M&Aコラム

トップ > M&Aコラム > 障害 > 障害福祉の総量規制とM&A|買収による参入戦略

障害福祉の総量規制とM&A|買収による参入戦略

障害福祉の総量規制によって新規指定が難しい地域でも、既存事業所のM&Aは参入方法の一つとなります。ただし、買収すれば必ず指定を引き継げるわけではありません。株式譲渡や事業譲渡などの方法によって必要な手続きが異なり、自治体ごとの確認が欠かせません。本記事では、総量規制とM&Aの関係、買収による参入戦略、2026年度の報酬改定、買収前に確認すべきリスクを解説します。

障害福祉の総量規制とは?新規指定が難しくなる仕組み

地域のサービス供給量を調整する制度

障害福祉の総量規制とは、地域のサービス供給量が障害福祉計画などに定める必要量を満たしている場合などに、行政が新規事業所の指定を行わないことができる制度です。障害者総合支援法第36条第5項などに根拠があり、地域で必要なサービスを計画的に確保することを目的としています。

例えば、ある区域で就労継続支援B型の供給量が計画上の必要量を上回る場合、新たな事業所の指定が制限される可能性があります。ただし、全国一律の開設禁止ではありません。対象サービス、区域、募集枠、例外的な取扱いは自治体によって異なります。

総量規制の対象サービスと2027年度の変更

厚生労働省の2026年公表資料では、総量規制の対象として次のサービスが示されています。

根拠法対象サービス
障害者総合支援法生活介護、就労継続支援A型、就労継続支援B型、障害者支援施設
児童福祉法児童発達支援、放課後等デイサービス、障害児入所施設

共同生活援助(障害者グループホーム)は、2026年3月31日に公布された省令改正により、2027年4月1日から総量規制の対象に追加されることになっています。ただし、対象サービスに追加されることと、すべての自治体が規制を実施することは別です。熊本市は2026年10月20日更新の案内で、2027~2029年度は共同生活援助の総量規制を実施しない方針を示しています。

また、「指定抑制」という言葉は新規指定を制限する対応を広く指す場合があります。法令に基づく総量規制なのか、事前協議・公募・申請期間などの手続上の制約なのかを分けて確認することが重要です。

障害福祉の総量規制がある地域でもM&Aで参入できる?

既存の事業基盤を取得できる可能性がある

新規開設では、物件の確保、設備整備、職員採用、利用者募集を一から進める必要があります。M&Aで既存事業所を取得する場合には、設備、職員体制、利用者との関係、地域の相談支援事業所との連携などを承継できる可能性があります。

もっとも、既存事業所を買収することと、行政上の指定を引き継ぐことは同じではありません。買収の方法に応じて指定手続きが変わるため、売買契約を結ぶ前に指定権者へ確認することが重要です。

株式譲渡・事業譲渡・合併の違い

方法事業承継の仕組み指定上の注意点
株式譲渡運営会社の株式を取得する指定を受けた法人は存続。役員変更などの届出や指定基準の継続確認が必要
事業譲渡事業・設備・契約などを対象に承継する運営法人が変わり、新規指定などの手続きが必要となる場合がある
合併複数の法人を統合する合併の形式や承継関係に応じて手続きの確認が必要

例えば、株式会社が運営する就労継続支援B型事業所を株式譲渡で取得する場合、指定を受けた法人そのものは変わりません。ただし、買収後も人員・設備・運営基準を満たし、必要な届出を行う必要があります。

事業譲渡は運営法人が変わるため、新規指定を前提とした調整が必要になる場合があります。社会福祉法人やNPO法人などでは株式会社の株式譲渡と同じ仕組みを使えないため、法人形態に応じた方法を検討します。

事業譲渡でも総量規制の例外になる場合がある

実質的な運営継続を認める自治体の例

東大阪市は2026年3月30日の公表資料で、就労継続支援B型について2026年8月1日から2027年7月31日まで総量規制を実施するとしています。一方、吸収合併・会社分割・事業譲渡などに伴う新規申請で、職員に変更がないなど前後で実質的に継続して運営される場合は、総量規制の対象外としています。

これは既存のサービス提供体制を維持する承継と、新たに供給量を増やす参入を区別する運用例です。ただし、東大阪市の取扱いを他の自治体にそのまま当てはめることはできません。指定取得が確定する前に、買収を実行しないよう注意が必要です。

行政協議で先に確認したい事項

  • 対象事業所が総量規制の対象に含まれるか
  • 事業譲渡や合併による新規指定に例外があるか
  • 職員配置・利用定員・設備の維持が条件となるか
  • 指定申請・変更届の時期と必要書類は何か
  • 利用者への支援を中断せず承継できるか
  • 取得後の定員増加や所在地変更が可能か

