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M&A費用は損金になる?介護M&AのDD・仲介手数料

介護M&AのDD費用や仲介手数料は、すべてが税務上の損金になるわけではありません。費用の目的や支払者、株式譲渡・事業譲渡といった取引形態によって扱いが異なります。2026年2月には、DD費用の損金算入をめぐる東京地裁判決も出されました。本記事では、介護M&Aで発生する費用の税務処理を、判例や国税庁の資料に基づいて解説します。売り手経営者が知っておきたい仲介手数料や売却後の手取りについても紹介します。

M&A費用は損金になる?まず押さえたい税務の基本

M&Aでは、仲介手数料やデューデリジェンス(DD)費用、弁護士・税理士への報酬などが発生します。これらの費用が損金になるかどうかは、支出の性質や取引内容によって異なります。

損金算入と取得価額算入の違い

損金算入とは、法人税の課税所得を計算する際に、一定の費用を所得から差し引くことです。一方、取得価額算入とは、支出した金額を株式などの資産の取得価額に含めることを意味します。

例えば、買い手法人がM&Aに関連して150万円を支払った場合、税務上の扱いは次のように異なります。

区分税務上の扱い
当期の損金所定の要件を満たす場合、その事業年度の損金として処理する
株式の取得価額株式の取得価額に加算し、原則として取得年度の損金にはしない

150万円という金額は説明用の仮定例です。株式の取得価額に含まれた費用は、通常、将来その株式を譲渡する際の譲渡原価に関係します。

つまり、重要なのは「費用として認められるか」だけでなく、「どの時点で所得計算に反映されるか」という違いです。

売り手・買い手・支払者によって扱いが変わる

M&A関連費用の税務処理では、誰が費用を負担するのかを確認する必要があります。

  • 買い手法人:株式などの取得価額に算入すべき費用か
  • 売り手法人:事業譲渡に伴う費用として損金に算入できるか
  • 売り手個人:株式譲渡所得の計算上、譲渡費用として差し引けるか

特に個人株主が株式を売却する場合、法人税上の「損金」ではなく、所得税上の「譲渡費用」が問題になります。この違いを混同しないことが重要です。

会計上の費用と税務上の損金は同じではない

会計帳簿で費用として計上した金額が、税務上もそのまま損金になるとは限りません。

例えば、仲介会社から「コンサルティング費用」という名目で請求されても、その実態が株式取得に直接関係する支出であれば、取得価額への算入が問題になる場合があります。

費用の名称だけでなく、契約書や業務内容を踏まえて判断する必要があります。

介護M&Aで発生するDD費用・仲介手数料の種類

DD費用とは?財務・法務・税務などの調査費用

デューデリジェンス(DD)とは、M&Aの実行前に、買い手が対象企業の経営状況や潜在的なリスクを確認する調査です。

介護M&Aでは、主に次の項目が調査対象になります。

  • 財務DD:売上、利益、借入金、簿外債務など
  • 税務DD:過去の税務申告、納税状況、税務上のリスク
  • 法務DD:契約関係、指定・許認可、紛争など
  • 労務DD:雇用契約、未払残業代、人員配置など
  • 事業DD:利用者数、稼働率、介護報酬請求、加算の算定状況など

DDは一般的に買い手が実施・負担しますが、調査範囲や費用負担は案件によって異なります。

介護事業で確認される項目については、関連記事「介護M&AのDD|報酬返還・人員基準を解説」でも紹介しています。

仲介手数料の内訳|着手金・中間金・成功報酬

M&A仲介会社に支払う報酬には、主に着手金、中間金、成功報酬があります。

費用主な内容発生時期の例
着手金仲介業務の開始に伴う報酬仲介契約締結時
中間金交渉支援など途中段階の業務への報酬基本合意時など
成功報酬M&Aの成立に伴う報酬最終契約締結時や決済時など
専門家報酬税務・法務・会計などの調査や助言業務の実施時など

仲介会社によって料金体系や支払条件は異なります。

中小企業庁が2024年8月に改訂した「中小M&Aガイドライン(第3版)」でも、手数料の算定基準や提供業務の内容を確認する重要性が示されています。

契約前には、成功報酬の計算方法や最低手数料、追加費用の有無も確認しておきましょう。

M&A関連費用の税務処理早見表

費用・負担者税務上の主な論点
買い手法人のDD費用損金算入か株式等の取得価額への算入か
買い手法人の成功報酬株式等の購入に直接要した費用か
売り手法人の仲介手数料法人の事業譲渡に伴う損金として認められるか
個人株主の売却手数料株式譲渡所得の計算上、差し引ける費用か
弁護士・税理士への報酬業務内容や支出目的、発生時期

