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就労定着支援の売却・M&A|価格と注意点

就労定着支援事業は、M&Aによる売却・事業承継を検討できます。ただし、買い手が確認するのは売上や利益だけではありません。就労定着率、利用者の終了時期と新規流入、人員体制、企業・関係機関との連携、指定や報酬実績の取扱いなどが重要です。本記事では、就労定着支援の売却価格を左右するポイントから譲渡方法、売却準備まで解説します。

※本記事は2026年10月時点の制度をもとにしています。令和9年度障害福祉サービス等報酬改定に向けた検討が進められているため、実際のM&Aでは最新の告示・通知等をご確認ください。

就労定着支援事業は売却・M&Aの対象になる?

就労定着支援とは

就労定着支援は、就労移行支援、就労継続支援、生活介護、自立訓練などを利用して一般就労へ移行し、就職後6か月を経過した障がい者を対象とする障害福祉サービスです。本人への相談支援に加え、勤務先企業や関係機関との連絡調整などを行い、利用期間は3年間とされています。

厚生労働省の2026年9月公表資料によると、2026年4月の国保連データでは全国に1,859事業所、利用者は20,709人です。主な人員配置は、サービス管理責任者が利用者60人に1人、就労定着支援員が利用者40人に1人以上(常勤換算)とされています。

就労定着支援は指定障害福祉サービスであるため、通常の会社売却とは異なり、M&Aでは指定、人員基準、報酬算定、利用者への支援継続を含めて検討する必要があります。

後継者不足や事業整理でもM&Aは選択肢になる

売却理由は後継者不在だけではありません。人材確保が難しい、複数の障害福祉サービスのうち一部事業へ経営資源を集中したい、就労定着支援だけを整理したい、利用者減少や赤字によって廃止を検討している、といったケースでもM&Aを検討できます。

特に就労移行支援などと一体運営している場合は、就労定着支援単体の損益だけでなく、「一般就労した利用者が継続的に就労定着支援へつながる仕組み」があるかどうかも重要です。事業だけを切り離して譲渡する場合には、その流入経路を譲渡後も維持できるかを確認しておきましょう。

就労定着支援の売却で買い手が確認する6つのポイント

1.就労定着率と基本報酬

令和6年度障害福祉サービス等報酬改定では、就労定着支援の基本報酬について、利用者数規模を加味した区分から、就労定着率に応じて単位区分を設定する体系へ見直されました。

そのため、M&Aでも現在の利用者数だけでなく、過去の就労定着率がどのように推移しているか、その実績を支える支援体制が譲渡後も維持できるかが確認事項になります。

また、現行制度では利用者や勤務先事業主等に対し、支援内容を記載した支援レポートを月1回以上提供する仕組みが報酬算定に関係します。就労定着率の数字だけでなく、その根拠となる支援記録やレポートまで整理しておくことが重要です。

2.利用者数だけでなく利用終了時期を見る

就労定着支援の利用期間は3年間です。そのため、現在20人の利用者がいても、多くが数か月以内に利用終了を迎える事業所と、利用開始時期が分散している事業所では、譲渡後の収益見通しが異なります。

売却前には、個人を特定しない形で「利用開始月・利用終了予定月・就労継続状況・流入元」を一覧化すると、買い手が将来の利用者数を把握しやすくなります。

3.新規利用者の流入経路

就労定着支援では、現在の利用者に加えて今後も新規利用者が入る仕組みがあるかが重要です。自法人の就労移行支援等からの流入だけでなく、他法人、相談支援事業所などから紹介を受けている場合は、そのルートを整理します。

一方、「代表者個人との付き合いがあるから紹介されている」という状態では、代表者の退任によって流入が弱まる可能性があります。紹介元、担当者、紹介実績などを組織として把握しておくことがM&A後の継続性につながります。

4.就労定着支援員・サービス管理責任者の体制

人員数だけでなく、兼務状況、勤続年数、退職予定、研修受講状況も確認されます。特に2025年4月から、就労定着支援員には障害者就労支援に関する基礎的研修の受講が要件化されています。

2028年3月31日までは、経過措置として基礎的研修を未受講でも就労定着支援員として従事できますが、売却時には「誰が受講済みか」「経過措置終了後も配置基準を満たせるか」まで確認しておくと安心です。

5.企業・相談支援・関係機関とのネットワーク

就労定着支援では、利用者本人だけでなく勤務先企業や関係機関との連絡調整も重要な業務です。そのため、勤務先企業の担当者との関係や、相談支援事業所などとの連携が特定の職員だけに依存していないかも確認されます。

担当者が退職すると支援方法や連絡先が分からなくなる状態では、買い手にとって引継ぎリスクになります。支援履歴、企業担当者、連携方法などを事業所内で共有できる状態にしておきましょう。

