歯科医院の売却相場|のれん代と価格の決まり方
歯科医院の売却を検討すると、多くの院長が最初に気になるのが「自院はいくらで売却できるのか」という相場ではないでしょうか。しかし、歯科医院のM&Aには一律の相場は存在せず、売却価格は収益力や患者基盤、設備、立地、スタッフ体制などを総合的に考慮して決定されます。
また、同じ売上規模であっても、医院ごとの強みや買い手のニーズによって価格は大きく変わることがあります。
本記事では、歯科医院の売却相場の考え方、企業価値の評価方法、のれん代(営業権)の仕組み、高く評価されやすい医院の特徴まで、M&A初心者の院長にも分かりやすく解説します。
歯科医院の売却相場はいくら?まず知っておきたい考え方
結論からいうと、歯科医院には「〇〇万円が相場」といった決まった価格はありません。
一般的な不動産とは異なり、歯科医院の売却価格は医院ごとの状況や買い手の評価によって決まります。そのため、売上が同じ医院でも数百万円から数千万円以上の差が生じるケースもあります。
中小M&Aガイドラインでも、企業価値評価は譲渡価格を決めるための参考であり、最終的な譲渡価格は当事者間の交渉によって決定されるとされています。
歯科医院の売却価格に「定価」はない
例えば、次の2つの歯科医院を比較してみます。
| 項目 | A医院 | B医院 |
|---|---|---|
| 年間売上 | 8,000万円 | 8,000万円 |
| 自費率 | 35% | 8% |
| メンテナンス患者 | 多い | 少ない |
| 歯科衛生士 | 5名 | 2名 |
| 設備 | CT・口腔内スキャナー導入 | 旧型設備中心 |
| 立地 | 駅徒歩3分 | 郊外 |
売上が同じでも、将来の収益性や引き継ぎやすさが異なれば、買い手から見た価値は大きく変わります。
つまり、「平均相場」を調べるよりも、自院の企業価値を正しく把握することが重要です。
売却価格はどのように決まるのか
中小M&Aでは、主に次のような評価方法を参考に企業価値を算定します。
- 時価純資産法
- 類似会社比較法(マルチプル法)
- DCF法(将来キャッシュフローを基に評価する方法)
実務では、時価純資産法をベースに評価されるケースが多い一方、案件によってはマルチプル法やDCF法も参考にされます。どの方法を採用するかは医院の状況や取引内容によって異なります。
| 価格決定の流れ |
|---|
| ① 財務状況・資産を評価 |
| ↓ |
| ② 収益力を評価 |
| ↓ |
| ③ のれん(営業権)を評価 |
| ↓ |
| ④ 買い手の需要・競争状況を考慮 |
| ↓ |
| ⑤ 交渉を経て譲渡価格が決定 |
歯科医院の売却価格(価値評価)の考え方
歯科医院の企業価値は、一つの計算式だけで決まるわけではありません。
ただし、中小M&Aでは、時価純資産に営業権(のれん代)を加味して譲渡価格の目安を検討するケースが多く見られます。
時価純資産とは
時価純資産とは、医院が保有する資産と負債を現在の価値で評価した純資産です。
- 現預金
- 医療機器
- CT・口腔内スキャナー
- 内装
- 借入金
- 未払金
帳簿価格ではなく、実際の市場価値に置き換えて評価することが特徴です。
のれん代(営業権)とは
設備や現金だけでは説明できない「医院の強み」を金額として評価したものが、のれん代(営業権)です。
例えば、以下のような要素が評価対象になります。
- 地域での知名度
- 長年通院している患者基盤
- 定期検診患者の多さ
- 自費診療の実績
- スタッフの定着率
- 紹介患者が多い仕組み
なお、「営業利益の〇年分」といった年買法が紹介されることがありますが、これはあくまで簡便的な目安の一つです。実際には案件ごとの事情や交渉内容によって評価方法や価格は異なります。