必要に応じて、指定を取得できることを契約実行の前提条件とするなど、契約上のリスク管理を専門家と検討します。

総量規制がある地域で検討したい3つのM&A戦略

戦略1:既存事業所を取得して拠点を確保する

希望地域ですでに指定を受けている事業所を取得する方法です。職員や利用者が定着し、支援体制が整っていれば、新規開設より早く運営基盤を確保できる可能性があります。ただし、指定の有無だけで買収価値を判断せず、利用率、収支、採用状況、行政指導履歴を確認しましょう。

戦略2:地域で不足する支援に着目する

生活介護の供給量が一定程度確保されていても、重度障害者や医療的ケアが必要な方を受け入れる体制が不足している場合があります。支援内容や職員の専門性に強みを持つ事業所を選ぶことで、地域ニーズに即した展開につながる可能性があります。ただし、対象者の拡大や定員変更には追加の手続きが必要となることがあります。

戦略3:周辺区域も候補にして段階的に進出する

希望する区域に適切な案件がない場合、隣接する区域の事業所を探す方法もあります。自治体や区域ごとに指定枠や利用者ニーズが異なるためです。まず既存拠点の運営を安定させてから次の展開を検討します。ただし、事業所取得後に希望区域へ自由に移転したり、定員を増やしたりできるわけではありません。

【障害福祉事業所の買収をご検討の方へ】
M&A承継サポートでは、障害福祉分野の買収・事業承継に関する無料相談を受け付けています。希望地域での指定の考え方や買収方法の検討事項を整理したい方は、まずはお気軽にご相談ください。

2026年度報酬改定が買収後の収益に与える影響

一部サービスの新規指定には応急的な報酬単価が設けられた

厚生労働省の2026年度障害福祉サービス等報酬改定では、一定のサービスについて2026年6月1日以降に新規指定された事業所に、応急的な基本報酬単価を適用する仕組みが設けられました。対象は就労継続支援B型、共同生活援助の一部類型、児童発達支援、放課後等デイサービスです。

サービス応急的な基本報酬の例
就労継続支援B型所定単位数の1000分の984
共同生活援助(介護サービス包括型・日中サービス支援型)所定単位数の1000分の972
児童発達支援所定単位数の1000分の988
放課後等デイサービス所定単位数の1000分の982

上記はすべての事業所に一律に適用されるものではなく、地域の必要性や支援対象などに応じた配慮措置があります。また、2027年度の報酬改定までの応急的な取扱いです。具体的な収益試算では、最新の告示や加算要件を確認する必要があります。

実質的な事業継続には報酬上の配慮がある場合も

厚生労働省の2026年3月31日付Q&Aでは、事業譲渡・吸収合併などにより指定手続きの簡略化や報酬上の実績の通算などが認められる場合、応急的な報酬単価の適用対象外となる取扱いが示されています。

ただし、総量規制の例外と報酬上の配慮措置は別の制度です。「譲渡で指定が認められるか」と「買収後にどの報酬を算定するか」は、それぞれ確認しましょう。就労継続支援B型では報酬区分の基準も見直されているため、過去の売上高をそのまま将来予測に用いることは避けるべきです。

障害福祉事業所の買収前に確認すべき5つのポイント

1.指定状況と必要な行政手続き

指定通知書、指定更新時期、変更届の履歴、指定基準への適合状況を確認します。事業譲渡や合併を予定する場合は、承継後の指定申請の手順と、事業を中断せず継続できる見通しを早い段階で把握します。

2.財務・報酬・利用率

決算書だけでなく、月別の利用者数、稼働率、基本報酬区分、各種加算、人件費、家賃、借入金・未払金を確認します。買収後の人員体制や2026年度の報酬見直しを織り込んだ収支計画を作成することが重要です。

3.職員配置と資格要件

サービス管理責任者や児童発達支援管理責任者など、必要な人員を買収後も確保できるかを検討します。重要な職員の退職は、指定基準や加算算定に影響する可能性があります。雇用契約の承継方法や代替人材の採用計画も確認しましょう。

4.運営指導・返還リスク

過去の運営指導や監査結果、改善報告書、報酬請求記録、事故・苦情対応記録を確認します。請求誤りや基準違反があれば、改善対応や給付費の返還が必要になる場合があります。特に株式譲渡では法人が抱える潜在債務にも注意が必要です。

