M&Aコラム

トップ > M&Aコラム > 歯科 > 歯科M&Aの許認可・名義変更|保険指定の承継

歯科M&Aの許認可・名義変更|保険指定の承継

歯科医院M&Aでは、医院名を変えるだけの「名義変更」と、開設者が変わる「廃止・新規開設」を区別する必要があります。さらに、2026年9月1日から保険医療機関の遡及指定に新しい取扱いが適用されています。保険診療やレセプト請求の空白を避けるには、M&Aのスキームを決める段階から行政手続きを逆算することが重要です。

歯科M&Aの許認可・名義変更は一括承継できるのか

歯科医院M&Aでは、一つの「営業許可」を買い手へ移すわけではありません。診療所の開設、保険医療機関の指定、施設基準など、根拠と提出先が異なる手続きを個別に整理します。

  • 診療所の開設許可・開設届・廃止届・変更届
  • 保険医療機関の指定申請と廃止に関する届出
  • 管理者・勤務する保険医・診療時間等の変更
  • 基本診療料・特掲診療料に関する施設基準
  • 生活保護法、労災保険等に基づく指定
  • 診療用エックス線装置や麻薬関係の届出・免許

医療法に基づく診療所の開設手続きと、健康保険法に基づく保険医療機関の指定は別の制度です。保健所で開設手続きを終えても、保険医療機関として指定される前に当然に保険診療を行えるわけではありません。

「名義変更」は変更対象によって手続きが変わる

変更するもの基本的な取扱い主な確認先
医院名称開設者が同じであれば変更届で対応するケースが中心保健所・地方厚生(支)局
管理者診療所と保険医療機関の変更届を確認保健所・地方厚生(支)局
法人代表者・理事長法人格を維持し、役員変更、登記、管理者変更等を確認都道府県等・法務局・保健所・地方厚生(支)局
開設者旧医院の廃止と新開設者による開設・指定申請になる場合がある保健所・地方厚生(支)局
所在地住居表示変更を除き、廃止・新規開設となる場合がある保健所・地方厚生(支)局

医院名、スタッフ、設備が同じでも、開設者が個人のA歯科医師からB歯科医師へ変われば、単なる名称変更とは扱われません。自治体の案内でも、開設者変更や移転では新規開設の手続きが必要になるとされています。必要書類や現地確認の有無は自治体によって異なるため、管轄保健所への事前相談が必要です。

個人歯科医院を事業譲渡する場合の行政手続き

個人医院の事業譲渡では、内装、医療機器、屋号、患者対応に必要な情報などを契約で譲渡できます。しかし、行政上の開設者や保険医療機関の指定まで、事業譲渡契約だけで置き換えられるわけではありません。

  1. 売り手が診療所と保険医療機関の廃止手続きを準備する
  2. 買い手が診療所の開設手続きを行う
  3. 買い手が保険医療機関の指定を申請する
  4. 施設基準、公費指定、設備関係の手続きを確認する
  5. オンライン資格確認・オンライン請求等を切り替える

臨床研修等の法定要件を満たす歯科医師が個人で診療所を開設する場合は開設届が中心です。医療法人などが開設する場合は、原則として事前の開設許可と開設後の届出が必要になります。平面図、歯科医師免許証、履歴書、賃貸借契約書、定款、登記事項証明書など、求められる書類は開設主体と地域によって異なります。

医院名を残す場合でも、「同じ名称なら以前の指定を使える」とは限りません。判断の基準は看板ではなく、医療法上の開設者と保険医療機関の指定関係です。

2026年9月からの保険医療機関の遡及指定

保険医療機関の指定日は、通常、指定申請後の所定の日となります。旧医院の廃止日と新医院の指定日がずれると、保険診療の空白が生じる可能性があります。

これを調整する仕組みが「遡及指定」です。厚生労働省は、2026年6月5日付「保医発0605第2号」で遡及指定と機能移転の取扱いを整理し、同年7月31日に一部訂正を行いました。新しい取扱いは原則として2026年9月1日から適用されています。

近畿厚生局の最新案内では、手続きを次の3類型に分けています。

類型主な対象手続き上の注意
類型1個人開設者の死亡等による承継新開設者の指定申請と旧医院の廃止手続きを行う
類型2至近距離への移転、または所在地移転を伴わない一定の開設者変更所定の継続性要件を確認する
類型3類型1・2以外の変更原則として遡及希望日の3か月前までに予定届出書を提出する

類型2に該当する可能性があるケース

類型2の「至近距離への移転」は、同一都道府県内における直線距離2km以内で、開設者が変わらない場合とされています。

所在地を変えず、開設者だけを変更する歯科診療所については、主に次のようなケースが示されています。

  • 個人開設者から、血族その他の勤務する保険医等である個人へ変更する
  • 個人開設者から、その個人を理事長とする法人へ変更する
  • 法人から、その法人の理事長を個人開設者へ変更する

