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意向表明書とは?提出時期・書き方・注意点

意向表明書とは、M&Aを検討する買い手候補が、売り手へ買収意思や希望条件を示す書面です。記載された価格は最終確定額とは限りません。売り手は金額だけでなく、価格の前提、資金調達、従業員の雇用、事業継続方針を確認し、交渉を進める相手を判断する必要があります。

意向表明書とは、買い手がM&Aの希望条件を示す書面

意向表明書とは、M&Aを希望する買い手候補が、「どのような条件で対象会社・事業を譲り受けたいか」を売り手へ伝える書面です。一般的には、企業概要書などの資料を確認し、買い手が具体的な検討へ進みたいと判断した段階で提出します。

主な目的は、次のとおりです。

  • 買い手の買収意思を書面で示す
  • 希望価格や取引方法などの条件を整理する
  • 売り手が交渉を進める買い手を選ぶ
  • デューデリジェンスや基本合意へ進む前提を確認する

意向表明書は、すべてのM&Aで作成が義務付けられている法定書類ではありません。買い手候補が1社の場合や、すでに条件交渉が進んでいる場合は、意向表明書を省略して基本合意へ進むこともあります。

第一次意向表明書と最終意向表明書

中小企業庁の「中小M&Aガイドライン(第3版・2024年8月)」では、企業概要書などの情報をもとに暫定的な希望条件を記載し、デューデリジェンスへ進む意向を示す書面を「第一次意向表明書」、デューデリジェンスの結果を踏まえて最終的な希望条件を示す書面を「第二次意向表明書(最終意向表明書)」と呼ぶ場合があると説明しています。

ただし、すべての案件で2回提出されるわけではありません。入札方式や再生案件などでは段階を分けることがありますが、中小規模の相対交渉では1回のみ、または意向表明書自体を省略するケースもあります。

LOI・NBO・基本合意書との違い

意向表明書は、英語の「Letter of Intent」を略してLOIと呼ばれることがあります。一方、日本のM&A実務では、基本合意書をLOIまたはMOUと呼ぶ場合もあります。

また、法的拘束力を持たない提案をNBO(Non-Binding Offer)と呼ぶこともあります。名称の使い方は統一されていないため、「LOIと書いてあるから意向表明書」と判断するのではなく、誰が作成し、何について意思表示・合意し、どの条項に拘束力を持たせているかを確認することが重要です。

書類主な役割一般的な作成時期価格の位置づけ
意向表明書主に買い手が買収意思と希望条件を提示する買い手候補を選定する前後希望額・概算額
基本合意書売り手と買い手が現時点の主要な了解事項を確認する交渉相手を絞った後暫定的な合意額
最終契約書最終条件と当事者の権利・義務を定めるデューデリジェンス後最終合意額

上記は一般的な整理です。意向表明書への応諾書が基本合意とほぼ同じ役割を持つ場合もあるため、表題だけで文書の法的性質を判断することはできません。

意向表明書を提出するタイミングとM&Aの流れ

意向表明書は、買い手が対象会社・事業の概要を確認し、具体的な交渉へ進みたいと判断した時点で提出するのが一般的です。トップ面談の前に提出することもあれば、経営者同士の面談後に提出することもあります。

  1. ノンネーム資料による匿名情報の確認
  2. 秘密保持契約の締結
  3. 企業概要書などの詳細資料の開示
  4. 買い手による初期検討・トップ面談
  5. 意向表明書の提出
  6. 売り手による買い手候補の選定
  7. 基本合意の締結
  8. デューデリジェンスの実施
  9. 最終条件の交渉
  10. 最終契約・クロージング

相対交渉と入札方式では提出方法が異なる

特定の買い手と1社ずつ話し合う相対交渉では、トップ面談や初期的な条件交渉を行った後に意向表明書を受け取ることがあります。

複数の買い手候補を比較する入札方式では、提出期限と記載事項をそろえ、各社から意向表明書を受け取ります。比較条件を統一しないと、「役員退職金を含む価格」と「株式の対価だけの価格」が並び、表面的な金額だけでは正しく判断できません。

意向表明書を省略するケース

買い手候補がすでに1社に絞られている場合や、当事者間で主要条件の話し合いが進んでいる場合は、意向表明書を作成せず、直接基本合意書へ進むことがあります。

また、売り手が意向表明書に対する応諾書を提出し、基本合意とほぼ同じ位置づけで扱う場合もあります。応諾書へ署名・押印する前に、単なる受領確認なのか、独占交渉や秘密保持への同意まで含むのかを確認しましょう。

意向表明書に記載する項目と書き方

意向表明書に法定の様式はありませんが、売り手が買い手の希望と取引実行の可能性を判断できる内容にする必要があります。

記載項目主な内容売り手の確認ポイント
買い手の概要会社名、所在地、代表者、事業内容運営体制や既存事業との関係
M&Aの目的買収理由、相乗効果、事業方針売り手の理念や希望との整合性
取引対象対象会社、事業、資産、負債含まれるものと除外されるもの
取引方法株式譲渡、事業譲渡など雇用・契約・指定手続きへの影響
希望価格希望額または価格帯、算定前提価格が変更される条件
資金調達自己資金、借入れなど融資承認などの前提条件
従業員・役員雇用方針、役員の処遇、引継ぎ対象者、期間、労働条件
スケジュールDD、最終契約、実行希望日現実的に実行できる日程か
有効期限提案内容が有効な期間検討時間が確保されているか

