歯科医院の事業承継|親子承継とM&Aを比較
歯科医院の事業承継には、子どもなどへ引き継ぐ「親子承継」と、外部の歯科医師・医療法人などへ引き継ぐ「第三者承継(M&A)」などがあります。子どもが歯科医師であっても、親子承継が最適とは限りません。後継者本人の意思、医院の経営状況、スタッフ・患者への影響、院長の引退時期を整理し、複数の選択肢を比較することが重要です。
歯科医院の事業承継とは?
歯科医院の事業承継とは、現在の院長が築いてきた医院の経営や診療体制などを次の経営者へ引き継ぐことです。
単に院長を交代するだけではありません。歯科医院には、スタッフ、患者との関係、医療機器、診療ノウハウ、不動産、賃貸借契約、借入など、さまざまな経営資源があります。誰に引き継ぐかと同時に、「何を、どのように引き継ぐか」を整理する必要があります。
歯科医院の主な事業承継方法は3つ
中小企業庁「事業承継ガイドライン(2022年3月改訂)」では、事業承継について、親族内承継、従業員承継、社外への引継ぎ(M&A)の方法が示されています。
| 承継方法 | 主な後継者 | 特徴 |
|---|---|---|
| 親族内承継 | 子ども・親族 | 家族内で医院を引き継ぐ |
| 従業員承継 | 勤務医など | 医院をよく知る内部人材へ引き継ぐ |
| 第三者承継(M&A) | 外部の歯科医師・医療法人等 | 外部まで範囲を広げて後継者を探す |
なかでも、子どもが歯科医師である院長にとって悩みやすいのが、「親子承継を選ぶか、第三者承継まで含めて検討するか」という問題です。
歯科医院の親子承継とは?
親子承継とは、現院長の子どもなどの親族が後継者となり、医院の経営を引き継ぐ方法です。
親子承継のメリット
親族内承継では、後継者を早期に決められれば、時間をかけて承継準備を進めやすいという特徴があります。
- 医院の理念や診療方針を共有しやすい
- 長期間かけて経営や診療の引継ぎを行いやすい
- スタッフや患者に後継者を紹介する期間を設けやすい
- 家族の中で医院を残すことができる
例えば、承継前から子どもが医院で勤務し、スタッフや患者との関係を築いておけば、院長交代による変化を緩やかにできる可能性があります。
親子承継の注意点
一方で、親子承継では「子どもが歯科医師であること」と「医院経営を引き継ぐ意思があること」を分けて考える必要があります。
- 本人に承継意思があるか
- 現在の医院で働く意思があるか
- 経営者として医院を運営する意思があるか
- 親子で診療・経営方針を共有できるか
- 他の家族との資産・相続関係を整理できるか
親子だからこそ条件を曖昧にしたまま進めず、承継時期、経営権、資産、承継後の現院長の関わり方などを事前に話し合っておくことが重要です。
歯科医院の第三者承継(M&A)とは?
第三者承継とは、親族や院内の後継者だけでなく、外部の歯科医師や医療法人などへ医院を引き継ぐ方法です。その代表的な手段としてM&Aがあります。
M&Aは単に医院を「売る」だけではなく、後継者不在の医院が診療体制や経営資源を次の経営者へつなぐための事業承継手段の一つです。
第三者承継のメリット
- 親族に後継者がいなくても承継できる可能性がある
- 外部まで範囲を広げて後継候補を探せる
- 廃院以外の選択肢を検討できる
- 条件次第でスタッフの雇用や診療を継続できる可能性がある
- 売り手が譲渡対価を受け取れる可能性がある
収益性だけでなく、立地、患者基盤、スタッフ、設備、診療内容などを評価する買い手が現れる可能性もあります。
第三者承継の注意点
一方、希望条件に合う買い手が必ず見つかるわけではありません。また、譲渡価格だけでなく、スタッフの処遇、診療方針、院長の引退時期、引継ぎ期間などについても確認・交渉が必要です。
M&Aでは、案件に応じてデューデリジェンス(財務・法務等の調査)や最終契約などの手続きも行われます。中小企業庁「中小M&Aガイドライン(第3版、2024年8月改訂)」でも、手数料や契約内容、最終契約、経営者保証などの確認の重要性が示されています。
歯科医院の親子承継と第三者承継(M&A)を比較
親子承継とM&Aは、どちらが一律に優れているというものではありません。「医院」「後継者・家族」「スタッフ」「患者」という4つの視点から比較すると、自院に合う方法を整理しやすくなります。
| 比較項目 | 親子承継 | 第三者承継(M&A) |
|---|---|---|
| 後継者 | 子ども・親族 | 外部の第三者 |
| 候補者の範囲 | 限定される | 外部まで広げられる |
| 医院理念 | 共有しやすい傾向 | 買い手との事前確認が重要 |
