令和9年度介護報酬改定の論点|財政審資料を経営視点で解説
令和9年度(2027年度)介護報酬改定に向けて、財務省の財政制度等審議会が2026年11月4日に示した資料では、報酬の「適正化」が中心的なテーマになっています。高齢者住まいに併設する事業所、訪問看護、人員配置に紐づく加算などが、具体的な数字とともに見直しの対象として挙げられました。ただし、資料は財務省側の主張であり、内容がそのまま改定に反映されるとは限りません。本記事では、2026年11月時点の公表資料をもとに、介護事業の経営やM&Aに関わる論点を整理して解説します。
財政審の「社会保障」資料とは?
2026年11月4日、財務省の財政制度等審議会(財政制度分科会)が「社会保障」をテーマに開催されました。
配付資料のうち約4分の1(62〜85ページ)は介護分野にあてられており、令和9年度介護報酬改定に向けた財務省の主張がまとめられています。
介護費用と保険料に関する現状認識
資料はまず、介護費用と負担の推移を次のように整理しています。
| 項目 | 資料の整理 |
|---|---|
| 介護費用 | 制度創設時(2000年度)の約4倍となる14.6兆円 |
| 1号保険料 | 約2倍に上昇 |
| 2号保険料 | 約3倍に上昇 |
| 利用者負担 | 1人あたり月額でほぼ横ばい |
介護費用の伸びが、物価・GDP・国民医療費のいずれも大きく上回っているというグラフも示されています。
介護事業者の経営状況に対する評価
介護事業者の財務・経営状況について、資料は「過去・他産業と比較して高い水準」と評価しています。主な根拠は次のとおりです。
- 赤字が続く社会福祉法人でも、現預金は収益の2.1か月分、流動比率は319%
- 過年度剰余金が純資産の3割を占めており「財務基盤は厚い」
- 介護職員の賃金は平成29年から令和7年で14.6%上昇し、全産業平均(8.2%)を上回る
- 離職率は他産業より低い
つまり財務省は、「報酬を引き上げる根拠は薄い」という前提で改定の議論に臨んでいると読み取れます。
改定の方向性としては、賃金・物価動向に対応しつつ、生産性向上を促し、サービス提供の実態に応じて報酬を適正化することが挙げられています。
高齢者住まい併設型は報酬適正化の最大の対象
資料で最も多くのページが割かれているのが、高齢者住まいに併設する事業所です(67〜71ページ)。
住宅型有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)に、居宅介護支援・訪問介護・通所介護などの事業所を併設し、入居者に集中的にサービスを提供する形態が「集中提供型」として取り上げられています。根拠とされているのは、財務省が令和8年6月に公表した予算執行調査です。
サービス別の指摘内容
| サービス | 現行の減算 | 資料の指摘 |
|---|---|---|
| 居宅介護支援 | 同一建物減算 ▲5% | 減算があっても個別提供型より収支差率が良い(6.4%対4.7%)。利用者1人あたりの労働投入は約3割少ない |
| 訪問介護 | 同一建物減算 ▲10〜15% | 収支差率が顕著に良い(11.2%対4.4%)。同一建物利用者が95%超の事業所は、月の延べ訪問回数の中央値が66回で、5%未満の事業所(9回)の約7倍。夜間・早朝加算の取得割合は47.8% |
| 通所介護 | 同一建物減算 ▲94単位/日 | 徒歩・送迎なしの利用が多く、基本報酬に織り込まれた送迎コストと実態が乖離。週5日以上の利用も多い |
| 訪問リハビリテーション | 同一建物減算 ▲10〜15% | 収支差率が顕著に良く、訪問リハ全体でも10.8%。介護予防訪問リハでは76%が「終了予定なし」で、長期利用が常態化 |
| 居宅療養管理指導 | — | サ高住等での利用割合は要介護1でも89%、要介護5で99%。在宅は16〜64% |
いずれの項目も、「サービス提供の実態を踏まえ、報酬の適正化を図るべき」という趣旨で締めくくられています。
居宅介護支援は具体策まで示されている
居宅介護支援については、個別提供型との報酬格差を是正する手段として、次の4つが挙げられています。いずれか、または組み合わせで対応するという考え方です。
- 同一建物減算の見直し
- 特定事業所集中減算(紹介率8割超で▲200単位)の見直し
- 特定事業所加算(Ⅳ:387単位〜Ⅰ:519単位)の見直し
- 新設される「登録施設介護支援」の報酬を抑制的に設定
併設型モデルの経営への影響
住宅型有料老人ホームに事業所を併設する収益モデルは、次期改定で減算が拡大するリスクが最も高い領域といえます。
