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総量規制と介護M&A|指定枠取得の仕組みと注意点

介護事業では、自治体の介護保険事業計画や地域の整備状況によって、新たな事業者指定が制限される場合があります。こうした総量規制のある地域では、既存事業者のM&Aが参入方法の一つになります。ただし、「指定枠」という権利だけを買えるわけではなく、株式譲渡か事業譲渡かによって指定手続きも異なります。買収前には、自治体の計画、指定内容、M&Aスキームをセットで確認することが重要です。

総量規制とは?介護M&Aの前に知っておきたい仕組み

介護事業における総量規制とは、地域で必要とされる介護サービスの供給量を踏まえ、新たな事業者指定を行わないことができる仕組みです。

市町村は介護保険法に基づき、3年を一期とする市町村介護保険事業計画を策定します。2026年度は、2024年度から2026年度までを対象とする第9期介護保険事業計画の最終年度です。厚生労働省の「介護保険事業に係る保険給付の円滑な実施を確保するための基本的な指針」(令和6年厚生労働省告示第18号)では、市町村や日常生活圏域ごとに、一定の地域密着型サービスについて必要利用定員総数を定めることとされています。

必要利用定員総数との関係で指定が制限される3サービス

介護保険法第78条の2第6項第4号では、次の地域密着型サービスについて、既存の利用定員が介護保険事業計画で定めた必要利用定員総数に達している場合や、新たな指定によってこれを超える場合などに、市町村長が指定をしないことができるとされています。

サービス概要指定権者
認知症対応型共同生活介護いわゆる認知症グループホーム市町村
地域密着型特定施設入居者生活介護定員29人以下の一定の介護付き有料老人ホーム等市町村
地域密着型介護老人福祉施設入所者生活介護定員29人以下の地域密着型特別養護老人ホーム市町村

出典:介護保険法第78条の2、第117条、厚生労働省「介護保険事業に係る保険給付の円滑な実施を確保するための基本的な指針」(令和6年厚生労働省告示第18号、2026年10月確認)。

地域密着型通所介護などにも指定を調整する仕組みがある

総量規制を検討するときは、上記3サービスだけを見ればよいわけではありません。介護保険法第78条の2第6項第5号では、地域密着型通所介護などについても、一定の条件を満たし、介護保険事業計画の見込量を超える場合などに指定をしないことができる仕組みがあります。

実際に、地域密着型通所介護を「総量規制」の対象として運用している自治体もあります。対象サービスや運用方法は自治体によって異なるため、買収希望地域の最新情報を個別に確認する必要があります。

総量規制は自治体・圏域・年度によって変わる

総量規制は、「このサービスなら全国どこでも新規開設できない」という制度ではありません。同じ認知症グループホームでも、ある地域では新規整備の公募が行われ、別の地域では必要数に達しているとして新規指定が抑制される場合があります。

また、2027年度からは第10期介護保険事業計画の期間に入ります。2026年度中に買収を検討する場合は、現在の第9期計画だけでなく、第10期に向けて自治体が公表する整備方針や公募情報も【要確認】です。

総量規制エリアで介護M&Aが選択肢になる理由

新規開設だけでは参入できない地域がある

総量規制の対象となっている地域では、施設や人員を準備できたとしても、新規指定を受けられない場合があります。特に、希望する地域やサービスが自治体の整備計画上すでに充足している場合には、新規開設以外の参入方法を検討する必要があります。

そこで選択肢の一つとなるのが、すでに指定を受けて運営している介護事業者のM&Aです。

「指定枠」を単独で買うわけではない

実務では「総量規制の枠を取得したい」「指定枠のある事業所を買いたい」と表現されることがあります。しかし、介護保険法上、「指定枠」という独立した権利を切り離して自由に売買する制度があるわけではありません。

地域密着型サービスの指定は、サービスの種類と事業所ごとに、事業者からの申請に対して行われます。M&Aでは、指定を受けた法人そのものを取得するのか、介護事業だけを別法人へ移すのかによって、指定に関する手続きが変わります。

したがって、総量規制下での買収では、「事業所が指定を持っているか」だけでなく、「どの法人が指定を受けているのか」「どのM&Aスキームを使うのか」を最初に確認することが重要です。

介護M&Aで指定は引き継げる?株式譲渡と事業譲渡の違い

株式譲渡では指定を受けている法人自体が存続する

株式会社を株式譲渡で買収する場合、株主は変わりますが、法人そのものは存続します。中小企業庁も、一般的な株式譲渡では会社の債権債務、契約、許認可等が原則として存続すると整理しています。

そのため、事業譲渡のように運営法人が別法人へ変わるケースと比べると、指定主体となる法人を維持したままM&Aを行いやすい手法です。

ただし、代表者や役員などの届出事項が変わる場合には変更届等が必要になることがあります。また、欠格事由への該当や指定時に付された条件なども確認が必要です。「株式譲渡なら何も手続きがいらない」と考えず、指定権者へ事前確認するのが安全です。

