事業再編投資損失準備金とは?介護M&Aの税制
事業再編投資損失準備金は、一定のM&Aで株式等を取得した買い手企業が、取得価額の最大70〜100%を準備金として積み立て、損金算入できる税制です。介護事業の買収でも、要件を満たせば取得年度の税負担を軽減できる可能性があります。ただし、税金が永久に免除される制度ではなく、将来の益金算入が必要です。本記事では、2026年時点の公的資料をもとに、制度の仕組み、適用要件、計算例、介護M&A特有の注意点、申請手続きを解説します。
事業再編投資損失準備金とは?介護M&Aで使える税制の仕組み
事業再編投資損失準備金は、正式には「中小企業事業再編投資損失準備金」と呼ばれる制度です。M&Aによる経営資源の集約化を支援する税制として設けられています。
介護業界では、後継者不足や人材確保、地域におけるサービス提供体制の維持などを背景に、M&Aによる事業承継や事業拡大が選択肢となっています。
こうした買収を行う企業にとって、事業再編投資損失準備金は資金計画を考えるうえで検討したい制度の一つです。
経営資源集約化税制と準備金制度の関係
経営資源集約化税制は、中小企業によるM&Aを税制面から支援する仕組みです。その中で、M&Aに伴う投資損失リスクへの備えを目的とするのが、事業再編投資損失準備金です。
買収後には、帳簿に記載されていなかった債務の発覚や、想定した収益を確保できないことによる株式価値の低下などが起こり得ます。
本制度では、一定の要件を満たした株式等の取得について、取得価額の一部を準備金として積み立て、税務上の損金に算入できます。
2024年度税制改正では、複数回のM&Aを行う中堅・中小企業向けに、積立率と据置期間を拡充した制度も設けられました。
株式取得価額の一部を損金算入できる仕組み
例えば、介護事業を運営する株式会社の株式を1億円で取得した場合を考えます。
通常枠の適用要件を満たせば、対象取得価額の70%に相当する7,000万円を上限として準備金を積み立て、損金算入できる可能性があります。
損金算入とは、法人税の計算上、所得金額を算出する際に一定の金額を差し引くことです。
なお、準備金の積立ては会計・税務上の処理であり、積立額と同額の現金を別口座に預けるという意味ではありません。
また、株式取得価額には一定の購入付随費用が含まれる場合があり、税務上の対象額は個別に確認する必要があります。
節税と課税の繰延べは異なる
本制度で特に注意したいのは、損金算入された金額が永久に課税されなくなるわけではないことです。
準備金は一定期間据え置かれた後、原則として取り崩され、益金算入されます。
つまり、取得年度の税負担を抑えられる可能性がある一方で、将来の所得計算に加算される仕組みです。
そのため、恒久的な減税というより、課税を将来へ繰り延べる制度として理解することが重要です。
事業再編投資損失準備金の適用要件と通常枠・拡充枠の違い
事業再編投資損失準備金には、通常枠と拡充枠があります。対象企業や取得価額、積立率、計画認定の要件が異なります。
| 項目 | 通常枠 | 拡充枠 |
|---|---|---|
| 最大積立率 | 70% | 90%または100% |
| 据置期間 | 5年間 | 10年間 |
| 据置後の取崩し | 原則5年間で均等取崩し | 原則5年間で均等取崩し |
| 対象取得価額 | 10億円以下 | 1億円以上100億円以下 |
| 必要な計画 | 経営力向上計画 | 特別事業再編計画 |
| 過去のM&A実績 | 拡充枠のような実績要件なし | 過去5年以内の一定規模のM&A実績が必要 |
出典:中小企業庁「中小企業事業再編投資損失準備金」(2025年度版税制資料)、経済産業省「中堅・中小グループ化税制の概要」(2024年公表)。
通常枠の主な適用要件
通常枠は、青色申告を行う一定の中小企業者が、認定された経営力向上計画に基づいて対象株式等を取得する場合に利用を検討できます。
主な確認事項は次のとおりです。
- 買い手が税制上の中小企業者の要件を満たしている
- 経営力向上計画の認定を受けている
- 株式等の取得価額が10億円以下である
- 実質的に事業の承継を伴う株式等の取得である
- 必要な事業承継等事前調査を実施している
- 所定の会計処理と税務申告を行う
単に株式を購入すれば対象となるわけではありません。グループ内での再編や親族内の株式移転など、実質的な第三者承継とはいえない取引は対象外となる場合があります。
また、買い手企業の資本金だけでなく、株主構成や税務上の企業規模なども確認する必要があります。
複数回M&Aで利用できる拡充枠
拡充枠は、過去に一定規模のM&Aを実施し、さらに企業のグループ化を進める中堅・中小企業を対象としています。
経済産業省の資料では、過去5年以内に取得価額1億円以上の一定のM&A実績があることなどが要件として示されています。