買収目的とM&A後の方針

買い手は、「既存の介護事業と連携したい」「新たな地域へ進出したい」など、M&Aを希望する理由を記載します。売り手にとっては、買い手が事業のどこを評価し、M&A後にどのような運営を考えているかを知る材料になります。

「従業員の雇用を尊重する」「現在のサービスを継続する」といった表現だけでは、対象者や期間が明確ではありません。買い手の現時点の方針として記載し、確約が必要な事項は基本合意書や最終契約書で具体化します。

希望価格と算定の前提

意向表明書に同じ「1億円」と記載されていても、役員退職金や不動産取得費が含まれているかによって、売り手が最終的に受け取る金額は異なります。

  • 現預金や借入金をどのように評価しているか
  • 役員退職金は譲渡対価とは別に支払うのか
  • 経営者から会社への貸付金をどのように返済するか
  • 土地・建物を売却するのか、賃貸するのか
  • 通常必要な運転資金をいくらと想定しているか
  • どのような調査結果が出た場合に価格を変更するのか

買い手側は、未確定の価格を確定額のように書かず、「現在開示されている資料を前提とした希望額」など、算定の基準と条件変更の可能性を示します。

資金調達と社内承認

買い手が金融機関からの融資を予定している場合、意向表明書を提出した時点では融資承認が得られていないことがあります。また、取締役会などの社内決裁が取引実行の前提になっているケースもあります。

売り手は、資金調達方法、必要な社内承認、承認予定時期を確認します。提示価格の高さだけではなく、実際に取引を完了できる体制が整っているかを見ることが大切です。

従業員・役員・経営者の処遇

株式譲渡では、対象法人自体が存続するため、原則として従業員の雇用主は変わりません。一方、事業譲渡で従業員の労働契約を買い手へ移す場合は、原則として対象となる従業員一人ひとりの同意が必要です。

「雇用を継続する」と記載されていても、給与、勤務地、役職、勤続年数、退職金の扱いまで同じとは限りません。取引方法を踏まえ、誰をどの条件で引き継ぐのかを確認します。

売り手経営者に一定期間の引継ぎを求める場合は、期間、勤務日数、報酬、業務範囲も整理します。「必要な引継ぎに協力する」という表現だけでは、想定以上の関与を求められる可能性があります。

売り手が意向表明書を比較する3つの視点

1.価格と条件の全体像

希望価格、役員退職金、役員借入金、不動産、引継ぎ報酬などを合計し、売り手が受け取る金額と負担する費用を整理します。見かけの譲渡価格ではなく、条件全体で比較することが重要です。

2.取引実行の確度

資金調達、社内承認、デューデリジェンスの範囲、最終契約までの日程、価格変更条件を確認します。前提条件が多い提案は、調査後に価格が大きく変わったり、取引が実行されなかったりする可能性も考慮する必要があります。

3.事業を引き継ぐ方針

介護・医療・障がい福祉事業では、従業員の雇用、利用者・患者へのサービス、事業所の存続、経営理念との整合性も重要な比較項目です。

例えば、価格が最も高いものの事業所の統廃合を予定している買い手と、価格はやや低いものの現在の拠点と雇用を維持する方針を示している買い手では、売り手にとっての評価が異なります。売却前に希望条件へ優先順位を付けておくと、判断しやすくなります。

独占交渉を求められた場合の確認事項

意向表明書への応諾や基本合意により、特定の買い手へ独占交渉権を付与することがあります。その期間中は、ほかの買い手との交渉が制限される可能性があります。

  • 独占交渉の対象となる行為
  • 独占交渉期間と自動更新の有無
  • 買い手の調査や交渉が進まない場合の解除条件
  • 違約金や損害賠償に関する定め
  • 秘密保持や費用負担に関する定め

意向表明書全体には拘束力を持たせない場合でも、独占交渉、秘密保持、費用負担などの一部に拘束力を持たせる可能性があります。文書名ではなく、条項ごとの記載を確認してください。

意向表明書は、価格・実行確度・事業継続の3つの視点で確認することが大切です。条件の読み方や買い手候補の比較に迷う場合は、M&A承継サポートの無料相談・無料簡易査定で、自社の相場感や検討課題を整理できます。

介護・医療・障がい福祉のM&Aで確認したい事項

利用者・患者へのサービス継続

福祉・医療分野では、M&Aの実行後も利用者や患者へのサービスを継続できる体制が重要です。事業所の名称、サービス内容、利用契約、地域の関係機関への説明について、買い手の方針を確認します。

意向表明書の段階ですべてを確定する必要はありませんが、既存事業所を継続する予定か、将来的な統廃合を検討しているかなど、基本方針は早めに共有しておくとよいでしょう。