同一建物の利用者比率が高い事業所ほど、影響は大きくなります。自社の利用者構成を早めに把握しておきましょう。
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訪問看護は営利法人の増加と収支差率の上昇が論点
訪問看護についても、具体的な数字とともに適正化が求められています(71ページ)。
営利法人の事業所数と収支差率の推移
| 項目 | 資料の数値 |
|---|---|
| 営利法人の訪問看護事業所数 | 2008年度 1,211か所 → 2025年度 10,467か所(8.6倍) |
| 全体に占める営利法人の比率 | 15.1% → 62% |
| サテライト | 直近5年で1.5倍 |
| 収支差率 | 令和4年度決算 5.9% → 令和6年度決算 10.3% |
資料は、訪問看護が居宅介護支援の特定事業所集中減算の算定対象外であることと、営利法人比率の上昇をあわせて取り上げています。そのうえで、「同一法人内でのサービス利用が助長されている可能性がある」と指摘しました。
理学療法士等による訪問看護
理学療法士等による訪問看護は、2024年度改定で減算が導入されましたが、全体の単位数は増加傾向にあるとされています。
理学療法士等が職員の過半を占める事業所の収支率は14.1%で、資料は「依然として高い」と評価しています。看護職員のみの事業所は5.7%であり、両者の差が明示されました。
訪問看護事業の評価で注意したい点
資料の結論は、「訪問看護に求められるサービスが提供されるよう、提供実態を踏まえ、報酬の適正化を図るべき」というものです。
訪問看護事業所の事業価値を考える際は、現行の収支差率だけで判断しないことが重要です。特定事業所集中減算の対象化や、リハビリ職の比率に応じた減算が行われた場合を想定し、改定後の収益で見る必要があります。
体制・人員配置に紐づく加算は縮減の方向
施設系サービスに関わる論点が、体制・人員配置に紐づく加算の見直しです(72〜74ページ)。
財務省の分析と考え方
資料には、令和5年と令和7年の介護事業経営調査をもとにした財務省の分析が掲載されています。結果は次のとおりです。
- 介護テクノロジー(見守り機器・介護記録ソフト等)の導入と、職員1人あたりの生産性・賃金の伸びとの間に、統計的に有意な関係は確認されなかった
- 生産性の上昇と賃金の上昇との間には、有意な正の相関があった
財務省は、人員配置に紐づく加算が多いことを要因として挙げています。機器を導入して配置を減らすと加算を失うため、体制を維持するインセンティブが働き、生産性が上がらないという見方です。
そのため、加算の単位数を引き下げつつ要件を緩和し、人員を維持するインセンティブを弱めるべきだとしています。
見直しの対象として挙げられた加算
| 加算 | 現行の要件 | 資料が示す代替案 |
|---|---|---|
| 看護体制加算(特養等) | 常勤看護師の配置・加配 | 加算を縮減し、オンコール、見守り機器、協力医療機関や訪問看護との連携体制も評価対象とする。配置要件を緩和 |
| 夜間配置系の加算(特養・老健・認知症グループホーム) | 基準を上回る夜勤職員の配置 | 加算を縮減し、見守り機器やインカムを活用した夜間体制も評価対象とする。追加配置要件を緩和 |
| 日常生活継続支援加算・入居継続支援加算・サービス提供体制強化加算 | 介護福祉士の人数比・割合 | 加算を縮減し、ICTを活用した継続的なケア改善体制も評価対象とする。介護福祉士の割合要件を緩和 |
| 個別機能訓練加算・栄養マネジメント強化加算等 | 機能訓練指導員・管理栄養士の継続的な関与 | 加算を縮減し、ICTや外部専門職の活用による計画作成・モニタリング体制も評価対象とする。専従・常勤要件を緩和 |
加算への依存度が高い施設は要注意
資料には、「体制要件の緩和による人件費の効率化効果が、加算縮減による減収を上回るよう制度設計する」と記載されています。
ただし、人員を減らせない事業所にとっては、単純な減収となる可能性があります。加算への依存度が高い施設系サービスは、縮減を織り込んだ収支を確認しておきましょう。
中長期的には、機器導入などの取り組み(インプット)の評価から、生産性向上・賃上げ・要介護度の改善といった成果(アウトカム)の評価へ移行する方向も明記されています。
利用者負担の見直しは4つの論点
利用者負担については、4つの見直しが取り上げられています(75〜81ページ)。
①2割負担の対象拡大
現在、利用者555万人のうち1割負担が91%、2割負担が4.7%、3割負担が4.1%です。