6.報酬請求・運営指導・記録の状況

デューデリジェンスでは、決算書だけでなく、人員基準、基本報酬・加算の算定、支援記録、運営指導での指摘事項、過誤調整や返還の有無なども確認対象になります。

令和8年度障害福祉サービス等報酬改定では、福祉・介護職員等処遇改善加算の見直しも行われています。取得している加算区分、届出内容、賃金改善の実績なども、売却前に資料をそろえておくと確認が進めやすくなります。

確認項目主な内容
就労定着実績就労定着率、過去の推移、算定根拠
利用者人数、利用開始時期、利用終了予定
流入経路就労移行支援等、他法人、相談支援からの紹介
人員配置基準、研修受講、退職予定、兼務状況
関係機関企業や相談支援等との関係、属人化の有無
運営報酬請求、支援記録、運営指導、返還・減算リスク

就労定着支援の売却価格はどう決まる?

就労定着支援事業に「売上の何倍」といった公的な一律相場はありません。中小企業庁の「中小M&Aガイドライン」参考資料では、簿価純資産法、時価純資産法、類似会社比較法など複数の企業価値評価手法が示されており、算定額を参考にしながら最終的な譲渡額を当事者間で交渉します。

就労定着支援では、財務数値に加えて、将来も現在の収益を維持できるかという視点が重要です。例えば、安定した利益が出ていても、多くの利用者が間もなく利用終了を迎え、新規流入がほとんどない場合には、その点を買い手が事業計画へ織り込む可能性があります。

反対に、利用者の流入経路が確立している、人員体制が安定している、定着実績を支える運営方法が組織化されている、といった要素は事業継続性を説明する材料になります。ただし、特定の要素があるだけで譲渡価格が上がると保証されるものではありません。

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就労定着支援を売却する主な2つの方法

株式譲渡

株式を発行する会社では、株主が保有する株式を買い手へ譲渡し、法人そのものを承継する方法があります。法人自体は変わらないため、事業、資産・負債、雇用関係などは原則として同じ法人に残ります。

一方で、簿外債務や過去の報酬請求リスクなども法人に残るため、買い手による確認は重要になります。また、代表者や役員変更に伴う行政上の届出については指定権者への確認が必要です。

事業譲渡

事業譲渡は、法人全体ではなく就労定着支援事業だけを切り出して譲渡する方法です。複数事業を運営しており、一部だけを整理したい場合に検討できます。

ただし、運営法人が変わるため、障害福祉サービスの指定、利用者との契約、物件やリース等の契約、職員の雇用などを個別に整理する必要があります。事業譲渡によって労働契約を譲受法人へ承継させる場合には、原則として対象となる職員本人の個別承諾が必要です。

項目株式譲渡事業譲渡
譲渡対象法人全体選択した事業・資産等
運営法人同じ法人が存続譲受法人へ変更
職員雇用主となる法人は原則同じ労働契約承継には原則個別承諾が必要
指定変更届等を個別確認運営法人変更の場合は新規指定が必要
主な用途法人全体の承継一部事業の切り離し

関連記事:「障がいM&A|事業譲渡と株式譲渡を比較」

M&Aで注意したい指定・報酬実績の引継ぎ

運営法人が変わる場合は新規指定が必要

厚生労働省・こども家庭庁が2024年6月21日に示した事務連絡では、吸収合併等により事業所の運営法人が変わる場合、譲受側法人の事業所として新たな指定を受ける必要があるとされています。

一方、職員や設備などに変更がなく、M&Aの前後で事業所が実質的に継続して運営されると指定権者が認める場合には、提出書類を変更部分に限定するなど指定手続きを簡素化できる取扱いが示されています。

過去の報酬実績を通算できる場合がある

同事務連絡では、実質的な事業継続が認められる場合、過去の実績に基づく基本報酬、加算・減算について実績を通算する取扱いも示されています。

ただし、個別の事業譲渡で就労定着率をどの範囲まで通算できるか、どの資料が必要かについては【要確認】です。譲渡日を先に決めてしまうのではなく、指定権者へ事前相談したうえでスケジュールを組むことが重要です。

就労定着支援事業を売却する流れ

  1. M&A仲介会社へ相談し、売却理由・希望条件を整理する
  2. 決算書、利用者数、就労定着実績、人員などから事業を分析する
  3. 匿名の案件概要を作成し、条件に合う買い手候補へ打診する
  4. 秘密保持契約のもとで詳細情報を開示する
  5. トップ面談を行い、価格、職員雇用、運営方針などを確認する
  6. 基本合意後、財務・法務・労務・障害福祉制度等のデューデリジェンスを行う
  7. 最終契約を締結し、指定、職員、利用者、関係機関等の引継ぎを行う

売却金額だけで相手を決めず、利用者への支援方針や職員の雇用条件などを含めて確認することも重要です。特に就労定着支援では、勤務先企業や関係機関との関係まで含めた引継ぎ計画を用意しておく必要があります。