これらに該当するだけで遡及指定が確定するわけではありません。類型2では、一つの旧医院から一つの新医院への承継であることに加え、診療録、患者、主な標榜診療科、管理者、職員等の継続性が確認されます。

職員については、旧医院で診療していた医師・歯科医師のうち概ね8割以上、常勤医師・歯科医師のうち概ね5割以上が継続雇用されることなどが示されています。所在地を変えず開設者だけを変更する場合は、原則として開設者を除く全職員の継続も確認対象です。小数点以下の扱いや開設者兼管理者の交代には例外があるため、個別確認が必要です。

類型3は原則3か月前の予定届出が必要

2kmを超える移転、所在地と開設者を同時に変更するケース、類型2の継続性要件を満たさないケースなどは、類型3に該当する可能性があります。

類型3では、原則として遡及指定を希望する日の3か月前までに予定届出書を提出します。予定届出をせず、クロージング直前に相談すると、希望日に遡及指定を受けられない可能性があります。歯科医院M&Aでは、最終契約日ではなく、基本合意やデューデリジェンスの段階で該当類型を確認することが重要です。

申請締切、様式、提出先は管轄の地方厚生(支)局で確認してください。

施設基準は自動承継ではなく再確認が必要

歯科医院では、届出を前提として算定する施設基準があります。開設者変更等によって新たな保険医療機関の指定を受ける場合、旧医院の受理内容がそのまま新医院へ移ると考えるのは適切ではありません。

2026年9月からの取扱いでは、遡及指定が認められ、旧医院で受理されていた施設基準を新医院でも満たし、期限までに届出を行えば、遡及指定日から算定できる場合があります。

旧医院で届け出ていなかった施設基準については、次のように扱いが分かれます。

  • 実績を必要としない施設基準:新医院で要件を満たし、期限までに届出・審査を終えれば、遡及指定日の属する月から算定できる場合がある
  • 実績を必要とする施設基準:旧医院の実績を利用できる場合がある
  • 旧医院にも必要な実績がない場合:新医院で実績を積み、届出後の所定時期から算定する

対象となる施設基準、提出期限、算定開始日は個別に確認します。届出の控えだけでなく、要件を裏付ける人員、研修、設備、院内掲示、実績資料もデューデリジェンスの対象に含めましょう。

医療法人の歯科医院を承継する場合

法人格を維持する承継

医療法人の法人格を維持し、社員、役員、理事長等を入れ替える承継では、診療所の開設者である法人自体は変わらない場合があります。その場合、個人医院の事業譲渡と同じように、常に診療所を廃止して新規開設するとは限りません。

ただし、社員の入退社、理事・監事の変更、理事長の変更登記、管理者の変更、保健所・地方厚生(支)局への届出を確認します。管理者や勤務歯科医師の交代によって施設基準を満たさなくなる可能性にも注意が必要です。

別法人への事業譲渡

医療法人から別法人へ歯科診療所の事業を譲渡する場合は、開設者が変わるため、廃止・新規開設と保険指定が問題になります。合併・分割を利用する場合は、医療法に基づく認可等を伴い、事業譲渡とは異なる工程になります。

M&Aスキーム開設者主な手続き
個人から個人への事業譲渡変更あり廃止・新規開設・指定申請を検討
個人から医療法人への譲渡変更あり法人による開設許可等と指定申請を検討
法人格を維持した医療法人承継原則同一社員・役員・理事長・管理者等の変更
医療法人から別法人への事業譲渡変更あり廃止・新規開設・指定申請を検討

各スキームの違いは、歯科医院M&Aのスキーム比較もあわせてご覧ください。

保険診療を途切れさせないスケジュール

  1. 開設者、譲渡対象、承継希望日を整理する
  2. 保健所へ開設・廃止手続きを事前相談する
  3. 地方厚生(支)局へ遡及指定の類型を確認する
  4. 類型3の場合は原則3か月前までに予定届出を行う
  5. 施設基準、公費指定、設備関係の手続きを一覧化する
  6. 最終契約に手続きの分担と前提条件を定める
  7. 指定、オンライン資格確認、請求システムの稼働を確認する

「3月31日まで売り手、4月1日から買い手」とする場合は、譲渡日だけでなく、廃止日、開設日、遡及指定日、雇用切替日、レセコンの切替日を整合させます。

診療報酬は診療月と入金時期がずれるため、譲渡前の診療分、返戻、再請求、過誤調整の帰属も契約書で定めておきます。M&A全体の工程は、歯科医院M&Aの流れも参考にしてください。

