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介護施設の買収ガイド|流れ・費用・注意点

介護施設の買収を始めるには、まず「買収目的・対象エリア・サービス種別・総投資額」を決めることが重要です。価格や稼働率だけで判断せず、人員配置、介護報酬請求、指定手続き、不動産、買収後の管理体制まで確認します。本記事では、初めて介護M&Aを検討する買い手に向けて、案件探しから契約、PMIまでを解説します。

介護施設の買収を始める前に決めること

本記事における「介護施設」には、有料老人ホームなどの入居施設だけでなく、訪問介護、通所介護、居宅介護支援などの介護事業所も含みます。建物や土地だけを購入しても、介護事業の契約・職員・指定まで取得できるとは限らないため、何を買収するのかを明確にする必要があります。

買収目的を明確にする

介護事業を買収する目的には、次のようなものがあります。

  • 既存事業と同じ地域で拠点を増やす
  • 訪問系から通所系・入居系へサービスを広げる
  • 新しい地域へ進出する
  • 人材や管理者、利用者基盤を確保する
  • 医療・介護・障がい福祉の連携を強化する

例えば、既存施設の近隣で訪問介護事業所を買収する場合と、未進出地域で有料老人ホームを買収する場合では、必要な管理体制が異なります。「売上を増やす」だけでなく、買収後にどの機能を自社へ取り込みたいのかまで具体化しましょう。

買収希望条件を整理する

項目整理する内容
対象エリア自治体、既存拠点からの距離、管理可能な範囲
サービス種別訪問介護、デイサービス、有料老人ホームなど
事業規模売上、定員、利用者数、事業所数、職員数
総投資額譲渡価格、専門家費用、運転資金、追加投資の合計
許容できる課題赤字、低稼働、採用難、修繕の必要性など
買収時期希望時期と行政・融資手続きに使える期間

同時に、管理者の配置、採用、労務管理、介護報酬請求、行政対応を自社の誰が担うかも決めます。売り手経営者や特定の管理者へ業務が集中している案件は、退任後の運営まで想定して検討する必要があります。

介護施設の買収方法は主に株式譲渡と事業譲渡

比較項目株式譲渡事業譲渡
取得対象運営会社の株式特定の事業、資産、契約
運営法人原則として同じ法人が存続買い手法人が事業を取得
契約関係継続しやすいが契約条項の確認が必要個別承継や再契約が必要になりやすい
職員の雇用雇用主である法人は原則変わらない労働契約の承継について個別対応が必要
債務・リスク過去の債務や問題も法人内に残る承継範囲を選びやすいが手続きが増える
事業者指定法人が同一でも変更届などを確認新規指定が必要となる場合が多い

株式譲渡の特徴

株式譲渡では、買い手が運営会社の株式を取得します。法人自体は変わらないため、雇用関係や利用者・取引先との契約を継続しやすい方法です。

一方、借入金、未払残業代、過去の介護報酬請求に関する問題なども法人内に残ります。帳簿に表れていない債務や将来の支出までデューデリジェンスで調べなければなりません。

事業譲渡の特徴

事業譲渡では、取得する施設、設備、契約などを選べます。ただし、利用契約、不動産契約、リース契約などの承継手続きが増え、職員の労働契約も当然にすべて移るわけではありません。

厚生労働省の改正後の「事業譲渡等指針」は、2026年5月25日から適用されています。労働契約を承継する場合は、対象となる職員へ十分に説明し、承諾に向けた協議を行うことが重要です。出典:厚生労働省「事業譲渡等指針の一部改正について」

社会福祉法人や医療法人など、株式会社のような株式がない法人では、単純な株式譲渡は利用できません。法人形態に応じて合併や事業譲渡などを検討します。

介護施設を買収するメリットとリスク

既存の運営基盤を活用できる

新規開設では、物件確保、採用、指定申請、利用者獲得を一から進めます。既存施設の買収では、職員、設備、利用者との関係、地域の医療機関やケアマネジャーとのつながりを引き継げる場合があります。

ただし、現在の稼働率や売上が買収後も維持されるとは限りません。紹介経路が売り手経営者の個人的な関係に依存していないか、買収を機に退職する職員がいないかを見極めます。

既存事業との連携がしやすい

近隣の施設を買収すれば、採用、研修、経理、請求などを共通化できる場合があります。一方、遠隔地や未経験サービスの買収では、本部人員や移動時間などの管理コストが増えます。買収効果だけでなく、統合に必要な負担も事業計画へ反映させましょう。

