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障がい福祉事業の売却準備|加算・稼働率・記録の磨き上げ

障がい福祉事業の売却準備では、直近の利益だけでなく、その利益を買収後も維持できる体制と、適正な運営を証明する資料が評価されます。加算・稼働率・記録を一体で見直し、収益性、継続性、行政上の安全性を整えることが、納得できる譲渡条件を目指すための基本です。

障がい福祉事業の売却準備で行う「磨き上げ」とは

磨き上げとは、売却前に事業の課題を整理し、収益性や運営体制を改善する取り組みです。単に売上を増やすのではなく、買い手が事業を引き継いだ後の収支とリスクを判断できる状態をつくります。

評価の視点買い手が確認すること磨き上げの例
収益性売上、利益、加算、稼働率未取得加算と空き枠の見直し
継続性人員体制、紹介経路、業務の属人性業務手順と採用状況の整理
安全性指定基準、請求、記録、労務算定根拠と勤務実績の点検

直近の利益が高くても、特定の管理者だけに業務が集中していたり、加算の根拠資料が不足していたりすれば、買い手は買収後の減収や返還を想定します。その不確実性が、譲渡価格や契約条件に反映されることもあります。

一方、現在の利益が低くても、空き枠、紹介経路、採用状況などから改善の道筋を示せれば、買い手の検討対象になる可能性があります。サービス別の評価要素は、内部記事「障がい福祉M&A相場|サービス別の価値評価を解説」もご参照ください。

磨き上げによって希望価格での売却が保証されるわけではありません。実際の評価は、サービス種別、地域、財務、人材、指定・請求状況、買い手の戦略などを踏まえて個別に決まります。

報酬改定後は加算・人員配置・記録を一体で確認する

令和6年度・令和8年度の報酬改定を確認する

障害福祉サービス等報酬は、基本報酬に加算・減算を反映して算定します。報酬改定による算定区分や要件の変更は、請求額だけでなく、人員配置、賃金、研修、記録業務にも影響します。

2024年度の令和6年度報酬改定に続き、2026年6月には令和8年度の臨時応急的な改定が施行されました。令和8年度改定では、福祉・介護職員等処遇改善加算の対象となる職員の範囲拡大、生産性向上・協働化に取り組む事業者に対する上乗せ、計画相談支援・障害児相談支援・地域相談支援への処遇改善加算の新設などが示されています。

制度の詳細は、厚生労働省「令和8年度障害福祉サービス等報酬改定について」の告示、留意事項通知、Q&Aで確認できます。

処遇改善加算はそのまま利益になる加算ではない

加算取得による請求額の増加と、事業者に残る利益の増加は分けて考える必要があります。特に処遇改善加算は、賃金改善や職場環境等の要件を伴う制度です。受け取った加算額を、自由に事業利益として残せるものではありません。

その他の加算についても、追加配置、研修、会議、記録などに費用がかかる場合があります。「加算を増やすほど事業価値が上がる」と考えず、取得後に残る増分利益と継続可能性を確認します。

令和8年度の応急的報酬単価と事業譲渡の関係

令和8年度改定では、就労継続支援B型、共同生活援助の介護サービス包括型・日中サービス支援型、児童発達支援、放課後等デイサービスについて、原則として2026年6月1日以降に新規指定された事業所へ応急的な報酬単価を適用する仕組みが設けられました。

この応急的報酬単価の適用判定に限り、合併・分割・事業譲渡の前後で事業所が実質的に継続して運営されると認められる場合は、既存事業所と同様に扱う旨が示されています。

これは、事業譲渡によって指定が自動的に承継されるという意味ではありません。指定申請、廃止届、変更届などの取扱いは、サービス種別、譲渡スキーム、指定権者によって異なる可能性があります。基本合意前のできるだけ早い段階で、指定権者へ確認する必要があります。

最初に3年分の数字と運営状況を整理する

磨き上げを始める前に、過去3年程度の推移を事業所別・サービス別・月別に整理します。年次決算だけでは、報酬改定、利用者の増減、職員の採用・退職による影響が見えにくいためです。

