体を引き継ぐ株式譲渡が選ばれることがあります。
一方で、一部施設のみを譲渡したい場合や、不採算事業だけを切り離したい場合には事業譲渡が適しているケースもあります。
どちらが適しているかは、法人形態や施設数、財務状況、将来の経営方針によって異なるため、専門家へ相談しながら判断することが重要です。
法人売却(株式譲渡)が向いているケース
| 法人売却が向いているケース | 事業譲渡が向いているケース |
|---|---|
| 法人全体を承継したい | 一部施設のみ譲渡したい |
| 職員の雇用を維持したい | 事業を整理したい |
| 契約関係をできるだけ継続したい | 特定事業のみ売却したい |
| 利用者への影響を抑えたい | 経営資源を集中したい |
介護保険事業者指定への影響
介護事業では、M&Aの方法によって介護保険事業者指定や行政手続きへの影響が異なります。
- 株式譲渡では法人自体が存続するため、事業者指定は原則として法人に残ります。
- 事業譲渡では譲受法人側で新たな指定申請や届出が必要となる場合があります。
- 実際の手続きはサービス種別や自治体によって異なるため、事前に所轄自治体へ確認することが重要です。
近年は、介護・障害福祉・保育分野における合併・事業譲渡時の手続きを分かりやすくするため、厚生労働省が「合併・事業譲渡等マニュアル」を改訂しています。
介護法人を法人ごと売却するメリット
従業員・利用者への影響を比較的抑えやすい
法人自体が存続するため、事業運営を継続しながら承継しやすい点は、法人売却の大きなメリットです。
もちろん、経営方針の変更などにより運営体制が見直されることはありますが、事業譲渡と比較すると利用者や従業員への影響を抑えられる可能性があります。
契約関係を維持しやすい
取引先との契約やリース契約などは、法人が存続することで継続できる場合があります。
ただし、契約内容によっては承諾や契約変更が必要になるケースもあるため、事前確認が欠かせません。
後継者問題を解決できる可能性がある
介護業界では後継者不足が深刻化しています。
第三者への事業承継を活用することで、地域の介護サービスや雇用を維持しながら経営を引き継げる可能性があります。中小企業庁も、M&Aを第三者承継の有効な選択肢の一つとして紹介しています。
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介護法人売却の流れ
介護法人の売却は、価格交渉だけでなく、利用者や職員への影響を考慮しながら慎重に進めることが重要です。一般的な流れは次のとおりです。
① 相談・企業価値の確認
まずはM&A仲介会社へ相談し、売却目的や希望時期、財務状況などを整理します。そのうえで、おおよその企業価値や適した売却方法を検討します。
② 買い手候補の選定
介護事業との相乗効果が期待できる企業や、地域性・運営方針が合う買い手候補を選定します。価格だけでなく、理念や事業継続への考え方も重要な判断材料です。
③ トップ面談
秘密保持契約を締結したうえで、経営者同士が面談を行います。今後の運営方針や従業員への考え方、利用者への対応などを確認し、相互理解を深めます。
④ 基本合意
売却価格やスケジュールなど、おおまかな条件について双方が合意できれば基本合意書を締結します。
⑤ デューデリジェンス(買収監査)
買い手が財務・法務・税務・労務などを確認するほか、介護事業では加算の算定状況や行政指導歴、指定更新の状況なども確認されることがあります。
⑥ 最終契約・引継ぎ
デューデリジェンスで重大な問題がなければ最終契約を締結し、株式や経営権を引き渡します。その後は、従業員や取引先への説明、必要な行政手続きなどを行い、新体制へ移行します。
介護法人売却で買い手が重視するポイント
介護法人の評価では、売上や利益だけではなく、「今後も安定した運営が期待できるか」が重視されます。
収益性・キャッシュフロー
営業利益だけではなく、介護報酬の構成や将来の収益見込みなども確認されます。一時的な赤字でも、改善可能性があれば評価されるケースがあります。
利用者数・稼働率
利用者数や入居率、稼働率が安定している事業所は、将来の収益予測が立てやすく、買い手から評価されやすい傾向があります。
人材の定着状況
介護業界では人材確保が重要な課題です。そのため、離職率だけでなく、有資格者の配置状況や管理者・サービス提供責任者などの体制も確認されます。
介護報酬の加算取得状況
各種加算を適切に算定しているか、必要な書類や運営体制が整っているかも重要な確認ポイントです。
行政対応・コンプライアンス
運営指導で重大な指摘がないか、必要な届出が適切に行われているかなど、法令遵守の状況も評価対象となります。
買い手が確認する主な項目
- 利用者数・稼働率
- 職員数・資格保有者の配置
- 介護報酬加算の取得状況
- 行政指導・監査履歴
- 地域での需要や競合状況
- 財務内容・キャッシュフロー
介護法人売却の注意点
秘密保持を徹底する
売却情報が早期に広まると、職員や利用者、取引先へ不安を与える可能性があります。買い手との交渉は秘密保持契約を締結したうえで慎重に進めることが重要です。
職員への説明時期を見極める
説明が早すぎても遅すぎても混乱につながる可能性があります。契約の進捗状況や引継ぎ計画を踏まえ、専門家と相談しながら適切なタイミングを判断しましょう。
行政手続きを確認する
法人形態や譲渡方法によって必要な届出は異なります。特に介護保険事業者指定に関する手続きは自治体によって運用が異なる場合もあるため、事前確認が重要です。
税務・契約内容を整理しておく
税務上の取扱いや契約内容によって、最終的な手取り額や引継ぎ方法が変わることがあります。税理士や弁護士などの専門家と連携しながら進めることをおすすめします。
介護法人売却は赤字でも可能?
赤字でも売却できるケースはある
赤字だからといって売却できないとは限りません。利用者数が安定している、地域ニーズが高い、人材体制が整っているなど、将来的な改善余地が評価されるケースもあります。
重要なのは改善可能性
買い手は現在の業績だけでなく、買収後にどのような改善が期待できるかも重視します。そのため、赤字のみを理由に売却を諦める必要はありません。
介護法人売却を成功させるポイント
- 売却を検討したら早めに準備を始める
- 決算書や契約書などの資料を整理する
- 介護業界に精通した専門家へ相談する
- 複数の買い手候補を比較する
- 価格だけでなく理念や事業方針も確認する
特に介護事業では、売却価格だけでなく、利用者へのサービス継続や職員の雇用維持なども重要な判断材料になります。
まとめ
介護法人を法人ごと売却する方法は、後継者不足や経営課題を解決する有力な事業承継の選択肢です。ただし、法人売却(株式譲渡)と事業譲渡では、契約や行政手続き、介護保険事業者指定への影響などが異なります。自社の状況に合った方法を選び、介護業界に精通した専門家と連携しながら進めることで、利用者や職員への影響をできるだけ抑えながら円滑な事業承継を目指せるでしょう。
免責事項
本記事は一般的な情報提供を目的として作成したものであり、税務・法務・会計・行政手続きに関する個別具体的な助言を行うものではありません。制度や運用は改正される場合があるため、実際の手続きにあたっては、最新の法令・行政通知をご確認のうえ、税理士・弁護士・行政書士などの専門家へご相談ください。
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