【新設】ケース別|歯科医院の売却価格イメージ
実際の売却価格は個別事情によって異なりますが、評価の考え方を理解するためのイメージとしてご覧ください。
| ケース | 評価されやすいポイント |
|---|---|
| 売上8,000万円・利益1,200万円・自費率30% | 患者基盤・収益性が評価されやすい |
| 売上1.2億円・利益2,000万円・スタッフ充実 | 引継ぎしやすい体制として評価されやすい |
| 赤字だが駅前立地・患者数が多い | 将来性を評価する買い手が現れる可能性がある |
これらはあくまでイメージであり、実際の売却価格は医院ごとの財務内容や契約条件、買い手との交渉によって決定されます。
歯科医院の価値を左右する7つのポイント
歯科医院の売却価格は、決算書の数字だけで決まるわけではありません。買い手は「引き継いだ後も安定した経営を継続できるか」という視点から、多面的に医院を評価します。
ここでは、実際のM&Aで重視されやすい主な評価ポイントをご紹介します。
1. 売上・利益の安定性
単年度だけ利益が出ているよりも、数年間にわたって安定した利益を確保している医院の方が評価されやすい傾向があります。
2. 自費診療の割合
インプラントや矯正、セラミック治療などの自費診療は収益性の高さにつながります。ただし、自費率だけではなく、地域性や患者層とのバランスも重要です。
3. メンテナンス患者・リコール率
定期検診やメンテナンスで継続的に来院する患者が多い医院は、院長交代後も患者が定着しやすいと考えられるため、事業の継続性という観点から評価されやすくなります。
4. スタッフ体制
歯科衛生士や歯科助手が長く勤務している医院は、引き継ぎ後も診療体制を維持しやすく、買い手に安心感を与えます。
5. 立地・診療圏
駅前や住宅地など患者が通院しやすい立地だけでなく、人口動態や競合医院の状況も評価対象になります。
6. 医療設備
CT、口腔内スキャナー、デジタルレントゲンなどの設備は、単に導入されているかではなく、現在も十分活用できる状態かどうかが重要です。
7. 院長への依存度
院長個人の技術や人脈だけで患者が集まっている場合は、院長退任後の収益が予測しづらくなるため、評価に影響することがあります。
| 評価項目 | 重要度 | 評価されやすい例 |
|---|---|---|
| 利益 | ★★★★★ | 安定した黒字経営 |
| 患者基盤 | ★★★★★ | 定期検診患者が多い |
| 立地 | ★★★★★ | 継続的な集患が期待できる |
| 設備 | ★★★★☆ | CT・口腔内スキャナー等が活用されている |
| スタッフ | ★★★★☆ | 歯科衛生士が定着している |
| 自費率 | ★★★★☆ | 保険診療とのバランスが良い |
| 院長依存度 | ★★★★☆ | スタッフ主体でも運営可能 |
【独自】買い手は歯科医院のどこを見ている?
売り手は「売上が高ければ高く売れる」と考えがちですが、買い手が確認しているポイントはそれだけではありません。
実際には、将来も安定して医院を運営できるかという視点から、次のような項目が確認されます。
- 定期検診患者が継続的に来院しているか
- 歯科衛生士が十分に確保されているか
- 院長以外でも診療体制を維持できるか
- CTや口腔内スキャナーなど設備投資の状況
- 自費診療と保険診療のバランス
- 賃貸借契約やリース契約の内容
- 電子カルテや予約システムの整備状況
このような情報はデューデリジェンス(買収監査)でも確認されることが多く、早い段階から整理しておくことで、交渉を円滑に進めやすくなります。
のれん代(営業権)はどのように評価される?