  • 売上高、営業利益、減価償却費
  • 基本報酬、加算収入、利用者負担の内訳
  • 契約者数、実利用者数、延べ利用回数
  • 定員または提供可能量に対する稼働状況
  • 常勤換算、有資格者数、人件費
  • 返戻、過誤調整、未収金の発生状況
  • 事業所別・サービス別の損益

複数拠点を運営している場合、法人全体の利益だけでは不十分です。黒字事業所の利益で赤字事業所を補っている状態を把握できなければ、買い手も拠点ごとの承継後収支を試算できません。

役員報酬、オーナー関連費用、臨時修繕費、開設費なども分けて整理し、通常運営で見込める利益と一時的な収支を説明できる状態にします。

売却準備の優先順位を決める

磨き上げに使える時間と資金は限られます。売上改善よりも、返還や指定継続に関係する問題を先に確認します。

優先度主な確認項目
最優先人員基準、無資格配置、減算漏れ、請求誤り、指定・届出
高い加算根拠、未払残業、重要資格者の退職、賃貸借契約
中程度稼働率、採用、紹介経路、不要経費
説明準備引継ぎ手順、将来計画、一時的な赤字・支出の説明

返還リスクを残したまま売上だけを増やすと、問題が発生する対象期間や金額も拡大するおそれがあります。まずは適正運営を確認し、そのうえで収益改善へ進みます。

磨き上げ① 加算を増分利益で見直す

未取得加算と下位区分を洗い出す

現在算定している加算、取得できていない加算、上位区分を目指せる加算を一覧にします。確認対象は加算名だけではありません。

  • 対象となる利用者と支援内容
  • 必要な職種、資格、人員配置
  • 研修、会議、連携体制
  • 体制届や変更届の提出
  • 個別支援計画とサービス提供記録
  • 情報公表や実績報告等の要件

同じサービス種別でも、利用者の状態や職員配置によって算定可否は異なります。他事業所が取得しているという理由だけで判断せず、自社の実態と最新の算定要件を照合します。

追加収入から必要コストを差し引く

確認項目試算内容
追加収入対象単位数と単価、または総報酬単位数と加算率により試算
追加人件費有資格者の採用、追加配置、残業など
運用費研修、ICT、外部連携、委託費など
事務負担計画、会議、記録、届出、実績報告
増分利益追加収入から必要コストを差し引いた金額

既存の人員と支援内容で要件を満たせる加算でも、届出時期や記録方法に不備があれば算定できない場合があります。算定開始前に、最新の告示・留意事項通知・Q&Aと指定権者の案内を確認してください。

取得後も維持できる管理体制をつくる

買い手が確認するのは、売却直前だけ取得できた加算ではなく、承継後も適正に算定できる加算です。加算ごとに担当者、確認頻度、根拠資料、保存場所を決め、月次で人員配置と記録を点検します。

要件を満たしていない可能性がある場合は、事実と異なる記録を後から作成してはいけません。対象期間、原因、影響額を整理し、過誤調整や自主返還の要否を指定権者や専門家へ相談します。

加算や稼働率を改善する前に、現在の状態でどの程度の評価が見込まれるかを確認すると、取り組む項目の優先順位を決めやすくなります。M&A承継サポートでは、障がい福祉事業の無料相談・無料簡易査定に対応しています。

磨き上げ② 稼働率と利用の継続性を改善する

稼働率の計算方法を統一する

稼働率には、契約者数を定員で割る方法、実利用人数で計算する方法、延べ利用回数で計算する方法などがあります。買い手へ示すときは、分母、分子、対象期間を明記します。

経営管理上の例として、通所系サービスでは「月間の延べ実利用者数÷月間の利用可能枠」、共同生活援助では「実入居日数÷利用可能な居室日数」といった指標が考えられます。ただし、これらは全サービス共通の法定計算式ではありません。自社のサービス構造に合った指標を定義し、同じ方法で月次推移を示します。