5.利用者・家族・地域との関係

支援の質や事業の継続性は、数値だけでは判断できません。職員の経験、利用者や家族からの信頼、相談支援事業所・医療機関との連携も重要です。運営方針を急に変更せず、必要な説明・同意取得や契約手続きを含めた引継ぎ計画を整えましょう。

総量規制下での買収手順と見送るべきケース

候補選定から承継までの8ステップ

  1. 参入希望地域とサービスを決める
  2. 自治体の総量規制と指定申請状況を調べる
  3. 既存事業所の売却案件を探す
  4. 買収方法と指定手続きを行政に相談する
  5. 財務・労務・法務・運営状況を調査する
  6. 報酬改定後の収支計画を作成する
  7. 契約条件と引継ぎ方法を調整する
  8. 必要な行政手続きを経て事業を承継する

買収を慎重に判断すべきケース

  • 指定取得や例外適用の見通しが立たない
  • 重要な職員の退職が予定されている
  • 報酬返還や行政処分のリスクが大きい
  • 設備改修・人材採用など多額の追加投資が必要
  • 利用者数が減少し、収益改善の根拠が乏しい
  • 買収価格が将来の収益性に見合わない

総量規制があることだけを理由に、事業所の価値が高くなるわけではありません。行政手続き、事業継続、採算性の3点を合わせて判断することが大切です。

障害福祉の総量規制とM&Aに関するよくある質問

Q1.総量規制がある地域では新規開設できませんか?

全国一律に開設できないわけではありません。自治体の規制状況、対象サービス、募集枠、地域ニーズに応じた例外などを確認する必要があります。

Q2.既存事業所を買収すれば指定を引き継げますか?

買収方法によって異なります。株式譲渡では指定を受けた法人が存続する一方、事業譲渡では新規指定が必要になる場合があります。いずれも指定基準や届出を確認してください。

Q3.事業譲渡でも総量規制の例外になりますか?

事業譲渡の前後で実質的に運営が継続する場合に、例外的な取扱いを認める自治体があります。ただし全国共通ではないため、対象自治体への確認が必要です。

Q4.赤字の障害福祉事業所でも買収できますか?

赤字でも買収の対象になる場合があります。ただし、赤字の原因、追加投資、職員確保、利用者基盤、報酬見通しを調査し、改善の実現可能性を見極めましょう。

Q5.買収後に利用定員を増やすことはできますか?

定員増加は総量規制や指定基準の影響を受ける可能性があります。買収しただけで自由に増員できるわけではないため、事前に指定権者へ相談しましょう。

まとめ|障害福祉の総量規制下では指定と事業性を一体で確認する

障害福祉の総量規制によって新規指定が難しい地域でも、既存事業所のM&Aは参入方法の一つです。ただし、買収方法に応じて行政手続きが異なり、事業譲渡の例外や報酬上の配慮措置も自治体・事業所の条件によって取扱いが変わります。

買収を検討する際は、指定の見通し、利用者への支援の継続性、買収後の採算性を総合的に確認することが重要です。

参考資料・出典

  • 厚生労働省「障害福祉サービス事業所等の指定について」(2026年6月30日付ガイドラインを掲載):厚生労働省公式サイト
  • 厚生労働省「令和8年度障害福祉サービス等報酬改定について」(2026年度告示・Q&A):厚生労働省公式サイト
  • 東大阪市「障害福祉サービス事業所の指定に関する総量規制の実施について」(2026年3月30日):東大阪市公式サイト
  • 熊本市「特定障害福祉サービス及び特定障害児通所支援の指定について」(2026年10月20日更新):熊本市公式サイト
  • 福祉医療機構「令和8年度障害福祉サービス等の報酬改定のポイント」(2026年5月):WAM NET

※本記事は2026年11月5日時点で確認できる公表資料に基づく一般的な情報提供であり、個別の税務・法務・行政手続きの助言ではありません。制度や自治体の運用は変更される可能性があります。実際のM&Aや指定申請に際しては、指定権者および弁護士・税理士等の専門家にご確認ください。

まずはお気軽にお問い合わせください。

松本 圭祐
記事監修
取締役
松本 圭祐
新卒で楽天株式会社に入社し、その後合同会社DMM.comに転職。オンライン英会話サービスの「DMM英会話」の立ち上げを担当し、3年で業界最大手となる。
日本チームのマネージャーを務めた他、新規事業や法人営業なども管掌。その後ヘルスケア・福祉関連の事業を行う上場企業に転職し、M&A支援事業の立ち上げ、グロース全般を担当。
今までにM&Aコンサルタントとして50件以上の案件を成約に導く。
一覧に戻る