拡充枠では、認定された特別事業再編計画に基づく最初の対象株式取得で最大90%、同一計画に基づく2回目以降の一定の取得で最大100%の積立てが認められます。
ただし、過去にM&Aを実施していれば自動的に適用されるわけではありません。
特別事業再編計画では、売上高や付加価値額の向上、財務健全性、雇用への配慮、賃上げ、グループ内の経営資源活用などについて、所定の認定要件が設けられています。
また、準備金税制の対象となる株式・持分の取得では、取得後に議決権の過半数を保有することなどが求められます。
介護事業を複数展開する企業では、グループ全体の成長計画と合わせて適用可能性を確認することが重要です。
2026年時点の適用期限
2024年度税制改正により、制度の適用期限は延長されました。
2026年10月時点で確認できる公的資料では、対象となる計画の認定期限は2027年3月31日までとされています。
ただし、期限までに契約を締結するだけでよいという意味ではありません。計画認定のタイミングや、対象となる株式取得の時期、各制度の税務要件を満たす必要があります。
【要確認】個別案件の申請日・認定日・株式取得日については、最新の法令と関係省庁の案内を確認してください。
介護M&Aでどのくらい税負担を軽減できる?計算例で解説
制度の効果を理解するため、介護事業を運営する会社の株式取得価額を1億円と仮定して比較します。
株式取得価額1億円の場合の準備金積立額
| 項目 | 通常枠 | 拡充枠90% | 拡充枠100% |
|---|---|---|---|
| 株式取得価額 | 1億円 | 1億円 | 1億円 |
| 最大積立率 | 70% | 90% | 100% |
| 最大積立額 | 7,000万円 | 9,000万円 | 1億円 |
| 据置期間 | 5年間 | 10年間 | 10年間 |
この表は、各枠の適用要件を満たした場合の計算例です。同一の株式取得に通常枠と拡充枠を重複適用できるという意味ではありません。
また、積立額は税額軽減額ではありません。
例えば、通常枠で7,000万円を損金算入できても、法人税が7,000万円減るわけではなく、課税所得の計算に影響する金額が7,000万円ということです。
実際の税負担軽減額は買い手の所得によって異なる
実際の税負担への影響は、買い手企業の課税所得、資本金、所在地、適用される税率などによって異なります。
仮に損金算入額が7,000万円、税負担への影響を試算するための税率を30%と置けば、計算上の影響額は2,100万円となります。
ただし、30%は説明用の仮定であり、実際に適用される法人税率や法人実効税率を示すものではありません。
また、課税所得が少ない場合には、当期の納税額が試算どおり減るとは限りません。実際の効果は税理士による個別計算が必要です。
据置期間終了後の取崩しと将来の納税負担
準備金は、原則として据置期間が経過した後、5年間で均等に取り崩して益金算入します。
例えば、通常枠で7,000万円を積み立て、途中で取崩事由が発生しなかった場合、据置期間終了後に年間1,400万円ずつ益金算入する計算になります。
拡充枠で9,000万円を積み立てた場合には、10年間の据置期間終了後、原則として年間1,800万円ずつ取り崩します。
このように、取得年度の税負担が軽減されても、将来の課税所得が増加する可能性があります。
介護M&Aでは、買収後の採用費や設備投資に加え、将来の納税資金まで考慮した計画が重要です。
介護事業のM&Aで準備金制度を活用する際のポイント
介護事業の買収では、一般企業のM&Aとは異なり、介護保険法に基づく指定、人員基準、介護報酬の算定状況などを確認する必要があります。
税制のメリットだけでなく、買収後も安定してサービスを提供できるかという視点が欠かせません。
株式譲渡と事業譲渡では税制適用が異なる
介護M&Aの代表的な方法には、株式譲渡と事業譲渡があります。
| 項目 | 株式譲渡 | 事業譲渡 |
|---|---|---|
| 取得対象 | 会社の株式 | 特定の事業・資産等 |
| 運営法人 | 原則として同じ法人が存続 | 譲受法人へ変更 |
| 準備金制度 | 要件を満たせば対象になり得る | 事業譲渡自体は対象外 |
| 介護事業の指定 | 変更届等の要否を確認 | 新規指定等の要否を確認 |
| 主なリスク | 簿外債務・過去の運営リスク | 契約・雇用・指定の引継ぎ |
本制度が対象とするのは、所定の株式または持分の取得です。事業譲渡や合併そのものは、準備金税制の対象にはなりません。
例えば、訪問介護会社の株式を取得する場合と、その会社が運営する訪問介護事業所だけを事業譲渡で取得する場合では、税制上の取扱いが異なります。
なお、社会福祉法人には株式会社のような株式がなく、医療法人についても出資持分の有無などによって承継方法が異なります。