売却前に準備しておきたい資料

財務・報酬関連

  • 直近数期の決算書・月次試算表
  • 事業別の売上・利益が分かる資料
  • 国保連請求資料
  • 基本報酬・加算・減算関係資料
  • 借入金、リース、補助金等の資料

利用者・就労定着実績

  • 月別利用者数
  • 利用開始月・利用終了予定月
  • 就労定着率の算定資料
  • 支援レポートや支援実績
  • 新規利用者の流入元

人員・運営関連

  • 職員名簿、雇用条件、勤務形態一覧
  • サービス管理責任者等の研修資料
  • 就労定着支援員の基礎的研修受講状況
  • 指定通知書、変更届、運営規程
  • 運営指導の結果・改善報告
  • 過誤調整・返還等がある場合の関連資料

利用者情報には個人情報が含まれるため、買い手候補へ開示する段階や内容は慎重に設定します。匿名化できる情報は匿名化し、具体的な個人データの承継については契約内容や法令を踏まえて個別に確認してください。

就労定着支援の売却をスムーズに進めるポイント

利用者の「残存期間」を見える化する

利用者一覧を単なる人数表にせず、利用開始月と終了予定月を並べておくと、譲渡後の利用者数を予測しやすくなります。就労定着支援は利用期間が限られているため、この情報は一般的な障害福祉サービス以上に重要です。

紹介・連携ルートを法人の資産として整理する

自法人の就労移行支援、他法人、相談支援事業所など、利用者がどこから流入しているのかを整理します。企業との関係についても、代表者や特定職員だけが把握する状態を避け、譲渡後に担当者が変わっても連携できる形にしておくことが大切です。

指定権者への相談を早めに行う

特に事業譲渡では、新規指定と譲渡実行日の調整が必要です。指定が間に合わなければサービス提供や請求に影響する可能性があるため、個別スケジュールは指定権者と確認しながら進めます。

赤字・利用者減少でも売却できる可能性はある

赤字や利用者減少があるからといって、M&Aを検討できないとは限りません。買い手によっては、人材、既存利用者、企業・関係機関とのネットワーク、指定エリア、既存の就労移行支援等との相乗効果などを検討材料とする場合があります。

ただし、赤字でも必ず売却できるわけではありません。廃業を決める前に、現在の課題を開示したうえで買い手候補が存在するかを確認することも選択肢の一つです。

就労定着支援の売却・M&Aでよくある質問

就労定着支援事業だけを売却できますか?

事業譲渡などにより、他の障害福祉事業を法人に残し、就労定着支援だけを譲渡する方法を検討できます。ただし、指定、人員、利用者、流入経路、物件等を実際に切り分けられるか確認が必要です。

赤字でも売却できますか?

買い手が見つかる可能性はあります。利益だけでなく、人員、利用者基盤、就労定着実績、地域、買い手の既存事業との相乗効果なども検討材料になります。ただし、成約を保証するものではありません。

事業譲渡でも就労定着率の実績を引き継げますか?

事業所が実質的に継続すると指定権者が認める場合、過去の実績に基づく基本報酬等を通算できる取扱いがあります。ただし、個別案件における就労定着率の具体的な通算可否は【要確認】です。

職員にはいつM&Aを伝えるべきですか?

取引手法、交渉状況、雇用条件によって適切な時期は異なります。特に事業譲渡では労働契約の承継に個別承諾が必要になるため、秘密保持とのバランスを取りながら説明時期と内容を設計します。

売却を決める前でも査定できますか?

可能です。実際に売却するかを決める前に、現在の評価ポイントや課題、想定される買い手を確認しておくことで、将来の事業承継に備えることができます。

まとめ|就労定着支援の売却では将来の継続性を整理する

就労定着支援の売却では、財務状況に加えて、就労定着率、利用者の終了時期と新規流入、人員体制、企業・関係機関との関係、指定・報酬実績を整理することが重要です。

特に利用期間が3年間に限られるため、「現在何人いるか」だけでなく、「いつ利用終了を迎え、その後どこから利用者が入るのか」を説明できることが、事業の継続性を買い手へ伝える材料になります。

本記事は、就労定着支援事業の売却・M&Aに関する一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の税務、法務、労務、障害福祉サービスの指定・報酬算定その他の行政手続きに関する助言ではありません。実際の取引では、指定権者、税理士、弁護士、社会保険労務士等へ最新制度と個別事情をご確認ください。

まずはお気軽にお問い合わせください。

松本 圭祐
記事監修
取締役
松本 圭祐
新卒で楽天株式会社に入社し、その後合同会社DMM.comに転職。オンライン英会話サービスの「DMM英会話」の立ち上げを担当し、3年で業界最大手となる。
日本チームのマネージャーを務めた他、新規事業や法人営業なども管掌。その後ヘルスケア・福祉関連の事業を行う上場企業に転職し、M&A支援事業の立ち上げ、グロース全般を担当。
今までにM&Aコンサルタントとして50件以上の案件を成約に導く。
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