この表は一般的な判断項目を整理したもので、すべての案件について損金算入の可否を確定するものではありません。

DD費用は損金にできる?2026年東京地裁判決のポイント

2026年2月18日、東京地方裁判所は、M&Aに関連して支払ったDD費用や仲介報酬の法人税上の取扱いについて判決を示しました。

この判決は、株式取得型M&Aに関する事案であり、介護事業固有の事件ではありません。しかし、介護事業者を株式取得によって買収する場合にも、税務処理を検討するうえで参考になる内容です。

従来のDD費用の税務処理と争点

法人税法施行令第119条第1項第1号では、購入した有価証券の取得価額について、購入代金に加えて購入のために要した費用を含めることが定められています。

そこで問題になるのが、買収前に行うDD費用も「株式の購入のために要した費用」に該当するのかという点です。

DDは、買収を実行するためだけでなく、買収すべきかどうかを判断するためにも行われます。買収を見送る可能性がある段階の調査費用を、どのように扱うかが争点となりました。

2026年2月18日の東京地裁判決で示された判断

東京地裁の判決(令和5年(行ウ)第120号)では、DD費用などが株式の購入のために要した費用に該当するかについて、業務の履行時点における株式購入の実現可能性などを踏まえて判断する考え方が示されました。

判断にあたっては、株式購入の不確実性が相当程度解消し、客観的に見て購入の可能性が相当程度高まっていたかが重要とされています。

単にDDを実施した時期だけでなく、買収に関する意思決定や交渉の進捗なども考慮される点が特徴です。

DD費用・中間報酬・成功報酬はどう判断されたか

当該判決では、主な費用について次の判断が示されました。

費用項目当該判決の判断
法務・財務DD費用当期の損金算入を認めた
株式譲渡契約の法務レビュー費用当期の損金算入を認めた
情報提供料当期の損金算入を認めた
中間報酬当期の損金算入を認めた
成功報酬株式の取得価額への算入が必要と判断した

この判決は、M&Aに関連する費用を一律に扱うのではなく、それぞれの支出の内容と取引状況を検討する必要性を示しています。

ただし、上記は当該事案における判断であり、すべてのM&AでDD費用や中間報酬の損金算入が認められるわけではありません。

出典:長島・大野・常松法律事務所「DD費用の法人税法上の取扱いについての初の司法判断」(2026年3月)

判決だけで損金算入を判断できない理由

2026年2月18日の判決については、国側による控訴が専門家の解説で報じられています。2026年10月24日時点の控訴審の進行状況や判決の確定状況については【要確認】です。

また、国税庁は「合併に伴うデューディリジェンス費用の取扱い」という質疑応答事例で、一定の合併に伴うDD費用を一時の損金として扱う考え方を示しています。

ただし、これは合併に関する照会事例であり、株式取得型M&Aにそのまま適用できるものではありません。

出典:国税庁「合併に伴うデューディリジェンス費用の取扱い」(2025年8月1日現在の法令・通達等)

実際の処理は、最新の裁判例や関係法令を踏まえ、税理士へ確認することが重要です。

仲介手数料・成功報酬は損金になる?売り手と買い手の違い

買い手法人が支払う仲介手数料

買い手法人が株式を取得する場合、株式の購入に直接必要な費用は、原則として取得価額に含めることになります。

例えば、株式取得が成立した場合に支払う成功報酬は、取得価額への算入が問題になります。

一方、初期段階で買収候補企業を比較するための調査や情報収集に対する報酬は、実際の業務内容によって当期の損金算入を検討できる場合があります。

契約書に記載された費用名だけで判断せず、何の業務に対して支払ったのかを確認する必要があります。

売り手法人が支払う仲介手数料

介護事業を運営する法人が、事業所を譲渡するために仲介手数料を支払う場合、その支出が法人の事業に関連する費用として認められるかを検討します。

適切な業務委託費などとして損金算入できる場合がありますが、費用の性質や債務が確定した時期などによって処理が異なります。

特に、法人が事業を売却する場合と、経営者個人が法人の株式を売却する場合では、税務上の扱いが異なる点に注意が必要です。

経営者個人が株式を売却する場合

経営者個人が保有する株式を売却した場合は、所得税の株式譲渡所得の計算が問題になります。

国税庁では、株式等の譲渡所得等について、原則として次の計算方法を示しています。

譲渡価額-(取得費+売却手数料等)=株式等の譲渡所得等

例えば、次のような架空のケースを考えてみましょう。

  • 株式の売却代金:3,000万円
  • 株式の取得費:500万円
  • 売却に直接必要な仲介手数料:200万円

この200万円が税務上の売却手数料等に該当する場合、譲渡所得等の計算は次のようになります。

3,000万円-(500万円+200万円)=2,300万円

この金額は税額や最終的な手取り額ではありません。実際には、所得税・住民税その他の条件を確認する必要があります。

また、すべての専門家報酬が売却手数料等として認められるわけではないため、費用の内容を個別に確認しましょう。

出典:国税庁「No.1464 譲渡した株式等の取得費」(2026年4月1日現在法令等)

