小規模歯科医院の売却|一人院長でも売れる条件
小規模・院長一人の歯科医院でも、患者基盤や立地、スタッフ、設備、承継後の収益性が評価されれば、売却できる可能性があります。ポイントは現在の売上規模ではなく、院長が交代した後も診療を継続できるかです。本記事では、小規模歯科医院の売却で買い手が確認する項目、価格の考え方、売却前の準備と注意点を解説します。
小規模・一人歯科医院でも売却できるのか
結論として、院長以外に常勤歯科医師がいない医院や、ユニット数が少ない医院も売却を検討できます。小規模であることだけを理由に、承継を諦める必要はありません。
この記事でいう「一人歯科医院」とは、主に常勤歯科医師が院長一人である医院を指します。「小規模歯科医院」には法令上統一された定義があるわけではないため、売上高やユニット数だけでなく、人員体制や院長への依存度を含めて考えます。
厚生労働省の「医療施設動態調査(令和8(2026)年6月末概数)」によると、全国の歯科診療所は6万5,035施設です。開設者別では個人が4万6,606施設、医療法人が1万7,707施設となっており、個人開設の歯科診療所が大きな割合を占めています。
出典:厚生労働省「医療施設動態調査(令和8(2026)年6月末概数)」
小規模医院が買い手候補になる理由
買い手にとって、既存の歯科医院を引き継ぐメリットは、開業に必要な時間や初期投資を抑えられる可能性があることです。内装、医療機器、患者への対応体制、スタッフ、取引先などを引き継げれば、ゼロから開業する場合より早く診療体制を整えられることがあります。
- 独立を希望する歯科医師が居抜き開業を検討している
- 近隣の医療法人が分院や新たな診療拠点を探している
- 既存医院が訪問歯科や予防歯科の拠点を増やしたい
- 地域内の患者やスタッフを引き継ぎたい
- 新規開業より設備投資を抑えたい
ただし、「既存患者がいるから、売却後も同じ売上を維持できる」とは限りません。買い手は、院長交代後も患者が通院するか、スタッフが残るか、後任歯科医師を配置して利益が残るかを確認します。
小規模歯科医院で買い手が重視する6つのポイント
| 評価項目 | 買い手が確認する内容 | 売り手が準備したい資料 |
|---|---|---|
| 承継後の収益 | 後任歯科医師の人件費を反映しても利益が残るか | 決算書、確定申告書、月次試算表 |
| 患者基盤 | 新患、再診、リコール、診療内容の推移 | 匿名化・集計化した患者数資料 |
| 院長依存度 | 患者対応や診療が院長個人に集中していないか | 業務一覧、診療・運営の引き継ぎ資料 |
| スタッフ | 歯科衛生士等の配置、勤続状況、継続可能性 | 匿名の人員表、雇用条件一覧 |
| 立地・契約 | 診療圏、競合、賃貸借契約を継続できるか | 賃貸借契約書、診療圏資料 |
| 設備 | 医療機器の年式、保守状況、更新費用、残債 | 固定資産台帳、リース・保守契約書 |
最も重要なのは後任歯科医師を置いた後の利益
一人歯科医院では、院長自身が診療と経営の両方を担っています。そのため、帳簿上の利益がそのまま買い手の利益になるとは限りません。
買い手が歯科医師を雇用して診療を継続する場合、現在の利益から後任歯科医師の人件費を差し引いて収益性を判断します。院長の所得と、第三者が承継した後の事業利益を分けて考えることが重要です。
一方、買い手本人が院長として診療する場合は、独立開業先として評価されることがあります。同じ医院でも、買い手が個人歯科医師か医療法人かによって、評価の見方は異なります。
院長依存度は売却可能性を左右する
| 院長依存度 | 医院の状態 | 必要な対策 |
|---|---|---|
| 比較的低い | スタッフが業務を把握し、リコールや予約管理が仕組み化されている | 既存の運営方法を資料化する |
| 中程度 | 診療と患者対応は院長中心だが、スタッフが運営業務を把握している | 院長と買い手が並行して診療する期間を設ける |
| 高い | 診療、予約、発注、スタッフ管理の大半を院長だけが把握している | 業務の見える化と段階的な引き継ぎを行う |
院長依存度が高くても、直ちに売却できないわけではありません。一定期間、売り手が勤務医として残る方法や、診療日を段階的に引き継ぐ方法を検討できます。
小規模歯科医院の売却方法
個人開設では事業譲渡が中心
個人開設の歯科医院には譲渡できる株式がないため、医療機器、内装、在庫、屋号、ウェブサイト、賃借権、営業権など、合意した事業資産を個別に譲渡する事業譲渡が中心です。
契約、雇用、リース、許認可が一括して自動的に移るわけではありません。何を引き継ぎ、何を売り手側に残すかを契約書で明確にします。