介護M&Aで施設を買収する流れ

  1. 買収方針を決める:目的、エリア、サービス種別、総投資額を整理します。
  2. 専門家へ相談する:希望条件を登録し、候補案件を探します。
  3. 秘密保持契約を結ぶ:開示された案件情報の取扱いを定めます。
  4. 初期検討を行う:財務、人員、稼働状況、指定、不動産を確認します。
  5. トップ面談・現地確認を行う:譲渡理由や施設運営の実態を確認します。
  6. 意向表明・基本合意へ進む:価格、取引方法、スケジュールなどを調整します。
  7. デューデリジェンスを行う:財務・税務・法務・労務・行政・現場運営を調査します。
  8. 最終契約を締結する:譲渡条件、表明保証、補償、引き継ぎを定めます。
  9. 行政手続き・決済を行う:必要な指定申請や届出を行い、対価を決済します。
  10. PMIを進める:職員、請求、会計、システム、運営方針を段階的に統合します。

基本合意書の役割や法的拘束力については、「基本合意書とは?M&Aでの役割と法的拘束力を解説」もご覧ください。

介護施設の買収価格と必要資金

介護施設の買収価格に一律の相場はありません。一般的には、資産・負債を時価に調整した純資産、正常な収益力、将来の利益見込みなどを踏まえて評価します。

利益が同じでも、有資格者が安定して在籍する施設と、管理者の退職が予定されている施設では、買収後の負担が異なります。賃貸借契約、大規模修繕、加算の継続可能性も価格判断へ反映させます。

譲渡価格以外に必要な資金

  • M&A仲介会社やFAへの報酬
  • 弁護士、公認会計士、税理士などへの専門家費用
  • デューデリジェンス費用
  • 登記、契約、行政手続きに関する費用
  • 買収後の運転資金
  • 採用、研修、賃金制度の調整費用
  • 建物、車両、設備の修繕・更新費用
  • 勤怠、会計、介護請求システムの統合費用

融資は案件決定前から相談する

日本政策金融公庫の「事業承継・集約・活性化支援資金」では、事業承継・集約に必要な設備資金や運転資金が対象に含まれます。2026年8月26日時点の国民生活事業向け案内では、融資限度額は別枠7,200万円です。ただし審査があり、対象要件、利率、返済期間は利用者ごとに異なります。出典:日本政策金融公庫「事業承継・集約・活性化支援資金」

買収予算や自社に合う施設規模が分からない場合は、希望条件を整理するところから始められます。M&A承継サポートでは、具体的な案件が決まっていない段階から、買い手登録・無料相談を受け付けています。

買収候補となる介護施設の見極め方

確認分野主な確認事項
地域・商圏競合、紹介経路、地域の需要、既存拠点との距離
利用状況利用者数、稼働率の推移、解約・退去理由
財務正常な利益、資金繰り、借入金、関連当事者取引
職員資格、雇用形態、勤続年数、退職予定、採用難易度
指定・請求加算、人員配置、行政指導、監査、返還の有無
不動産・設備所有・賃貸、賃料、譲渡承諾、修繕、原状回復
統合可能性ケア方針、給与体系、勤務ルール、使用システム

初期検討では、厚生労働省の「介護サービス情報公表システム」も参考になります。ただし、公開情報だけで最新の勤務実態や請求状況まで判断することはできないため、売り手資料と現地調査で補います。

介護M&Aのデューデリジェンスで確認すること

デューデリジェンスとは、最終契約前に対象事業の実態とリスクを調査する手続きです。介護事業では、一般的な財務・法務調査に加え、指定、人員配置、介護報酬請求、加算要件を確認します。

調査分野主な確認項目
財務・税務借入金、未払金、リース、簿外債務、税務申告
法務利用契約、取引契約、事故、苦情、個人情報管理
労務雇用契約、勤務実態、残業代、社会保険、退職予定
行政・請求指定、加算、人員配置、報酬請求、指導監査、返還
不動産・設備所有権、賃貸借、修繕、原状回復、設備更新
現場運営紹介経路、管理体制、記録、ケアの品質、業務フロー

介護報酬については、令和8年度改定後の最新要件で確認します。特に処遇改善加算などは、現在の算定区分だけでなく、買収後も要件を満たせる職員配置・賃金制度・届出体制があるかを調査します。出典:厚生労働省「令和8年度介護報酬改定について」

問題が見つかった場合は、買収中止だけでなく、価格調整、売り手による事前是正、クロージング条件、契約上の補償なども検討します。

介護施設買収の指定・行政手続き

介護事業者の指定手続きは、取引方法、法人変更の有無、サービス種別、指定権者によって異なります。株式譲渡で法人が変わらない場合でも、役員、管理者、法人情報などの変更届が必要になることがあります。

事業譲渡などで運営法人が変わる場合は、新規指定が必要となるのが基本です。一定の吸収分割等については、実質的な事業の継続性などを前提として、指定申請書類が簡素化される場合があります。ただし、指定そのものが無条件で自動承継されるわけではありません。

