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介護事業の売却準備|稼働率・人件費率・加算の磨き上げ

介護事業の売却準備では、稼働率・人件費率・加算を見直し、引継ぎ後の収益と運営体制を説明できる資料を整えることが大切です。ただし、改善に費用と時間をかけても、その分だけ売却価格が上がるとは限りません。まず現在の評価を把握し、取り組むべき磨き上げを選びましょう。本記事では、サービス別の確認指標、職員定着を守る改善策、加算の注意点、準備資料、相談を始めるタイミングを解説します。

介護事業の売却準備で「磨き上げ」が重要な理由

利益と引継ぎ後の運営体制をセットで伝える

売却に向けた磨き上げとは、経営課題を改善し、事業の強みを引継ぎ先へ説明できる状態にすることです。介護事業では、売上・利益に加え、人員体制、紹介経路、管理者の役割、記録・請求の管理状況を示すと、買い手が承継後の運営を検討しやすくなります。

例えば、利用者が安定していても、紹介元への対応を経営者だけが担っていれば、退任後の関係維持が課題です。対応履歴や受入れ判断の手順を共有し、管理者も連絡を取れる体制にすることが、数字に表れにくい磨き上げになります。

実現した改善と将来の計画を分ける

買い手に示す資料は「実現済み」「実行中」「未着手」に分けます。職員の採用を計画している段階と、入職後に受入れ枠が増えて売上へ反映された段階では、評価の根拠として示せる内容が異なります。

また、費用の支払時期を遅らせても、費用そのものが減るわけではありません。損益と資金繰りを区別し、修繕・採用など今後必要な支出も整理しましょう。売却価格は買い手の判断や交渉にも左右されるため、利益の改善額と価格の上昇額を同一視しないことが重要です。

稼働率の磨き上げ|サービス別に空きの原因を見直す

通所・入居・訪問で指標の意味をそろえる

介護事業を一律の稼働率で比較すると、課題を見誤ることがあります。以下は経営管理に使う指標の例で、公的統計の統一算式や売却に必要な基準値ではありません。比較するときは対象期間、集計単位、休業日などの条件をそろえます。

サービス経営管理上の指標例集計時の注意点
通所介護延べ利用人数÷営業日ごとの利用定員の合計×100複数単位がある場合は単位別に計算し、同じ範囲で集計する
入居系サービス日ごとの入居者数の合計÷日ごとの入居定員の合計×100月末時点の入居率と区別し、入院中の扱いも明示する
訪問介護サービス提供時間、対象職員の勤務時間に占める提供時間の割合対象職員、移動・記録時間の範囲をそろえる

訪問介護では、移動や記録も業務に必要な時間です。提供時間の割合だけを高めようとせず、訪問先の分布や時間帯別の受入れ余力も確認します。入居系では、居室が埋まっていても収入の内訳は事業形態で異なるため、家賃等と介護サービス収入を分けて見ると実態がわかりやすくなります。

曜日・時間帯・紹介経路から改善策を絞る

平均値を把握した後は、空きが生じる原因を分解します。通所介護で特定曜日だけ利用が少ない場合、広告を増やす前に、紹介元へ空き状況が伝わっているか、送迎や配置が受入れを制限していないかを点検しましょう。

  • 問い合わせから見学・契約へ進まなかった理由
  • 受入れを断った理由と曜日・時間帯
  • キャンセルや利用終了の理由
  • 紹介元別の相談件数と利用開始の状況

利用回数の変更や新規受入れは、本人の必要性、ケアプラン、事業所の対応力に沿って検討します。売上を増やすために不要な利用を勧めたり、無理な受入れをしたりすることは避けてください。

改善前後の数字と実施内容を残す

月次資料には、稼働状況とともに、送迎経路の変更や空き情報の共有など、実施した施策と時期を記載します。営業日数や前年同月の状況も添えれば、季節変動と施策の効果を区別しやすくなります。

特定の紹介元に依存している場合は、売上の偏りと関係維持の方法も説明しましょう。「利用者が増えた」という結果だけでなく、増加した経緯と継続を支える体制が、売却時の判断材料になります。

人件費率の磨き上げ|職員定着と業務効率を両立する

計算に含める費用と売上の期間をそろえる

人件費率は「人件費÷売上高×100」で確認します。ただし、給与だけで計算した数字と、賞与・法定福利費を含めた数字は比較できません。派遣費や役員報酬を含めるかを明示し、同じ範囲で推移を追いましょう。採用紹介料なども別途集計すると、人材確保に必要な費用を把握できます。