詳しくは、歯科M&Aのスキーム|株式・事業・分院譲渡の違いもご覧ください。
医療法人は社員・役員・持分を分けて確認する
医療法人には株式会社と同じ意味での株式はありません。経営体制の承継では、社員の入退社、理事・理事長の変更などが関係します。
持分あり医療法人の場合、出資持分の取扱いも検討しますが、持分の譲渡だけで当然に経営権が移るわけではありません。持分の有無、定款、社員名簿、役員構成、基金、役員借入金などを確認したうえで承継方法を設計します。
土地・建物は事業と分けて検討できる
院長個人が医院の土地や建物を所有している場合は、不動産も譲渡する方法と、院長が保有したまま買い手へ賃貸する方法があります。
不動産まで取得する資金がない買い手でも、賃貸であれば検討できる場合があります。一方、売り手には賃貸人としての管理や将来の修繕負担が残るため、売却後の生活設計も含めて判断します。
小規模歯科医院の売却価格の考え方
売却価格は、医療機器などの資産から負債を差し引いた価値に、承継後の収益力や患者基盤などを加味して検討します。ただし、固定された計算式や全国共通の相場があるわけではありません。
- 医療機器、内装、在庫、不動産などの時価
- 借入金、リース残債、未払金などの負担
- 一時的な収入・支出を調整した正常な利益
- 後任歯科医師を確保するための人件費
- 患者基盤、スタッフ、立地などの引き継げる価値
- 設備更新や原状回復に必要となる費用
帳簿上の利益をそのまま使わない
査定では、院長個人に関係する支出、親族への給与、一時的な設備購入などを確認し、通常の事業運営に必要な収支へ調整します。そのうえで、後任歯科医師の報酬や将来の設備更新費を考慮します。
売上が同程度でも、院長本人が診療しなければ利益が残らない医院と、後任歯科医師を配置しても利益が残る医院では、買い手の評価が異なります。
譲渡価格ではなく最終的な手取りを確認する
売り手が受け取る譲渡価格からは、借入金返済、リース精算、税金、仲介手数料、専門家費用などが差し引かれることがあります。提示価格だけでなく、売却後の手取り見込みを確認しましょう。
事業譲渡では、営業権、医療機器、不動産など、譲渡する資産によって税務上の取扱いが異なります。契約締結前に、資産ごとの譲渡対価の配分を税理士へ確認することが重要です。
評価方法については、歯科医院の売却相場|のれん代と価格の決まり方で詳しく解説しています。
自院の売却可能性を確認するチェックリスト
- 直近数期の決算書または確定申告書を用意できる
- 月ごとの売上、患者数、レセプト件数を説明できる
- 院長が交代しても通院が見込まれる患者層がある
- 歯科衛生士などのスタッフが継続勤務を検討できる
- 医療機器の状態、リース残債、更新時期を把握している
- 賃貸借契約の承継について貸主へ相談できる
- 行政処分や診療報酬返還などの未解決事項がない
- 院長が一定期間の引き継ぎ診療に対応できる
該当項目が少なくても、売却不可と決まるわけではありません。買い手へ説明できない項目を明らかにし、資料整理や条件調整によって改善できるかを検討します。
小規模歯科医院を売却しやすくする準備
院長しか知らない業務を一覧化する
予約管理、材料発注、技工所との連絡、レセプト確認、スタッフ面談など、院長だけが把握している業務を書き出します。取引先、担当者、連絡時期、判断基準までまとめておくと、買い手が承継後の運営を想定しやすくなります。
患者数と売上減少の理由を説明できるようにする
患者数や売上が減少している場合は、単に数値を提示するだけでなく、原因を整理します。院長が診療日数を減らしたためなのか、競合医院の開設やスタッフ退職が影響しているのかによって、買い手の判断は異なります。
高額な設備投資を急がない
売却前に高額な医療機器を購入しても、その費用が譲渡価格へ同額上乗せされるとは限りません。安全な診療に必要な修繕は行いつつ、大規模な設備更新は買い手の診療方針も踏まえて判断します。
小規模だから売却できないとは限りません。
自院が承継対象になるか分からない場合も、無料簡易査定で相場感と整理すべき課題を確認できます。売却を決める前の情報収集として、秘密保持に配慮してご相談を承ります。
開設・保険指定・雇用・患者情報の引き継ぎ
開設者変更は単純な名義変更ではない
個人医院の開設者が変わる場合などは、旧医院の廃止、新しい開設者による開設手続き、保険医療機関の指定申請が関係します。医療法上の手続きと、地方厚生局で行う保険医療機関指定は別に確認する必要があります。
2026年9月1日から、保険医療機関の遡及指定と機能移転の取扱いが変更されています。開設者変更等では遡及指定が認められる場合がありますが、類型によっては原則として希望日の3か月前までに予定届出が必要です。