職員と有資格者の引継ぎ

介護・医療・障がい福祉では、管理者や各サービスで配置が求められる有資格者などの退職が、事業運営へ影響する場合があります。

買い手の雇用方針、労働条件、キーパーソンへの説明時期、退職が発生した場合の採用計画を確認します。秘密保持との両立が必要なため、従業員へ説明する時期と対象者は、売り手だけで決めず、買い手や専門家と協議しましょう。

指定・許認可・届出

株式譲渡では運営法人が存続しますが、事業譲渡では運営主体が変わります。事業譲渡の場合は、譲渡法人の廃止届と買い手による新規指定申請が必要になることがあります。

厚生労働省は2024年6月、障がい福祉・障がい児支援事業者の合併や事業譲渡などに伴う指定手続きの簡素化について通知しています。ただし、これは指定が自動的に承継されることを意味するものではありません。

必要な手続きや審査期間は、事業種別、取引方法、法人形態、指定権者によって異なります。介護・障がい福祉事業は所管自治体、保険医療機関は管轄の地方厚生局などへ、計画段階で確認する必要があります。

施設・設備・補助金

賃貸物件で事業を運営している場合、賃貸借契約の名義変更や事業譲渡について、賃貸人の承諾が必要になる可能性があります。

補助金を利用して取得した建物・設備は、売却、譲渡、用途変更について事前承認や返還が必要となる場合があります。不動産、車両、リース契約、医療・介護機器、補助対象財産を一覧化し、取引対象と必要手続きを確認しましょう。

意向表明書を作成・確認するときの注意点

ひな形をそのまま使用しない

ひな形は記載漏れを防ぐための参考にはなりますが、個別案件の事情を網羅するものではありません。特に、経営者保証、役員借入金、不動産、従業員、指定・許認可に関する条件は、対象事業に合わせて修正する必要があります。

希望と確約を区別する

買い手は、十分な調査を行う前に、価格や雇用条件を確定事項のように記載しないことが大切です。売り手も、意向表明書を受け取っただけで成約が確定したとは判断できません。

現時点の希望条件、デューデリジェンス後に協議する事項、最終契約で確約する事項を区別しましょう。

応諾・署名前に専門家へ確認する

意向表明書は法的拘束力を持たないことが一般的ですが、記載内容、応諾書、交渉経緯などによって法的評価が変わる可能性があります。

独占交渉や秘密保持が含まれる場合は、M&A支援会社に加え、必要に応じて弁護士、税理士、社会保険労務士、行政手続きの専門家へ確認してください。

意向表明書に関するよくある質問

意向表明書に法的拘束力はありますか?

買収価格や取引実行については、法的拘束力を持たせないことが一般的です。ただし、秘密保持、独占交渉、費用負担などに拘束力を持たせる場合があります。各条項を個別に確認する必要があります。

意向表明書の提出は必須ですか?

必須ではありません。買い手候補が1社の場合や、すでに条件交渉が進んでいる場合は、省略して基本合意へ進むことがあります。

提示された価格は変更されますか?

変更される可能性があります。意向表明書の価格は、デューデリジェンス前の限定された情報をもとに算定されることが多いためです。どのような場合に価格を再協議するのかを確認しましょう。

意向表明書を受け取ったら返事が必要ですか?

受領しただけで直ちに応諾する義務が生じるとは限りません。内容に不明点があれば質問や条件調整を行い、交渉を続けるか判断します。回答期限がある場合も、必要な検討時間を確保しましょう。

複数の買い手から意向表明書を受け取れますか?

独占交渉を付与する前であれば、複数の買い手候補から受け取り、比較する進め方があります。ただし、すでに締結している契約や応諾書に交渉制限がないか確認してください。

まとめ|意向表明書は価格・実行確度・事業継続で判断する

意向表明書とは、買い手が売り手に対して買収意思と希望条件を示す書面です。記載された価格は最終確定額とは限らないため、価格の算定前提や変更条件まで確認する必要があります。

介護・医療・障がい福祉のM&Aでは、資金調達や社内承認だけでなく、利用者へのサービス、職員の雇用、指定・許認可、事業所の継続方針も重要です。売り手自身が譲れない条件を整理し、複数の提案を共通の基準で比較しましょう。

参考資料

本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別案件に関する法務・税務・労務・行政手続き上の助言ではありません。意向表明書の法的拘束力、税務上の取扱い、労働契約の承継、指定・許認可などは案件ごとに異なるため、弁護士、税理士、社会保険労務士、行政機関などへご確認ください。

まずはお気軽にお問い合わせください。

松本 圭祐
記事監修
取締役
松本 圭祐
新卒で楽天株式会社に入社し、その後合同会社DMM.comに転職。オンライン英会話サービスの「DMM英会話」の立ち上げを担当し、3年で業界最大手となる。
日本チームのマネージャーを務めた他、新規事業や法人営業なども管掌。その後ヘルスケア・福祉関連の事業を行う上場企業に転職し、M&A支援事業の立ち上げ、グロース全般を担当。
今までにM&Aコンサルタントとして50件以上の案件を成約に導く。
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