介護報酬の入金額と、その月に提供したサービスの売上を混同しないことも大切です。人件費と売上を同じ対象期間で比較し、賞与など特定月に集中する費用は年間の推移も見て判断します。

人件費率が上がった原因は、人件費の増加だけとは限りません。利用者減少による売上の落ち込みと、残業・派遣費などの増加を分けると、改善の優先順位が見えてきます。

残業・送迎・記録業務の負担から見直す

人件費率の改善は、必要な人員配置とケアの質を守ることが前提です。記録の二重入力、物品を探す時間、申し送りの重複など、職員が負担を感じる業務から見直します。給与や人数を一律に減らす方針では、離職や受入れ縮小によって収益を損なうおそれがあります。

厚生労働省の生産性向上ガイドラインでは、役割分担、記録・報告様式、情報共有などの改善が示されています。自事業所の課題に合う取組を選び、システムを導入する場合は利用料と研修・入力の負担も比較しましょう。

出典:厚生労働省「生産性向上ガイドライン」(2024年度改訂)。ガイドライン掲載ページ

経営者の退任後に必要な費用を見込む

経営者が管理、請求、送迎などを兼務している場合、退任後に役員報酬の全額が不要になるとは限りません。業務を引き継ぐ職員の給与や外注費を見込み、承継後の収支を試算します。

担当業務、必要な資格、代わりに対応できる人を一覧にすると、引継ぎの不足が明確になります。経営者が無償で担っていた仕事も、買い手側では費用が生じる可能性があるため、作業内容と所要時間を記録しておきましょう。

「どこから磨き上げを始めるべきか」と迷ったら、まず現在の相場感を確認してみませんか。M&A承継サポートの無料簡易査定をご活用ください。具体的な改善の優先順位は、個別相談で事業の状況や希望時期を踏まえて検討できます。査定結果は成約価格を保証するものではありません。

加算の磨き上げ|適正算定と追加費用を確認する

算定中の加算を点検し、未取得の加算を検討する

加算の磨き上げでは、最初に現在の算定内容を点検します。届出書の有無だけでなく、人員・資格・実施状況・記録が要件に対応しているかを確認し、その後で未取得の加算を検討しましょう。

整理する項目確認する内容
算定状況加算名、区分、開始時期、対象サービス
要件と実態配置、資格、研修、計画、実施記録
収支加算収入と、追加の人件費・研修費・運用費
継続性担当者の退職や譲渡後の体制変更への対応

具体的な算定要件、適用時期、届出期限は、対象サービスと指定権者の最新案内で確認してください。

増える収入と、取得・維持にかかる費用を比べる

加算の採算は、増える収入から取得・維持に必要な費用を差し引いて検討します。専門職を新たに採用する場合、対象利用者が少ない時期も給与は発生します。採用費、研修時間、記録作業、システム費まで含め、利用が想定を下回る場合の収支も確認しましょう。

まだ算定していない加算の収入を、実績の利益に加えることは避けます。取得に必要な対応、担当者、予定時期を別紙にまとめると、改善計画の実現性を説明しやすくなります。

処遇改善加算は賃金改善とセットで整理する

介護職員等処遇改善加算は、通常の増収施策と分けて扱います。厚生労働省の2026年度通知では、算定額に相当する賃金改善が必要とされています。所定の範囲で、賃金改善に伴う法定福利費等の事業主負担増加分も含められます。

2026年6月以降は加算の拡充が行われていますが、加算収入の増加をそのまま利益増とは評価できません。通知では、前年度より増えた算定額に相当する新たな賃金改善も求められています。計画書・実績報告と支給内容を照合し、制度改定による増収と事業自体の収益改善を区別しましょう。

出典:厚生労働省「介護職員等処遇改善加算に関する基本的考え方並びに事務処理手順及び様式例の提示について(令和8年度分)」(2026年3月13日)。通知・Q&A

勤務・サービス記録・請求の不一致を点検する

勤務実績、サービス提供記録、請求内容に食い違いがある場合は、原因と対象期間を整理します。必要な訂正や行政対応は、専門家・指定権者へ確認してください。記録を事実と異なる内容に変更せず、訂正理由と対応経過を残すことが大切です。

磨き上げの成果を伝える売却準備資料をそろえる

同じ事業所・同じ月で資料をつなげる

売上が増えた月について、利用人数、営業日数、加算区分の変更を分けて説明できるようにします。複数事業所を運営している場合は事業所別の収支を用意し、本部費用の配分方法も示しましょう。

  • 決算書・申告書、月次試算表、借入金と資金繰りの資料
  • 事業所別の売上・費用、稼働状況、利用開始・終了の推移
  • 職員の資格・雇用形態・担当業務・給与の一覧
  • 加算届出、計画・実施記録、請求・返戻・過誤の資料
  • 指定関係書類、契約書、運営指導と是正の記録