事業譲渡では買い手法人による新規指定が必要となるのが基本

事業譲渡では、介護事業を運営する法人が売り手から買い手へ変わります。そのため、売り手法人が受けていた指定を買い手法人が当然に使用できるわけではありません。

例えば大阪府は、吸収合併や事業譲渡等によって事業所の運営法人が別法人へ変わる場合について、新規申請が必要であり、変更届では処理できないと案内しています。東京都も、運営法人が変更となる場合には旧法人の廃止手続きと新法人の新規指定申請を行う取扱いを示しています。

総量規制地域で事業譲渡を予定している場合は、「事業を買えば指定も取得できる」と考えず、買い手法人への指定が可能かを契約前に確認する必要があります。

合併・会社分割では手続きが簡素化される場合もある

吸収合併や吸収分割によって運営法人が変わる場合も、新法人側で指定手続きが必要となることがあります。一方、東京都では、職員に変更がないなど事業所が実質的に継続して運営されると認められる吸収合併・吸収分割について、添付書類の省略や事業所番号の引継ぎなど、手続きを簡素化する取扱いを設けています。

このような取扱いは自治体やサービスによって異なります。M&Aスキームを決定する段階で、指定権者へ相談することが重要です。

株式譲渡と事業譲渡はどちらを選ぶ?

比較項目株式譲渡事業譲渡
運営法人同一法人が存続買い手法人へ変更
指定指定主体となる法人は変わらない買い手法人で新規指定等が必要となるのが基本
資産・契約原則として法人内に残る対象を定めて個別に承継
負債・過去のリスク法人に残るためDDが重要承継対象を選択しやすい
総量規制下のポイント法人全体のリスクを確認新法人への指定可否を契約前に確認

なお、株式譲渡を利用できるのは株式会社など株式の譲渡によって支配権を移転できる法人です。売り手の法人形態によって利用できるM&A手法は異なるため、法人形態を含めてスキームを検討する必要があります。

総量規制エリアの介護事業を買収する前の7つの確認事項

  1. 対象地域・サービスが現在の総量規制や公募の対象になっているか
  2. 指定通知書の法人名、サービス種別、定員、所在地が実態と一致しているか
  3. 予定するM&Aスキームで指定を継続または取得できるか
  4. 公募・選定時に付された事業計画や運営条件がないか
  5. M&A後も人員・設備・運営基準を満たせるか
  6. 過去の運営指導、監査、介護報酬返還等のリスクがないか
  7. 不動産、補助金、職員、利用者との契約を適切に承継できるか

公募で選ばれた事業所は当時の条件まで調べる

指定通知書だけでは不十分な場合があります。自治体の公募によって整備された事業所では、公募時の事業計画や運営条件がM&A後にも影響する可能性があるためです。

例えば横浜市では、特定施設等を事業譲渡・合併・会社分割などで別法人へ承継する場合、新法人が事前確認を受け、介護保険事業者指定の内諾可否を確認する制度があります。横浜市の公募で選定された事業計画については原則として計画内容を遵守するとされ、事業譲渡では一定の審査基準を満たさない場合に承継を認めない取扱いも定められています。

これは横浜市の特定施設等に関する制度例であり、全国共通の取扱いではありません。買収対象の所在地・サービスごとに最新の自治体ルールを確認してください。

総量規制のある介護事業を買収するときの流れ

  1. 希望する地域とサービスを決める
    認知症グループホーム、地域密着型特定施設など、取得したいサービスと展開地域を明確にします。
  2. 自治体の介護保険事業計画・公募状況を確認する
    総量規制の有無だけでなく、次期計画での整備予定や公募予定も確認します。
  3. 対象となるM&A案件を探す
    定員、稼働率、人員体制、収益、不動産条件などから候補を絞ります。
  4. 指定とM&Aスキームを確認する
    指定を受けている法人を確認し、株式譲渡・事業譲渡等のどの方法が適切か検討します。
  5. 指定権者への事前相談とDDを行う
    行政手続きと並行して、財務・法務・労務・介護報酬請求などを調査します。
  6. 最終契約・クロージング・必要手続きを行う
    指定申請や廃止届、変更届などの期限を含め、事業運営に空白が生じないようスケジュールを組みます。

【無料相談】
総量規制のある地域で介護事業を買収したいものの、「希望地域に対象案件があるかわからない」「株式譲渡と事業譲渡のどちらで進めるべきかわからない」という場合は、案件探索前から専門家へ相談する方法があります。M&A承継サポートでは、介護・医療・障がい分野に特化してM&Aを支援しています。まずは希望地域やサービスを整理する段階から無料でご相談いただけます。

総量規制エリアで既存事業を買収するメリット

新規指定が難しい地域へ参入できる可能性がある

新規整備が抑制されている地域では、既存事業者のM&Aによって参入できる可能性があります。特に、既存事業の隣接エリアへ展開したい場合や、新しい地域密着型サービスを取得したい場合には、検討できる方法の一つです。