契約者数と実利用を分けて分析する

契約者数が多くても、欠席や利用中断が多ければ売上は安定しません。次の数字を分けると、空きが生じる原因を見つけやすくなります。

  • 問い合わせ数、見学数、契約数
  • 契約者数と実利用者数
  • 欠席数と主な理由
  • 終了・解約数と主な理由
  • 曜日、時間帯、住居別の空き
  • 紹介元別の契約・継続状況

就労系では通所の継続性、放課後等デイサービスでは曜日別の偏り、共同生活援助では空室期間、訪問系では職員の提供可能時間とのバランスなど、サービスの収益構造に合わせて分析します。

紹介経路を事業の仕組みにする

相談支援事業所、医療機関、学校、行政、既存利用者からの紹介などを記録し、特定の経営者や一つの紹介先に依存していないか確認します。紹介先、連絡頻度、問い合わせ、見学、契約の結果を管理すると、承継後も再現しやすくなります。

ただし、稼働率を上げるために、事業所の支援体制に合わない利用者を無理に受け入れるべきではありません。支援の質の低下、事故、職員の離職につながれば、事業価値を損なう可能性があります。

磨き上げ③ 記録と請求を整える

計画・支援・請求・勤務実績を照合する

書類が存在するだけでは十分ではありません。個別支援計画に位置付けた支援がサービス提供記録へ反映され、その実績と職員配置に基づいて請求されているかを確認します。

資料主な確認点
個別支援計画作成日、同意、交付、支援内容、モニタリング
サービス提供記録利用日、時間、実施内容、確認方法
加算根拠対象者、担当者、支援、会議、研修
勤務関係書類勤務実績、常勤換算、資格、兼務状況
請求資料実績記録票、請求明細、返戻、過誤調整

勤務形態一覧表で配置されていても、出勤簿、雇用契約書、資格証と一致しなければ、人員配置の実態を説明できません。加算についても、対象者一覧だけでなく、必要な支援を実施したことが分かる記録が必要です。

運営指導を想定して保存状況を確認する

指定基準では、個別支援計画、サービス提供記録、市町村への通知、身体拘束等、苦情、事故などの記録について、保存が求められています。たとえば生活介護では、一定の記録をサービス提供日から5年間保存することが規定されています。

保存期間と対象書類は、サービス種別や書類の種類ごとに確認が必要です。自治体の条例・案内で追加事項が定められている場合もあるため、対象事業所の指定権者が公表する最新資料も確認してください。

このほか、虐待防止、身体拘束等の適正化、感染症対策、業務継続計画、事故・苦情対応、処遇改善加算の計画書・実績報告書も整理します。ファイル名や保存場所を統一し、担当者以外でも必要な資料を提示できる状態にします。

人材・労務・会計を承継できる状態にする

主要人材への依存を減らす

経営者、管理者、サービス管理責任者など、特定の人だけが請求、営業、職員教育、行政対応を把握している場合、退職後に運営が不安定になる可能性があります。

業務手順、年間予定、関係機関の窓口、加算確認方法を文書化します。主要職員の退職予定がある場合は隠さず、後任候補、採用活動、研修受講予定を整理した方が、買い手は承継後の体制を検討しやすくなります。

労務・会計上の追加負担を整理する

未払残業、有給休暇管理、社会保険、固定残業代の運用などは、買収後の追加負担になる可能性があります。法人経費とオーナー個人の支出が混在している場合も、実態利益を判断しにくくなります。

事業所ごとの会計、役員関連費用、一時的な修繕費、補助金、リース、借入金、簿外債務の可能性を整理し、買い手から質問された際に根拠資料を提示できる状態にします。

デューデリジェンスで確認される資料を準備する

デューデリジェンスとは、買い手が売り手の財務、法務、税務、労務、事業運営などを調査する手続きです。障がい福祉事業では、一般的な会社資料に加えて、指定・人員・加算・支援記録・請求の確認が重要になります。