会社と個人のどちらが費用を支払うかに注意

経営者個人が保有株式を売却する際、その仲介手数料を会社に負担させる場合は注意が必要です。

会社自身のための費用として認められず、経営者に対する経済的利益の供与など、別の税務問題が生じる可能性があります。

費用の負担者を変更すれば節税できると考えず、仲介契約を締結する段階で税理士へ確認することが望まれます。

株式譲渡と事業譲渡ではM&A費用の扱いが異なる

株式譲渡で確認すべき費用

株式譲渡では、買い手が対象法人の株式を取得します。法人格は原則として継続するため、事業所を運営する法人そのものは変わりません。

買い手法人にとっては、株式購入代金に加え、購入のために直接要した費用を取得価額に含めるかが重要です。

取得した株式は通常の減価償却資産とは異なり、取得価額を毎期の減価償却費として処理するものではありません。

事業譲渡で確認すべき費用

事業譲渡では、事業に必要な資産や契約関係などを個別に譲渡します。

例えば、訪問介護事業所を譲渡する場合、車両・備品・契約関係・従業員の雇用などについて、何をどのように引き継ぐかを整理します。

買い手は取得資産の種類に応じた税務処理を検討します。また、事業譲渡では行政上の指定や届出等についても確認が必要です。

なお、社会福祉法人など株式を発行しない法人には、一般的な株式会社の株式譲渡を前提とした説明はそのまま当てはまりません。

株式譲渡と事業譲渡の比較

比較項目株式譲渡事業譲渡
譲渡対象株式事業に関する資産・権利等
売り手株主事業を保有する法人等
買い手の費用株式取得価額との関係取得資産ごとの税務処理
売り手の税務株主の属性に応じた所得計算譲渡主体の所得計算

売り手経営者にとって重要なのは、売却価格だけでなく、仲介手数料や税負担を考慮した後の手取り額です。

また、事業譲渡では通常、法人が譲渡代金を受け取ります。その代金を経営者個人が受け取るには、別途税務上の検討が必要になる点にも注意しましょう。

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介護M&AのDDで確認したい項目と費用管理の注意点

介護報酬の請求・返還リスク

介護M&Aでは、一般企業の財務調査に加え、介護報酬の請求が算定要件を満たしているかを確認することが重要です。

例えば、加算の算定に必要な記録が不足していた場合、過去の介護報酬について返還や過誤調整が必要になる可能性があります。

買い手は請求データやサービス提供記録、加算の届出書類などを確認します。複数年度を調査する際には、それぞれの請求時点で適用されていた報酬基準や通知などを確認する必要があります。

人員配置・指定基準・行政指導履歴

介護事業では、サービス種別ごとに人員配置や設備、運営に関する基準が定められています。

勤務表だけでなく、実際の勤怠記録、資格証、雇用契約書なども確認対象になります。

また、過去の運営指導で指摘された事項や改善状況も重要です。買収後に必要となる人件費や追加対応の費用を把握するためにも、DDは重要な役割を果たします。

DDの目的と実施時期を記録しておく

DD費用の税務処理を検討する際には、調査を実施した目的と時期を説明できる資料が重要になります。

例えば、複数の候補企業を比較する目的の調査と、特定企業の買収が具体化した後の調査では、費用の性質が異なる可能性があります。

調査報告書だけでなく、基本合意書、会議録、専門家との契約書なども整理しておきましょう。

買収を見送った場合のDD費用

DDを実施した結果、買収を見送ることもあります。

この場合、取得する株式などの資産が存在しないため、買収が成立したケースとは異なる税務上の検討が必要です。

ただし、M&Aが不成立になればDD費用が必ず損金になると断定することはできません。支出の内容、契約上の支払義務、業務の完了時期などを確認します。

M&A費用の税務処理で失敗しないための確認事項

契約書・請求書・調査報告書を整理する

費用の税務処理を正しく判断するためには、どのような業務に対して支払ったのかを説明できる資料が必要です。

特に次の書類を整理しておくとよいでしょう。

  • 仲介会社との業務委託契約書
  • 仲介手数料・専門家報酬の請求書
  • DDの調査計画書・調査報告書
  • 基本合意書・最終契約書
  • 取締役会議事録などの意思決定資料
  • 費用の支払記録・会計処理の記録