ただし、事業譲渡のように新規指定を伴うM&Aでは、総量規制や公募条件によって指定が認められない可能性もあるため、M&Aであれば必ず参入できるわけではありません。

既存の利用者・職員・設備を活用できる可能性がある

M&Aでは、事業の指定だけでなく、既存の利用者基盤、職員、施設・設備、運営ノウハウ、地域の医療機関やケアマネジャーとの関係なども承継対象になり得ます。

一方、職員の継続勤務や利用者との契約、不動産契約などはM&A手法によって取扱いが異なります。特に管理者や計画作成担当者など指定基準に関係する職員の退職は、買収後の運営に影響するため事前確認が必要です。

総量規制を目的とした介護M&Aの注意点

「指定がある=高い企業価値」とは限らない

新規参入が制限されている地域では、既存事業所であることが買い手の評価要素になる可能性があります。しかし、指定があることだけで企業価値が決まるわけではありません。

稼働率、利益、人件費、建物賃料、設備更新、人員充足状況、行政対応などによって、買収後の収益性や追加投資額は変わります。総量規制下の希少性と、事業そのものの収益力・リスクは分けて評価する必要があります。

過去の介護報酬請求や行政対応までDDする

特に株式譲渡では法人そのものを取得するため、過去の取引や運営に伴うリスクも法人内に残ります。介護報酬の算定根拠、各種加算の要件、人員配置、運営指導・監査への対応、返還実績の有無などを確認しておくことが重要です。

基本合意・最終契約前から自治体確認を進める

指定可否がM&Aの前提となる案件では、クロージング直前に初めて自治体へ相談するのでは遅い場合があります。特に事業譲渡や運営法人の変更を伴うスキームでは、必要な手続きとスケジュールを早い段階で確認し、必要に応じて契約条件にも反映させることが重要です。

総量規制と介護M&Aについてよくある質問

Q1. 総量規制地域では介護事業を新規開設できませんか?

一律に開設できないわけではありません。対象となるサービス、自治体、日常生活圏域、年度、公募状況などによって異なります。希望地域の介護保険事業計画と最新の整備・公募情報を確認してください。

Q2. M&Aなら総量規制の「指定枠」をそのまま買えますか?

指定枠そのものを独立した権利として売買する制度ではありません。指定を受けている法人そのものを取得する方法や、事業を譲り受けて買い手法人が新たな指定を受ける方法などがあります。

Q3. 株式譲渡なら介護事業の指定は維持できますか?

株式譲渡では指定を受けている法人自体は存続するため、運営法人を別法人へ変更する事業譲渡とは扱いが異なります。ただし、役員等の変更届やその他の行政手続きが必要になることがあるため、指定権者への確認が必要です。

Q4. 事業譲渡で総量規制地域の介護事業を買えますか?

事業譲渡契約自体は可能ですが、買い手法人による新規指定等が必要となるのが基本です。総量規制や公募条件との関係で指定が認められるか、契約前に指定権者へ確認することが重要です。

Q5. 総量規制地域の事業所は高く売買されますか?

新規参入が難しいことが評価要素となる可能性はありますが、一律に高値となるわけではありません。収益性、人員体制、不動産条件、設備投資、行政上のリスクなどを含めて企業価値を判断する必要があります。

まとめ|総量規制の介護M&Aは「指定」と「スキーム」を先に確認する

介護事業では、介護保険事業計画や地域の整備状況によって、新規指定が制限されるサービスがあります。こうした地域では既存事業者のM&Aが参入方法の一つになりますが、「指定枠」という権利だけを自由に購入できるわけではありません。

特に買い手側では、①対象地域の総量規制・公募状況、②指定を受けている法人、③株式譲渡・事業譲渡等のスキーム、④自治体の承継・指定手続き、⑤買収対象事業のDDを順番に確認することが重要です。

※本記事は2026年10月時点の法令・公表資料をもとにした一般的な情報提供を目的としており、個別案件に関する法務・税務・行政手続き上の助言ではありません。総量規制、公募、介護事業者指定、事業承継等の取扱いは、自治体、サービス種別、M&Aスキームによって異なります。実際の取引では指定権者への事前確認に加え、必要に応じて弁護士、税理士その他の専門家へご相談ください。

まずはお気軽にお問い合わせください。

松本 圭祐
記事監修
取締役
松本 圭祐
新卒で楽天株式会社に入社し、その後合同会社DMM.comに転職。オンライン英会話サービスの「DMM英会話」の立ち上げを担当し、3年で業界最大手となる。
日本チームのマネージャーを務めた他、新規事業や法人営業なども管掌。その後ヘルスケア・福祉関連の事業を行う上場企業に転職し、M&A支援事業の立ち上げ、グロース全般を担当。
今までにM&Aコンサルタントとして50件以上の案件を成約に導く。
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