  • 決算書、月次試算表、総勘定元帳、借入金資料
  • 指定通知書、変更届、加算届、運営規程
  • 個別支援計画、支援記録、請求資料
  • 職員名簿、資格証、雇用契約書、給与台帳
  • 賃貸借契約、リース、補助金関係資料
  • 事故、苦情、運営指導、返還に関する資料

問題が見つかった場合も、それだけで売却できなくなるとは限りません。事実関係、対象期間、想定される影響額、改善状況を整理し、買い手へ説明できることが大切です。

仲介会社を選ぶ際の確認点については、内部記事「障がいM&A仲介会社の選び方|相談先の7基準」もご参照ください。

障がい福祉事業の売却準備を進める手順

  1. 財務、加算、稼働率、人員、記録の現状を診断する
  2. 簡易査定で現在の評価と買い手ニーズを確認する
  3. 返還、減算、指定継続に関係する問題を優先して確認する
  4. 採算性のある加算と稼働率改善へ取り組む
  5. デューデリジェンス資料と引継ぎ手順を整理する
  6. 秘密保持に配慮しながら買い手候補を探す

改善後の実績を月次推移で示すには一定の期間が必要です。一方、赤字が拡大している、資金繰りが厳しい、重要な資格者が退職する予定がある場合は、すべての改善が終わるまで相談を待つ必要はありません。

現状での売却、改善後の売却、事業継続の3つを比較し、改善に使える資金と時間に合った方法を選びます。

障がい福祉事業の売却準備に関するよくある質問

売却準備はいつから始めるべきですか?

売却時期が決まっていなくても、財務、加算、人員、稼働率、記録の整理は始められます。改善効果を月次で示すためには一定の期間が必要ですが、経営悪化が進んでいる場合は改善を待たずに相談する方法もあります。

稼働率が低くても売却できますか?

稼働率が低くても、地域需要、立地、人員、低稼働の原因、改善余地などによって、買い手が検討する可能性があります。低稼働を隠さず、原因と改善策を数字で説明できる状態にします。

取得できる加算はすべて取得すべきですか?

必ずしもすべて取得する必要はありません。追加人件費、研修費、記録負担、継続可能性を含めて増分利益を試算し、取得する加算の優先順位を決めます。

不足している記録を後から作成してもよいですか?

実際には行っていない支援や会議を、行ったように記録することは避けなければなりません。既存資料から事実を確認し、不足の範囲と原因を整理したうえで、指定権者や専門家へ相談してください。

事業譲渡では指定をそのまま引き継げますか?

事業譲渡では運営主体が変わるため、新規指定や廃止・変更などの手続きが必要になる場合があります。実際の取扱いは、サービス種別、譲渡スキーム、指定権者によって異なるため、交渉初期に確認してください。

まとめ|利益・継続性・適正運営をセットで示す

障がい福祉事業の売却準備では、利益を増やすだけでなく、その利益が続く理由と適正運営の根拠を示す必要があります。加算は追加費用を含めて採算を確認し、稼働率は計算方法と月次推移をそろえ、記録は計画・支援・請求・勤務実績を照合しましょう。

不備や低稼働があっても、直ちに売却を諦める必要はありません。現在の評価、改善に必要な時間、改善後に期待できる効果を比較し、自社に合った進め方を検討することが大切です。

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※本記事は2026年8月31日時点の公表資料を基にした一般的な情報提供であり、個別の税務・法務・労務・行政手続きに関する助言ではありません。加算の算定、過誤調整、指定手続き、契約、税務については、指定権者および税理士・弁護士・社会保険労務士・行政書士などの専門家へご相談ください。

まずはお気軽にお問い合わせください。

松本 圭祐
記事監修
取締役
松本 圭祐
新卒で楽天株式会社に入社し、その後合同会社DMM.comに転職。オンライン英会話サービスの「DMM英会話」の立ち上げを担当し、3年で業界最大手となる。
日本チームのマネージャーを務めた他、新規事業や法人営業なども管掌。その後ヘルスケア・福祉関連の事業を行う上場企業に転職し、M&A支援事業の立ち上げ、グロース全般を担当。
今までにM&Aコンサルタントとして50件以上の案件を成約に導く。
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