資料が不足していても相談は可能です。まず保管場所と不足分を一覧にし、直近の経営状況を説明できるものから準備してください。

指定・契約・修繕の課題も共有する

指定の更新予定、賃貸借契約、設備リース、修繕予定は、引継ぎ後の運営と費用に関わります。法人形態や売却手法で手続きが異なるため、指定や契約を当然に引き継げるとは考えないでください。

運営指導の指摘事項は、対応済み・対応中・未対応に分けます。未解決の課題を早めに共有することで、是正の順序や売却条件への影響を検討しやすくなります。

情報は必要な範囲で段階的に共有する

初期相談では、利用者数や職員構成などの集計資料を中心に準備します。個人情報を含む詳細資料は、必要性、開示範囲、管理方法を確認して共有しましょう。秘密保持の進め方は、M&AのNDA・秘密保持契約の注意点も参考になります。

改善してから売る?介護事業の売却準備と相談の進め方

改善後の評価だけでなく、待つ間の負担を比較する

磨き上げを続けるかは、期待する評価に加え、追加投資、効果が出るまでの時間、資金繰りで判断します。資金に余裕がない状態で採用や設備投資を増やすと、成果が出る前に選択肢が狭まるおそれがあります。

現在の状況検討する進め方
資金・人員に余裕があり、改善策が具体的現状査定を受け、改善の効果を確認しながら売却時期を検討する
資金繰りや経営者の健康面に不安がある改善完了を待たずに相談し、承継の選択肢を確認する
改善に多額の投資や専門人材が必要自社で改善する場合と、買い手の体制で改善する場合を比較する

売却価格だけでなく、職員の雇用、利用者へのサービス継続、経営者の引退時期にも優先順位を付けましょう。条件を整理しておくと、価格以外を含めた提案の比較ができます。

現状把握・査定から改善の優先順位を決める

  1. 足元の収支・資金繰り・売却希望時期を整理する
  2. 現在の資料で簡易査定や個別相談を行う
  3. 適正運営上の不備への対応と、価値向上の施策を分ける
  4. 施策ごとに費用・担当者・確認指標・見直し時期を決める
  5. 実績を更新し、必要に応じて買い手探しと並行する

適正運営上の不備は、価格への効果とは別に対応します。一方、大規模な改装などの追加投資は、買い手の方針と合わない可能性もあるため、実行前に相談する余地があります。売却全体の工程は、介護M&Aの流れをご覧ください。

介護事業の売却準備・磨き上げに関するFAQ

赤字や低稼働でも売却の相談はできますか?

相談できます。赤字の原因、人員体制、利用者基盤、買い手による改善の可能性を整理して検討します。ただし、売却成立や希望価格を保証するものではありません。

稼働率や人件費率に共通の目標値はありますか?

売却に有利となる一律の目標値はありません。サービス種別、地域、利用者の状態、必要な配置、費用構造を踏まえて判断します。

加算をすべて取得してから売却すべきですか?

すべて取得する必要はありません。算定要件、追加費用、引継ぎ後の維持可能性を確認し、自事業所に適した加算から検討しましょう。

売却準備にはどのくらいの期間が必要ですか?

資料の整理状況、改善内容、買い手探し、行政手続きなどによって異なります。希望時期を伝え、必要な準備を逆算してください。改善が終わる前でも相談できます。

まとめ|現在の評価を知り、必要な磨き上げを選ぶ

介護事業の売却準備では、稼働率・人件費率・加算を見直し、収益の継続性と適正運営を資料で説明することが大切です。現在の評価、改善にかかる費用と時間、引継ぎ後の体制を比較し、自社に合った優先順位を決めましょう。

本記事は2026年9月4日時点で確認した資料に基づく一般的な情報提供であり、個別の税務・法務・行政手続きの助言ではありません。具体的な対応は、税理士・弁護士等の専門家や指定権者へご確認ください。

まずはお気軽にお問い合わせください。

松本 圭祐
記事監修
取締役
松本 圭祐
新卒で楽天株式会社に入社し、その後合同会社DMM.comに転職。オンライン英会話サービスの「DMM英会話」の立ち上げを担当し、3年で業界最大手となる。
日本チームのマネージャーを務めた他、新規事業や法人営業なども管掌。その後ヘルスケア・福祉関連の事業を行う上場企業に転職し、M&A支援事業の立ち上げ、グロース全般を担当。
今までにM&Aコンサルタントとして50件以上の案件を成約に導く。
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