| スタッフ | 時間をかけて引継ぎやすい | 雇用条件等の確認が重要 |
| 患者 | 後継者を事前に紹介しやすい | 告知時期や引継ぎ方法の設計が重要 |
| 資産等 | 相続・贈与等を含めて検討 | 譲渡スキームに応じて整理 |
| 譲渡対価 | 承継方法による | 売却対価を得られる可能性がある |
| 主な課題 | 本人の意思・家族間調整 | 買い手探索・条件交渉 |
子どもが歯科医師でも親子承継が最適とは限らない
親子承継を検討するうえで最も重要なのは、「歯科医師として働くこと」と「現在の医院の経営者になること」は別だという点です。
子どもが大学病院や別のクリニックで専門性を高めたい場合や、別地域での開業を希望している場合もあります。また、医院を継ぐ意思はあっても、診療内容や設備投資、スタッフマネジメントについて親子で考え方が異なることもあります。
そのため、「歯科医師だから継いでもらう」という前提ではなく、本人のキャリアと医院の将来の双方から判断することが重要です。
親子承継が向いている歯科医院
- 子ども本人に明確な承継意思がある
- 現在の医院で勤務する意思がある
- 経営者として医院を運営する意思がある
- 診療方針や医院の将来像を話し合えている
- 十分な準備期間を確保できる
- 家族や関係者との調整を進められる
これらに当てはまる場合は、後継者教育や患者・スタッフへの引継ぎを計画的に進めることで、親子承継を具体化しやすくなります。
第三者承継(M&A)を検討したい歯科医院
- 親族に歯科医師の後継者がいない
- 子どもは歯科医師だが承継意思がない
- 子どものキャリアを現在の医院に限定したくない
- 親子で経営・診療方針が大きく異なる
- 院長の引退時期が近づいている
- スタッフの雇用や患者への診療をできる限り継続したい
- 廃院を決める前に第三者承継の可能性を確認したい
【無料相談・無料簡易査定】
「親子承継とM&Aのどちらが自院に合うかわからない」という段階でも比較検討できます。M&A承継サポートでは、歯科・医療を含む介護・医療・障がい分野に特化してご相談を承っています。売却を決める前に、無料簡易査定で自院の相場感や第三者承継の可能性を確認することも一つの方法です。
歯科医院の事業承継で引き継ぐもの
経営・診療体制
診療時間、診療科目、患者層、予約管理、自由診療の内容、仕入先などを整理します。院長個人の経験に依存している業務は、後継者が引き継げるよう見える化しておくことも重要です。
スタッフ・患者との関係
歯科衛生士や歯科助手、受付などのスタッフは、承継後の診療継続にも関わる重要な存在です。第三者承継では、承継スキームや契約内容に応じて雇用関係の取扱いが異なるため、専門家と確認しながら進めます。
患者への告知についても、秘密保持や取引の進捗を踏まえ、適切な時期と方法を検討する必要があります。
医療機器・設備・不動産
ユニット、レントゲン・CT、滅菌設備などについて、所有かリースか、残存期間や保守契約はどうなっているかを確認します。医院の建物についても、自己所有か賃貸かによって確認事項が異なります。
契約・借入
金融機関からの借入、リース、賃貸借契約、保守契約なども整理します。契約によっては、承継に伴って相手方の同意や再契約などが必要になる場合があります。
個人歯科医院と医療法人では承継方法が異なる
個人開設の歯科医院と医療法人では、承継対象や取り得るスキーム、必要となる手続きが異なります。
特に医療法人では、出資持分の有無を確認することが重要です。2007年4月1日以降、新たに設立される社団医療法人は持分の定めのない医療法人が原則となっており、それ以前に設立された一定の医療法人については、経過措置として持分の定めのある医療法人が存在します。
持分がある医療法人では、相続・贈与に伴う課税関係が生じる場合もあります。個人医院・医療法人のいずれについても、具体的な税務・法務・行政手続きは税理士、弁護士、所管行政機関等へ確認してください。
なお、個人版事業承継税制は2019年1月1日から2028年12月31日までの一定の贈与・相続を対象とする特例ですが、適用の前提となる「個人事業承継計画」の提出期限は2026年3月31日でした。すでに計画の確認を受けている場合を含め、具体的な適用可否は税理士や都道府県の窓口へ確認してください。
歯科医院の事業承継を進める基本的な流れ
- 院長の引退時期・希望条件を整理する
何歳まで診療したいか、承継後も勤務するか、スタッフの雇用をどうしたいかなどを整理します。 - 親族内に後継候補がいるか確認する