開設者変更や保険医療機関の指定に不安がある場合は、譲渡条件を固める前に手続きの全体像を整理することが大切です。M&A承継サポートでは、秘密を厳守し、無料相談・無料簡易査定を通じて自院の相場感や承継方法を確認できます。

カルテ・契約・システムの名義変更

カルテ等の患者情報

個人情報保護委員会のFAQでは、医療機関の業務承継に伴って診療録等の個人データを提供する場合、承継先は個人情報保護法上の第三者に該当せず、患者の同意がなくても提供可能とされています。

ただし、事業承継に該当することが前提です。承継前の利用目的の範囲、安全管理措置、紙・電子カルテの保管、閲覧権限、システム移行、患者からの問い合わせ対応を契約書と引継計画に反映します。

契約・システム

  • 建物の賃貸借契約と貸主の承諾
  • 歯科ユニット、CT、レセコン等のリース・保守契約
  • 歯科技工所、材料仕入先、医療廃棄物処理業者との契約
  • 電話、ドメイン、予約システム、決済サービス
  • オンライン資格確認、電子証明書、オンライン請求
  • 振込口座、口座振替、電気・水道・通信契約

契約上の地位は、相手方の承諾なしに移せない場合があります。「譲渡対象資産一覧」とは別に「承諾・再契約が必要な契約一覧」を作成します。

デューデリジェンスで確認する資料

  • 診療所の開設許可証、開設届、変更届
  • 保険医療機関指定通知書と変更・廃止関係書類
  • 施設基準の届出書、受理状況、実績資料
  • 管理者、勤務歯科医師、歯科衛生士の資格・勤務状況
  • 公費指定、エックス線装置、麻薬関係の書類
  • 個別指導、監査、返還、未届事項に関する資料
  • レセプト請求、返戻、再請求、過誤調整の資料
  • 賃貸借、リース、保守、仕入れ等の契約書

特に2026年9月以降は、類型2の継続性を説明できるよう、診療録の引継方法、患者対応、標榜診療科、管理者、勤務歯科医師等の一覧を整理しておくことが重要です。

歯科M&Aの許認可・名義変更に関するFAQ

医院名が同じなら保険医療機関の指定も残りますか?

医院名が同じでも、開設者が変われば新たな指定申請が必要になる場合があります。医院名ではなく、医療法上の開設者を基準に確認します。

事業譲渡なら遡及指定を受けられますか?

事業譲渡だけを理由に自動的に認められるものではありません。2026年9月からの3類型に沿って、診療録、患者、診療科、管理者、職員等の継続性や事前手続きを確認します。

類型3の3か月前を過ぎた場合はどうなりますか?

希望日に遡及指定を受けられない可能性があります。個別事情によるため、直ちに管轄の地方厚生(支)局へ相談してください。

理事長が変わるだけでも再指定が必要ですか?

法人格と開設者が同一なら、直ちに廃止・新規指定になるとは限りません。ただし、理事長、法人代表者、管理者等の変更届や登記を確認します。

施設基準はそのまま使えますか?

自動的に承継されるとは限りません。遡及指定の可否、旧医院の届出・実績、新医院での要件充足、再届出の時期によって算定開始日が変わります。

まとめ|歯科M&Aは遡及指定の類型を早めに確認する

歯科医院M&Aでは、開設者が変わるかどうかによって必要な手続きが大きく異なります。個人医院の事業譲渡や別法人への譲渡では、廃止・新規開設と保険指定を中心に確認します。法人格を維持する承継では、社員、役員、理事長、管理者等の変更を整理します。

2026年9月以降は、遡及指定が3類型に分けられ、類型3では原則3か月前の予定届出が必要です。価格交渉だけを先行させず、行政手続き、施設基準、契約、システムを一つの工程表で管理しましょう。

本記事は2026年9月時点の公表情報をもとにした一般的な情報提供であり、個別の法務・税務・行政手続きに関する助言ではありません。必要な届出、申請期限、遡及指定および施設基準の取扱いは、M&Aのスキーム、地域、歯科医院の状況によって異なります。実際の手続きは、管轄の保健所・地方厚生(支)局および行政書士、弁護士、税理士等の専門家へご確認ください。

まずはお気軽にお問い合わせください。

松本 圭祐
記事監修
取締役
松本 圭祐
新卒で楽天株式会社に入社し、その後合同会社DMM.comに転職。オンライン英会話サービスの「DMM英会話」の立ち上げを担当し、3年で業界最大手となる。
日本チームのマネージャーを務めた他、新規事業や法人営業なども管掌。その後ヘルスケア・福祉関連の事業を行う上場企業に転職し、M&A支援事業の立ち上げ、グロース全般を担当。
今までにM&Aコンサルタントとして50件以上の案件を成約に導く。
一覧に戻る