歯科医院の売却価格では、設備や現預金などの有形資産だけでなく、地域で築いた信頼や患者基盤といった無形資産も評価対象となります。
これらを金額として評価したものが「のれん代(営業権)」です。
のれん代として評価されやすい要素
- 地域での知名度
- 継続して来院する患者基盤
- 自費診療の実績
- 安定した利益
- スタッフの定着率
- 紹介患者が多い仕組み
- 院長交代後も継続しやすい診療体制
なお、「営業利益の○年分がのれん代」といった説明を見かけることがありますが、これは一部で用いられる簡便的な考え方の一つです。実際には、時価純資産法・類似会社比較法(マルチプル法)・DCF法なども参考にしながら企業価値を検討し、最終的な譲渡価格は買い手との交渉を経て決定されます。
まずは自院の売却相場を知りたい方へ
歯科医院の売却価格は、インターネット上の相場だけでは判断できません。患者構成や収益性、設備、立地などを踏まえて個別に評価する必要があります。
M&A承継サポートでは、歯科業界に精通したアドバイザーが無料相談・無料簡易査定を承っています。売却するか決めていない段階でも、お気軽にご相談ください。
高く売れやすい歯科医院・価格が伸びにくい歯科医院の違い
| 高く評価されやすい医院 | 価格が伸びにくい医院 |
|---|---|
| 利益が安定している | 利益の変動が大きい |
| 定期検診患者が多い | 新患への依存度が高い |
| スタッフが定着している | 離職率が高い |
| 設備更新が適切に行われている | 老朽化した設備が多い |
| 院長交代後も運営しやすい | 院長依存度が高い |
| 資料や契約書類が整理されている | 資料が十分に整理されていない |
もちろん、これらに当てはまらない場合でも売却できないわけではありません。赤字であっても、立地や患者基盤、将来性などが評価されれば、買い手が見つかる可能性があります。実際の評価は医院ごとの状況を踏まえて個別に判断されます。
査定額と実際の売却価格はなぜ違うのか
歯科医院のM&Aでは、「査定額」と「実際の譲渡価格」が一致するとは限りません。
査定額とは、企業価値評価の考え方をもとに算出した参考となる価格です。一方、最終的な譲渡価格は、買い手との交渉や譲渡条件、競争状況などを踏まえて決定されます。
中小企業庁の「中小M&Aガイドライン(第3版)」でも、企業価値評価(バリュエーション)は譲渡価格を決める際の目安の一つであり、評価手法は企業の実態や事業特性に応じて選択されるとされています。
複数の買い手候補が価格に影響することもある
買い手候補が複数いる場合は、それぞれが条件を提示するため、価格や譲渡条件が改善することがあります。
一方で、買い手候補が限られる場合には、価格よりも「早期に事業承継できること」や「スタッフ雇用を維持できること」が重視されるケースもあります。
そのため、売却価格だけではなく、買い手候補とのマッチング力や交渉力も重要な要素です。
価格だけでなく譲渡条件も確認する
納得できるM&Aを実現するためには、価格以外の条件にも目を向けることが大切です。
- 院長の引継ぎ期間
- スタッフの雇用継続
- 医院名・ブランドの継続
- 患者への引継ぎ方法
- リース契約や賃貸借契約の取扱い
- 経営者保証の解除可否
希望する条件を整理しておくことで、価格だけでは測れない満足度の高い事業承継につながる可能性があります。
売却価格を高めるために売却前にできる準備
売却を検討し始めたら、早めに準備を進めることをおすすめします。事前準備が整っている医院は、買い手からの信頼を得やすく、スムーズな交渉につながることがあります。
1. 決算書や契約書類を整理する
決算書、試算表、設備一覧、リース契約書、賃貸借契約書などを整理しておくことで、デューデリジェンス(買収監査)が円滑に進みます。
2. スタッフが働きやすい環境を維持する
歯科衛生士や歯科助手の定着率は、買い手が重視するポイントの一つです。急な退職が続いている場合は、売却前に職場環境の改善を検討することも有効です。
3. 設備の状態を確認する
CTや口腔内スキャナーなどの設備は、新しいほど評価されるというわけではありません。故障がなく、適切にメンテナンスされていることも重要です。
4. 売却を決める前でも専門家へ相談する
「まだ売却するか決めていない」という段階でも相談することで、自院の価値や選択肢を把握しやすくなります。
また、中小M&Aガイドラインでは、支援機関が評価方法や前提条件について依頼者へ丁寧に説明し、十分な検討時間を設けることの重要性も示されています。
まとめ
歯科医院の売却相場には、全国共通の価格基準はありません。
企業価値は、時価純資産だけでなく、収益力や患者基盤、スタッフ体制、設備、地域で築いた信頼といった無形の価値(のれん代)も含めて評価されます。また、企業価値評価は譲渡価格を検討するための目安であり、最終的な譲渡価格は買い手との交渉によって決定されます。
インターネット上の相場だけで判断するのではなく、自院の状況に合わせた査定を受けることで、より現実的な売却価格の目安を把握できます。
将来的に事業承継を検討している場合は、売却を決める前の段階から専門家へ相談し、準備を進めることが納得のいくM&Aにつながる第一歩となるでしょう。
【免責事項】
本記事は一般的な情報提供を目的として作成したものであり、税務・法務・会計・行政手続きに関する個別具体的な助言を行うものではありません。実際の企業価値や譲渡価格、契約条件は個別事情によって異なります。具体的な判断については、税理士・公認会計士・弁護士などの専門家へご相談ください。
まずはお気軽にお問い合わせください。