子どもが歯科医師でも、本人の意思や承継可能な時期まで具体的に確認します。 - 親子承継と第三者承継を比較する
親子承継だけに限定せず、第三者へ承継した場合の評価や条件も確認します。 - 医院の経営状況を整理する
決算書・確定申告書、患者数、スタッフ、設備、契約、借入などを整理します。 - 承継方法を決め、手続きを進める
M&Aの場合は、買い手探索、条件交渉、基本合意、デューデリジェンス、最終契約、クロージング・引継ぎなどを案件に応じて進めます。
親子承継かM&Aか迷ったときの判断ポイント
後継者本人の意思を確認する
親子承継では、親の希望だけではなく後継者本人の意思が重要です。キャリアや生活も含めて、承継時期や医院の将来像を話し合いましょう。
医院の経営状態を客観的に把握する
売上だけではなく、利益、患者数、スタッフ構成、設備、立地、賃貸条件などを整理します。経営状態の把握は、親子承継でも第三者承継でも必要です。
4つの視点で比較する
「院長にとってどうか」だけでなく、医院そのもの、後継者・家族、スタッフ、患者の4つの視点から承継方法を比較すると判断しやすくなります。
親子承継とM&Aを並行して検討する
承継を考え始めた段階で、どちらか一方に決める必要はありません。子どもと親子承継について話し合いながら、第三者へ承継した場合の評価や条件を把握しておく方法もあります。
複数の選択肢を比較できるうちに検討を始めることで、院長自身だけでなく、後継者やスタッフ、患者にとっても納得できる承継方法を探しやすくなります。
歯科医院の事業承継は早めの準備が重要
事業承継では、後継者との話し合い、医院の経営状況の整理、契約関係の確認、スタッフ・患者への引継ぎなど、多くの準備が必要です。
特に第三者承継では、買い手候補の探索から条件交渉、デューデリジェンス、契約まで一定の期間を要します。引退直前に選択肢を探すのではなく、まだ診療を続けられる段階から準備を始めておくことが重要です。
歯科医院の事業承継に関するよくある質問
Q1. 子どもが歯科医師でもM&Aを選べますか?
はい。子どもが歯科医師であっても、本人に承継意思がない場合や別のキャリアを希望している場合などには、第三者承継を検討できます。親子承継とM&Aの双方を比較して判断することが大切です。
Q2. 後継者がいない歯科医院でも事業承継できますか?
外部の歯科医師や医療法人などへの第三者承継によって、医院を引き継げる可能性があります。ただし、買い手の有無や条件は医院の経営状況、立地、患者基盤、スタッフ、設備などによって異なります。
Q3. 赤字の歯科医院でもM&Aできますか?
赤字であることだけを理由にM&Aが不可能になるとは限りません。立地、患者基盤、人材、設備、改善余地なども含めて検討されます。ただし、買い手が見つかることや成約を保証するものではありません。
Q4. スタッフの雇用は引き継げますか?
承継スキームや買い手との条件によって異なります。雇用の維持を希望する場合は、買い手選定や条件交渉の段階から希望を明確にしておくことが重要です。
Q5. 個人歯科医院と医療法人では承継方法が違いますか?
異なります。個人医院では事業用資産や契約等の承継を検討する一方、医療法人では法人形態や出資持分の有無なども確認する必要があります。具体的な手続きは専門家や所管行政機関へ確認してください。
まとめ|歯科医院の事業承継は親子承継とM&Aを比較して判断する
歯科医院の事業承継には、親子承継、従業員承継、第三者承継(M&A)などの方法があります。
子どもが歯科医師であれば親子承継は有力な選択肢ですが、「歯科医師として働くこと」と「現在の医院の経営者になること」は別です。後継者本人の意思や医院の状況を確認したうえで、第三者承継も含めて比較することが重要です。
後継者がいない場合や親子承継が難しい場合でも、M&Aによって医院を第三者へ引き継げる可能性があります。院長が元気なうちに複数の選択肢を把握しておくことで、医院・家族・スタッフ・患者のそれぞれを考慮した承継方法を検討しやすくなります。
免責事項:本記事は、歯科医院の事業承継・M&Aに関する一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の税務・法務・会計・行政手続き等に関する助言を行うものではありません。実際の事業承継やM&Aでは、医院の開設形態、法人形態、契約内容、資産・負債等によって必要な手続きや税務上の取扱いが異なります。具体的な判断については、税理士・弁護士等の専門家および関係行政機関へご確認ください。
まずはお気軽にお問い合わせください。