基本合意後のできるだけ早い段階で指定権者へ取引概要と予定日を伝え、必要書類と標準処理期間を確認します。詳しくは「介護M&Aの許認可・指定承継の手続き」もご覧ください。

利用者契約、職員の雇用、不動産賃貸借、リース、補助金で取得した財産も個別に確認します。補助金対象財産の譲渡や用途変更では、承認や返還が必要になる場合があります。

介護施設の買収で起こりやすい失敗

価格の安さだけで赤字案件を選ぶ

低稼働が一時的なものなのか、採用難や商圏縮小による慢性的なものなのかで改善可能性は異なります。赤字額だけでなく、原因と改善費用を見積もります。

キーパーソンへの依存を見落とす

営業、採用、請求、行政対応を一人が担っている場合、その人物の退任後に業務が止まるおそれがあります。引き継ぎ期間や支援内容を最終契約で定めることも検討します。

買収直後に制度を変えすぎる

給与、シフト、記録方法、ケア方針を一斉に変えると、職員の不安が大きくなります。法令上すぐに是正すべき事項と、段階的に統合する事項を分けましょう。

買収後100日間のPMI

PMIとは、買収後に組織や業務を統合する取り組みです。介護施設では、次の順番を意識します。

  1. 職員、利用者、家族、関係機関へ説明する
  2. 管理者や有資格者などのキーパーソンを慰留する
  3. 給与、勤怠、請求、会計、資金繰りを安定させる
  4. 行政対応、事故報告、個人情報管理を点検する
  5. 採用、稼働率、加算、修繕の改善計画を作る

最初から完全統合を目指すのではなく、サービス提供と介護報酬請求を止めないことを優先します。買収前にPMI責任者を決め、実行項目と期限を一覧化しておきましょう。

介護M&Aの相談先を選ぶポイント

  • 介護保険制度と現場運営を理解しているか
  • 案件の良い面だけでなくリスクも説明するか
  • 手数料、支援範囲、契約期間が明確か
  • 弁護士、会計士、税理士、行政書士などと連携できるか
  • 成約後の引き継ぎやPMIまで相談できるか

中小企業庁の「中小M&Aガイドライン(第3版)」では、仲介者・FAの業務内容、手数料、利益相反など、依頼者が確認すべき事項が示されています。成功報酬の計算基準、最低手数料、追加費用、相手方から受け取る手数料の扱いを契約前に確認しましょう。出典:中小企業庁「中小M&Aガイドライン」

介護施設の買収に関するよくある質問

介護施設の買収にはどのくらいの自己資金が必要ですか?

一律の基準はありません。譲渡価格、融資条件、専門家費用、買収後の運転資金や修繕費を含めて資金計画を作ります。

介護事業の経験がなくても買収できますか?

異業種から参入できる場合もありますが、人員・設備・運営基準を満たす体制が必要です。管理者や有資格者の確保、請求・行政対応の体制を事前に整えます。

赤字の介護施設でも買収できますか?

買収は可能ですが、赤字の原因、改善可能性、必要な追加資金を調べます。介護報酬請求や労務に問題がある場合は、価格だけでは判断できません。

介護事業者の指定は引き継げますか?

取引方法や法人変更の有無によって異なります。事業譲渡では新規指定が必要となる場合が多いため、指定権者への事前相談が必要です。

買収にはどのくらいの期間がかかりますか?

案件規模、調査範囲、融資、行政手続きによって異なります。期限を優先して調査を省略せず、必要な手続きから逆算して計画します。

まとめ|介護施設の買収は希望条件の整理から始める

介護施設の買収では、エリアや価格だけでなく、自社が管理できるサービス種別と規模を明確にします。候補案件では、財務、人員配置、介護報酬請求、指定、不動産、修繕、キーパーソンの継続性を確認しましょう。

成約をゴールにせず、職員や利用者への説明、管理者配置、請求業務など、買収後のPMIまで含めて判断することが大切です。

※本記事は2026年8月26日時点の公表情報に基づく一般的な情報提供を目的としており、個別案件に関する法務・税務・労務・行政手続きの助言ではありません。実際の買収では、指定権者、金融機関および弁護士・公認会計士・税理士・行政書士などの専門家へご確認ください。

まずはお気軽にお問い合わせください。

松本 圭祐
記事監修
取締役
松本 圭祐
新卒で楽天株式会社に入社し、その後合同会社DMM.comに転職。オンライン英会話サービスの「DMM英会話」の立ち上げを担当し、3年で業界最大手となる。
日本チームのマネージャーを務めた他、新規事業や法人営業なども管掌。その後ヘルスケア・福祉関連の事業を行う上場企業に転職し、M&A支援事業の立ち上げ、グロース全般を担当。
今までにM&Aコンサルタントとして50件以上の案件を成約に導く。
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