医院所在地を管轄する保健所、都道府県、地方厚生局へ計画段階で相談してください。詳しくは、歯科M&Aの許認可・名義変更|保険指定の承継をご覧ください。
スタッフの雇用は本人の承諾を得て進める
事業譲渡では、スタッフの労働契約が当然に買い手へ移るわけではありません。承継後の雇用主、給与、勤務時間、勤務地、勤続年数、有給休暇、退職金などの取扱いを説明し、対象スタッフ本人の真意による承諾を得ながら進めます。
情報流出や不安による退職を防ぐため、スタッフへ伝える時期と説明内容は、買い手や専門家と事前に決めておきます。
患者情報は承継の実態に沿って管理する
個人情報保護委員会は、合併その他の事由による事業承継に伴って診療録等の個人データを提供する場合、承継先は第三者に該当せず、患者の個別同意なしに提供できると示しています。
ただし、承継を装った情報提供や、承継後に本来の利用目的を超えて使用することまで認められるわけではありません。秘密保持契約、アクセス権限、安全管理、患者への案内方法を含め、実際の承継内容に応じて確認します。
小規模歯科医院を売却する流れ
- 売却時期、希望価格、引退後の勤務可否を整理する
- 財務、患者、スタッフ、設備、契約資料を準備する
- 簡易査定を受け、売却可能性と課題を確認する
- 医院名を伏せた状態から買い手候補を探す
- 秘密保持契約後、候補先へ詳細情報を開示する
- 面談で診療方針や引き継ぎ条件を確認する
- 基本合意後、財務・法務・労務等の調査を受ける
- 最終契約、行政手続き、雇用・診療の引き継ぎを行う
買い手探索、融資、貸主の承諾、行政手続きに必要な期間は案件ごとに異なります。短期間での成約を前提にせず、希望する退任時期から余裕を持って準備しましょう。
買い手が見つかりにくい場合の選択肢
希望条件で買い手が見つからない場合は、価格だけでなく、譲渡対象や引き継ぎ方法を見直します。
- 院長が一定期間、非常勤歯科医師として残る
- 土地・建物は売却せず、買い手へ賃貸する
- 医療機器や在庫など、譲渡対象を整理する
- スタッフの雇用維持など、優先条件を明確にする
- 親族承継、勤務医承継、第三者承継を比較する
- 売却活動と並行して閉院時の費用や手続きを確認する
閉院と比較する場合は、譲渡価格だけでなく、原状回復、設備処分、解約、スタッフ対応などを含む最終的な手残りと負担を確認します。詳しくは、歯科医院の廃業と売却|閉院コストを比較をご覧ください。
小規模歯科医院の売却に関するFAQ
赤字の小規模歯科医院でも売却できますか?
赤字だけを理由に売却できないとは限りません。一時的な設備投資や院長個人に関係する経費が原因であれば、承継後の正常な収益を見直せる場合があります。立地、患者基盤、スタッフ、設備なども含めて評価します。
院長以外に歯科医師がいなくても売却できますか?
検討可能です。ただし、買い手本人が診療するのか、勤務歯科医師を配置するのかによって承継後の収益が異なります。後任確保と引き継ぎ期間を早い段階で検討します。
スタッフが少なくても買い手は見つかりますか?
少人数であることだけで売却できないとは限りません。ただし、歯科衛生士などの採用が難しい地域では、既存スタッフの継続意向が重視される場合があります。
賃貸物件の歯科医院でも売却できますか?
売却を検討できますが、賃借権の譲渡や買い手との新規契約について、貸主の承諾が必要になる場合があります。保証金、原状回復、契約期間、保証人なども確認します。
院長は売却と同時に完全に退任できますか?
買い手側で後任歯科医師を確保できれば、完全退任できる場合があります。ただし、患者やスタッフの円滑な引き継ぎのため、一定期間の継続勤務を求められることもあります。
まとめ|小規模歯科医院は承継後の姿を示すことが重要
小規模・院長一人の歯科医院の売却では、現在の売上だけでなく、後任歯科医師を配置した後の利益、患者の継続性、スタッフ、設備、賃貸借契約、院長依存度が重視されます。
院長しか把握していない業務を見える化し、財務・患者・人員・設備・契約資料を整えることで、買い手が承継後の運営を判断しやすくなります。閉院を決めて設備処分や解約を始める前に、売却可能性と手取りの目安を確認しておきましょう。
本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の税務・法務・労務・行政手続きに関する助言ではありません。実際の売却や手続きについては、税理士、弁護士、社会保険労務士、行政書士、所管行政機関などへご確認ください。
まずはお気軽にお問い合わせください。