年金収入230〜260万円の層へ2割負担を拡大する案について、資料は負担能力があると結論づけています。現役時代の給与収入720〜870万円に相当することや、同じ属性(75歳以上・単身・要介護)の中央値と比べて2〜3倍の金融資産を保有していることが理由です。
| 案 | 内容 | 年金収入230万円まで拡大した場合の2割負担者 |
|---|---|---|
| 案1 | 新たな負担増を、当分の間、月0.7万円で上限とする | 35万人増 |
| 案2 | 預貯金が一定額以下の場合は、申請により1割負担に戻す | 19万人増 |
資料では、2026年度中に結論を得るとされています。
②ケアマネジメントの自己負担
住宅型有料老人ホームの入居者向けに新設される「登録施設介護支援」では、令和10年度内に利用者負担が導入される予定です。
資料は、それだけでは施設と在宅の公平性が確保されないとして、在宅も含めた自己負担の導入を求めています。
あわせて、ケアマネジャーの基本報酬は要介護度に応じて3.0倍になる一方、労働投入時間は1.1倍にとどまる点を指摘しました。要介護度の改善率など、成果を重視した報酬構造への転換を求めています。
③老健・介護医療院の多床室の室料
令和6年度改定で室料負担(月8千円相当)が導入されたのは、老健の約6%、介護医療院の約32%にとどまります。
資料は、老健の実態として次の点を挙げています。
- 平均在所日数は2022年で約404日
- 入所目的の約3割が「他施設への入所待機」
- 長期入所者の退所が難しい理由は「特養の入所待ち」が38%、「家族の希望」が25%
在宅復帰を目的とする施設という位置づけと実態が乖離しているとして、導入が見送られた類型にも室料負担を求めるべきとしています。
④補足給付
補足給付の認定者は85.2万人、給付費は2,322億円です。
居宅サービスの利用者は食費・居住費を全額自己負担しているため、公平性を欠くとされています。低所得者に配慮しつつ、さらなる水準の見直しを進めるべきとの内容です。なお、令和8・9年度には、所得区分の精緻化と負担限度額の引き上げがすでに予定されています。
施設系・居住系サービスへの影響
入居者の実質的な負担が増えると、入居率や滞在期間に影響が出る可能性があります。
2割負担の拡大について、資料は「サービス利用への影響は僅少」とする研究を引用しています。ただし、影響がまったくないという意味ではない点に注意しましょう。
軽度者の給付・保険者の広域化・事業者の大規模化
給付の範囲と、担い手の構造に関わる論点も示されています(82〜85ページ)。
要介護1・2の訪問介護・通所介護の地域支援事業への移行
要介護1・2の方への介護費用は3兆8,815億円で、うち通所介護が19%、訪問介護が10%を占めます。
資料は、要支援者の訪問介護・通所介護がすでに総合事業へ移行していることを踏まえ、軽度者についても移行の工程を具体化すべきとしています。
ただし、総合事業では現在も利用者の4分の3が従前相当サービスを利用しています。資料はまず従前相当サービスを縮小すべきとも述べており、移行は段階的に進むと考えるのが現実的です。
インセンティブ交付金の見直し
市町村の得点率と要介護認定率の改善との間には、統計的に有意な関係がないとされています。また、交付金の84.8%が既存事業費(1号保険料相当)の補填に使われていると指摘されました。
資料は、「成果指向型配分枠」への大幅な重点化を含め、ゼロベースで見直すべきとしています。
介護保険事務の広域化と都道府県の役割強化
小規模な市町村では、介護認定審査会の委員や、給付適正化を担う人材が不足しているとされています。
資料は、後期高齢者医療制度や国民健康保険の例にならった広域化を提言しました。都道府県を介護保険の財政運営の責任主体とすることについても、検討が必要としています。
社会福祉法人の協働化・大規模化とM&A
サービスの担い手については、集約を促す内容になっています。
- 社会福祉連携推進法人による協働化
- 大規模化による人材確保、バックオフィスの共有、ICT投資、経営管理の高度化
さらに資料は、社会福祉法人のM&Aの実績は低調であるとして、「合併・事業譲渡等マニュアル」の見直しも含め、M&Aの活用拡大に向けた課題の特定・分析を進めるべきと明記しています。
報酬は抑制しつつ、事業者の集約は促すという構図です。
令和9年度介護報酬改定までの流れ
財政審の資料は財務省側の主張です。今後は、厚生労働省の社会保障審議会介護給付費分科会での議論や、業界団体との調整が行われます。
- 財政制度等審議会による建議(年末)
- 予算編成
- 令和9年度介護報酬改定