M&Aの進行状況を時系列で把握する

一般的なM&Aは次の流れで進みます。

  1. 買収候補先の選定・初期調査
  2. 意向表明・基本合意
  3. DDの実施
  4. 買収価格や契約条件の調整
  5. 最終契約締結・取引実行

実際の順序は案件によって異なります。税務上は契約段階だけでなく、業務内容や買収の実現可能性なども踏まえて判断します。

詳しい手続きについては「介護M&Aの流れ|相談から成約まで」も参考にしてください。

申告前に税理士へ確認したいこと

  • 費用を支払ったのは法人か個人か
  • 株式譲渡・事業譲渡など、どの取引形態か
  • 各報酬はどの業務に対する対価か
  • 損金算入か取得価額算入か
  • どの事業年度に計上するか
  • 法人税・所得税・消費税への影響はないか

M&A仲介会社は取引条件や費用の内訳を整理し、具体的な税務判断は税理士が行うという役割分担が重要です。

まとめ|介護M&Aの費用は損金と手取りの両面から確認しよう

介護M&AのDD費用や仲介手数料は、支出目的や取引形態によって税務処理が異なります。

2026年2月18日の東京地裁判決では、業務内容や株式購入の実現可能性などを踏まえた判断が示されました。ただし、判決の結果をすべての案件に当てはめることはできません。

売り手経営者は、仲介手数料の負担だけでなく、売却価格、税負担、借入金の返済、売却後の手取り額を総合的に確認することが重要です。

介護M&Aの費用と損金に関するよくある質問(FAQ)

Q1. DD費用は支払った年度にすべて損金にできますか?

いいえ。DD費用の税務処理は、調査の目的や実施時期、取引形態などによって異なります。株式の取得価額への算入が必要になる場合もあるため、個別に判断します。

Q2. M&Aが不成立になった場合、DD費用は損金になりますか?

損金算入を検討できる場合があります。ただし、不成立という結果だけで決まるわけではありません。契約内容や業務完了時期、費用の性質などを踏まえて判断します。

Q3. 売却時の仲介手数料は譲渡所得の計算で差し引けますか?

個人が保有株式を売却する場合、売却に直接必要な委託手数料などは、株式譲渡所得の計算で差し引ける場合があります。ただし、費用の内容に応じた確認が必要です。

Q4. 成功報酬は必ず株式の取得価額に算入されますか?

必ずしもそうではありません。買い手法人が株式を購入するために支払う成功報酬と、売り手法人が事業譲渡に伴って支払う報酬では、税務上の考え方が異なります。

Q5. 介護M&Aの費用は誰に相談すればよいですか?

損金算入の可否や申告方法など、具体的な税務判断は税理士に相談してください。M&A仲介会社には、取引形態、仲介費用、売却条件や事業承継の進め方について相談できます。

参考資料・出典

  • 国税庁「No.1464 譲渡した株式等の取得費」(2026年4月1日現在法令等)
    国税庁公式サイト
  • 国税庁「合併に伴うデューディリジェンス費用の取扱い」(2025年8月1日現在法令・通達等)
    国税庁公式サイト
  • 国税庁「法人税基本通達2-3-5 有価証券の購入のための付随費用」
    国税庁公式サイト
  • 中小企業庁「中小M&Aガイドライン(第3版)」(2024年8月改訂)
    経済産業省公式サイト
  • 長島・大野・常松法律事務所「DD費用の法人税法上の取扱いについての初の司法判断」(2026年3月)
    判例解説
  • 有斐閣Online「M&A取引におけるデューデリジェンス費用等の損金算入時期」(2026年10月23日公開)
    判例解説

免責事項:本記事は2026年10月24日時点で確認できた公的資料・判例解説等に基づく一般的な情報提供を目的としており、個別の税務・法務・行政手続きに関する助言ではありません。M&A関連費用の税務処理は、取引形態、契約内容、支出目的、適用法令等によって異なります。実際の申告や契約、行政手続きについては、税理士・弁護士等の専門家および関係行政機関へご確認ください。

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松本 圭祐
記事監修
取締役
松本 圭祐
新卒で楽天株式会社に入社し、その後合同会社DMM.comに転職。オンライン英会話サービスの「DMM英会話」の立ち上げを担当し、3年で業界最大手となる。
日本チームのマネージャーを務めた他、新規事業や法人営業なども管掌。その後ヘルスケア・福祉関連の事業を行う上場企業に転職し、M&A支援事業の立ち上げ、グロース全般を担当。
今までにM&Aコンサルタントとして50件以上の案件を成約に導く。
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