そのため、法人形態による適用可能性は個別に確認する必要があります。
介護事業のDDで確認したい項目
デューデリジェンス(DD)とは、買収前に対象法人の財務、税務、法務、労務、事業運営などを調査する手続きです。
介護事業では、特に次の項目を確認することが重要です。
- 事業所の指定状況と更新期限
- 管理者や介護職員などの人員配置
- 介護報酬や各種加算の算定状況
- 過去の運営指導・監査・報酬返還の有無
- 未払残業代や借入金などの債務
- 利用者数、稼働率、職員の離職状況
- 建物の賃貸借契約や設備の修繕費用
例えば、買収後に過去の加算算定の不備が発覚すると、報酬返還などの想定外の支出が発生する可能性があります。
また、人員基準を満たせなくなれば、減算やサービス提供体制の見直しが必要になることもあります。
こうしたリスクは買収価格や契約条件に影響するため、税制の適用可否とは別に十分な調査が必要です。
買収後の経営統合と資金繰りも重要
介護M&Aでは、買収後の経営統合であるPMI(Post Merger Integration)も重要な工程です。
例えば、複数のデイサービスを取得した場合、採用活動や勤怠管理、介護報酬請求、職員研修などの業務を共通化できる可能性があります。
一方で、システム導入費用や教育費、管理者の配置変更などによって追加支出が生じることもあります。
そのため、株式取得価額に加え、専門家費用、運転資金、統合費用、将来の納税負担まで含めて買収を判断する必要があります。
準備金制度による税負担の軽減が期待できても、それだけを理由に買収価格を決定することは避けましょう。
介護事業の買収を検討されている経営者様へ
M&A承継サポートでは、介護・医療・障がい福祉領域のM&Aに関するご相談を無料で承っています。買収希望エリアやサービス種別、予算などを整理しながら、事業拡大に向けた選択肢をご検討いただけます。税制の適用可否は税理士等への確認が必要ですが、まずは買収条件や相場感を知りたい方もお気軽にご相談ください。
事業再編投資損失準備金の申請手続きと必要書類
準備金制度を利用するには、原則として対象株式等の取得前に所定の計画認定を受ける必要があります。
通常枠と拡充枠では、申請する計画やDDの実施時期が異なるため、早めの準備が重要です。
経営力向上計画・特別事業再編計画の認定
通常枠では「経営力向上計画」、拡充枠では「特別事業再編計画」の認定を受けます。
通常枠では、株式取得による経営力向上の内容や事業承継等事前調査について、所定の計画に記載します。
拡充枠では、過去のM&A実績や今後の取得計画に加え、グループ全体の成長に向けた取り組みなどが審査対象となります。
また、認定計画に基づく取得であっても、税法上の要件を満たさなければ準備金を損金算入できません。
DDから株式取得までの基本的な流れ
- M&Aの候補先を選定し、基本合意などを行う
- 税制の適用要件を確認し、関係省庁へ事前相談する
- 所定の計画を申請し、認定を受ける
- 制度ごとの要件に従ってDDを実施する
- 最終契約を締結し、株式等を取得する
- M&Aの実施結果やDD内容を報告する
- 必要な確認書を取得し、税務申告を行う
特に注意したいのが、DDの実施時期です。
中小企業庁の2025年度版手引きでは、通常枠について、DDの実施は計画認定の前後を問いません。ただし、最終合意前に完了する必要があります。
一方、拡充枠では、計画申請後にDDを実施する必要があります。
そのため、通常枠と拡充枠を同じ手順で進めるのではなく、利用する制度に合わせてスケジュールを組みましょう。
取得後の報告と税務申告
株式等を取得した後は、所定のM&A実施報告を行い、必要な確認書の交付を受けます。
税務申告では、認定書や確認書など、制度に応じた必要書類を添付します。
国税庁は、2026年4月1日以後終了事業年度等分の法人税申告様式として、「別表十二(二)中小企業事業再編投資損失準備金の損金算入に関する明細書」を公表しています。
実際の申告に必要な書類や記載内容については、適用する制度と事業年度に応じて税理士へ確認してください。
事業再編投資損失準備金を活用する際の注意点
準備金の取崩しが必要になるケース
準備金は、据置期間中であっても一定の事由が生じると、全部または一部を取り崩す必要があります。
主な例は次のとおりです。
- 取得した株式等を売却した場合
- 取得した株式等の帳簿価額を減額した場合
- 計画認定が取り消された場合
- 対象法人が解散した場合
- 青色申告の承認が取り消された場合
- 制度上の条件に該当する表明保証保険を契約した場合
表明保証保険とは、M&A契約で売り手が説明・保証した事項に相違があり、買い手に損害が発生した場合などに備える保険です。