資料の内容がすべてそのまま反映されるわけではありません。
ただし、集中提供型への減算強化、訪問看護の適正化、人員配置加算の縮減は、予算執行調査や分析結果といった数字の裏付けが用意されている論点です。何らかの形で改定に反映される可能性は高いと考えておくべきでしょう。
介護事業者が改定前に確認したい3つのポイント
介護事業を運営している法人や、買収・新規参入を検討している方は、改定後を想定して次の3点を確認しておくことをおすすめします。
①同一建物利用者の比率と減算拡大時の収支
住宅型有料老人ホームやサ高住に併設する居宅介護支援・訪問介護・通所介護・訪問リハビリテーションが対象です。
減算が現行の2倍程度まで拡大するケースを想定し、収支を試算しておくと安心です。
②訪問看護の実質的な収益力
特定事業所集中減算の対象化と、リハビリ職の比率に応じた減算を織り込んだ収益で評価します。
営利法人が運営する事業所や、サテライトを展開している事業所は、特に確認が必要です。
③加算への依存度
看護体制、夜間配置、サービス提供体制強化、個別機能訓練などの体制加算が、収益に占める割合を把握します。
単位数の引き下げと要件緩和が行われた場合に、人員配置を見直せる余地があるかどうかを施設ごとに確認しましょう。
介護報酬改定がM&A・事業承継に与える影響
報酬改定の方向性は、介護事業のM&Aや事業承継にも影響します。
| 立場 | 確認したいポイント |
|---|---|
| 売り手 | 現行の収益だけでなく、改定後を想定した収益でも事業価値を把握しておく。同一建物利用者の比率や加算の取得状況を整理しておく |
| 買い手 | 対象事業の収益が、減算の拡大や加算の縮減でどの程度変動するかを確認する。人員配置を見直せる余地もあわせて検討する |
改定の影響を反映しないまま価値評価を行うと、売り手・買い手の双方で、後から認識のずれが生じるおそれがあります。
一方で、資料が社会福祉法人のM&A活用の拡大や大規模化を明示している点は、事業承継や再編を進める事業者にとって追い風といえます。
よくある質問
Q1.財政審の資料の内容は、そのまま介護報酬改定に反映されますか?
そのまま反映されるとは限りません。資料は財務省側の主張であり、今後、厚生労働省の介護給付費分科会での議論や予算編成を経て、改定内容が決まります。
Q2.影響が大きいと考えられるのは、どのような事業ですか?
資料で最も多く取り上げられているのは、住宅型有料老人ホームやサ高住に事業所を併設し、入居者に集中的にサービスを提供する形態です。同一建物の利用者比率が高い事業所ほど、影響を受けやすくなります。
Q3.訪問看護事業の売却を検討しています。何に注意すべきですか?
現行の収支差率だけでなく、改定後を想定した収益も確認しておくことが大切です。特定事業所集中減算の対象化や、リハビリ職の比率に応じた減算が論点になっています。
Q4.加算が縮減されると、必ず減収になりますか?
資料は、要件緩和による人件費の効率化効果が、加算縮減による減収を上回るよう制度設計するとしています。ただし、人員を減らせない事業所では減収となる可能性があります。
Q5.報酬改定は介護事業のM&Aにどう影響しますか?
事業価値の評価に影響します。改定後を想定した収益で評価しないと、売り手と買い手の間で認識のずれが生じるおそれがあります。一方、資料は事業者の大規模化やM&Aの活用拡大を促す方向も示しています。
まとめ|令和9年度介護報酬改定を見据えて収支を確認しよう
財政制度等審議会の資料では、令和9年度介護報酬改定に向けて、報酬の「適正化」が中心的なテーマとして示されました。
- 高齢者住まい併設型の事業所は、減算拡大の対象として最も多く取り上げられている
- 訪問看護は、営利法人の増加と収支差率の上昇を背景に、適正化が求められている
- 体制・人員配置に紐づく加算は、単位数の縮減と要件緩和が提案されている
- 利用者負担の見直しや、軽度者の給付のあり方も論点になっている
- 社会福祉法人の大規模化やM&Aの活用拡大が明記されている
資料の内容がすべて実現するわけではありませんが、改定後を想定して自社の収支を確認しておくことが重要です。
報酬改定を踏まえた事業の売却・承継については、まずはお気軽にお問い合わせください。
参考資料・出典
※本文中のページ番号は、上記資料(PDF)のスライド番号です。
本記事は、2026年11月4日開催の財政制度等審議会の配付資料を基にした一般的な情報提供を目的としており、個別の経営判断に関する助言ではありません。今後の審議により内容が変わる可能性がありますので、最新の公表資料をご確認ください。