公的資料では、支払限度額が5億円を超える一定の表明保証保険契約について、税制の適用除外や取崩しの対象となることが示されています。
保険契約を検討する場合も、準備金制度との関係を事前に確認する必要があります。
赤字企業の買収や課税所得が少ない場合
買収対象の介護事業者が赤字であっても、そのことだけで準備金制度の対象外となるわけではありません。
本制度の損金算入を行うのは基本的に買い手法人であるため、買い手側の税務状況も重要です。
買い手の課税所得が少ない場合は、準備金を積み立てても当期の納税額が大きく減るとは限りません。
また、赤字事業者の買収では、収益改善に必要な期間、追加資金、人材確保なども考慮する必要があります。
税制による効果だけでなく、買収後の事業収益と資金繰りを総合的に検討しましょう。
適用前に確認したいチェックリスト
- 買い手の法人形態、資本金、株主構成
- 過去5年以内のM&A実績
- 取得する株式等の内容と取得価額
- 必要な計画認定とDDのスケジュール
- 買い手の課税所得と資金繰り
- 将来の準備金取崩しによる税負担
- 買収後の介護事業の運営体制
これらを整理したうえで、税理士やM&Aの専門家に確認することが、制度の適切な活用につながります。
事業再編投資損失準備金に関するよくある質問(FAQ)
Q1. 初めて介護事業を買収する場合も対象になりますか?
A. 通常枠であれば、過去のM&A実績がなくても適用を検討できます。ただし、買い手の企業規模、経営力向上計画の認定、対象株式等の取得など、所定の要件を満たす必要があります。
Q2. 赤字の介護事業所を買収した場合も利用できますか?
A. 買収対象が赤字であることだけを理由に、直ちに制度の対象外となるわけではありません。買い手の税務状況や取得方法などを確認する必要があります。
Q3. 株式取得後から申請できますか?
A. 原則として、株式取得後に計画認定を受け、取得済みの株式に遡って制度を適用することはできません。買収を進める初期段階から申請スケジュールを確認しましょう。
Q4. 積み立てた準備金は将来課税されますか?
A. はい。通常枠では原則5年間、拡充枠では原則10年間の据置期間後、5年間で均等に取り崩して益金算入します。また、株式売却など一定の事由が生じた場合には、途中で取り崩す必要があります。
Q5. 社会福祉法人の事業承継にも利用できますか?
A. 社会福祉法人には株式会社のような株式がないため、一般的な株式買収とは異なる検討が必要です。合併や事業譲渡を、そのまま本制度の対象と考えることはできません。法人形態と承継方法について個別に確認してください【要確認】。
まとめ|介護M&Aでは税制と買収後の経営を総合的に判断
事業再編投資損失準備金は、一定の介護M&Aで買い手企業が株式等の取得価額の最大70〜100%を準備金として損金算入できる制度です。
取得年度の税負担を軽減できる可能性がありますが、将来の益金算入が必要となるため、恒久的な減税制度ではありません。
介護事業の買収では、税制の適用条件に加え、人員配置、介護報酬、指定手続き、買収後の運営費用なども含めた検討が重要です。
また、事前の計画認定が必要となるため、税理士やM&Aの専門家と連携し、余裕を持って準備することをおすすめします。
参考資料・出典
- 中小企業庁「中小企業事業再編投資損失準備金」(2025年度版税制資料)
https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/zeisei/pamphlet/zeisei_r7.pdf - 中小企業庁「中小企業等経営強化法に基づく支援措置活用の手引き」(令和7年度税制改正対応版)
https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/kyoka/pdf/tebiki_zeiseikinyu.pdf - 経済産業省「中堅・中小グループ化税制の概要」(2024年公表)
https://www.meti.go.jp/policy/jigyou_saisei/PDF/240902_tsaihen_guideline.pdf - 国税庁「令和8年4月以降に提供した法人税等各種別表関係」
https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/hojin/shinkoku/itiran2026/01.htm
免責事項:本記事は2026年10月時点で確認できる公的資料をもとにした一般的な情報提供を目的としており、個別の税務・法務・行政手続きに関する助言を行うものではありません。制度の適用可否や税負担軽減額は案件ごとに異なります。実際のM&Aや税務申告に際しては、最新の法令・公表資料を確認し、税理士、弁護士、関係行政機関などの専門家にご相談ください。
まずはお気軽にお問い合わせください。

